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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第一章

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17 彼女の言葉

 近衛騎士たちに連行されていく男たちと人族の使用人。

 彼らが罪人護送用の馬車に乗せられていく様子を、ブレイドは眺めていた。


 黒魔術士だと思われる黒いローブを羽織った男たち。

 そして、それらと手を組んでいた人族の使用人の女。

 最初に見た時から妙な気配を漂わせるこの女に警戒していたが、ブレイドは敢えてその使用人を泳がせていた。


 すぐに捕まえることは簡単。

 しかし、今後アイリスが帝都へ行くことを考えると、元凶となるものを早々に暴き出しておきたかった。

 すると、大胆にも黒魔術らしきものを使って男たちと連絡を取ったり、使用人たちを戦力外とするために使用人部屋に毒のようなものを発する装置を仕掛けたりしだした。

「(やはり動き出したか・・・)」

 今回の襲撃を予想して、ブレイドは複数の布石を打っていた。

 使用人の女は雇われた時点で、"結界を出入りするためには主人であるブレイドの承認か紋章のどちらかが必要だ"ということをルイスを通して教えていた。

 そのため、もし襲撃を仕掛けてくるなら弱小だと思われがちな鼠の騎士団を先に始末し紋章を奪って侵入してくるだろうと予想した。


 使用人の女が内通者だということは既に分かっていたため、女が動き出した時点で鼠の騎士団のダミーと共に結界内に入るために必要な紋章を付けておいた。

 案の定、それに乗ってきた黒いローブの男たち。

 あとはこちらが不利な状況だというフリをしてアイリス達に接触させ、脅迫罪や誘拐未遂などの複数の罪を負わせれば、ラドリス帝国は彼らを堂々と取り調べすることができる。

 鼠の騎士団員たちが総出で、黒魔術を使うための宝玉の欠片を回収し、それを箱に入れていった。

 宮廷の研究員たちの手によって黒魔術の秘密が暴かれることになるだろう。


 宗教国家ディアロス。

 この黒いローブの男たちはこの国から来た者達だろう。

 宗教国家ディアロスの思想。

 "人族こそが女神に最も愛された存在"。

 人族でありながら"金眼の天使"として治癒能力を使えるアイリス。

 彼女の存在は"彼らの思想を女神が肯定した"、と捉えられる可能性は大いにあった。

 だからラドリス帝国はアイリスが帝都に来るギリギリまでアイリスの存在を秘匿にするつもりだった。

 ・・・しかし、今回の騒動が起きてしまった。

 もしかしたら、ラドリス帝国の貴族の中に内通者がいるのかもしれない・・・。


「ブレイド様、護送の準備が整いました。」

「あぁ、連れていけ。」

 ルイスが報告し、それにブレイドが答えた。

 ――次の瞬間。

 パキンッ・・・

「!」

 ブレイドの右腕に嵌めていた腕輪が割れた。

 それは地面へと吸い寄せられるように落ちていく。

「・・・耐えられなかったか。」

 ブレイドは地面に落ちた腕輪を拾い上げた。

 母が、命懸けで自分に付けてくれた腕輪。

 すぐに左腕を確認するが、左腕に付けられた腕輪はまだ無事なようだ。

 ブレイドは深く息を吐いた。

「本当に・・・厄介な存在だな。」

 次、今回のように魔力を使えば、溢れ出すブレイドの魔力を抑えきれずに左の腕輪も壊れるだろう。

 そうなったら、俺は・・・。



「ブレイド。」

 声が聞こえた。

 いつも彼女の澄んだ声を聞くと胸が高鳴る。

 しかし、今日は彼女の声が心に重く圧し掛かった。

「アイリス・・・」

 ブレイドが彼女の名前を言った。

 真剣な、どこか怒っているようにも見えるアイリスの表情。

 アイリスはゆっくりとブレイドの元に歩いていき、そして彼の前で立ち止まった。

「ブレイド。」

「・・・・・・」

「私がなんで怒ってるか、分かる?」

 静かに問いかけられた。

「・・・あぁ。」

 ブレイドは真っ直ぐ向けられる金色の瞳に耐えられず、視線を逸らした。

 アイリスの言いたいことは分かる。

 ブレイドは拳を握りしめた。

「・・・俺が、厄災・・・"邪竜"だって言わなかったこと、怒ってんだろ?」

 厄災について、アイリスに何も話していなかった。

 "帝国に厄災が舞い降りた時に現れる"。

 "金眼の天使"について話したときに、そう彼女に伝えただけだった。

 厄災について話してしまったら、ブレイドの"本当の姿"についても話さなければならなかったから。

 あの黒いローブの男たちの言う通り、黒竜は"世界を恐怖に陥れる存在"。


 アイリスには、知られたくなかった。

 "ただの異種族の男"であり続けたかった。

 世界の者たちがブレイドに向けてきた"嫌悪"の眼差しを、

 アイリスから向けられるのが怖かったから・・・。


「・・・悪かった。」

 ブレイドは消え入るような声で言った。

 その一言で済まされることではないと分かっている。

 今まで通り、なんて叶わぬ望みだ。

 来るのは拒絶。

 分かっている。

 この日を覚悟してきたから。


 暫しの沈黙が続き、ブレイドは唇を噛んだ。

 すると、アイリスの溜息が聞こえた。

「何言ってるの?」

 少し呆れたような彼女の声。


「そんなのどうだっていいわよ。」



「・・・は?」



 アイリスの言葉に思わず顔を上げた。

 アイリスは金色の瞳でこちらを真っ直ぐ睨んでいた。


「なんで皇帝陛下の息子だって言ってくれなかったの?」


 アイリスが怒っていた理由。

 それはブレイドが皇族だということを黙っていたことだった。


 ブレイドは目を見開いた。

「・・・そっち?」

「他に何があるのよ?」

「・・・、いや・・・」

 ブレイドは視線を泳がせながら言葉を詰まらせた。

 いやいや、あるだろ。

 邪竜だぞ?厄災だぞ?

 それを今アイリスはなんて言った?

「どうでも、いい・・・?」

「厄災のこと?えぇ、どうでもいいわよ」

「・・・。」

 聞き間違いではなかった。

 戸惑っているブレイドに、アイリスはまた溜息をついた。

「"厄災"だとか"邪竜"だとか、周りが勝手に言ってるだけでしょ?それを気にしてどうするの?」

「!」

「ブレイドは"黒竜"。

 そしてゼイン・アレクシアン皇帝陛下の息子。

 それだけが事実。」

 アイリスはブレイドの手に握られた壊れた腕輪を、彼の手ごとそっと包み込むように握り締めた。


「ブレイドは、ずっと"あの日"のこと後悔して反省して、二度とそうならないようにってずっと苦しんできたのよね?」

「・・・!」

「ブレイドのことをよく知りもしないで、ただの言い伝えだとか、噂だとかで貴方を責める人達、たくさんいたと思う。

 でもそんなこと気にして、ブレイドが人生の終わりを迎えた時に、やっぱりこうやればよかった、もっとやりたいことやればよかった、なんて後悔してしまうような生き方、すごく哀しいと・・・私は思う。」


 アイリスは壊れた腕輪を優しく撫でた。

「失敗を責め続けるより、次そうならないよう協力し合う。それが周りの人たちがすべきことなんだって分かってるから、フロリスもアランもルイスさんも、みんなブレイドの傍にいてくれてるの。

 そういう、ブレイドのことを信じてくれる人たち、愛してくれてる人たちの言葉にだけ耳を傾けてたらいいの。

 貴方にはその権利があるのよ。」


 アイリスはゆっくりと息を吐いた後、ブレイドの深紅の瞳を見つめた。


「・・・でもね、もしブレイドが本当に厄災なら、

 私はブレイドのおかげでこの世界に来られたんだって、

 みんなに会えたんだって、

 貴方に感謝しなきゃね」


 アイリスはそう言って綺麗に微笑んだ。



 アイリスの言葉が、光のようだった。

 それは優しく降り注いで、ブレイドの心を溶かしてくれる。


「・・・っ、なんだよ、それ・・・」

 ブレイドは額に手を当てて自身の目を覆った。


 今までずっと後ろ指をさされて生きてきた。

 嫌悪の眼差しを向けらえても仕方ない。全部己の存在が悪い。

 ・・・そう思ってきた。

 "愛しているわ、ブレイド"

 最期に、そう言って抱き締めてくれた母。

 母の言葉すらも受け取ることが出来ずに過去の過ちをひたすら責め続けて生きてきた。

 ――でも、

 その言葉を受け取って良かったんだって。

 自分をもっと大切に、大事にして良かったんだって。

 アイリスの言葉で、やっとそう思えた・・・。


「感謝って・・・」

 ブレイドから自然と笑みが零れた。

「厄災の俺に、んなこと言う馬鹿はお前くらいだろ」

 笑いながら言ったブレイドの言葉に、アイリスはムッとした表情をした。

「馬鹿って失礼ね。本当のことでしょ?」

「ククッ・・・あぁ、そうだな・・・」

 ブレイドはそう言うとアイリスの手を引いて彼女を強く抱き締めた。


 本当に、

 何年も悩み続けた自分が馬鹿らしくなるくらい、

 アイリスの言葉は愛に溢れていた。

「(・・・好きだ、アイリス。)」


 どうしようもないくらいに。



 君が好きだ。





 突然ブレイドに抱き締められ、アイリスは息を呑んだ。

 アイリスの体を包み込む、ブレイドの体。

 首筋にかかる彼の髪と吐息。

「~~~っ、ブレイド!?ちょっと!いきなり何してるの!?」

 自然と鼓動が早くなり、顔に熱が集まっていくのが分かった。

 そして、ハッとした。

「「「・・・・・・」」」

 周りにいたクレディ夫妻やルイス、エマ、そして騎士団たちが手を止めて興味津々でこちらを見ている。

「どうしたの~?」

 テオの目はしっかりとフロリスによって覆われていた。

「!!!?ブレイドッ!!今すぐ離してっ!!!」

 アイリスは顔を真っ赤にさせてブレイドの背中をバンバン叩いて訴えた。

「嫌だ。」

「なんで!?」

「嫌なもんは嫌だ。」

 どんなに叩いても押しても、ブレイドの体は全く動かない。

 それどころか抱き締める力が更に強くなった。

 アイリスは羞恥に耐えられずにブレイドの肩に顔を埋めた。

「みんなに見られてるって・・・っ」

 ブレイドの小さく笑う声が聞こえた。

「そんなん見せとけばいい。お前が言ったんだろ?周りのこと気にすんなって。」

「・・・馬鹿ぁ・・・っ」

 アイリスはブレイドの背中に腕を回して彼の服を握り締めた。

少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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