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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第一章

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10 教育係兼記録係

 ブレイド、エマ、近衛騎士団と共にクレディ侯爵家の屋敷に行くと、彼らの到着に気づいていたのか屋敷の前にクレディ夫妻とルイスが立っていた。

「やぁ、よく来てくれたね、エマ」

「お久しぶりでございます、クレディ侯爵。クレディ侯爵夫人。」

 エマは先程アイリスにしたように二人にも優雅に挨拶をした。

「暫く見ないうちに背が高くなったね。成人、おめでとう」

「ありがとうございます。」

「貴女が教育係なら安心してアイリスを任せられるわ」

「恐縮にございます。」

 エマが恭しく頭を下げると、アランとフロリスは微笑みながら頷いた。エマの成長を喜び見守るような、そんな優しい表情で彼女を見つめている。

 エマはアラン達の後方に控えているルイスの前に行くと、軽く会釈をした。


「お久しぶりです、ルイス卿」

「おや、その呼ばれ方をするのは久しぶりですな」


 ルイスがフォッフォッと笑いながら頭を下げた。


「ルイス()?」

「ルイスは俺が帝都にいた頃、近衛騎士団の騎士団長と兼任して皇帝陛下の側近をしていたんだ」

「えっ!」

 ブレイドの言葉に驚いてルイスを見ると、ルイスは優しく微笑みながら頷いた。

 アランは驚いているアイリスの肩に手を置いた。


「ルイスは本当に強くてね、帝国一の騎士を誇る腕前だったんだよ」

「そうなの!?ルイスさん、凄い人だったんだ・・・!」

「昔の話でございます」


 ルイスは目を閉じて謙遜するように軽く頭を下げた。

「ちなみに私も近衛騎士団兼皇帝陛下の側近の一人だったんだけどね」

「えっ!そうなの!?」

「あぁ」

 アイリスが驚いてくれたのが嬉しかったのか、アランはニコニコしながらアイリスの頭を撫でた。

 以前アランとブレイドが手合わせをした時の彼の強さの理由が分かった気がした。まさか二人の手合わせを見守っていたルイスが帝国一の騎士だったとは思わなかったが。

 しかし、近衛騎士だったアランについていけるブレイドも相当な腕前だと思う。

 ブレイドが言っていた自身の魔力暴走の件でルイスとアランが彼の傍にいるということがなんとなく想像できた。


 整列している近衛騎士たちに話しかけているアランとルイスの姿を眺めていると、騎士たちは一斉に敬礼した。

 近衛騎士団は、全員人間の姿をしている。

 アイリスは自分が魔力を持ってから、相手が魔力を持っているかそうでないかの判別がなんとなくできるようになっていた。

 そのため、近衛騎士団は全員が人間の姿をしていながらも、人族と異種族の半々の人数で構成されているのが分かった。


 エマは騎士たちとアラン達を暫し眺めた後、傍に置いていた自分の鞄を持ち上げた。

「それでは、クレディ侯爵夫人。恐縮ながら私の荷物を中に運んでもよろしいでしょうか?」

「えぇ、部屋に案内するわね」

 フロリスはエマに微笑むと、玄関のドアを開けて屋敷の中に入るようそっと促した。

「待て。」

 お礼を言ってクレディ家の屋敷の中へ入ろうとするエマを、ブレイドが止めた。

 エマとフロリスが振り返ると、ブレイドはエマに向かって言った。


「お前は俺の屋敷だ。」


「!」

「・・・はい?」

 ブレイドの言葉に、アイリスは目を見開き、エマは訝しげな顔をしながらブレイドを見た。

「僭越ながらブレイド様。貴方様と私は・・・」

「分かっている。」

 ブレイドはエマの言葉を遮ると、荷物を持っているエマの手首を掴んだ。


「いいから、お前は俺の屋敷に滞在しろ。・・・いいな?」


 ブレイドが有無を言わさぬ雰囲気で真っ直ぐエマを見据えて言うと、エマは暫しの沈黙の後小さく頷いた。

「・・・承知いたしました。」

 ブレイドはエマの手を離すと、傍らに立っていたアイリスを振り返った。

「じゃあまた明日な、アイリス。」

 ブレイドはそう言ってアイリスの頭をそっと撫でると、アイリスの返事も聞かずにルイス、エマと共にブレイドの屋敷へ向かって歩き出した。

「一体どうしたのかしら・・・?」

「積もる話でもあるんじゃないか?」

「・・・・・・」

 アイリスは、エマと並んで歩くブレイドの後姿を見て、さっきまで近かったブレイドとの距離が遠くなってしまったような気がした。




 翌朝、朝食を終えて少しするとブレイドとエマが屋敷にやってきた。

「おはようございます、アイリス様。」

「おはようございます、エマさん」

 エマは昨日と同じように優雅に挨拶をした。

「あら?お勉強も治癒の練習も明日からにしていたはずだけど?」

 フロリスがエマの手に本や羊皮紙が抱えられていることに気づいて、二人に紅茶を差し出しながら言った。

「はい、授業は明日から始めさせていただきますが、今回は別件で伺いました。」

 エマはクレディ夫妻、アイリス、ブレイドが椅子に座ったのを確認すると、羊皮紙と羽ペンを持ちながら言った。


「現在、宮廷ではブレイド様、クレディ侯爵によりご報告頂いた内容でアイリス様の記録を取らせて頂いております。

 今回より私が教育係と併せてこの任を賜ることとなりました。

 それでなのですが・・・」

 エマはアイリスを見て言った。

「これまでの記録で、アイリス様に関して足りていない項目がございます」

「足りてない項目?」

 ブレイドの言葉にエマは頷いた。

「はい、ご年齢や身長など身体的特徴についてです」

 エマはクレディ夫妻を見た。


「これまでの"金眼の天使"様方は一様にご自身の記憶がありませんでしたので、発見された当時の身長などを考慮してご年齢を決めております。

 今回アイリス様はクレディ侯爵家のご令嬢でありますから、決定権は親権をお持ちのクレディ侯爵になります。どうなさいますか?」


 エマが羽ペンと書類を片手にクレディ夫妻に尋ねた。

 アランとフロリスは顔を見合わせて少し考えた後、アイリスを見た。

「アイリスは何歳がいい?」

「えっ!」

「アイリスが決めていいわよ?」

 アランとフロリスは微笑みながら言った。

 決定権が本人に移り、エマがアイリスを見る。

 アイリスは少し考えた後、エマを見上げて言った。


「私も今までの方達と同じように身長などで年齢を出して頂けるとありがたいです。年齢の基準がよく分からないので・・・」


「分かりました。」

 エマは頷くと、どこからともなくメジャーを取り出した。

「アイリス様の発育測定を致しますので、こちらによろしいでしょうか?」

 エマはルイスに手伝ってもらいながらアイリスの身長を測った。そして数字を羊皮紙に記録していく。

 それから手慣れたように服の上から肩幅や胸囲なども測っていく。

「・・・発育がよろしいのですね。」

 エマが胸囲を計った際に呟いた言葉に、紅茶を飲んでいたブレイドが噴き出した。

「ゲホッ、ごほっ!」

「大丈夫?ブレイド・・・」

 アイリスは激しく()せているブレイドに声をかけると、ブレイドはナフキンで口元を抑えながら小声で「・・・大丈夫だ」と呟いた。



 全ての測定を終えてルイスに持ってもらっていた本と照らし合わせると、エマは羊皮紙にサラサラと文字を書いた。

「アイリス様の身長等を計測させていただきましたところ、人族の平均でおよそ十歳から十二歳になります。」

 エマは羊皮紙から顔を上げると、アイリス達を見て言った。

「"金眼の天使"様方もおおよそ同じくらいのご年齢で最初に保護されております。治癒能力に目覚められたのはその約半年後・・・。アイリス様も同じくらいで魔力の芽が出現したと聞いております。」

 エマの言葉にアイリスとクレディ夫妻は頷いた。


「改めてご説明させていただきますと、今回ご年齢を決めさせていただきたい理由はアイリス様がご成人なさるのがいつになるかを明確にするためにございます。」

「!」

「それを考慮するならば、アイリス様の将来の幸せを望まれるクレディ侯爵のご意向を汲みまして十二歳にされるのがよろしいかと思いますが、いかがなさいますか?」


 エマの提案は、"早めに成人を迎えさせてはどうか"という意図があるのだとすぐに分かった。

 "金眼の天使"に成人である十六歳を迎えられた人はいない。みな一様に治癒能力に目覚めてから四、五年で命を落としている。


 アランとフロリスが頷いたのを見て、アイリスも頷いた。

「では、十二歳と記録させていただきます。」

 エマは小さく頷くと、羊皮紙に記入した。


「・・・そういえば、ブレイドって何歳なの?」

 アイリスはルイスに椅子に座るよう促され、ブレイドの隣の席に座りながら尋ねた。

「俺は今年十五になる。来年成人だな。」

 ブレイドは目の前にあった焼き菓子の乗った皿をアイリスの前に差し出しながら言った。

 帝都に帰るタイミングで成人するのだと分かり、アイリスは頷いた。




 翌日から始まったエマによる教育。

 応接室がエマとの勉強会に使用する部屋となった。理由としては、座学だけでなく歩き方や挨拶の仕方、ダンスなども学ぶため、アイリスの自室では少しスペースが足りなかったからだ。

「それでは、よろしくお願いいたします。」

「よろしくお願いします」

 エマとアイリスは互いにぺこりと頭を下げた。

 そして、二人でちらりと応接室のドアの前に立つ人物へ視線を向けた。


「あの・・・なんでブレイドがいるの?」


 アイリスがドアの前で腕を組み、壁によりかかるようにして立っているブレイドを見ながら言った。

「気にするな。」

 いつもの仏頂面で言ったブレイドにエマは目を細めると、ツカツカと歩いて行って彼の目の前に立った。

「ブレイド様、ご退室願います。」

「あ?」

 ブレイドの目が細められ、すっとエマを見下ろす。

「別にここにいたっていいだろ?」

「いけません。貴方様がそこにいては私が集中できませんから。」

 エマは眼鏡を押し上げながらブレイドを見上げた。

 部屋に暫しの沈黙が流れる。

 ソファーに座ってそれを眺めていたアイリスはブレイドの行動に違和感を覚えた。


「(なんでそんなにここにいたいのかな・・・?)」


 アイリスは向き合って見つめ合っているブレイドとエマを見て考えていた。

 そんなアイリスに気づくことなく、ブレイドは溜息をついてエマの肩についていた糸くずを払った。

「!」

「お前が気にしなければいいだけだろ?」

 そう言って口角を上げたブレイドに、エマは視線を逸らした。

「そう言われましても・・・気にするに決まっています。」

 エマがそう呟いても一向に動く気配のないブレイドに、彼女は諦めたように小さく溜息をついた。


「・・・・・・」

 本当に仲が良さそうな二人。

 それに美男美女の二人が向かい合って立っていると、とても絵になった。


「(・・・そっか。)」


 アイリスは一つの答えに辿り着いた。

 ブレイドはきっとエマの傍にいたいのだ。

 ブレイドがアイリスに言っていないだけで二人はきっと恋人同士なのだろう。よくある幼馴染から恋愛に発展したやつだ。

 恋愛経験ゼロの前世の"私"がよく読んでいた恋愛小説や少女漫画で出てくる設定そのものではないか。

 そもそも強制的に自分の屋敷に連れて行くくらいだ。ブレイドはエマと片時も離れたくないくらい彼女を想っているに違いない。


 ブレイドの行動に納得すると同時に、モヤモヤとした感情が出てきた。

 「(・・・ならなんであんなことをしたのよ)」

 エマたちが来たあの日、草原でブレイドがアイリスの額にキスをしたことを思い出した。

 所詮ブレイドにとって自分は"妹"みたいなものなのだろう。

 女として見ていないからブレイドは揶揄(からか)い目的であんなことができたのだとアイリスは気づいてしまった。


 恋人の存在がいながら、エマに嫉妬させるために彼女が見ている前で興味もない女にキスをするブレイドの行動もアイリスには全くもって理解できない。


「(・・・なんか段々ムカついてきた。)」


 アイリスはスッ、とソファーから立ち上がると、ブレイドとエマの元へ歩いて行った。

 そしてブレイドの前に立ち、頭一つ分大きいブレイドを見上げた。

「ブレイド」

「ん?」

 ブレイドは目の前に立ったアイリスを見下ろして首を傾げた。


 よく仏頂面をしているが端正な顔立ちをしているブレイド。きっとこの世界でもイケメンの部類に入るのだろう。

 アイリスは拳を握りしめた。

「(この顔面偏差値の高い優男め。よくも幼気(いたいけ)な乙女心を(もてあそ)んだな?)」

 アイリスは溢れ出る怒りを押さえ込んで、ブレイドにニコッと微笑みかけた。


「出て行ってくれる?」


「・・・は?」

 ブレイドは目を見開いた。アイリスはそっと応接室のドアを開けて言った。

「今はブレイドの顔も見たくないの。」

「なっ!」

 アイリスはブレイドの背中を押して応接室から廊下に押し出した。

「おわっ、アイリス!?」

 よろけたブレイドが慌てて振り返るが、ドアは無情にもブレイドの目の前で閉められ、さらに内側から鍵がかけられた。


「・・・嘘、だろ・・・」


 ブレイドは顔を引きつらせながら目の前のドアを呆然と見ていた。

「追い出されたね。」

「そうね、追い出されたわねぇ。」

「追い出されましたな。」

 リビングでティータイムをしていたクレディ夫妻とルイスは紅茶を飲みながらその様子を眺めていた。


 応接室のドアの鍵を閉めて俯いているアイリスに、エマは戸惑いながら彼女を見ていた。

「よろしかったのですか・・・?」

 そっと声をかけると、アイリスはゆっくりと顔を上げてエマに微笑みかけた。

「うん、いいんです。・・・ごめんなさい、エマさん。授業始めてもらえますか?」

 アイリスはそう言ってエマから視線を逸らすと、さっきまで座っていたソファーに向かって歩いて行った。

「・・・わかりました。」

 エマはその様子を静かに見つめた後、アイリスの後に続いて歩き出した。

少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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