第6話
「……なんだ、これは?」
私は確かにベッドを与えたはずなんだが、なぜこのような状況になっているのだろうか。
少し整理をしてみよう。確か昨日、私は寝るように指示したはずだ。その証拠にこの赤毛の少女は私の目の前でグッスリと眠っている。それはいい、問題は寝ている場所だ。
朝、彼女を起こすついでに様子を見るため部屋に入ると、なんとベッドの上ではなく横でまるまって眠っていた。確かに私は″ベッドで″なんて言っていないが、普通部屋で寝るとなったらベッドで寝るだろう。何故この子は硬い床で幸せそうに寝ているのだ。
「おい、赤毛の子。もう朝だよ」
とりあえず起こす事にした私は、幸せそうに眠っている彼女を起こすことに罪悪感を感じながら肩を叩く。すると、ゆっくりと彼女は動き出した。
「んにゃ……おはようございます」
どうやら寝ぼけているらしい。と直感した。彼女のうっとりとした笑みを見ていると、やはり子供がウチに居るのだ、と認識してしまう。その瞬間に違和感が支配したが、これはこれで非日常感があって少し新鮮だ。
「寝ぼけているね。早く起きなさい」
頬をツンツンと突いてやると、彼女だけ世界が遅く動いているかのようにゆっくりと瞼が開いていく。同時に口も大きく開いていき、両方とも最大まで開くと勢いよく立ち上がった。
「す、すみませんっ!」
突然の謝罪に、私はつい困惑してしまった。そんな私を置いて、彼女は何度も謝罪をしている。その顔は、とても焦っているように見えた。
「大丈夫だから。落ち着きなさい」
とりあえずペコペコと頭を振り続ける彼女の動きを止めて、顔を覗き込む。何かをとても恐れているような目には、涙が溜まっていた。ただ寝ぼけていたところを見られただけでこれほど焦る……というか恐れるものなのだろうか。
「とりあえず朝ごはんが出来ているから、着替えて降りてきなさい。いいね?」
表情筋は動かさないが、できる限り優しい声で語りかけるように告げる。頭をポンポンとしてやると少しだけ表情が和らいだので、落ち着いてきたのだと判断した私は部屋を出てダイニングへと移動した。
料理を皿に乗せていると、少しくたびれた表情の赤毛の子が入ってくる。その服装はパジャマではなくシャツになっていた。
「落ち着いたかい?」
多少落ち着いたとは思うが、それでも出来る限り優しい声を意識して彼女に問いかける。何気に、こんな人に気を遣ったのは初めてだな。
「はい、取り乱してしまい申し訳ありません」
「気にしなくていい。ほら、ご飯にしよう。座りなさい」
彼女と話すときは可能な限り命令をハッキリと告げるように意識をする。奴隷としての調教がされている彼女は自分で動くということが出来ない。ならばこちらが命令するのが一番無駄がないだろう。
私が手で座るように促すと、彼女は素直に従ってチョコンと座った。
「いただきます」
料理を机の上に広げ、彼女の対面に座る。そして手を合わせて小さく呟くと、目の前に座っている赤毛の子がキョトンとしていた。
「これは大和の国の文化なんだけど、食事の前にするおまじないみたいなものだよ。両手を合わせて、『いただきます』っていうんだ。やってみたまえ」
大和の国での記憶なんて殆ど忘れてしまったし、あの頃とはだいぶ生活が変わってしまったが、この文化だけはなぜか続けていた。これがあって初めて食事という感じがするのだ。
「いた……だきます?」
「そうそう、そんな感じだよ」
彼女は戸惑いながらも両手を合わせる。その姿を眺めてから私達は料理を食べ始めた。
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