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第3話

「赤毛の子。これから私達は買い物をしようと思う。いいかい?」

「………」

 一応、彼女に語りかけているつもりなのだが、彼女からの反応は一切ない。困ったな、子どもと意思疎通をするというのは想像以上に難しいらしい。

「無言は肯定。よし、行こうか」

 反応の無い子の反応を待っていても時間の無駄なので、勝手にそう結論づける。今回の買い物には時間を要すると予想されるので、女の子の手を引っ張って歩き出す。


「やあ、邪魔をするよ」

 とある店に辿り着いたので、その店の扉を開く。女の子を先に通して中に入ると、奥からひとつの影が駆け寄ってきた。

「いや~ん。久しぶりね、サンちゃん!」

 現れたソイツは、金色の髪をクルクルに巻いた背丈が私より頭一つ二つ大きい女だった。

「やあ、マルス。注文の品は出来ているかい?」

 この女の名はマルス・クレアウィズ。少し特殊な書店を営んでいる人間だ。ちなみに、コイツは魔法使いで、私はコイツの同僚に近い間柄だ。

「出来ているわ。でもあんな本もう必要な……って何その子」

 どうやら今赤毛の子に気付いたらしい。心の底から驚いている、といった顔だ。ここが絵本の世界であったら目玉が飛び出ているだろうな。

「預かったんだ。ダーマスから」

「あの詐欺師からぁ⁉ どこで買ったって?」

「奴隷市場。気が乗ったんだってさ」

 私達の共通認識として、あの男は胡散臭い詐欺師というのがある。そのため、あの男の名前を出すだけで彼女が少し顔を引き攣らせていた。

「この子を預かる、それが今回の依頼なんだ」

「また面倒そうな依頼を引き受けたのね」

 はぁ、と彼女は溜息をつく。これまでだって面倒な依頼は避けてきたのだ。そんな言い方はやめてほしいものだね。

「もしかして、この子のため?」

 注文した本達を手渡しながら小首を傾げていたので、本を受け取りながら頷く。

「そうだよ。面倒だけど、依頼だしね」

「必要なの? ただ家に居させるだけでも……」

 そんなことを言う彼女に、私は微笑んだ。

「それじゃあ、この子の貴重な時間が無駄になってしまうだろう。一応預かることになったんだ。なら私にはこの子にその時間を有効に使わせる義務というものがあるんだよ」

 エルフといえど、時間は有限で儚きものだ。私のような者にはその尊きものを守り導くという役目がある。たとえ成り行きで、仕方なく預かった子といえど導く対象だ。

「はあ、お人好しね。魔道具使いさんは」

「年長者の宿命、というやつさ。君も次期に分かる」

 これは長年生きればそのうち理解してくることだ。きっと、魔法使いである彼女も自然と理解していくだろう。これはそういう類の話である。

「きっと分からないわよ。貴方のような人材は稀なの。それをそろそろ理解しなさいな」

 彼女や、ダーマス……あの詐欺師などからよく言われているのだが、私はどうやら珍しいタイプの存在らしい。自覚はあまりないのだけど。

「まあいいわ。お代は彼から貰えばいい?」

「ぜひそうしてくれ。それじゃあね」

 まあ、これは彼女のために注文したのだ。詐欺師に請求書を投げつけても問題はないだろう。

 実はマルスというこの店主は、ぼったくり店員としても有名だ。今回は教材を色々頼んだだけだが、それですらぼったくるような奴だ。あの詐欺師に少し同情しながら、私は赤毛の子を連れて店を出るのだった。


「………」

「重たいかい?」

 先程頼んだ本達は全部赤毛の子に運ばせているのだが、流石に重たそうだ。全部で相当な量の紙束なのだし、八つの子には少し厳しかったか。

「仕方がない。少し持ってあげよう」

 私は彼女に全て持たせる想定で動いていたのだが、どうやら現実とは想像より過酷らしい。これから荷物が増えるのだが、仕方がないな。彼女に重い荷物を持たせて動きが遅くなるよりは私が持った方が良いのだろう。

 不思議そうな顔をする彼女から荷物を奪い去り、歩き始める。

「どうした、私が荷物を持つとは思わなかった?」

 彼女の顔を見ることもなく、そう問いかける。すると、少し気まずそうな顔をしながら赤毛の子が横に並んできた。どうやら荷物を無くしたおかげで動きやすくなったようだ。

 それにしても、彼女は意外と感情が見えるのだな。奴隷として売られる子は感情が消え去っているのが多いのだが、これはまた珍しいな。もしかすると奴隷としての日が浅いのかもしれないな。

「流石の私でもそれくらいはするさ」

 それに、と彼女の顔を覗き込みながら言葉を続ける。

「この買い物は全部君のためなんだよ」

 そう、実は今日買い物をしているのは、彼女のためであった。昨日とか、空いている日に買い物を済ませてもよかったのだが、家に来る子がどういう子なのか分からない以上何を買えばいいのかも分からなかったのだ。だからこそ今日彼女を連れて買い物をしている。八つの子に歩かせ続けるのも酷かと考えたが、まあ気にしなくても大丈夫か。

「不思議そうな顔をしているね。本当に君は私のことを勘違いしているようだ」

 その少し視線を泳がせて気まずそうにしている赤毛の子の顔を見ていて、つい笑みがこぼれてしまった。こういう小さな子と関わるのは久しぶりで、新鮮だ。

「君のような子に重いものを持たせ続けるわけないだろう」

 それをするのは本物の畜生だ。私はそういう類の存在に成り下がったつもりはない。

「ほら、早くしないと日が暮れてしまうよ。急ごうか」

 片手でマルスから頂いた本達を持ち、もう片方の手で赤毛の子の小さな手を引っ張る。

 そうして、家具屋、雑貨屋、服屋など様々な場所を巡っていると、いつの間にか太陽は見えなくなり、空は紅く染まっていた。

ご高覧いただきありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたのであれば、ぜひ感想、ブックマーク、★★★★★をよろしくお願いします!


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