プレイングマネージャー問題の構造
現代日本の職場で、リーダー職に最も深刻な影響を及ぼしている構造的な矛盾が「プレイングマネージャー問題」である。これは、管理職やリーダー層が「プレイヤー」として日々の実務を遂行しながら、「マネージャー」としてチームの育成・管理・戦略立案も同時に担うという二重構造に苦しむ問題である。
プレイングマネージャーの増加は、主に人手不足とコスト削減によって引き起こされてきた。バブル崩壊以降、企業は「効率化」「スリム化」の名のもとに中間管理職層を縮小し、その結果として「一人で二役以上こなす」構造が標準化した。特に中小企業や現場主体の業種においては、管理職が通常業務の最前線に立つことが当然視されており、マネジメントに割けるリソースが著しく不足している。
この構造の問題は多岐にわたる。まず、マネジメントの質が下がる。部下の成長支援、目標管理、チーム戦略などの本来的なマネジメント業務は、時間と精神的余裕を必要とするが、実務に追われる中で十分に行うことは不可能に近い。結果として、指導不足や評価の曖昧さが常態化し、部下のモチベーションと生産性に悪影響を及ぼす。
また、プレイングマネージャー自身の負荷も極めて大きい。現場の業務に加え、会議、報告、資料作成、さらには部下のメンタルケアまで担うため、長時間労働が常態化しやすく、燃え尽き症候群や離職のリスクが高まる。このような状態では、組織全体の生産性や持続可能性も損なわれる。
さらに、若手社員にとっても悪影響は深刻である。「上司の背中を見て学べ」と言われても、その背中が疲弊し、常に余裕なく動き続けている状態では、リーダー職に魅力を感じるどころか「自分もいずれこうなるのか」と不安や拒否感を抱くだけである。
この問題の本質は、「役割の分離がなされていない」ことにある。リーダーシップと実務スキルは必ずしも同一ではなく、本来は異なる能力・思考・時間配分を要する職務であるにもかかわらず、それを同一人物に求めてしまう構造自体が不合理なのである。
解決には、リーダーとプレイヤーの役割を明確に分離し、それぞれに必要なリソースと時間、教育を配分することが不可欠である。また、AIや業務効率化ツールの導入により、プレイング業務の負荷を軽減し、本来のマネジメントに注力できる仕組みづくりも重要である。
プレイングマネージャー問題は、個人の努力や忍耐で解決できる次元の話ではない。これは組織構造と評価制度の問題であり、今後の人材育成と持続的成長を見据えるならば、避けては通れない構造改革の核心である。