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第8話 別視点。侯爵への報告と異常な女

師団長が侯爵へ報告へ行く別視点のストーリー

コンコン。 「入れ」


団長 「は!失礼致します!こちら本日の報告書です、確認して下さい。」



侯爵 「ん?ああご苦労。なんだローデン、今日は随分と早いじゃないか。ああ、普段通り喋ってくれ。お前の敬語はムズムズする」



長年の付き合いで、普段は軽口を言い合うほど仲が良いので、ローデンの敬語に慣れなくて尻がムズムズするのだ。真面目な顔も見慣れなくて笑いそうになる。



団長 「ははっ。ああ、じゃあそうさせてもらうわ。

ええと、3つほど報告があるんだが……内容がアレなんで防音結界張ってくれ。これは極秘事項だ。S級のな!セバスは……」



侯爵 「《サウンドバリア》……ほら張ったぞ。セバスは大丈夫だ。この屋敷で一番信用出来る奴だ。それで?S級の極秘案件とは?」



セバス 「ローデン殿、こちらへどうぞ」



シュタイザー家の執事、セイバス。通称セバスが、スっと音もたてずにいつの間にかお茶を用意し、ソファを進めてきたので、座って茶を一口含み喉を潤した。



団長 「ああ、ありがとう。ゴクッ……ふぅ……。

では一つ目。2級騎士のサイラスが、『神命』で、とある方の専属護衛騎士に選ばれた。明日から任務に就く為、配置換えの任命書を頼む。これは『王命』ではなく『神命』なので絶対事項だ。」



侯爵 「『神命』か。勇者か聖女が現れたか?2級騎士のサイラスね。了解した。王宮で任命式はしなくて良いのか?」



過去の『神命』は、勇者のパーティメンバーの任命だったり、聖女の専属護衛の任命だったのだ。

それに伴って、王宮で任命式と盛大なパーティが行われるのが恒例だったのだ。だから、侯爵は疑問に思いローデンに問うた。



団長 「任命式は無しで。勇者でも聖女でもないからな。

でだ、もう2つ目。この屋敷で尊大な態度を取ってる、お前の娘『ストロベリー様』だがな……侯爵家に縁もゆかりも無い平民の娘だ。本名は《キャロル》。

母親は、3年前までこの屋敷で下働きをしていたメイドで、父親は鍛治職人の男だ。

まぁ、偽物だってのは今日の『鑑定の儀』で判明しただろうがな。一応、俺からも報告として伝えとく。」



侯爵 「…………いや、は?え?ちょ、ちょっと待て。あの、ベビーボアが?偽物!?

ピアーズに瓜二つだぞ?見た目も態度も口調も!だったら本当の娘は!?

……は!まさか死産だったのか?だからメイドの子を奪って自分の子としたのか?俺にバレたくなくて嘘吐いてたのか!?なんて事だ……」



執事のセバスはあまりの事に何も言えず、頭を抱えて項垂れてる我が主を見ているしか出来なかった。

だが、頭の中では色々思い出して思案していた。


(あの母娘が偽物?全くソックリじゃないですか。ローデン殿の勘違いでは?…嘘だったら張っ倒しますよ……)



団長 「おい、ヴェルディ大丈夫か?(セバス睨むな。嘘じゃねぇから。まさか洗礼式で何かあったのか?『鑑定の儀』を受ければ、偽物だったらステータスカードが赤く光るだろ?)コソコソ」



セバス 「(うっ…失礼致しました。ええ。洗礼式の決まりを護れない罰当たり。をしたみたいですよ。『祝福の儀』も受けずトンボ帰りだそうです)コソコソ」



団長 「(うへぇ。恐れていた事態が起こったか。儀式前だから罰は免れたのか?で、矯正して5歳で改めて受けさせるってところか?)コソコソ」



セバス 「(そのようです。5歳までに矯正すると。奥様に任せっぱなしにしてたのが悪かったのだと、今更後悔なされていましたよ。で、淑女教育をシェリム様に頼むとの事です)コソコソ」



団長 「(まぁ、その…本当に今更だな。シェリムったらヴェルディの姉君か。完璧淑女と言われてるが、あの娘っ子を教育するには押しが弱そうだぜ?大丈夫かよ)コソコソ」



セバス 「(ええ。その懸念がありまして、大奥様にも来て頂くとのことです。でも、偽物なんですよね?)コソコソ」



団長 「(ふむ。女帝ビクトリア様か。怖ぇな。偽物なのは本当だな。この先どうするかは俺が口出す事じゃないからなぁ。侯爵家で判断してくれ)コソコソ。

あ~と、その、ヴェルディ。そろそろ3つ目の報告していいか?それとも後日にするか?」



セバスとコソコソ小声で話している間も項垂れたままで、身動き一つしないから心配になってきた。が、3つ目の報告が一番重要だから、さっさと伝えたいのだ。


それに早く終わらせて宿舎に戻らないと、クッキーが無くなってしまうのだ。

だから早く復活してくれと、ガチで焦るローデンだった。



侯爵 「……これ以上の事案とはなんだ?もう大丈夫……ってわけでもないが、報告を続けてくれ……」



団長 「わかった。本物の『ストロベリー・ディ・シュタイザー』は、産まれた直後に侯爵夫人によって旧侯爵邸へと追いやられたとの事です。

今も一人で旧侯爵邸で過ごされております。傍には伝説の神霊『小兎神族』がいるとの事。

そして、あの方は3代前の勇者と同じ『転生者』の称号を持っており、全能神様の加護持ち。つまり神の愛し子様ということです。

他にも、大地の神様、魔法神様、刀剣神様、他にも色々と加護を持っており、『神々の寵愛を受けし者』という称号も持っています。これは、ルカリスが魔眼で鑑定したので間違いないです」



侯爵&セバス 「「………………」」



団長 「それと、本日ストロベリー様が兵舎にいらして話しをした中で、「侯爵一家とは関わりたくない」との事。

「一度捨てたんだから、放っといて欲しい」と仰っていました。

「偽物でも既にストロベリーがいるのなら、私は名乗りをあげない。居場所を奪いたくない」とも言ってました。いやぁ、3歳とは思えないくらい落ち着いてて素晴らしい子でした。しかもとても優しくて、天使みたいに可愛い!ヴェルディの曾祖母様、レティシャ様に瓜二つ。先祖返りだなあれは。うん。しかも加護が強いから神々しいんだわ……菓子も作れるし、ありゃ将来モテモテだな」



ローデンは言うだけ言って、お茶をグイッと飲み干しソファから立ち上がり、未だ呆然としている、我が主であり友であるヴェルディに告げた。



団長 「以上が報告だ。ま、そっとしといてやれ。『自由』が彼女の望みだ。意に沿わない事をするなよ?王に報告したりとか。

あの子はただの愛し子じゃない。『神々の寵愛を受けし者』だ。そんな存在が懸念しているのが、『侯爵夫人』と『キャロル嬢』の存在だ。「一番関わりたくない」と言っていたので、会わすような事をするなよ?神罰を受けるぞ」



コツコツと足音をたてながらドアノブに手を掛け、振り返って最後にもう一言。



団長 「侯爵夫人とキャロル嬢にどんな神罰がおりても気にしないが、お前とアルヴィンだけは無事でいて欲しい。

だから、ストロベリー様に関しては『無関心』を貫いとけ。じゃあな。あ、サイラスの専属護衛騎士の任命書は早急に頼むな!では、御前失礼致します」



ローデンが出て行ったあとの執務室は、シーンっと静まり返っていた。衝撃的な報告のオンパレードで、どう処理していいかわからず、ただ呆然とするしかなかった。


そんな空気の中、控えめなノックの音と共にアルヴィンが入室してきて、異様な雰囲気にタジタジしながら、来客を告げてきた。(今度は誰だ!)と叫びたくなるのをグッと堪え、入室を許可した。



??? 「おう!久しぶりだなぁヴェルディ。連絡貰ってすっ飛んで来たぜ」



??? 「お久しぶりです。先輩。私も魔法師団長より手紙を受け取りまして、早速伺いました」



アル 「父上、僕の剣と魔法の先生を早速手配してくれてありがとう御座います。……外でお会いしたので、そのままお連れしたのですが……あの……顔色が優れませんが、大丈夫でしょうか?

セバス、父上はどうしちゃったの?あれ?セバスも顔色悪いよ?大丈夫?」



セバス 「私めは大丈夫で御座いますよ坊ちゃん。ようこそいらっしゃいました。Sランク冒険者のエドワード様と、魔法師団、第二副団長のオズワルド様ですね。

旦那様、別室へと案内しておきましょうか?それとも別日にまた来て頂きましょうか?」



エド 「おう。なんか立て込んでたか?俺は別日でも良いが、今日は宿取ってないから泊まらせてもらえると有難いんだが」



エドワードはバツが悪そうに頭をポリポリ掻き、眉尻下げて滞在のお願いをした。



オズ 「何だか様子がおかしいですね。私も後日で宜しいですよ。ゲートですぐ来られますし」



『ゲート』とは『転移の陣』という魔導具。ダンジョンの宝箱から稀に出る代物。オズワルドは個人でダンジョンを踏破し『ゲート』を手に入れていた。

通常の転移魔法とは違い、行き先を5ヶ所までしか登録出来ないが、便利なので重宝している。


売ればアダマンタイト硬貨(日本円で1億)相当に値するほどレア魔導具。神具とも呼ばれている。


そんな代物をオズワルドは嬉々として使っている。彼は魔法バカであり、魔導具バカなのだ。



侯爵 「……せっかく来てくれたのに本当に申し訳ない。色々あり過ぎて脳が処理しきらんのだ……エドは訓練の間、ここに滞在してくれて構わない。オズは……そうだな3日後に来てくれるか?それまでに復活……」



執務室に集った面々にヴェルディが話しをしていたら、「ドスン、ドスン」と廊下を踏み鳴らして近付く存在に気付いた。ストロベリー……いや、キャロル嬢だ。

(何しに来る気だ偽物め!)と拳を握りドアに殺気を放って睨んでいたら、「バーーン!!」と、ノックもせず開け放った。



「お父様!私は『ストロベリー』じゃなくって『キャロル』聖女のキャロルなの!この世界のヒロインよ!

だから教育者とか不要だわ!だって私なんでも出来ますもの!勉強だってしなくても生きていけるわ!

いずれ王子様と結婚して姫になるんですもの!皆が私を敬うのよ!聖女で姫ですもの!

それと、魔法も!聖女は聖属性って決まってますし!チートだから練習なんて必要ないわ!祈ればいいのよ!

あと、ジュノン殿下と、セルビス殿下と、アルヴィン……はここにいるから、ユージーンと、ルカリスは私の物なの!5人と婚約するわ!一妻多夫ってやつね!

だからそれぞれ私の元に連れて来てちょうだい!良いわよねお父様!だって私は聖女でヒロインですもの!」



ちまっと、ゴロッと、ぶてっと、ボヨンとした小さな女の子が鼻息荒く捲し立てる様子に、

エドは小刻みに震えながら声を殺し笑い、

オズは面白い生き物を見るように観察し、

アルは自分の名前を言われたのが怖くて小さく震え、

セバスはスンッと無表情で眺め、

ヴェルは言い終わるまで拳を硬く握りジッと耐えていた。



「あ!あと、サイラスは私の専属護衛にするわ!私のペットにしたいの!」



侯爵 「いい加減にしろ!黙れ!出て行け!暫く部屋から出てくるな!顔を見せるな痴れ者が!貴様に専属護衛は必要ない!行け!」



散々な言い分にキレたヴェルディは喚き散らしてる『偽物』に向かって声を荒らげた。



その部屋には、ヴェルディ、セバス、アルヴィン、エドワード、オズワルド、キャロルと、もう一つ、姿を消して浮かぶ『ウル』がいた。


ウルは、誰にも見られてないと思ってキャロルの周りを飛び回り爆笑していた。が、一人だけ存在を認識している者がいた。

目線で追い掛けているのに、それに気付かず笑い転げる『小兎神族ウル』彼はちょっとアホっ子なのかもしれない。



「聖女の私になんて口聞くのかしら!私が自らサイラスを、別邸にいるストロベリーから護ってあげるのよ!

それに、部屋から出れなかったら、私の未来の旦那様達と触れ合えないじゃない!だからイヤよ!

お父様、未来の王太子妃に対して不敬だわ!」



聖女とか、一妻多夫とか、数々の王族の名前とか、別邸のストロベリーとか、出てくる言葉の数々に侯爵以外の面々の目が点になってる。

最終的には『未来の王太子妃』とは……第一王子ジュノン殿下は思い人がいて既に婚約済だし、一体どの王子の妃になろうとしているのか?



「ちょっとそこの……あら、貴方も素敵ね。冒険者の方かしら?丁度いいわ。その剣でこの不届き者の首をはねなさい。不敬罪で処してやるのよ!

それが出来たら、ご褒美に聖女のハーレムに入れてあげるわ♡」



赤髪黒目のスラッとしたエドワードは、勇者の子孫で先祖返りした美青年。

キャロルにロックオンされてしまった。哀れなり……



エド 「ははは!いやハーレムは遠慮するよ。俺にも好みがあるんでね。それと友の首は切れないなぁ」



ハーレムって何それ?って感じ。キャロルが痩せて美少女に成長しても、「この女は無いな」と、笑顔なのに目に感情が無い表情で首を振った。



「まぁ!あとで後悔しても知らないわよ?フンッ!

それならそっちの陰険そうな貴方。あなたが殺りなさい!

あなたも顔だけは良いから、ハーレムに入れてあげるわ。どうせモテないでしょ?だから私が可愛がってあげるわ!」



オズは確かに陰険そうに見えるが、心根は優しいし、幼なじみの婚約者を溺愛しているのだ。

だからモテなくても良いし、ハーレムなんて御免蒙る。



オズ 「……気持ち悪いですね。何ですこのベビーボアは。女版ゴブリンみたいに節操無しですか?3歳にして阿婆擦れ……将来が楽しみな娘ですね先輩」



『ゴブリン』とは女を見ると襲いかかり、苗床として巣に持ちかえる魔物。奴等に美的感覚は無いのでどんな女でも攫ってしまうのだ。

それの『女版ゴブリン』がレア種として存在している。美的感覚があり、美男子が大好きで、討伐に来る好みの冒険者に襲いかかり、魅了に掛け種付けさせるのだ。


その『女版ゴブリン』と同じな幼女……オエッである。



侯爵 「……気持ち悪い。セバス、そいつをつまみ出せ。部屋に入れて鍵掛けとけ。エド、オズ、此奴は私の娘じゃないんだよ。

平民の娘で、ストロベリーに成りすまし、侯爵令嬢を名乗ってる不届き者だ。」



ふんぞり返って喚き散らしてる『偽物』に軽蔑の眼差しを向けシッシと追い払うヴェルディ。うん。当然の行動だね。



セバス 「私一人じゃ持ち上がらないと思いますので、影を使います。パンパン。さぁ、旦那様のご命令です。その者を部屋に連れて行って下さい。」



影 「「「御意」」」



天井や壁からスっと現れた『忍者』のような存在に捕まったキャロル。集団で囲まれ捕縛魔法でグルグル巻にされ担がれて行った。



「は?え?なんなのよ!触らないで!私は聖女でヒロイン、この世界の主人公よぉぉおお!」



最後まで『ヒロイン』だと、『聖女』だと喚き散らす『偽物ストロベリー』

部屋から出て行って静まり返った空間に、「「「はぁぁぁあああ」」」と、盛大な溜息が響き渡った。



侯爵 「疲れた……私はもう疲れたよ……隠居していいかなセバス……アルヴィンあとは任せた……」



そう言って執務机に突っ伏したヴェルディの肩をポンポンと叩き、「どんまい」と声を掛けたエドワードは、

「とりあえず、部屋借りるわ。訓練は3日後からか?まぁ、声掛けてくれ。じゃあな」と、部屋を出て行った。


実際は、部屋からフヨフヨ出て行った『ウル』を追いかけたのだ。


「くくくっ。兎の神霊か。凄い格好してんな。さて、君は何処へ行くのかな?」


オズワルドも、「大変ですね先輩。私の子はキチンと育てようと思います。では3日後……」と言ってゲートで帰っていった。



アルヴィンはヴェルディの傍に寄り添い背中を撫でながら思案していた。


(本物の妹があの林の中にある別邸にいるの?どんな子だろう……もしかして、3年前に侍女が抱えてた、薄いピンクの髪の毛の赤ちゃんが妹だったのかな?明日会えるかな?)



セバスは悲痛な顔をしながら、「しっかりなさって下さい。アレは部屋に閉じ込めましたし、もう大丈夫ですよ。それと、ご両親を探して返しましょう?影を使って捜索致します。偽物を屋敷に置いとくわけにはいきませんから。」



そう言って部屋から出て行き、影に捜索の依頼をした。

さぁ、『偽物ストロベリー』改め『キャロル』の両親は見つかるのか?

その間キャロルは大人しくしていられるのか?暴れ馬は暴走したら止まらない。手綱を握る存在が必要なのだ。



案の定、部屋に閉じ込められたキャロルは大人しくしていなかった。


「そこのお前鍵を開けなさい!醜女!」と、侍女を嬲り、


「何なのこのデブ!私はこんなんじゃないわ!」と、姿見を割り、


「だっさい服!ピンクでヒラヒラとか無いわ~。」と、服を千切り、


「五月蝿い鳥ね。ギャーギャーと!」と、窓を割り、暴虐の限りを尽くしていた。




そして翌日、侍女が入室してきたタイミングで置き時計で脇腹をぶん殴り昏倒させ、


「あら、ちょっとやり過ぎたかしら?まぁいいわ。死んだらそれまでよね。それにここには警察はいないし、私はヒロインだから捕まらないもの」と、部屋から抜け出し、


(あら?あそこにいるのはアルヴィンと侯爵ね。……旧侯爵邸へ行くのね。ストロベリーは私の獲物なのよ。渡さないわ。ふふふ)と、別邸に行くというヴェルディとアルヴィンの後を追ってついて行った。


辿り着いた旧侯爵邸はボロボロで、中に本物のストロベリーは既に居なかった。

それを目の当たりにしたキャロルは叫んだ、「なんでいないのよ!悪役令嬢ストロベリー!」と。


まさかいるとは思わず吃驚したヴェルディは、すぐさま護衛に捕縛命令を出し牢に入れておくように指示した。


連れて行かれる『偽物』を見遣りヤレヤレと首を振って屋敷の方へ足を進めようとしたら、セバスが血相を変えて走ってきた。


(今度はなんだ!!)と、訝しみながら報告を聞いたヴェルディはアルヴィンをセバスに任せ、すぐさま本邸へと戻り、『偽物』が使ってた部屋まで行き、横っ腹から血を流し倒れてる侍女を見て顔面蒼白。命に別状は無かったが、大惨事である。


その後キャロルは侍女の殺人未遂で衛兵に突き出され、修道院へとドナドナされて行った。


ただ、転んでもただでは起きないキャロルは、不敵な笑みを浮かべて、ブツブツ呟きながら馬車に揺られていた。



「ふふふ。シュタイザー家を追い出されても平気よ。だって私は聖女でヒロインだもの。」


それに、物語の主人公は不幸から這い上がり、最後には幸せになるのがセオリーなのよ。

ゲームとは全然違うストーリーになってるけど、これは続編なんだわ。バッドエンドだったらどうなる?的なイフストーリーなのよ。


修道院で慎ましく過ごすキャロルが、街で倒れていた攻略対象を聖魔法で救って、「お礼がしたい」と城へ招待され、「俺だけの聖女になってくれ」とか言われて、悪役令嬢を断罪して、結婚する……


(ふふふ。なんて安直なストーリーなのかしら。面白味は無いわね。)


「さてと。せっかく大好きな世界に転生したんですもの。このままじゃ終わらないわ。

ジュノン、セルビス、アルヴィン、ユージーン、ルカリス……誰でも良いから助けに来なさいよ。

貴方のヒロインが不運な目にあってるのよ?私はここよ!聖女でヒロインな私はここに居るわ~!」



修道院までの護衛依頼を受けた冒険者や兵士は、馬車の中から聞こえてくる独り言に恐怖していた。


「やべぇのがいる」 「誰かと話してるのか?怖ぇよ」


「ハズレ依頼だったな」 「これがあと5日?夢に見そう」


「3歳で修道院ってマジか!?って思ったけどなんか納得……あれは異常……」


「「「わかるわぁ」」」


そうして独り言を呟く幼女を連れた一行は、北の修道院へと辿り着き、無事キャロルを送り届けた。

今回の、馬車で6日の移動は、いつもよりも精神的に疲れ、冒険者も兵士もゲッソリしていた。

そして、やっと解放された面々は、馬に跨り全速力で帰途についた。


そんな彼等は家に帰った日から三日三晩魘されたという。


読んでくれてありがとう!(´▽`)

アルファポリスでも掲載しています☆

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