第18話 チートな9歳。別邸の改造
辛い苦い異世界初カレーを食べた翌朝、目を覚まして飛び込んできたのはイケメンの寝顔。寝惚けてた私は無意識にスリスリと擦り寄った。
暖かい……まだ眠い……と、目を閉じ掛けたが、「くくくっ」と笑い声が上から聞こえ、パチッと目を開けた。
「おはようベリー。朝からご褒美ありがとう」と言われ、今の状況を理解した。
恥ずかしい…めっちゃ抱きついてる…無意識に温もりに擦り寄ってた。
でも、何故ユージがここにいる?昨日は一人で布団に入ったはずだよね?そう思って口を尖らせて聞いた、何故?って。
ユージ 「ん~?用事があって部屋に入ったら、ベリーが布団を蹴飛ばして寝てたから掛け直してあげたんだよ。
そしたら、上着の裾を掴んで離してくれなくてさ。そんな事されたら、「一緒に寝て?」って言ってるようなもんじゃん。だから、お言葉に甘えて一緒に寝たわけ」
まーじーかー!やってしまったぁ!でも、まいっか。一応付き合ってるし。まだ9歳だけどね!
こんな子供には何も出来ないのは分かってるし、添い寝は暖かくて気持ちイイし、うん。たまには良いかも。
「ふぅん。ま、良いけどね。ユージって体温高いから暖かくて気持ちイイし。偶に一緒に寝ようね!ニヒヒ」
ユージ 「はぁ……(まだ9歳だから良いけど、ベリー発育良くてちょっと困るんだよな)ま、偶にな。そういえば今日は侯爵家に行って色々するんじゃなかったか?」
《呼ばれてないけど、ジャジャジャジャーン!ベリーちゃん……きゃぁあ!ラブラブな朝にお邪魔しちゃってゴメンゴ!指の隙間から見てるから続けて続けて!熱烈なぶっちゅーをどうぞどうぞぉ》
朝から騒々しい変態兎だ。ぶっちゅーってなんだそれ。全く。
「あれ?今日はバニボーじゃないんだね。ツナギだ。素肌にツナギ…やっぱりウルは変態兎だった」
ユージ 「ぶはっ!ウルおはよう。朝から元気だな。寝起きのチューは衛生上よろしくないのでしないよ。口の細菌凄いからね。で、今日ツナギなのは別邸改装の為か?」
そうなの!?へぇ、まぁ確かに寝起きって口の中爽やかじゃないよね。一つ勉強になったわ。
前世で付き合ってた元彼の、寝起きの口臭が酷かったのは細菌のせいか。今の私の口の中も……
そう思ったら行動は早かった。ガバッと起き上がりバスルームに直行。ミント水でうがいだ。グチュグチュペーッて。そしてクリーン魔法を掛けた。
「うん!スッキリ爽快!二ー!」
ユージ 「あはは!ベリー素早い!」
《バイバイキーン!だね!ボクもペってするぅ。ベリーちゃんミント水ちょうだい》
洗面台でうがいをするウルを見て、可愛さに癒されながら、今日の予定を話した。
昨日はサイラスの付き添いで侯爵家へと行っていたから、別邸改装の件や、キャロル閉じ込め大作戦の事を知らないのだ。
別邸改装は、ウルの協力が必要な為、やって欲しい事を伝えた。《あのお花畑の為に魔法使うのぉ?嫌だなぁ》と渋っていたが、最終的にはOKしてくれた。
《確かにそうしたら別邸から出て来なくなるかもねぇ。修道院に送ってもまたすぐ抜け出して来るだろうしぃ。
ベリーちゃんが言うように、好きにヒロインごっこしてれば良いかぁ。
あの子も神様の遊びに巻き込まれた被害者みたいなもんだし、性格は悪いケド、人は生きてる以上、幸せになる権利は誰にでもあるしねぇ》
そうよねぇ。性格はアレだけど。暴力的で非道な事を平然とするような子だけど。幸せになる権利はあるわね。
それが、イケメン王子の攻略ってんなら、それで幸せを感じるなら、好きにヒロインごっこすれば良いわ。
攻略対象にされる男が可哀想だとは思うけど、私の仲間達に迷惑掛けないなら「どうぞどうぞ」
対象にされた人には「ご愁傷さま」としか言えないわね。酷いと思うかもしれないけど、全員を救うなんて大それたこと出来ないもの。聖人君子じゃあるまいしね。
ユージ 「ウルってやっぱ神族なんだな。普段はおチャラけてるけど、言う時は言うよな。ちょっと見直したわ」
《ええ?そう?ボクはユージこそ尊敬してるけどねぇ。ベリーちゃん一筋でブレないところとかぁ。凄いよねぇ。だって、前世からでしょ?
ユージの転生ってさぁ、特殊事例なんだってぇ。神様の仕業じゃないって言ってたの》
特殊事例?神様の仕業じゃない?じゃあ、なんで転生してきたの?
困惑して顔が強ばった。私もユージも。意味が分からないから。
《あ~。う~ん。聞きたい?でもなぁ、時間無いんでしょ?キャロっちが到着するまでに改装するなら早くしないとだよ?》
ユージ 「……聞きたい……が、今は飯食って侯爵家に行かないとだな。あ、そういえばサイラスは?」
《サイラスは、ベリーパパと遅くまで話してたから、お泊まりしてるよ。なんか色々やる事があるみたい》
色々やる事?なんだろ。気になるけど、今はそれより改装だね。
という事で、朝食を食べてやって来ました、久々の侯爵家の別邸。お父様に報告しなくて良いのか?って?
それは今、ユージが伝えに行ってるのよ。勝手にやっても怒られないだろうけど、一応報告する義務はあるって。
任せたわねダーリン。私はウルと頑張って改装してるわ。
「まずは、そこの雑木林の入り口から、別邸を囲うように結界だね」
屋敷の地下に『不必要な外出禁止』という付与をした結界魔石を置き、魔力を流して東京ドーム2個分くらいの結界を張った。
ずっと閉じ込めとくわけじゃないよ?買い物とか学園とかパーティとか、必要な外出は出来るようにした。
そう、学園!キャロルなら絶対行くって言いそうだから、一応外出の範囲に入れといた。
「よし次は、ウルは2階の奥にある一番広い部屋を、キャロル好みにして欲しいんだよね。私の記憶読み取って、あの子の好きそうな感じに整えてくれない?」
《えぇ?そんな、この世界にない家具とかで部屋を整えるの?ちょっと豪華かな?くらいで良くない?》
「これも作戦なのよ。別邸に固執させる為のね。風呂とかトイレ、鏡台を前世仕様にすれば喜んで居座るわ。
あとドレスね。宝石も。小物とかもかなぁ。全部ウル任せになって申し訳ないけどお願いします!」
《まぁ、ベリーちゃんの頼みなら良いよ。あ!ちょっと額貸して…………《&#☆&☆》はい、良いよぉ。今ベリーちゃんに能力一つプレゼントしたから。
これで、服とか小物を創造出来るよぉ。収納に入ってる布とか糸とか装飾品を出して、手を翳して想像してみて。思った通りの服とか作れるからぁ》
「ええ!?そんな……良いの?創造魔法は神の魔法だって言ってたよね?なんだか使うの躊躇うな」
普通の人間が使うと魔力が足りないから、創造魔法は神の魔法だって以前、別邸をリノベした時に言ってたんだよね。
便利だけど、一回で人は死ぬって聞いた。だから、おいそれと、渡されたからって使えないよ。
《まぁ、《《普通の人間》》ならねぇ。でもほら、ベリーちゃん《《普通》》じゃないしぃ。
ボクは神族っていう、神の眷属で半分神なんだけどぉ、ベリーちゃんはキュリオス神の愛し子で、神々の寵愛児じゃん?
神に愛されすぎて半神になっちゃった、特別な人間なわけぇ。ボクと同格か、それ以上の存在なのぉ。
だからぁ、ステータスに現れる魔力数値が測定不能になってるでしょ?
たぶん、レベルの概念が無い、無尽力の魔力があると思うからぁ、創造魔法を使っても死なないのだぁ》
もう言ってる事が理解出来ません!!魔力無尽力って、小説とかでチートキャラが与えられる魔力∞ってやつ?
ユージが『勇者の特権』なのか魔力∞なんだよね。それと同じってこと?
アイツもチートキャラだけど、私も相当なチートキャラだな。サイラスも刀剣神の加護の影響で剣術レベルMAXと、身体強化レベルMAXだし、私たち3人ヤベェな。
人類最強って言われてる前々辺境伯よりも、サイラスのほうが強いってウルが言ってたけど、うちら化け物の集まりだよ。
エドだって転移勇者の先祖返りだから、スキルとか伝承されてて強いし、ビットだって全属性魔法持ちで魔力も測定不能だし、私の周りチート野郎ばっかりだな。
アル兄様も『賢者』になれる素質あるし、ルカは……謎。でもエルフだから弓使いが上手いんじゃなかろうか?と思ってる。
そんな事を考えながら、ウルに言われた事を反芻し、「創造魔法ね…布と糸、装飾品を出して…」
手を翳して分かった。私、想像力が乏しいと。だから紙に絵を描いて作っていく事にした。色々描くのは楽しい。前世の仕事を思い出す。
化粧品開発の研究員をしていて、デザインとかも描いたりしてたんだよねぇ。コンテストに出すために。
まぁ、それも、借金押し付けて消えたクソ女に、案を横取りされたりして、入賞しても自分の手柄にならなかったけど。
(懐かしいなぁ)と、(そういえばあの時の黒服の兄さん達、目の前で人が死んだの見てトラウマとかになってないだろうか?)と、そんな事を考えながら絵を描いてたのが悪かった。
10枚くらい描き終わって、《半分やってあげるぅ》とウルに手伝ってもらいながら、《クリエイトクロース》と唱え、順調に創り上げていった。
途中ウルが爆笑してたけど、集中してるからやめて欲しい。気が散る。
そして、出来上がったドレスを渡されて、出来栄えに満足していたら、何やらドレスではない服が混じっていた。
Tシャツだ。丸首の、男性が着るようなTシャツ。何故そんな物が?と、手に取り広げて吃驚!
日本では当たり前に見掛けるプリントTシャツが、出来上がっていた。
そのプリントは風景や、英字とかではなく、サングラスを掛けたオールバックの男性。どこか見覚えのあるサングラス男性。
「な、何コレ!ウル、なんて物を作ってるわけ??しかもこのプリントの人、私を追い掛けてた黒服じゃない!」
そう。見覚えあるはずだ。会社の非常階段で鉢合わせして、逃げた先のタクシー乗り場で肩を掴んだ男だもん。
どこのヤーさんだよ!!って風貌の男。渋い声が素敵♡な~んて一瞬だけ思ったあの男だ。
《ぶっはは!ベリーちゃんから渡された服の絵の通りに作っただけだよぉ?
ネタ服なのかと思ってぇ、渡されたしぃ、描いてあるしぃ、だから作ったんだよぉ?あはは!》
「私か……無意識に描いてたのか……異世界に絵でだけど、登場したね黒服さん。
目の前で死んでゴメンよ黒服さん。そして、Tシャツのプリントにしてゴメンよ黒服さん……。
せっかく作ったからユージに着て貰うね黒服さん」
(ユージは絶対に着ないと思うよベリーちゃん)
ウルは、変な服を握り締めブツブツ言ってる相棒に、心の中で否定しておいた。
本心は着て欲しいって思ってるけど、言ったらさすがにユージは怒るだろう事が想像出来るので、オススメはしない事にした。
でも、珍しさ故に、商人が高値で買い取りしてくれそうだな……とは思ったので、ベリーちゃんにその事だけは伝えようと思った。
この時のウルの予想はドンピシャに当たり、黒服さんプリントTシャツに高額な値段が付き、引き取られた。
それは後日オークションに掛けられ、珍しい物コレクターの貴族が競り落とした。
この出来事は、生誕祭の最中に起こるので、遠くない未来で起こる真実の話なのだが、今は誰も知らないのであった。
《よし!変な服も作った事だし、あとは宝石類だよねぇ。ちょっとバビューンとゴンチャに頼んで来るね!》
「は?ゴンチャって誰よ。何処行くのよ!」
《おお!ベリーちゃんは知らないかぁ。ドワーフの神ゴンチャだよぉ。錬金術とか、鍛治の神ね!ボク、錬金術は扱えないからさぁ。頼んで来るぅ!
あ、ベリーちゃんはピア夫人の部屋と前庭のリノベをしといてぇ。じゃあ~ね~》
「あ!……もう……」
ドワーフって、あのドワーフか。ずんぐりむっくりの髭モジャ妖精。酒と鍛治の妖精だったよねぇ。
勇者と剣聖の剣を制作する人。ゲームには登場してなかったけど、『ドワーフの剣』って紹介だけあったな。
まさかゴンチャって、ゲームに出てくる剣を作ってる人物だったりしてぇ。ははっ、なんてね。
「んじゃ、ピアーズ夫人と侍女の部屋をチャチャッと片付けますかねぇ」
キャロル用の部屋を出て、階段付近の部屋を侍女の部屋として、《クリーン》
メイド服を3枚ほど、《クリエイトクロース》。布団類は野営用に買っておいたのを出して、トイレは異世界仕様の無難なヤツにした。
「侍女は贅沢なんて出来ないからね。最低限で良いでしょ。あとは同じようにコック用と侍従用の部屋ね」
そうして最低限の生活環境を整え、次に向かったのはキャロル用の部屋より数段劣る部屋。ピアーズの私室にしようと思ってる部屋だ。
入って吃驚!以前リノベした時はこの部屋には入らなかったから気付かなかった。
調度品とか家具とかが、状態保持されていて、綺麗なまま陳列されていた。
「ここって、たぶん前侯爵夫人。私のお祖母様の部屋だわ。クローゼットの中のドレスは流石にボロボロね。
ここをピアーズの部屋にするわけにはいかないわね。入口に侵入防止魔法掛けて封印しときましょ」
封印し終わって、「さて部屋は……」と、探し歩き、柱の影になってる扉があったので開けてみた。
ちょうど良い感じの広さで、家具も調度品の残骸も無い殺風景な部屋だったけど、整えやすいからその部屋にした。
実はその部屋、以前は物置として使われていたところで、事実を知ってるのは前侯爵夫妻だけ。
『知らぬが仏』『見ぬが仏』知っていれば腹が立つが、知らなければ腹が立つことも無いだろう。うん。
「よし。クリーンしたし、家具はウルが戻って来たら頼もう。あとは前庭ね」
屋敷から出て、以前畑を作った場所に行き、植物魔法で芝生を生やし、チューリップやビオラ、ポピーに芝桜等、色々な花を咲かせた。
ユージ 「ベリー!侯爵に伝えて来たぞ。お爺様達の思い出の部屋が2ヶ所あるから、そこ以外なら改装して良いってよ」
「ありがとユージ。思い出の部屋って、お祖母様とお爺様の部屋かな?1ヶ所は見付けたから封印してきたよ。もう一部屋は分かんなかった……」
ユージ 「まだ庭でやる事あるなら、俺が見てくるわ。あ!そういえば、ヤミーちゃんが馬車用意したって。御者はハクがするみたい」
「ん?なんで馬車?サイラスの実家の馬車で向かってるんじゃないの?」
意味が分からない。???である。
ユージ 「いや、ここって貴族街の中でも高位の者しか立ち入れない区域じゃん?
で、男爵家は下位貴族だろ?お伺いの連絡が無いと入門出来ないんだよ。だから、キャロルは門前で降ろされるんじゃ?って侯爵が言ってたんだわ。
で、身分証が無いからキャロルは入れない。最悪は捕らえられ、修道院に戻される可能性があるわけだ」
確かに早馬とかで連絡ないと訪ねられないね。キャロルはもう侯爵令嬢じゃないから身分証も持ってないと。
「はぁ。なるほどね。修道院に戻され、また脱走、人に迷惑掛けながら再び王都に訪れる。そんなループに陥るわけだ」
生誕祭が終わっても、学園編とか冒険者編とかあるもんな。その度に抜け出すな。
ユージ 「そういう事。それを回避する為に、予め門兵に「キャロルが来たら連絡を」と伝えといて、ヤミーちゃんが用意した馬車で迎えに行くわけよ。
別邸の裏口に、馬車で中に入れるように入り口を作って、キャロルを乗せたまま中にインする。
大広間まで連れて行き、降ろして、ハクは馬車ごと転移して屋敷に帰る。
と、いうような筋書きを作りまして、今サイラスが門兵に伝えに行ってる」
「馬車ごと屋敷に……凄い事を考えるもんだね。じゃあ、別邸の裏口に……」
裏口に入り口を……と思ったところで、キャピキャピしたヤミーちゃんが飛んできた。騒がしい。
ヤミー《ハロハロ~。ヤミーちゃんだよぉ。サイラスは門兵に伝えた後、パパとママと兄を探しに三千里……
私は馬車の搬入口を作る為に戻って来ましたァ。ベリリンは庭師をしててぇ》
いや、三千里も歩かんだろ。そして私は庭師じゃない!シュンッと来て、喋って、パッと消えた。少し落ち着け。
ユージ 「あ!あれ、招待状を預かって来たよ。『ストロベリー・ディ・シュタイザー』宛だけどね。これを見付けやすいところに置いとけば良いってよ」
あらまぁ。療養中だって言ってあるのに、やっぱり送られてきたかぁ。
そしてその招待状で王城へ入ると……勝手に名前使われて良い気はしないな。
「はぁ、用意周到ですことぉ。ではそれは預かりますわぁ。キャロルの部屋のクローゼットに丁寧に置いておきましょうか」
ユージ 「ベリー……お嬢様言葉は似合わないから辞めて。違和感パないわ……」
確かに違和感パないわ。
「んまぁ!失礼しちゃうわぁ。一応侯爵令嬢ですのよぉ」
ユージ 「…………じゃあ、俺、思い出の部屋探してくるわ。庭師ベリー、四阿とか作ったほうが見栄え良いと思うぞ。じゃあな」
胡乱な目をして私を一瞥したユージは、言うだけ言って屋敷の中に入って行った。お嬢様言葉はお気に召さなかったらしい。
自分でも分かってるけど、あえて言われると腹が立つわね。と、プンプンしながら四阿を造ろうと丁度いい場所に立って手を翳した。
「ん?そういえばウルじゃないと出来ないじゃあん。『創造魔法』で造れないのかな?……四阿を想像して……《クリエイト!》」
ゴゴゴゴ……
出来ちゃった。魔力がゴッソリ無くなった感覚がしたけど、作れちゃった。私のチート感ヤバすです。
あっという間に完成したから、「まさか家具も作れたり?」と、急いで屋敷の中に戻り、ピアーズ用の部屋の中で《クリエイト!》と唱えた。
シーン……「ですよねぇ。出来ませんよねぇ。ええ、ええ、分かってましたとも。ちょっと期待しちゃっただけよ。うんうん。……まさか布とかが必要とか?」
もう一度やってみよう!と、布やら糸やらを出して《クリエイト!》ポンッ。
「わっ!ソファが出来た!凄い……面白い!」
その後は、思い付くまま次々と家具やら調度品を作っていき、「ついでに……」と、ドレスやらバッグやらを作った。完成した部屋は、キャロルの部屋より豪華になってしまったけど、出来栄えには満足だ。
腰に手を当て、「ふふふ、ふふふ」と笑っていたら、「楽しそうだねベリー。ちょっとやり過ぎじゃない?」と、ユージにダメ出しされた。
いいの。だってピアーズも一応侯爵夫人だし。みすぼらしい環境にいたら、別邸に満足しないじゃない。
「このくらいしなきゃ満足しないって」と言ってダメ出しするユージを黙らせた。
ユージがトコトコと傍に来て、クローゼットを覗いて無言になった。「ん?どしたん?」
ユージ 「あのさベリー。ドレス作ったんだと思うんだけど……」
「ん?そうよ。一応侯爵夫人だし、パニエ入りのプリンセスラインと、ベルラインのドレスを作ったわよ?これもダメだった?ド派手なケバケバドレスだけど、ピアーズが好きそうじゃない?」
ちゃんとこの世界仕様にして作ったわよ。エリザベスカラーも付けたわよ。
ユージ 「……言いにくいんだけどな。夫人にこのドレスは入らないんじゃ?と思うんだよ。前に騎士団で見習いしてた時に一度見掛けた事があるけど、その時もデラックス体型だったからさ……人ってそんなすぐ痩せないだろ?キャロルは別だけど」
言われて気付いた。キャロル用に作った時と同じサイズで作ってしまった。
ピアーズを思い出してみた……思い出せない。デラックスなら、足首を入れて「終~了~」ってなるのかな。
「体型がデラックス……そうよね。そうだわね。私、産まれた瞬間にチラッと見ただけで、今まで会った事も見掛けた事も無いから、体型を想像して作れなかったんだわ。失念してたわ。やり直しね」
ユージ 「あー。いや、どのくらいの太さか分からんだろ?夫人の服はウルに頼めって。アイツなら偶に見に行ってるしさ。な?」
別に、今更会いたいとか思わないけど、『親に捨てられた』っていう事実は、胸にくるもんがあるね。
ユージがギュッとしてくれた事で、ちょっと涙腺が緩んでしまったわ。
あんな女で泣きたくないのに、と思っても、感情とは複雑で、次々と目から雫が零れ落ちていく。
ひとしきり涙を出したところで、ウルが帰ってきた。
《ちょ、な、え?ベリーちゃん目が真っ赤だよ!?どしたん?あわわわ》
「ごめんごめん。大丈夫だよウル。ふふふ。そうそうウルにお願いがあるの……」
そして、事情を説明して、ピアーズ夫人の服を作ってもらい、色々な宝石をキャロルの部屋とピアーズ夫人の部屋に配置した。
これで準備完了。さぁ来い。美亜ことキャロル。自由に乙女ゲームの世界を楽しんでくれ。
《あ!ハクから連絡ぅ~今から向かいますって》
「了解。じゃ、私達の屋敷に帰ろうか……あ、ピアーズを転移させなきゃだね」
ユージ 「もう一仕事あったかぁ…じゃあ侯爵邸行くか」
《NONO。任せてぇ。ボクとヤミーちゃんで、ちょちょいっと重要人物を転移させてくるからぁ。2人は帰ってチュッチュしててぇ》
チュッチュはしません!もう……
苦笑いするユージと一緒に、ウルに「あとは宜しく」と伝え、私達は自分達の屋敷に帰った。
「転移する?」って聞かれたけど、なんだか無性に歩きたくて手を繋いで帰宅した。
(キャロル。悪い事ばかりしてないで、あんたもこの世界で幸せになりなさい。現実を見て、心を入れ替える事を祈ってるわ)
そんなストロベリーの思いは、キャロルに届くのか。
生誕祭まであと5日。キャロルの物語が遂に始まる。 のか?
アルファポリスでも掲載しています