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漆の2 札幌でも仙台でもない

《日本語が分かる人に代わって》

《どのようなことでお困りですか》

《日本の商慣行に通じている人に代わって》

《どのようなことでお困りですか》

《だから、全文を読めって。読んで分からんのなら、日本語の分かる日本の商慣行に精通した日本に住む日本人に代われ》

《どのようなことでお困りですか》

《日本人に代われ》

《どのようなことでお困りですか》

《日本人に代われ。三国人。チョンコロ。土人。未開人》


 汚い言葉を使った。そうでもしないと、日本語の分かる日本の商慣行に通じた担当者が出てこないと思った。


《それでは、日本国内にいる日本人の担当者から電話をさせます》

《いちから説明したくないから、このチャットをその日本人に全文日本人に読ませろ。読んだ上で電話させろ》


 分かりましたと三国人が打ち込み、チャットは終了した。「日本国内にいる」という表現を使ったからには、三国人は海外にいるのだろう。そして、三国人であるがゆえなのか、分かったと言いながらちっとも分かっていなかった。 


 電話はすぐにかかってきた。011から始まる発信者通知だ。夜間のせいか眠そうな中高年らしい女性の声だった。下田しもだと名乗った。


〈置き配なのに郵便受けに入ってお困りということですね〉


 チャットの三国人と同じことを言う。


「いや、そうじゃなくて。下田さん、ぼくとさっきのチャットの相手とのやり取りにちゃんと目を通しましたか」

〈見ておりません〉

「なぜ」

〈こちらには来ておりません〉

「ぼくはね、チャットの相手に、全文を読ませてから電話させろって言ったんですよ。それはどうなってるんですか」

〈こちらでは分かりかねます〉

「さっきのチャットのやり取りを下田さんが確認することはできないですか」

〈今はできません〉

「待てばできますか」

〈できるかどうか即答できません〉

「またいちから説明するような面倒くさいことさせないでもらいたい。チャットの全文を確認してから電話してきてください」


 二度目の電話は、一度目とは異なる022で始まる番号からかかってきた。主は同じだった。下田はチャット全文を読んで、おれの疑念をきちんと把握していた。解決した部分と、アマゾンのシステム上の問題だといって解決しなかった部分がある。


 ネットで検索したら、最初に受けた011から始まる番号は、札幌市内にあるアマゾンのコールセンターらしいことが分かった。022も、仙台市内のアマゾンのコールセンターらしい。下田は、札幌のコールセンターとも仙台のコールセンターとも別のどこかから、なんらかの方法でそれぞれのコールセンターの番号を発信者として表示させかけてきているのだ。

 テレワークだ。同じ番号からかかってきていれば、おれはそのことに気づかなかっただろう。

 寝ぼけたような下田の口調や、キーボードをたたく音もギイといすがきしむような音も聴こえるのにほかのオペレーターの声が一切聴こえないこと、さらに、電話口の下田の声の壁への反響具合から推量して、狭い室内での単独のテレワークなのは間違いない。下田は、自宅に回線を引いて通信システムを設置し、自室でオペレーション業務に従事しているのだ。


 やり取りの全文を読まずに電話をかけてきたのはもちろん、下田に罪があるわけではない。ギルティなのは、全文を送らなかった三国人だ。三国人を雇用するアマゾンだ。少なくともアマゾンでは、チャットを重点に置く問い合わせ窓口「カスタマーサービス」が正常に機能していない。


 チャットでの問い合わせが機能不全に陥っているのは、アマゾンだけではない。旧ウィルコムの債務完済に関するもろもろの問い合わせに応じたチャットの相手は、ワイモバイルカスタマーセンターの電話番号を案内しただけで仕事を打ち切った。

 役に立たないチャットから引き継いだアマゾンの日本人オペレーター、下田は、自宅で一人で働いているのであろうから、例えばチャットのやり取りを自身の目で確認できるのか、自分の判断では答えられない。周囲に教えを請うこともできない。

 つまり、オペレーターが札幌のオフィスにも仙台のオフィスにも存在しない、スーパーバイザーも待機しないバーチャルなコールセンターは、労働者の集積施設としての顧客対応窓口の役割を捨てたということだ。コロナでテレワークが浸透すれば、コールセンターは崩壊する。そもそも低いオペレーターの質がますます下がる。


 アマゾンの問題は、別途、章を改め詳述する。


(捌 詐欺の既視感(déjà-vu)【緊急割り込み Ⅰ】「1 数字入力させてない」に続く)

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