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壱の2 テレクラで修行

 バブル景気時代だった。証券会社など金融商品を取り扱う企業に営業マンとして就職する同級生が多かった。投資家に多額の損害を与えるとして当時から評判が良くなく、よって就職人気の低い商品先物取引業界各社は、採用担当者が全国くまなく「人買い」に走った。彼らは沖縄にも送り込まれ、就活大学生を那覇の高級ラウンジで接待し、口八丁手八丁で丸め込む。いい気分にさせられた大学生は、島から一歩も出ずに東京、大阪での就職を決める。

 採用担当者の口がうまいのは、彼ら自身が営業マン出身だからだ。高額所得者や財産持ちの年金受給者をたらし込み、投資のリスクに関する説明をあえて十分にせずはぐらかし、「必ずもうかる。今がチャンス」とたき付け、金や小豆の相場を素人に「取り引き」させる。そういうむちゃな売り込みに、営業マンとしてそこに就職したら従事させられる。


「どんな仕事してるんだ」

 久しぶりに電話がつながった、商品先物取引会社に就職した同級生に聴いてみた。

〈昼間っからテレクラ通いだぞ。会社の経費で。暇なお姉ちゃんとの会話を引き延ばすことが、客に気に入られるためのトレーニングだとさ〉

 その後のツーショットダイヤル、出会い系サイト、マッチングアプリに発展するそもそもの源流である、当時から売春や性犯罪の温床だったテレホンクラブで、セールストークを磨いているというのだ。

 確かにその同級生は、恐ろしいほどの豹変ぶりで、ソフトな物言いの立派な営業マンになっていた。NTTの番号案内で電話に出る「殿様商売」の交換手とは、雲泥の差だ。ただ、旧知のおれとしゃべっていると、だんだん元の口調に戻る。

 テレクラに行かない日は、会社のオフィスでひたすらテレコール。電話の相手は、職業別電話帳だったり五十音順電話帳だったりからピックアップする。あるいは、ページの左上から順番にしらみつぶしで全番号をプッシュしていく。一日に何百本も電話して、ゲットできる「見込み客」は月に数人という生産性の低い業務に、その同級生は嫌気が差しているようでもあった。

〈先輩たちは、もっと効率のいいリストを使ってるんだけどな。高額所得者一覧とか、著名大学の同窓会名簿とかさ〉

 そういうリストを販売する「名簿屋」という業者が存在することを、おれは知っていた。取材したことがある。同窓会名簿や、特定の職能団体の名簿をさまざな方法で収集しリスト化して、同級生が勤めるような、個人消費者向けの事業所に売りつける。

 ダイレクトメールを発送する会社も名簿屋の上客だ。七五三の晴れ着を売る業者や、中学生向けの高校受験産業から送られてくるダイレクトメールは、こうした名簿屋の暗躍で個人情報が管理、売買されている。

 実際にダイレクトメールを送り付けるのは着物屋、受験産業ではなく、ダイレクトメールを制作、発送する専門の会社が介在している。その多くが、広告会社の仮面をかぶる。広告会社なのに自社で広告を作る能力はない。取り引き先の零細デザイン会社に安価で作らせた大量のパンフレットを、専用機械でがっちゃんがっちゃん封筒に込め、顧客のリクエストに応じて名簿屋から買った名簿のあて先住所、名前をラベルにして張る。

 専用機械を使うから、封筒も中身も、ダイレクトメール屋の規格に合ったサイズでなければならない。クライアントが持ち込んだ特殊な形状のパンフレットは機械を通せず手作業で封入するから割高になる。広告会社を標榜するダイレクトメール屋は、外部に安く作らせたパンフレットで、多額の製作費を上乗せしクライアントに請求する。

 医師、弁護士といった高額所得者の名簿ほど単価が高く、収集が容易で該当者に高額所得者がいる確率の低い例えばレンタルビデオ屋の会員名簿は安価で取り引きされる。

 レンタルビデオ屋の会員情報を違法に入手した名簿屋が警戒する最大にしてほぼ唯一のリスクは、その情報の流出だ。売った顧客が、名簿をどこかに転売するかもしれない。きのう名簿を買いにきた客は実は、ダイレクトメール屋の名をかたったライバル名簿屋かもしれない。

 そんなことになれば、苦労して集めた貴重な名簿の商品価値が下がる。商売が成り立たなくなる。

 だから、名簿屋は、漏れたら一目瞭然になるシステムを考案した。売る名簿に、偽情報を紛れ込ませる。職場や自宅の住所と電話番号で、自分の名前を一部書き換えた物を入れておく。名簿を買っていく顧客ごとに、偽情報の内容を変える。

 そうすることで、名簿の流出を瞬時に知り、どこの顧客から漏れたのかを見破ることができる。名簿がなにに使われているのかを把握できる。横流ししたり、契約内容とは別の使い道をしていたりしたら、その顧客とは取り引き停止する。損害賠償を請求する。

 世紀が変わっても、大規模な個人情報漏えい事件がたびたび発覚するが、そのほとんどは、どこかの段階でだれかが偽情報を紛れ込ませていたことが端緒だ。


(弐 うそつきジャーナリスト「1 名古屋の会社の望月衣塑子」に続く)

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