陸の1 五分前に連絡が
ソフトバンク関連のコールセンターで嫌な思いをしたのは、それが初めてではない。どうでもいいことだからずっと忘れていたが、福地とのやり取りでまざまざと思い出した。
前の年に、ソフトバンクの代理店のようなところから営業の電話がかかってきた。
当時のおれはソフトバンクのプロバイター『ヤフーBB』と契約してインターネットを利用していて、電話の内容は、無線通信システム『ソフトバンク・エアー』への移行をうながす勧誘だった。
〈もうすぐADSLがサービス停止となります。それが近づくと、申し込みが殺到して対応できなくなる恐れがあります〉
勧誘の男は焦燥感を募らせる。そんなこともあるまいと思ったが、しょせん営業なんてそういう職種だ。彼らはそれで飯を食っている。あげつらって問題にするような話でもない。
「ぼくねえ、携帯ブラックなのよ。『BB』と契約したのはブラックに落ちるずっと前のこと。だから、携帯キャリアであるソフトバンク系の別の契約って今さらできないと思うよ。審査があるんでしょ」
電話の相手は、なにかを調べているようだった。周囲のだれかに相談をしているようでもあった。通話を保留にされたかどうか覚えていない。ひょっとしたら、一度電話を切られたかもしれない。
〈確認しましたが、大丈夫でした。審査は問題ありません〉
移行に伴う莫大な費用はかからず、月々の支払いが大幅に増えるようなこともないと確認した上で、勧誘の男に任せることにした。男が言った通り申し込み用紙が郵送されてきたから、必要事項を記入し運転免許証のコピーなど書類をそろえ返送した。
ところが、二週間経ってもなんの音沙汰もない。だから、郵送されてきた申し込み用紙の切れ端のような紙に記されている問い合わせ窓口に電話をしてみた。
〈少々お待ちください。お調べします〉
何度聴いたか分からない。たらい回しにされた。
〈状況が分かり次第、折り返しお電話します〉
そう言われて、たらい回しは途切れた。
しかし、折り返しの電話は、待てど暮らせどかかってこない。
再度、問い合わせ窓口に電話した。
〈少々お待ちください。お調べします〉
前回と同じようにたらい回しされた挙げ句、最後の担当者が言った。
〈たった今、まさに五分前に連絡が入りましたあぁぁ。残念ながら、審査を通過しませんでしたあぁぁ〉
まさに五分前というのは作り話だろうが、そんなこともおれは問題にはしない。「あぁぁ」と間抜けに語尾を伸ばす猿芝居にも興味などない。
「あのねえ、最初に勧誘の電話をかけてきた担当者に、ぼくは携帯ブラックだからそういう契約は無理だろうって言ったんだよ。そしたらその担当者は、確認したら大丈夫だった、審査は問題ないって言うんだよ。なんで食い違いが生じるの」
なぜかは分からないと、その男は言う。「五分前」うんぬんの詭弁を弄するような程度の男だから、責めてもしょうがない。
〈それでですね、割賦契約はお受けできませんが、代わりに、レンタル契約でしたら可能かと。どうしますか〉
男は恩着せがましい。
つまり、最初の勧誘の男は、電話の相手がブラックだろうが審査に落ちようが関係なく、申し込み用紙を送るもしくは回収すれば営業成績につながるということだ。恩着せ男は、レンタル契約では営業成績にはつながらないから、特に勧めるわけでもなく、契約したければ受けてやってもいい、という殿様商売だ。
結局おれは、『ソフトバンク・エアー』をレンタル契約した。ADSLがサービス停止するというし、別のプロバイダーと改めて契約するのも面倒くさかった。携帯ブラックの前歴でまた嫌な思いをさせられるのも避けたかった。
(「陸の2 二年目の満了月」に続く)




