第8話キャンプのち出会い
「リョーヘー、これなぁに?」
「これは寝袋といって、まぁ一人用のお布団ってところかな?
中に入ってジッパーを閉めて…ほらこんな感じ」もぞもぞ
「あははっ リョーヘーいもむしみたい!
(もぞもぞ)わぁあったかいねこれ!」
「俺は外で寝るからニキちゃんはこのテントで休んでね」
「…リョーヘー、一緒に寝ないの…?」
「ぅ…い、いやぁ綺麗な星空だから星を見ながら寝ようかなーって」
「ふーん…じゃ、あたしもお外で一緒に寝る!リョーヘーと一緒がいい!」
「あ、あぁ」
地べたにごろんと寝転がると、ニキちゃんも隣に寝転んだ。
「じ、じゃあ、おやすみ。ニキちゃん」(近い…!)
「おやすみリョーヘー!」
眼帯の下で眼が赤く光った。
((おやすみ、二人とも。付近に結界張っておいたから安心して寝るが良い))
(ありがとうトロ。…地上で最初の夜か…
誰かと一緒にバーベキューして星空の下で寝る…
なんだか本当にキャンプしてるみたいだ。)
「…リョーヘー…一緒に居てくれてありがと…」
(フ…)
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木の葉から朝露が頬に落ち、目が覚めた。
「…まだ少し早いけど起きるか」
軽い肩のストレッチを済ませ、
焚き火で湯を沸かし、コーヒーを淹れる。
((おはよう良平、今日は早いのだな?))
(おはよう。なんか目が覚めちゃってな)
朝飯は何にするかな、と
湖を眺めながらコーヒーを啜る。
((良平よ、お主が寝てる間に我の魔術を使えるように
しておいたぞ。))
(??…どういうこと?あれ?こんな情報…なんで知って…)
((お主の世界で例えるなら、魔眼というアンテナを中継して
我の魔術記憶領域の一部にアクセスしている状態だ。))
(すごいな…けどどうして?)
((思う所があってな…二つある。
昨日の結界魔法の時もそうだが、
あれは我の判断による物だ。本来は良平、
お主がやらなければ成らぬものだった。
この地上はお主の人生ニ度目の舞台だ。
我の判断や行動で決める事ではない、
これからはお主が決めねば成らぬ。
我は…見守ってるだけで良いのだ。
…が、それでも手助けはしたい!
という訳で魔術を扱えるようにしたのだ。))
(…そうか……
俺の事をそこまで考えてくれてたのが嬉しいよ。
ありがとうヴェルトロ!
…ところで、もう一つって?)
((お…お主の娯楽の…特にアニメや漫画の記憶領域を
我も知りたいなー見せて欲しいなーって!))
(ほんとはそっちがメインだったりして…)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
((うひょ〜!感謝するっ良平!))
(さて、ニキちゃんを起こしてくるか。
朝食はキャンプらしい事してるんだからそれっぽい物にしよう)
「むにゃー…おはよリョーヘー」
「おはよう。朝ご飯作るから顔洗っておいで」
「むーい…」
まだ少し寝ぼけてるようだ。
(さて、ホットサンドメーカーを生成…
食材はパン、ハム、チーズ、チリビーンズ、塩胡椒辺りでいいか)
生成された食材をホットサンドメーカーに入れて
焚き火で焼く。
(完成品は生成しても良かったけど、
折角のキャンプ気分なんだ。それらしく調理だ。
ニキちゃん用に牛乳もあっためておいて…と)
「なんだかいいにおいがする…!」
「朝ごはんだよー。よし、そろそろ焼けたかな」パカリ
お手軽!美味しい!
ホットチリチーズハムサンドだ!
「はい、熱いから気をつけてね」
「わぁ!おいしそう!いただきまーす!」パクー
「はち…はち…うま…うまっ!
パンの表面かりかりのほくほく!
中のとろとろチーズとハムがじゅーしー!
ぴりからのお豆のあくせんとだ!!
リョーヘー!おいしい!!」ニコッ!
(相変わらず美味そうに食べてくれるなぁ)
「おかわり焼くから沢山食べてね」
「! リョーヘーだいすき!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
キャンプ道具を片付け再び街へと歩み出す。
道中
「ニキちゃん、街まではあとどの位歩くの?」
「うーん、お昼ごはんの時間くらいかも?」
「そっか、そろそろ森も抜け出せそうだし」
((良平!右の方角で馬車が襲われておるぞ!
その魔眼なら知覚できる筈だ。))
「!?」
眼帯をずらして見渡す。
(6人の鎧を纏った男達…
女性と少女を守るように向かい合ってる初老の男性…)
((魔術の実践だ。急ぐのならば加速魔術を使うのだ))
(よし…!)
「ニキちゃん、ここで少しの間待っててくれるかな?」
「えっ?どうしたのリョーヘー」
頭の中で自分が速く動けるイメージを…
それが発動のトリガーになる。
(加速魔術!)
ーーーーーー
「貴様ら!どういうことだ!?何故裏切る!」
「けけっ!俺達を護衛として雇ってくれてありがとよ!
傭兵にも色んな奴が居るってことだ!」
「ヒヒッ、あんたみたいな世間知らずの金持ちを
人気の無い場所まで誘導したらこっちのもんよぉ…」
「けっ、金持ちのカモが釣れるいい方法だろぉ?
それに今回は金や物資だけじゃなく…」
戝の男は母と娘を舐め回すように見た。
「なんて連中なの…!恥を知りなさい!」
「ヒヒッこんな森の中誰も助けに来まちぇんよぉ〜?」ガシッ
「きゃぁ!?おとうさま!!おかあさまー!!」
「エミリア!貴様…娘を放せ!!」
「あぁ!エミリア!!」
「一度貴族の女とヤってみたかったんだぁ…!」 じゅる…
「ヒヒっ…それにこのガキ…こいつも売ったらいい金になるぞ」
「けけっ!そうだなぁ!おい!お前ら!
この男は手足を切り落とすだけにしろ!
こいつの目の前でヤってやるぜぇ!!」
「下衆供が…」
戝が振り返ると目の前に
片目が赫く光る銀髪の男が立っていた。
そして賊の顎の下には
「な!?なんだテメ…!」パァン!
ドサッ…
二つの破裂音が重なる。
剣で斬り掛かる暇も無く
脳天を撃ち抜かれた男は倒れた。
「ボス!?」
「はっ?こいつ!?いつの間にそこに!?」
「…今すぐその子を離して失せろ。
今なら見逃してやる…」
「ヒッ!ほざいてんじゃねぇボケが!お前らこいつを!!
え…!?ガ、ガキが居ない…!?」
「お嬢ちゃん、ケガは無いかい?」
少女は良平の腕に抱かれていた。
良平は加速魔術を駆使して救出したのだ。
「えっ?あ…は、はい」
「良かった。少しの間目を閉じててくれるかな?」
少女は黙って頷いた。
「この野郎!!死ねやー!!」
(…魔糸切断)ピッ!
良平が人差し指を横に薙ぐと、襲いかかってきた全員の戝は
首や胴を鎧ごと瞬断した。
「が…っ」
「なにが…」
「…ヘルフレイム」
ヴェルトロの毛(魔糸)は戝の命を一瞬で断ち、
ヴェルトロの炎は賊のだったものを一瞬で灰と化す。
「な、なんと…今のは魔法…なのか…?
ハッ!?エミリア!!」
一瞬の出来事に呆気にとられていた父親が言葉を漏らした。
俺は少女を母親に渡した。
「あぁ…エミリア…」
(…この世界でもあんな連中の相手か)
((しかしこの家族の悲劇は回避出来たのだ。
不本意だろうが今はそれで納得するのだ))
「…あ、有難う御座います!
貴方様のお蔭で!我ら家族は…助かりました!
本当に…!うぅ…。」
「助けて下さり心より…感謝致します。
貴方様が居なければどうなっていた事か…
娘も大事無く、本当になんて御礼を申し上げたら良いか…」
両親達は深々と頭を下げた。
「そ、そうだ!是非御礼を致したい!」
「い、いえ、結構ですよ。
それにたまたま近くを通り掛かっただけなので…」
「そんな事仰らず…。
これ、エミリア!恩人のお方に御礼を言いなさい!」
ぼーー…
「…あっ!あのっ…あ…」////
俺の顔を眺めていた少女は顔を真っ赤にして
下を向いてしまった。
「フフ、気にしてませんから。
お嬢ちゃん、大丈夫だったかい?
もう心配いらないからね?」
優しく頭を撫でた。
「〜〜〜〜っ!」////
「もう、この子ってばこんなに照れちゃって」クスッ
「…あ!申し遅れました…私、ウィンチェスター家の当主
ハートランドと申します!こちらが妻の」
「ルマリア・ウィンチェスターと申します。
この子は娘の…ほら、ご挨拶は?」
(当主…どうやらこの家族は貴族のようだ)
「…エっ、エミリア…ですっ
たすけてくれてっありがとごさいましたっ!」///
赤面してるエミリアちゃんはスカートの裾を握りしめ、
勢いよく頭を下げるのを見た俺の頬は少し緩んだ。
「俺は堺良平と申します。
すみません、近くに相棒を待たせてますので
話の続きはそこで」
~~~~~~~~~~
「あっ!リョーヘーおかえり!急にすごい速さで
どこか行っちゃったからびっくりしたよ?
それで…その人達は?」
「ごめんねニキちゃん。実はこの人達が賊に襲われていたから
助けに行ってたんだ。」
「むー…リョーヘー…」
「?」
「あぶない事しに行くならあたしにちゃんと言って!
もし…もしリョーヘーに何かあったら…」ぽろぽろ
「あ…ご、ごめん…
俺も…ニキちゃんを危険な目に合わせたくなくって…」
「…ごめんなさいねお嬢さん…
私達のせいで良平様を危ない目に合わせてしまって…」
ルマリアさんがニキちゃんの手をそっと握った。
(あら…この子…)
「…私はルマリアです。夫のハートランドと娘のエミリア共に
良平さんに助けて頂きました。
本当に感謝してます。」
ルマリアさんは深々と頭を下げると
ハートランドさんとエミリアちゃんも続いて
ニキちゃんに頭を下げた。
「心配を掛けさせてしまい、申し訳ないお嬢さん…
私はハートランドと申します。
どうか良平様を許して頂きたいのです。
良平様が助けて下さらなければ妻や娘が…」
「おねえちゃん…ごめんなさい…」
(この家族…魔族のニキちゃんにまで
丁寧に頭を下げてくれるなんて…)
「んっ!?だっ大丈夫だよっですっ!
みんな無事でよかったぞ!」ニコッ
グゥゥ…
「あっ!おなかなっちゃった…」
「フフ、そういえばお昼の時間か
ウィンチェスターさん達も良ければお昼ご飯ご一緒しませんか?
色々ありましたけど、今は何か食べて元気をつけましょう」
「そうだねたべよっ!リョーヘーのごはんはおいしいんだよ!」
「い、いえ!これ以上ご迷惑をお掛けしては」グゥ…
「あらあら」
「おとうさま…わたしもおなかすいてる…」
「むむ…それではお言葉に甘えてもよろしいでしょうか…?」
「ええ喜んで」
これがウィンチェスターさん一家との出会いだった。