第2話 異世界へ
話は4年前に遡る。
東京某所深夜
「さて、仕込みはこれくらいにしてそろそろ帰るか」
明日は念願の開店日だ。店を出てカギをかけ、看板を眺める。
「いよいよ明日からだ。ちゃんとお客さん来てくれるといいな」
様々な期待と不安があったが今は明日に備え家路へ向かう。
(…寝る前だが小腹がすいたなコンビニに寄っておにぎりでも買って帰るか)
「ありがとうございましたー」
ブロロロロロ……
会計を済ませ出口に足を向けようとした瞬間だった
ブォォォォーーーー!!ガッシャーン!!!!!
コンビニに車が猛スピードで突っ込んできた
(…っな!?なんで車が?いやまずい!避けなければ…!)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――――――――ブハッ!!」
「…い、生きてる…のか?」
「んにゃ、死んでるよー?」
真っ白の景色の中、声の主の方を見る。
そこには椅子に座った若いギャル?が自分を見下ろしていた
「おっ、結構なイケおじじゃーん♡」
「えーと何から説明すっかなー、んー…端的に言ってキミは不運にも死にました。
ここはキミらがあの世って呼んでる所かしら?
んで、あーしはキミらみたいな死に方をした人間を救済する女神さまってコト。
あ!名前はスペクトラって言うの!よろしくね♡」
(……理解が追い付かん。)
「…ちょっと待て!死んだ?俺が?き、今日は店を出す日なのに…」
たしか俺はコンビニに寄って会計を済ませた後…そうだ、車がコンビニに突っ込んできて…
「思い出せた?まー気の毒だと思うゎ
聞いてなかったと思うけど、あーしは救済の女神スペクトラね。これからのキミについてちょっとお話しよっか?」
テーブルともう一つの椅子が目の前に現れ、しぶしぶ席についた。
女神の目の前に映像が浮かび上がる。どうやら俺の情報を見ているようだ。
「…救済の女神ということは、俺は生き返ることが出来るのでしょうか?」
「残念だけどそれはムリ。キミらの世界では死人は生き返らないからねー。
んで、キミはこれから別次元の世界へ送られて新しい人生をって……ぷっ」
「?」
「ぷははっ!えー!?マジウケるっ!どどど童貞って…!こ、この見た目で…!なにそのギャップ!?クク…っ」
「」
「あーごめんごめん!お詫びにあーしの足見せてあげるから機嫌直して!好きなんでしょー?あし♡」
ギャル女神がテーブルに生足を乗っけて艶めかしい視線を送ってきた。本当に女神なのか?こいつ
「そそそういうプライベートな情報は見ないかスルーしてくれ…」
「えー?ぶっちゃけ良平くんあーし好みのいい男なんだもん?
ねねっあーしで卒業…してみる?♡」
顔が真っ赤になって顔を伏せた。
「…そういう冗談はいいんでこれからの事を教えてください…」
「顔に似合わずウブね♡所もかーいーわぁ♡
…んじゃま、良平くん。キミは別世界へ転生するのと同時に生き抜くための特殊スキルが授けられます。」
「スキル…ですか?」
「まあまあ過酷な世界って言えばいいかな?あるのと無いのだと生存に関わるからそういう概念の世界から送られる人には必要なのよ救済措置ってやつ?」
(アニメとかで見たようなスキルってことか…?特殊ってことはチート系?
もう死んだってことならしょうがない、切り替えるしかないな…)
女神は足指をうねうねさせながら俺を見つめていた。
「あの…スキルは選べたり出来るんですか?」
「選ばせてあげたいけど特殊で特別なスキルだからランダムになっちゃうかな~」
(…なるほど。出来れば凄いのが来てくれるといいけど…)
「そうですか…ではお願いします」
「了解~。それじゃあ…」
椅子から立ち上がった女神は俺の頭に手を伸ばした。
「「神域に至りし者の魂よ…救済の女神スペクトラの名においてこの者の魂に力を与えたまえ……」」
白い光がブワァァっ身体から溢れ出しあまりの眩しさに思わず目を閉じた。
――そうか…君が僕の――
頭の中で何か聞こえた気がした。
「ん…今何か…? お、終わりましたか?」
女神スペクトラの表情は固まっていた。
「マジか……あ。うん!終わったよ!えーっとスキルなんだけど…そう!”記憶生成”ね!」
「記憶生成?」
「君の記憶の物体を魔力を消費して生成するスキルよ!めちゃくちゃ凄いわね!」
「記憶から?それってかなり凄いスキルだ… た、試してみても?」
「おっけーよ。あ、お腹空いてるから何か食べ物出してくれる?」
両手を器に見立て目を閉じ思い浮かべる…
(食べ物…女神様相手に何を出すべきか…なるべく手の込んだ感じ…女の子ならスイーツで…)
目を開くと手にはチョコの黒さとオレンジのコントラストが鮮やかな菓子
オランジェットが生成されていた。
「成功…してる…」
「えー!なにこれ綺麗!?超映えてる!お菓子かしら?」
「ええ、これはフランス…俺の居た世界の地方にあるお菓子でオランジェットと言います。
工程は省きますが大まかに言うとオレンジを皮ごと砂糖で煮込んだ物を乾燥させてチョコレートでコーティングしたお菓子です。」
オランジェットとはフランスの菓子である。
輪切りにしただけのオレンジにチョコをかけただけの単純に見える菓子だが、
透明感のあるオレンジを作る場合、下ごしらえにかなり時間をかけなければいけない
奥深く高級な菓子だ。作り方は本場のフランスに居た時に覚えた。
「へー☆オレンジが透き通ってて超綺麗ね!いただきます」
パクっ
「んん~~~~!めちゃくちゃオレンジが甘くて不思議な食感!皮があるのが風味にもなってる!
そしてチョコ?の優しい苦みがとてつもなく合う~~~♡もっとちょうだい!」
「喜んで貰えたようで」
紅茶も生成して軽いお茶会になりつつ…
(このぶんなら銃とかも生成出来そうだな…もし危なくなってもなんとかなりそうだ)
「ふー、おいしかったぁ♡ イケメンで料理出来るとかマジで優良物件ね♡
気分がいいからおまけでアイテムボックスのスキルと歳も18くらいに若返らせてあげる!」パチンっ
女神が指を鳴らし俺の身体が光りだし…そして光が消えると身体が軽くなるのを感じた。
「これは…あ、肩こりも消えてる!?女神様ありがとうございます!」(ぺこり)
「やっべー…若くなって益々いいカンジになってんじゃん…マジ好みだし…ねね?アッチも卒業しとく?♡」
「…恐れ多いので遠慮させて頂きます…」
「んーいけずっ!あっ、目も治してあげたいけどこれ以上サービスしたら怒られちゃいそうだからごめんね?おっと、そろそろ時間かぁ。名残惜しいけど新しい世界でも頑張ってねっ!応援してるから!」
「いえいえ十分ですよ。女神様、本当にありがとうございました!」(ぺこり)
俺の身体から粒子がこぼれ出し肉体が薄くなっていった
「あ、転送先はランダムだからもし危険な場所だったらすぐに逃げるのよー?それと記憶生成で悪用とかしないようにね!特にお金とか!」
「ええ、心得てるつもりです!お世話になりました!」シュゥゥゥゥ…
手を振り見送ったスペクトラは良平の立っていた場所を見つめていた。
「良平くんかぁ… まさかあの魂が応えてくれるとはねー…記憶生成なんて名付けちゃったけど本当の効果は…
まぁ、彼なら大丈夫ってコトかしら?さーて、次の魂は…」
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気が付くと辺りは真っ暗だった。
(暗い…夜なのか?先に安全の確保だ!フラッシュライトを!)
フラッシュライトを思い浮かべると右手が光り、
手にはフラッシュライトが握られていた。すかさずスイッチを入れ辺りを照らす。
「…石で出来た廊下?遮蔽物は…無し」
長い石の廊下だった。
「なんだここ?どこかの地下?生物らしい物は…見当たらないが」
危険に念を入れ使い慣れた銃を思い浮かべる。
「よし、グロックだ。記憶生成…本当に便利なスキルだな。さて、状況の把握と安全を確保出来る場所を探さねば…」
フラッシュライトを銃に装着し、構えながら道を進む。
廊下は迷路のようになっており、歩いても歩いても同じような景色しかなかった。
「迷路かここは?まさかゲームとかにあるダンジョンってやつか?まずいな、
危険度が高そうな場所に転移してしまったとは…」
女神が言ったランダムな場所がよりにもよってダンジョンだった…
開店前日に死んだ自分の運の無さを改めて実感する。
(銃を握ってるとはいえどんなモンスターがいるかさえも判らない…
ともかく今は休めそうな場所を…)
歩いても歩いても何もない…
幸いモンスターらしきものには出くわさなかったが、冒険者と思われる骨が所々に落ちていた。
暗闇を一人で彷徨う孤独感と危険にも気を使っていた為、余計に疲労が蓄積してく。
壁に寄りかかりその場に座った。
「何時間歩いた…?本当に何もない…このまま脱出出来ずに終わるのか?いや、俺には記憶生成がある。
こんな所で終われん…とりあえず飯を食おう」
今一番食べたいものを思い浮かべる。
(やはりカレーだな。元気が無い時はいつもこれに助けられてきたんだ…)
俺は孤児だった。
物心ついた時には孤児院に居た為、親の記憶は無くその事で学校でいじめられる事が多かった。
(いじめられて帰ってきた時も寮母さんが励ましてくれて…作ってくれたカレーも美味かったなぁ)
両手の上に幼き頃に食べた記憶のカレーが生成された。
「ハムッ!ハフッハフ!」
思い出の味を夢中でかっ喰らう。
「………」
涙がスーッと零れた。
店に出てくるような上等なカレーではない。しかし幼き自分を支えてくれた味が
思わぬ形で再現され、思い出と幸腹感で心が満たされた。
「…こんなに美味かったっけ…?あのカレー…」
俺は同じカレーを3杯腹に収めた。
「…元気が出てきたし探索を続けるか。そういえばゲームみたいに今の状態が分かったりしないのかな?」
そう考えると目の前に画面が浮かび上がった。
「これは…ゲームとかにあるステータス画面?何々…堺良平レベル1…」
ステータス画面
――――――――――――――――
堺良平 LV1
HP:300/300
MP:20/150
力:55
素早さ:60
運:7
能力:---------/アイテムボックス(エピックスキル)/
射撃技術LV5(コモンスキル)/対人戦闘LV4(コモンスキル)/調理師LV5(レアスキル)/
魅了LV2(エピックスキル)/精神耐性LV4(レアスキル)
ステータス異常:無し
――――――――――――――――
「なるほど、これが今の俺の状態か。意外とスキル多く持ってたんだな。文字化けしてる箇所は記憶生成スキルか?特別って言ってたしこういうのに反映されないのかな?
しかしこの数値はこの世界の平均値を知らないから高いのか低いのか判断に困るな…まぁ運が低いってことだけは理解してる……」
「ん?MPの所が減ってる」
どうやら記憶生成を行うとMPが消費されるようだ。
(女神様の言ってた魔力ってやつがMPなのか…?しかしMPを回復させる手段はあるのか?無ければ詰みだぞ!? ……考えてもしょうがないか、もう少し休んで様子を見てみるか…)
長時間歩いて付近に危険が無い事もあり地面に横になり仮眠をとることにした。
(何もない地面で寝るのは久々だな…)
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神界 女神の部屋
救済の女神スペクトラは水たまりの画面から良平の様子を伺っていた。
「どどどどうしよう……良平くんの転移先…よりにもよってアイツの居る所じゃん…
クソデカ迷宮にその先でアイツが待ち構えてるとかどんだけ運が無いのよ…」
「物理的な介入はお偉い共に怒られるしどうしたら…」
「!」
「ふふーっ閃いた!良平くんにあーしの加護を授けてあげればかなりマシな感じになるかも!よーし」
女神は水たまりに映る良平にキスをした。
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2時間位だろうか、良平が目を覚ました。
「さて、これで回復してなかったら本当に詰みだ…ステータス画面!」
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堺良平 LV1
HP:300/300
MP:50/150
力:55
素早さ:60
運:-
能力:---------/アイテムボックス(エピックスキル)/
射撃技術LV5(コモンスキル)/対人戦闘LV4(コモンスキル)/調理師LV5(レアスキル)/
魅了LV2(エピックスキル)/精神耐性LV4(レアスキル)/スペクトラの加護(???)
ステータス異常:無し
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「よし。少しだが回復してる。30回復したってことは1時間に最大MPの十分の一ってことでいいのか? …ん?なんだこのスペクトラの加護?…って運の部分が文字化けしてる?
もしかして女神様が手を貸してくれたのか?」
「…ありがとう女神様。MPの回復手段が判って元気が出たぞ。さて出口を探すぞ」
良平はこの時2年以上このダンジョンを彷徨う事になるとは夢にも思わなかった。