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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第六十八話 城の中へ

1話飛ばしてしまったので66話の内容変更してます。

よろしくお願いいたします。

 こんなこともあろうかと、『摩耗耐性上昇』の特性を錬装した衣服のお陰で擦り切れて体中血塗れになることもなく、しかし今もまだ俺はくり抜かれた丸太の中を滑っていた。一丁前に階段なんか作りやがって、お陰様で段差の度に跳ねて体中の骨がバラッバラになりそうだ。


 しかも、こうして引き摺られている俺に気付いたリザードマン達が集まってきた。


 今ではもう大群が俺を捕まえようと必死になって後をついてきている。


「餌かっ、俺はっ……いてぇ!」


 曲がり角を抜け、坂道を登って下りて、段差で削られ、漸く剣撃音が聞こえてきた。俺の手首に絡み付いていた白影が解け、勢いのままに俺はゴロゴロと転がり、ヴィンセントの足元で停止した。


「来たな。さっさと立て、迎え撃つぞ」

「先にお前をぶっ殺してやる……」

「ウォルター、そっちは任せたよ! ハァァ!」


 ガタガタの体で何とか四つん這いになり、精一杯の恨みを込めてヴィンセントを指差しながらぶち殺し宣言をするが、チトセさんの指示が最優先だ。恨みつらみは一旦飲み込み、虚空の指輪(アカシックリング)からプリマヴィスタを取り出し、その場で地面に突き立てる。


「『生え裏返り続ける(ウッドスタック・)魔樹森林(フェスティバル)』」


 俺の流した魔力が深緑属性の魔法となり、トカゲの城を構成する巨大丸太を伝達すると丸太は形を変え、細い枝や太い木々が通路を埋め尽くす。其処を走っていたリザードマンはたまったものじゃない。抵抗むなしく巻き込まれ、悉くが圧殺された。


「やるじゃないか」

「此処は木の中だからな……無から生み出すよりも100倍マシだ」


 実際、竜教本部で行使した時は魔力がすっからかんになって死ぬかと思ったが、こうして喋る余裕があった。


 《適材適所(パーティーヘルパー)》として野良パーティーに参加してる時に、ある魔法使いに『木属性魔法は森林で使うと威力が上がる』と聞いたことがあるが、あれは恐らく俺に分かりやすく説明しただけで、実際には使用魔力が半減することで通常使う分の魔力を込めることで倍の威力が出せる、という意味だったのだろうな。


 まぁ俺は其処までの発想はなかったので、魔剣から伝わる感覚的に半分だけの魔力を使用して魔法を使わせてもらった。


「チトセさんを頼む」

「あぁ、すぐ終わらせてくるから座っとけ」


 言われんでも座るわ。はよ行けと手を振って追い払う。プリヴィスタを握り、雑に作った木製の椅子に座って魔力回復ポーションを飲む。もう本当に飲み飽きた。これ、錬装したら効果倍増とかしないのかな。


「……えっ、うわ、出来た!」


 まさかそんなと思いながらやってみたら出来てしまった。といっても、左手のポーションの表記には特に変わりはない。だが右手のポーションが消失していたのだ。これは錬装が成功したという証拠だ。


 試しに飲んでみると、心なしか効果が上がったように思う。思い込みじゃないと信じたいところだが……これを心の底から実感するにはポーションをもっと重ね掛けしていくしかない。

 早速俺はアカシックリングから取り出したポーションを一つずつ錬装していく。とりあえず10本、鈍感な俺でも流石に効果を実感出来るだろう。


「ん……うん、やっぱり錬装出来てる」


 1本の時より、2本分の時よりも目に見えて効果が実感できた。いつもは大量のポーションを飲んでたぷたぷのお腹を抱えながらじんわりと回復していく感覚を味わっていたが、今は飲んだそばから体中を魔力が巡っていくのを感じることが出来た。


 これは新たな小銭稼ぎの予感がする……とか言ってるが、錬装で商売をするつもりはないんだよなぁ。やれば儲かるのは目に見えているのだが、どうにもそれ以上の苦労の方が多そうで、結局俺は今のこの立場が一番安心できて居心地が良いという結論に戻ってきてしまうのだ。


「おい、終わったぞ。……何やってるんだ?」

「いつの間にかポーションの錬装が出来るようになってた。また職業としての経験値が上がったみたいだ」

「人が戦ってる最中にお前という奴は……」


 肩を竦めて呆れられているが、元はと言えば此奴の所為で俺が苦労しているんだが?


 今の立場が一番安心できて居心地が良いなんてのは嘘も甚だしかった。


「まぁ何にせよ無事に合流できたんだからいいじゃない。行けそう? ウォルター」

「えぇ、だいぶ回復しました。それで、状況は?」


 俺が氷凍蒼宮でリザードマンを一手に引き受けた後、巣に飛び込んだチトセさん達は片っ端からトカゲ共を切り倒しながら奥へ奥へと突き進んでいたらしい。勿論、そんな適当な突入だから討ち漏らしも多く、それが俺を追い掛けてきたという訳だ。


 しかし全部が全部間違いではなかったようで、どうやらこの先が巣の最深部、ボス部屋の区域のようだった。その根拠は守りの頑丈さと、巣の完成度だとチトセさんは言う。


「他に比べて床が研磨されてたりしてて居心地の良さを工夫してるのが見て取れるんだよ。自分達はくり抜いた穴みたいな場所で暮らしてるのに。だから多分この先、そう遠くない場所にリザードマンの親分が居るはずだよ」

「なるほど……じゃあ早速行きましょうか。俺がサンドリヨンで動きを鈍らせます。チトセさんとヴィンセントはさっさと始末してください」

「了解だ」

「りょーかい!」


 トカゲ相手ならこの作戦が一番楽で確実だ。特性と違って習性は変えようがないのだから、明確な弱点となる。絶対的な弱点がある敵は、徹底的に弱点を狙う。これが冒険者の鉄則である。


 まぁ何はともあれ、合流できた俺達は並んで先へと進む。途中で襲ってくるリザードマンも居たが、残念ながら俺達には敵わない。このダンジョンは規模で言えば最難関に等しいものだが、モンスターの個々の能力はずば抜けて高いものではなかった。


 思えばヴィスタニアでの最難関ダンジョン『黒牢街(こくろうがい)ヘイル・ゲラート』ではシャドウという精神的に戦いにくい相手が居たが、町自体は単純なものだった。


 此処は逆に、モンスター自体は障害にもならないが、とにかく数が多いのと、巣の地形が複雑すぎて攻略難易度が跳ね上がっていた。俺だってヴィンセントに引き摺られて此処までやってきたが、じゃあ今から帰れと言われたら一生外には出られないだろう。


 単純にモンスターが強いとか、ダンジョンが複雑という分かりやすい尺度で難易度が設けられているのは非常にありがたい。


 だが、今後向かう町がヴィスタニアやケインゴルスクのように分かりやすい町という保障はない。たまたまこうして突き進んだ先がボス部屋付近だったから良かったものの、今後はこういうまぐれに期待は出来ないだろう。


「もっともっと、経験値を稼がないとな……」

「ん? 何か言った?」

「や、何でもないです」


 此方へ振り返るチトセさんに曖昧な笑みを浮かべて受け流す。首を傾げたチトセさんだったが、すぐに前へ向き直ってくれた。


 俺も、不本意ながらサポートとして《適材適所(パーティーヘルパー)》と呼ばれた男だ。今後は、きっちり二人をサポート出来るように訓練しなければな……と、俺は二人の背中を見つめながら、心の中で改めて思った。

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