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第六十七話 氷宮の王

「んぐっ、んっ、ごくっ!」


 必死こいて魔力回復ポーションを飲み干す。これで10本目だ。流石にお腹がたぷたぷになってきた。まぁ、すぐ消化されるのだが。


「う、おぇ……あー、効いてきた効いてきた……」


 二日酔いのような頭痛が薄れてきた。魔力が回復していく感覚は本当に慣れない。気持ち悪い。魔法使いの皆さんは立派である。


 玉座でぐったりしていた俺が漸く普通に座れるようになった頃、宮殿に駆け足で飛び込んでくる気配を察知した。その後、バタバタと大量の気配がなだれ込んでくる。


 最初に謁見の間に駆け込んできたのはチトセさんとヴィンセントだった。


「すぐ来るよ!」

「左右に別れてください、隠します!」


 入口を挟んで左右の壁際に寄ってもらい『霧氷操作』を使って氷の壁を作り、2人を隠す。それと同時に大量のリザードマンが駆け込んできた。何処から調達してきたのか、革鎧を身に付けたモンスター達は先程まで追っていた二人を見失い、キョロキョロと辺りを探す。

 やがてその視線は俺へと収束していった。視界に入る人間は俺しか居ないから、当然だろう。


 俺はリザードマン達に精一杯、この宮殿の王を演じた。


「ようこそ、二足歩行爬虫類共」

「ギャアッ! ギャアッ!」

「此処がお前達の、種族の死に場所だ」


 喧嘩を売られているのは理解出来るようで、偉そうにふんぞり返って座る俺を見て、手にした剣と盾を打ち鳴らして仲間全体を鼓舞し合っている。


 お陰様で俺に注意が向き、ゆっくりと間合いを詰めてきたところでチトセさん達を隠していた氷を溶かす。二の腕を擦って寒そうなチトセさんとちょっと睫毛が凍ったヴィンセントがそそくさと出ていく。


 出入口でチトセさんが俺に振り返る。心配そうな顔に俺はこくん、と頷いて出ていくように視線で促した。


 最後まで心配そうにしていたが、ヴィンセントに腕を掴まれてそのまま出ていった。遅れてきたリザードマンを殺しながら出ていくのを見送り、扉を閉ざした。当然、出口を塞がれリザードマンは混乱する。だがそれも今だけだ。すぐに静かになる。


 そして、何処からともなく流れ込んできた特製の霧がリザードマン達の足元に立ち込める。ただの霧ではなく、相手の体温を奪う特殊な低温の霧だ。この霧は積極的に相手の体温を奪っていくので、ただの霧だと油断しているとあっという間に凍えてしまう。


「さぁ、冷えてくるぞ」


 俺は玉座に座ったまま、ジッとリザードマン達を観察する。一向に動かない俺に、逆に警戒心が働いたのか奴等は階段を登ってはこない。だがそれが悪手だった。階下に充満する霧は着実に、迅速に、リザードマン達の体温を奪った。


「ギュ、ギュア……」


 1匹、また1匹と膝をつく。それでも体を支えられず、霧の中に倒れる者も居た。そうなればより一層、体温が下がっていった。やがて全てのリザードマンが床に転がった所で、狙いを定め、『霧氷操作』の力で地面から氷の槍を生み出す。


「貫け」


 魔力を込めた左手を一斉に突き出た氷槍はリザードマンの頭を突き穿つ。塵となり、消えた後に残ったのは魂石だけだった。


「ふぅ……っ、いったたた……」


 勝負はさっさと終わらせるに限る。でないとこうしてまた頭痛に襲われるのだから。



  □   □   □   □



 締まらない終わり方をした後は王様を引退し、サポートへと復帰した俺は再び回復ポーションを飲み干してから転がっている魂石を全部回収し、氷凍蒼宮を解除した。


「ふぅー……さてと、応援しに行くかぁ」


 灰雪となり散っていくのを見送ってから俺はリザードマンの拠点へ向けて走った。道中に転がる魂石から、激しい戦闘があったのが見て取れる。行きの戦闘か帰りの戦闘かはわからないが、怪我してないといいが……。


 複数の宝箱を発見し、相当な資金を手にしたが根っからの貧乏性が抜けない俺は目についた魂石を必ず拾いながら歩く。目に入ってしまうとどうしても拾わないと気が済まない自分が嫌になるが、こうした作業も資金を増やすことに繋がるのでやめられなかった。


「ん……」


 作業中の俺の耳に物音が伝わる。石が転がる音だった。俺はそっと音の方を伺うと、其処には数匹のリザードマンがうずくまっているように見えた。塵になっていないということは、生きてるってことだ。


 そっとサンドリヨンを構えながら様子を伺う。怪我でもしてるのか、何か企んでるのか……。


「……ッ!?」


 その時、背後で小さな音がした。振り向くと其処には大鉈を振り上げたリザードマンが、今にもそれを振り下ろそうとしていた。


「うわぁっ!?」


 慌てて前へ転がり込むことでギリギリ回避することには成功した。だが、起き上がる頃には周囲をリザードマンに囲まれていた。其処には先程までうずくまっていたリザードマンも加わっている。怪我もなくピンピンしていた。どうやら、後者だったようだ。


「トカゲの癖に生意気な……それで俺を殺せると思うなよ!」


 俺だって戦える。これくらい訳ない。だたちょっと忙しいだけの戦闘ってだけだ。まずは正面のリザードマンにサンドリヨンで斬りかかる。盾で防がれるが、サンドリヨンの魔剣の力で盾から腕までが凍り付く。其処に蹴りを入れれば、砕けてよろける。


 それを見たリザードマンは後ずさりをした。思っていたよりも馬鹿ではないようだ。だがこういう時は攻めの姿勢が大事だ。勢いがある時こそ、勢いに乗るのが戦いのコツだ。


 斬って殺し、凍らせて殺し、防いで殺し。一方的ともいえる攻勢のお陰で、俺を囲っていたリザードマンは無事に魂石となり地面へ転がった。


「ふぅ……俺はサポートなんだから、疲れるようなことはしたくないんだよな」


 俺には魂石拾いがお似合いなのだ。しかし何だかんだ言って勝てるのだから、俺もなかなかやる方だと思う。


「いやいや、自惚れたら其処でおしまいだぞ。自戒自戒!」


 パシパシと頬を叩き、気合いを入れ直す。これからも戦闘があるのだから、頑張らないとな。一先ず俺は疲れた体を癒す為、消費した魔力を回復させる為に飲み飽きたポーションを一気飲みするのだった。




 しかしまぁ、お陰様で相当な時間を食ってしまったが、なんとか城まで辿り着くことが出来た。


「凄いな……」


 城を見た感想だった。ある種の人間に言わせれば、『これは芸術だ!』と騒ぎそうな、そんな見た目の建築物が眼前に組み上がっていた。


 芸術の分からない俺には違法建築としか思えない、どう組んだのかも分からない巨大な丸太の積み木のような物にしか見えなかった。これが城か?


 だが見様によっては城と言えなくもない。いや、巣であることは確かだ。ところどころ空いた穴は出入口とも言えるし、その妙な隙間は侵入を防ぐ為と言われれば納得も出来る。


 これを見て攻め込もうとは到底思えない辺り、城としては優秀だった。


「入りたくないな……」


 城を見た2番目の感想だった。絶対に迷子になるし、絶対に挟み撃ちになるし、絶対に最後は壊しながら進むことになる。俺には分かるんだ。絶対にそうなる。だから入りたくなかった。


 しかしどうしたものか……中にはチトセさん達が居るから応援には行かなきゃいけないが、辿り着けないと意味がない。


 と、腕を組んで悩んでいると、うねうねと何かが動いているのが視界の端で見えた。影になっていてよく見えなくて切り離されたトカゲの尻尾かとも思ったが、モンスターのものなら塵に変わるはずだ。俺は剣を手にしながらそっと近寄ると、それは白い紐のようなものだった。


「あぁ……ははっ、本当にお前は凄い奴だよ、ヴィンセント」


 紐に見えたそれはヴィンセントの白影だった。紐状に伸ばされた白影は文字の形を成し、『こっちだウォルターついてこい』と書かれていた。自分が迷わない為、俺を辿り着かせる為、彼奴はずっとこれを伸ばしながら奥へと進んでいるのだ。


 これを維持するのにどれだけの力を使っているのか……嬉しくなった俺は、感謝の意を込めて白影を掴み、クイクイと引っ張った。


「は?」


 すると白影は突然、俺の手首に巻き付く。嫌な想像をした俺は咄嗟に入口の木の角を掴む。だが白影はあっさりと、俺を木から引き剥がした。


 そして俺の想像通りの展開となった。


「あああああああヴィンセントおおおおおおおおおおお!!!!」


 白影は俺を思いっきり引っ張っていく。抵抗むなしく、ヴィンセントのご厚意で俺は地面を引き摺られ、トカゲの城を突き進むのだった。

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