第六十六話 城には城を
1話飛ばして更新していたので内容を変更しました。
申し訳ないです。
哨戒していたリザードマンをやりすごした俺達は暫くその場に留まり、次のリザードマン達が来ないかを確かめていた。しかし待てど暮らせど次のリザードマンは来ない。実はあれはただ固まって動いていただけなのかもしれない……そう思い始めた時、漸く次のリザードマンがやってきた。
「間隔が長すぎる……」
2回目の哨戒班をやりすごして最初にチトセさんがもらしたぼやきに俺とヴィンセントは頷き合った。こんなに長いと哨戒の意味がない。侵入できる隙が多いってことだし。
なんて思ってたら間を置かずに3回目のリザードマン達がやってきて俺達は揃って頭を抱えた。
「駄目だ、彼奴等に間隔とかそういうのないんだ、これ」
「頭が悪過ぎる」
「逆にきつい」
敵が来るかもしれないから見回りをしよう! くらいの知能しかないことが判明してしまった。だがバラッバラの間隔でウロつかれると攻める側は逆に困るから、もしかしたら本当は頭が良いのかもしれない。これが最難関ダンジョンと言われる所以だろうか。
これじゃあどうしようもないが、此処に留まると見つかる可能性もあるということで、一旦洞窟のところまで退避することにした俺達は、戻りながら城攻めの作戦を立てる。
「ていうか城なんてあるんですか?」
「あるらしいよ。聞いた話だけどね、木造の城があるらしい」
「木造か。良かったな」
ヴィンセントの言葉に首を傾げる。
「何が良いんだ?」
「チトセの赫炎で全部燃やせば終わりだろう」
「終わってるのはお前の発想だよ。あたしに何させようとしてんだ」
げしげしとヴィンセントのふくらはぎをチトセさんが蹴る隣で俺は城を燃やした場合のことを考えてみた。
まぁ間違いなくえぐい燃え方をするだろう。熱に強いと言われるリザードマンも流石に焼け死ぬだろう。そして死ななければ逃げ出す。
何処へ?
勿論、火の手のない所。外だ。
ケインゴルスクにリザードマンが逃げ込んでくるだろう。今は人が少ないあの町に大量のモンスターが流れ込んでくる……痛手だ。まぁ竜教本部には人が集まってるから、多少の被害は出るが鎮圧は可能だろう。
その際の俺達の扱いはとても酷いものになるだろう。ギルドが入場を制限しているダンジョンに自己責任で入り、大量のモンスターを町へ投入する原因を作ったのだから、ギルドは俺達を庇わない。今は無関係なのだから、わざわざそんな犯罪者を庇うなんてことは絶対にしないだろう。むしろ裁く側だ。
となれば俺達はまぁ、良くて禁錮数十年か、悪くて奴隷堕ちだな。犯罪奴隷として何処かの鉱山送りにされるか、かつてのヴィンセントのように誰かの奴隷となって戦わされるか、或いは……。
考えたくもないな。うん、燃やすのは無しだ。絶対に。
「まぁ、燃やす以外の方向で考えよう」
「当たり前だよ!」
入口まで戻ってきた俺達は改めてどう動くか作戦を立てる。
「しかし少数で多数と戦うのであればやはり隠密行動しかないんじゃないか?」
「ってなると、結局これ頼りになっちゃうか」
虚空の指輪から取り出したのは最近お世話になりっぱなしの魔道具、『隠遁の腕輪』だ。その場で腕に嵌めて消えたり現れたりを繰り返す。
「いや、それ多分意味ないよ」
「えっ? 何でですか?」
「リザードマンってね、体温が見えるんだよ」
「……?」
「ちょっと難しいよね。説明すると……」
チトセさんの説明によると、リザードマンの中には相手の姿を体温として認識できる機能を持つ個体が存在するそうだ。姿を隠したとしても、俺達には体温というものが絶対に存在し、それは遮蔽物でしか隠せないので姿を隠しただけじゃあっけなくバレてしまうのだそうだ。
体温を上げても下げても、なくなることはない。なら、どうするのか。
「本当の隠密をしないといけないね。道具に頼ることなく、本気で隠れながら移動する。一切の存在を感知されることなく、ね」
「俺達にそんな技術ないですよ。どうするんです?」
「……まぁ、何とかなるよ!」
結局作戦らしい作戦がなかった。頭を抱えた俺とヴィンセントは必死で思考を加速させて、何とかこの無茶な作戦とも呼べない素人大突撃を阻止しなければと作戦を立てた。
そして1つ考えたのが、目には目を、城には城を作戦だ。
「俺、聞いたことがあるんですけど、リザードマンは急激な寒さに弱いそうです」
「変温動物だからね。高温にはある程度の耐性はあるけれど、低温にはめっぽう弱いよ」
「えぇ。其処で此奴の出番です」
アカシックリングから取り出したのは『灰雪ノ剣 サンドリヨン』だ。
「チトセさんとヴィンセントに渡していた『魔力上昇』の指輪も合わせて、『氷凍蒼宮』を使ってあの時のような大宮殿を生成します。で、ポーションがぶ飲みで魔力を回復させてから『霧氷創造』で閉じ込めるか、戦います。その間にチトセさんとヴィンセントは城攻めを」
「それは流石に無茶じゃない?」
「低温で動きが鈍くなった相手であれば、簡単に動きを封じることは可能だと考えています。危なくなったら逃げればいいだけですし」
「まぁそれもそうだ」
作戦は決まった。無茶隠密突撃がなくなったことで安心だ。俺の作戦の方がまだ勝ち筋が見えるだろう。
チトセさんとヴィンセントから『魔力上昇』の指輪を預かり、空いている指に付けていく。ついでに作りかけだった腕輪も取り出し身に付けていく。これも『魔力上昇』の特性が錬装されている。といっても能力限界の30回に満たない微錬装品だ。だが微上昇でも上昇、力になってくれるはずだ。
1本の指に2つ付けたりしながらなんとか全部の魔道具を装備することができた。腕が重い……。
「なんか、凄いね」
「これでなんとか戦えそうです」
二人には城で暴れてもらい、俺が居る場所、氷凍蒼宮の謁見の間まで誘い出してもらう。その後は俺が氷凍蒼宮で閉じ込めて、二人には無人、或いは少数が残る城を落としてもらう。終わったら此処まで来てもらうしかないが、それくらいは頼んでも罰は当たらないだろう。
「じゃあ行ってくる。後は任せたぞ」
「うん、気を付けて」
二人が城の方へと向かっていくのを見届ける。暫くしてギャアギャアとリザードマンが鳴く声が聞こえてきた。運良く哨戒班に遭遇したらしい。あんなバラバラの時間の哨戒、やっぱり無理があるよな……。
「さて、やるか」
サンドリヨンを取り出し、地面へ突き立てる。岩の地面だがさっくりと突き刺さる切れ味に少し驚く。魔法戦闘用と思っていたが、剣としても優秀なようだ。流石は魔剣、か。
柄を握り、其処からどんどん魔力を注いでいく。やがて刃に霜が降りる。それはすぐに氷となり、ミシミシ、と鳴りながら刃を白く染めていく。その冷気にともない、空気が冷え、白い靄のように周囲へ広がっていく。
リザードマン達の声が大きくなってきた。チトセさん達、楽しそうに暴れてるんだろうな。でも敵の数が多過ぎる。怪我しない内に早めに帰ってきてほしいが……。
「ん……こっちに来てるな」
足音が聞こえてくる。まるで地響きのような、大群の足音だ。
さて、トカゲ共を驚かせてやるとしよう。
「『氷凍蒼宮』」
剣に内包された魔力を解き放つ。俺を中心に地面が凍り付き、広がっていく。それはやがて上へ伸びる氷柱のように形を変え、幾つも重なり、飲み込み合いながら壁となり、屋根となり、俺を包み込んでいく。
連なる柱や氷の窓を眺めていると、地面が盛り上がり、階段が作られていく。そして最後に氷の玉座が作られて氷凍蒼宮は完成する。
白い息を吐きながら俺は昨晩、寝る前に改良した防寒の魔道具を起動させる。これで俺だけは寒さにやられることなく此処に居続けられる。トカゲには真似できない人の知恵である。
「後は待つだけか」
玉座に腰を掛け、傍らに剣を置く。宮殿の中に居るから外の音は少し聞こえにくくなったが、それ程待つことはなさそうだった。
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