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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第五十七話 宝箱の使い道

 このごたごたの所為ですっかり忘れてしまっていた宝箱である3つの革袋を目の前にし、俺達は輪になって座っている。


 此処は花の都『ラ・バーナ・エスタ』。かつての領主館跡だ。その一角にある大広間の中心で、俺達は1人1つ、順番に手を突っ込んで宝箱の中身を検めていた。


「おぉ! なんかエグい剣出てきたよ!?」

「えっ、ノコギリ……?」

「何用の剣なんだ……」


 こんな風に楽しみながら開封している。勿論、ブルーへの感謝も忘れずに。


 チトセさんに思い出させてもらった後、一度部屋に戻った俺達は休憩を挟んでから俺の部屋に集合し、宝箱開封会を始めた。出てくる物に一喜一憂しながら、ワイワイとはしゃぐチトセさんやヴィンセントを見るのは新鮮で楽しい。


 しかし俺の求める魔剣の類は一向に現れなかった。ブルーがくれた宝箱だからきっと……なんて期待し過ぎていたのだろうか。いや、諦めるにはまだ早い。触れた感じだとまだまだ宝箱の中身は半分以上残ってる。ヴィスタニアではアナザーダンジョンという形で出現したが、此処もそうとは限らない。直に入ってくれていたら有難いのだが……。




「これで最後、かな。あとは金貨だけっぽいねー」

「魔剣、入ってなかったな」

「うーん……」


 残念でしたの一言では諦めきれない。何とかならないものか。


 勿論、ダンジョンはまだまだある。今後、別の宝箱が見つかる可能性も無きにしも非ず、だ。まぁ、元々宝箱に遭遇出来る確率が物凄く低いから感覚がおかしくなってるのは言われれば確かにって感じだが実際に俺達は複数の宝箱に出会っている。魔剣運はなくても宝箱運はあるのだ。


「まぁ、地道に探しましょう。それよりも優先したいことが」

「何?」

「この宝箱の使い道です」


 そう。こうして複数の宝箱が手に入ったことで念願の1人1宝箱が錬装できるようになったのだ。これを活用しないで何を活用するのか。宝箱の持ち腐れだけは避けたい。


「俺と同じ運用方法なら指輪1つあればできます」

「じゃあこれにお願いしようかな」


 チトセさんはそういうと身に付けていた小指の指輪を外す。


「こんなの持ってたんですね」

「この間買ったんだよね。可愛くて一目惚れしちゃった」


 渡された指輪を手の平の上で転がす。ピンクゴールドの小さな指輪だ。目立った装飾はなく、シンプルながらも洗練された美しさを感じる。


「じゃあこれに宝箱を錬装しますね」


 そう言いながら革袋に残った金貨を全部ぶちまける。中身が空っぽになったのを確認してから左手に握った指輪に、右手に持った宝箱が錬装されるように念じると右手の宝箱は消失し、左手の中の指輪に宝箱特性が錬装されたことを鑑定の力で確認する。


「よし、ばっちり。出来ましたよ、チトセさん」

「ありがとう! これで荷物が減るよ~」

「いえいえ。じゃあ次はヴィンセント。何か手頃な物はあるか?」

「貴金属の類は持ってない。お前のを何かくれないか」

「俺の? うーん、ちょっと待ってくれ」


 俺もあんまり持ってないのだが……。在庫は少ないがせっかくだし何かヴィンセントに似合う物をと思い、虚空の指輪(アカシックリング)の中身を漁る。一応、家にあったのは全部此処に突っ込んできたから何かあるはずだ。


 改めてヴィンセントの見た目を見て思うのは、派手だな……だった。


 元の髪色は多分黒で、それが二色(にしき)の影響で半分だけが白く染まっている。それが胸の下まで伸びる長髪なのだから、派手だ。二色は基本、派手になりがちだ。

 それでも初めて会った時は裾が擦り切れたボロボロの黒いコートに身を包んでいたが、ヴィスタニアを出る際に新調して、真逆の白いコートを着ている。コートの中の服やズボンも白と黒で揃えているから全体的に纏まっているが、黒一色の頃に比べればやはり目立つだろう。


 そんなヴィンセントに似合う装飾品……うん、これしかないだろう。


「これなんかどうだ?」

「これは……なんだ? 壊れた篭手か?」

「違う」


 俺が取り出したのは指を覆う形状の指輪だ。本体ともいえる根元の幅の広い指輪を起点に、似たような形の幅広い指輪が小さな金具で連結されている、という指輪だ。これを見てヴィンセントが壊れた篭手というのも理解できる。パッと見た形は確かに指の部分だけが取れた篭手の破片にしか見えない。ただ、指先は凶悪な尖り方をしている。


 これが指輪っていうんだから珍しいなと思って買ったが、あまりにも主張が強過ぎて似合わないことに気付いて仕舞っておいた一品である。


「へぇ~、アーマーリングか。確かにヴィンセントなら似合いそうだね」

「チトセさんは知ってるんですか? これ」

「うん、あっちにもあったよ。あたしは付けなかったけど。とある界隈では大人気の品だった気がする」


 とある界隈……何かの宗教的なものだろうか。まさかこれ、呪物とかじゃないよな? と、慌てて鑑定の力で調べてみるが、何の特性もないただの指輪だった。


「なんでもいい。それを貰おう」

「分かった。ちょっと待ってくれよ……よし、錬装終わり。好きな物を入れてくれ」

「ありがとう。武器の類は持ち歩いてないが、魔道具類は沢山ある。助かるよ」


 指輪を受け取ったヴィンセントが左手の指に嵌める。人差し指に合ったようで、其処に納まった。


「やっぱ似合うな……」

「そうか?」


 白黒派手男にごつい銀の指輪……うん、似合う。まさに今のヴィンセントの為に作ったと言っても過言ではない似合い様で、流石の俺も羨ましく思ってしまう。俺もああいうのが似合う男になりたかった。ヴィンセントは顔も格好良いからああいうのが似合い過ぎる。


 対して俺は強面の冒険者に舐められがちな顔だからな……ああいう強い形状の物はどうしても全体の印象から浮いてしまって駄目だ。何で買ったのか、今では分からないが多分、この時の為に買っていたんだと思う。つまり、運命である。


「残った革袋はパーティー用の資金入れにしよっか」

「あぁ、それは名案ですね。今は俺の指輪にでっかい袋に分けてぶち込んでるだけですから」


 1人こっそり落ち込んでいるとチトセさんの提案に引っ張り戻された。名案だ。こうして順調に宝箱が見つかって、資金は増える一方だった。宝箱には漏れなく金貨が大量に入ってるし、俺も色々と錬装した品をタチアナに卸していたからその資金もパーティー用の資金に入れていた。


 お陰様で資金繰りで困ったことは一度もない。このまま資産を増やしていけば、最終的に山分けして老後も安泰だ。


 まぁ今は山分けすることもないので全部纏めて収納してしまう。


「さてと……色々ウォルターに作業させてしまったけれど、宝箱に関する確認とかはこれでおしまいかな」

「結局魔剣に関しては分からずじまいか……」

「こればっかりはしょうがない。実際、あるかどうかも分からないしな」


 そうなのだ。ヴィスタニアではチトセさんがたまたま知ってていたから探そうという行動に出られたが、此処では噂そのものを聞かない。聞くほど慣れ親しんでもいないと言われればそれまでだが……これからダンジョンを探索する上で調べていけばいいだけの話だ。


 やることも終わったので解散となり、俺達はラ・バーナ・エスタを後にする。チトセさんとヴィンセントがそれぞれの部屋に戻り、1人になった俺はベッドに横たわる。といっても眠気はまったくない。完全に夜型になってしまった。


 外に出る用事もないし、出来ることと言えば錬装のアイデア作りくらいだった俺は朝までに30個思い付こうと、アイデア作りに没頭する。


 ……が、いつの間にか寝ていたらしく、起きた俺は日が昇り切った街を眺めて15個しか思い付けなかったことに嘆息するのだった。

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