表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/69

第五十五話 終結

 抜けた床や壁を補うように塞ぐ木を踏み、蔓に巻き込まれた暴徒達を避けて先へと進む。呻き声や怒号、まだ動く腕での掴みや剣を対処しながら進んだので思ったよりも時間が掛かった。


 ホランダーの部屋は崩壊していた。あの宝箱があった本棚も木に貫かれて本が散乱しているし、絨毯も机も見る影もなかった。そうしたのは俺だが、ほんのちょっとだけ申し訳なく思う。


 その部屋の中央で両腕に緑の鱗を生やし、鋭い爪が伸びた竜の腕に変化させたベラトリクスがホランダーとカインを取り押さえていた。


「来てくれたんだね」

「まだ生きてる?」

「まだね、まだ」


 ベラトリクスの言葉に床に押さえつけられたホランダーとカインが震えあがる。まだ生かしておかなければならない理由は多い。できれば俺としては殺しは無しでお願いしたいが、ベラトリクスの心情を鑑みれば致し方なしとも思う。


 俺はベラトリクスの前に歩み出て虚空の指輪(アカシックリング)からホランダーの宝箱と、カインの家から押収した各種証拠資料を取り出し、並べた。


 ホランダーの宝箱の中身は宿で待機している時に確認済みだ。概ねカインの証拠類と中身は一緒だった。ザッと見ただけだが帳簿の内容も一致している。


 もうこの状況を覆す手はホランダー達には無かった。


「これが証拠になると思うんだが、どうだろう」

「魂石が見当たらないよ」

「今出したら魔法解けると思って出してなかったが、いいのか?」

「なるほど、ありがとう。優しいね~。でもいいよ。もう此奴等もどうしようもないだろうし」


 押さえつけていた腕を離すベラトリクス。四つん這いのまま大急ぎで逃げようとする二人をチトセさんとヴィンセントが剣を突き付けて制止させた。


「これを探してたんでしょ? カイン。これ持って逃げるつもりだったんだろうけれど、残念だったね」

「クッ……チトセ……ッ!」

「君が必死になってホランダーの部屋を散らかしてる間に、君の家にあった竜狩りの証拠も全部回収させてもらったよ。もう君が此処から無事に帰ることはできない」


 カインは観念したのか、四つん這いのまま脱力して抵抗をやめた。ホランダーの方はまだ反抗心はあるのか、悔し気に俺達を睨んでいた。


 しかしいくら睨んだところでこの状況を覆す手はない。物的証拠もあるし、武力での反撃も不可能だ。


 此処に居るのは全員、『二色(にしき)』なのだ。


「今この場でホランダーの持つ全ての権限を剥奪。竜教に背いた罪を罰します」

「違う、違いますベラトリクス様、これは!」

「今後、大小問わず竜教に関連する施設、及び信徒が存在する全ての都市への入場を禁止します」

「そんな……!」


 これはきつい。大小問わず関連する施設及び信徒といえば殆どの都市へ入れない。1人でも信徒が居れば、其処へは一歩も入れないのだ。


「更に付け加えて血縛の魔道具を使用していたことも確認してる」


 そうか、そういうことか。それが信徒が一斉に反乱を起こした原因か。ヴィンセントの場合は自身を中心とした狭い範囲での効果だったが、今回はもっともっと広い範囲……このケインゴルスク全体を覆う範囲での使用だったということか。だから気付けなかったが、改めて使用していたと聞かされるとあの必死さが理解できた。


 そっとヴィンセントの方を振り返ると、彼は悲痛な顔でホランダーを見ていた。何を思っているかは理解出来る。だがヴィンセント、彼奴はお前とは違う、本当の悪人なんだよ。だからそんな目で見なくていい。お前は優しい人なのは俺が、チトセさんが理解している。  


「この罰はクルーツェ家一族郎党全てに適用します」

「あんまりだ……そんな横暴が許されるはずがない!!」

「許されないことをしたのはホランダー、お前だよ。竜を崇め奉る教団に所属しながら竜を殺した罪は、それだけ重いんだよ。むしろ、今この場で殺されない事に感謝されたいくらいだね」

「くぅ……ッ」


 ベラトリクスの竜眼の一瞥にホランダーは更に吐こうとした言葉を飲み込んだ。


 さて、ホランダーへの沙汰は下された。次はカインだ。


「カイン・ルーチェラ。お前は竜殺しを実行していたので更に罪は重いよ」

「そんな、ベラトリクス様! 僕はホランダーに、魔道具に従わされて!」

「今更そんな言い訳が通ると思っているのか!!」


 ズン、と空気が重みを増して俺達に圧し掛かる。


「お前が殺した竜の数の分だけ、お前を指先から切り落としてもいいんだぞ? そうしないのが私の最後の温情だと理解していて、言い訳するのか……?」

「ひぃっ……」

「これを見ろ」


 俺がカインの家から押収した魂石を二つ、ベラトリクスがカインの前に並べた。透き通った魂石の内部には深い青色の魔力がゆっくりと螺旋を描いている。綺麗だが、あれは竜の魂石なのだろう。


「これはお前が罠に嵌めて殺したウォータードラゴンの夫婦の魂石だ。お前が殺した夫婦には子供がいた。その子は今もダンジョンで1人寂しく、鳴いているんだ!」

「……えっ、それって……まさか、『昏き地底湖』のことを言ってるのか……?」

「そうだよ。ウォルター、君が出会ったあのウォータードラゴンの両親は、此奴が殺したんだ」


 その言葉を聞き、気付いた時には俺は振り下ろしたプリマヴィスタをチトセさんとヴィンセントに止められていた。


「やめろウォルター!」

「落ち着け!」

「止めるな、チトセさん、ヴィンセント! 此奴は……此奴だけは!」


 押して押し返して、ギチギチと不快な金属音が鳴り続ける。怯え切った表情のカインが俺を見上げるが、それが更に俺を苛立たせた。お前が、お前がそんな顔をする資格なんて1つもない!


「だっ、ダンジョンのモンスターは、時間経過で、再出現するだろぉ!? なにが悪いって言うんだ!?」

「再出現するモンスターはブルーの両親かもしれない……だがそれは思い出も記憶もない別の竜だ! 信徒達が、冒険者達が、殺さずに愛し、見守った親子じゃない! お前にはそれが分からないのか!?」


 押す剣がゆっくりと距離を詰め、ついにカインの首筋に刃が届く。触れた刃に小さな赤い水玉が浮き、刃を伝って流れ落ちていく。


「ウォルター! やめろ!」

「クッ……此奴、どこにこんな力が……!」

「はい、其処までだよ」


 プリマヴィスタの剣先を竜の腕が掴む。それだけで剣は前にも後ろにも進まなくなった。思わずベラトリクスを睨んでしまうくらいには、俺は腹が立っていた。


 ベラトリクスの赤い目をジッと見る。竜眼は今も赤く、薄っすらと光っているように見える。人とは違う縦に裂いたような黒い瞳は恐ろしい。が、恐ろしくも美しかった。そして美しくも恐ろしい瞳の奥から、深い悲しみが伝わってきた。殺された竜達、ブルーの両親。それら全ての竜達への深い慈愛の心が、目を通して俺の心へと浸透していく。


 俺はベラトリクスに一度頷き、剣を握る手から力を抜いた。


「カインの処分は私がするからね」

「あぁ……すまなかった」

「いいよ。怒ってくれて、嬉しかったよ~」


 にこりと笑うベラトリクスにもう一度、今度は深く、頭を下げた。それからチトセさんとヴィンセントにも向き直り、頭を下げた。


「ごめんなさい。怒りで自分を見失ってた。止めてくれて、ありがとう」

「いいよ。あたしの気持ちはウォルターと一緒だから」

「俺もだ。俺も此奴を殺したいくらい憎いが、それは俺達のするべきことではないからな……」


 これで良かったのだろうか。……手を汚さなかったのは良かったのかもしれないが、それでも問うてしまう。俺が出来たのはホランダーとカインの部屋を漁ったことだけだった。それが事件の解決に繋がったとはいえ、もっと出来ることはあったはずだ。もっと早くベラトリクスと話すべきだったと、今では思う。


「さて、そろそろクルーツェ家の制圧も終わった頃だろう。であれば魔道具の破壊も済んでいるはずだから私は信徒達にそれを伝えてくるよ。君達はどうする?」

「私達はこれで撤収するよ。もう仕事は済んだしね」

「了解。またね、チーちゃん」

「うん、ベラ」


 こうして一夜の大騒動は終結した。竜を殺していた者達は捕まり、これからは本当の意味で竜と共生できる竜教が作られていくだろう。俺は信徒じゃないから其処には居られないが、ブルーが信徒達や冒険者達と仲良くできる日が続けば良いなと、心から思う。


 人に対して思う事、竜について考える事は沢山ある。


 ……が、とりあえずひと眠りするとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ