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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第五十四話 信徒の反乱

 宿に戻った俺達はお互いの部屋でジッとチトセさんの帰りを待っていた。部屋の木窓を開いて夜風に当たるふりをしながらチトセさんの姿を探す。


「……馬鹿か俺は。姿消してるんだから見えないだろ」

「姿消してても気配見つける訓練しないとね」

「うぶぅ!?」


 うわぁ! と叫びそうになった口を慌てて両手で塞いだ。この反射神経を自分で褒めたい。よく塞いだぞ、俺。


「居るなら居るって言ってくださいよ……!」

「ごめんごめん、ほらどいて!」


 押されるがままに後退すると独りでに木窓が閉じられ、チトセさんが姿を現した。どうやら怪我もしていないようだ。良かった。


「心配しましたよ」

「ありがと。それより大事な話があるんだ。ヴィンセントを呼んできてもらえる?」


 チトセさんの様子から本当に大急ぎなのが見て取れたので頷き、すぐにヴィンセントを呼びに部屋を出た。




 ホランダーの部屋であった出来事を聞いた俺達はすぐに隠遁の魔道具で姿を消して窓から宿を出た。


 あのカインがホランダーと手を組んでいて、裏切った。やっぱりな、怪しいと思ってたんだ。あの蛇のような目……何か企んでるんじゃないかと疑っていたが、どうやら正解だったようだ。1人だと思い込み、酔い潰したホランダーの前で全部喋るなんて詰めの甘い奴だ。


 そして俺達が確保したホランダーの宝箱には、カインが睨んだ通り書き写した帳簿と、ちょろまかした竜種の素材がガッツリ収納されていた。これだけでも十分ホランダー降ろしにはなるが、どうせならカインの奴もぶちのめしたい。幸いなことに奴はあの場にまだホランダーの帳簿があると思い込んでいる。


 今、俺達が向かっているのはもぬけの殻となっている奴の自室だ。


「今日は空き巣ばっかりですねぇ」

「正義の為だよ」

「やってることに違いはないけどな」

「うっさいヴィンセント」


 同じ人殺しでも戦争という環境なら英雄になる。これはそういうことだと言い聞かせながら夜の街を駆ける。


 普通、多くのギルド員はギルドが持つ宿舎に部屋を借りる。ギルドの制度で支給金も出るし、控除もあり、間取的にも悪くない部屋ということで人気も高い。

 だがカインは自分の持ち家に住んでいた。ギルドの制度も受けず、自腹で暮らしているということはそれだけ儲かっているということだ。まったく羨ましい話だ。


「此処だね」


 チトセさんの案内で俺達はカインの家までやってきた。白い壁に黒い屋根のシンプルな見た目の家だ。


「しかしどうして家を知ってるんですか?」

「前にケインゴルスクに居た時に家で食事でもって教えてくれたんだよね。行かなかったけど」

「なるほど」


 可哀想に。


 さて、今頃カインは必死になってホランダーの部屋をひっくり返している頃だろう。俺達はゆっくり、しかし迅速に、お淑やかに奴が管理している帳簿と、ついでに何か余罪も見つけるとしよう。



  □   □   □   □



 薄っすらと雪が降り始め、東の夜空が若干白んで来た頃に漸く俺達は宿の自室で暖まることができた。


 回収した証拠の数々はちゃんと虚空の指輪(アカシックリング)の中に小分けにして収納済みだ。証拠自体は存外早く見つけることが出来た。奴は家の下に地下室を作っていて、其処に多くの証拠が山積みになっていた。


 竜素材の売買を記録した帳簿。竜素材。ベラトリクスの指示で回収した魂石の一部。それらを換金した金。ギルドから横流しした鑑定品等、様々な物が地下室に所狭しと並んでいた。


 勿論、それらは厳重に施錠されていたがうちのヴィンセントの”月影”の前ではどんな鍵も意味を成さない。頑張って鍵をかけて隠していたんだろうが、全部徒労に終わってしまって若干同情の気持ちが湧くくらいだった。


「しかしチトセさんの手際の良さには驚かされるな……」


 チトセさんはホランダーの部屋を後にして、すぐにベラトリクスの部屋に向かって告げたそうだ。夜が明ける直前にホランダーの部屋に行けばホランダーの手下であるカインを拘束できる、と。


 俺達は既にカインがホランダーである証拠を押収している。そろそろ宿を出てベラトリクスと合流するとしよう。


「ウォルター、準備できた?」

「ばっちりです。ただ……」

「ただ?」

「死ぬほど眠いです」




 竜教の建物の前に到着した。周囲に人は居ない。が、建物の中から少し声が聞こえてくる。どうやらもう始まっているようだ。


「ちょっと遅刻したか?」

「問題ないでしょ。行くよ」


 チトセさんを筆頭に大扉を抜けると、其処には右往左往する信徒が大勢居た。


 どういう人間だろうな。ホランダーの悪事が露呈して信心を試されているのか、それとも芋づる式に捕まるのを避ける為に逃げる準備をしているのか。


 建物の奥からは熱気のような圧が伝わってくる。これはベラトリクスの竜圧だ。完全にキレているようだ。


 このままでは殺してしまうかもしれないと、奥へ向かって歩き出そうとしたところで数人の信徒に囲まれた。各々の手には鈍く光る刃が握られている。


「冒険者様方、お引き取りください」

「邪魔するな」

「ぐあぁっ!!」


 ヴィンセントを中心に囲んだ信徒の数だけ伸びた影がジグザグに信徒の足を貫いた。痛みに倒れる信徒を跨いで奥へと突き進む。しかし足だけで済ましたのはヴィンセントの優しさだな。暫くすれば歩けるようになるだろう。生きてるんだから。


 ホランダーの部屋を目指す途中も何度か剣を手にした信徒に行く手を阻まれた。ホランダーの指示もないだろうし、自主的に動いている者達だろう。忠誠心溢れる奴等だが、付く側を間違えた哀れな馬鹿達だ。


 そして進むにつれて人が増えていく。これ、俺達を阻んでるんじゃなくてベラトリクスを囲ってるんじゃないか? 其処に俺達が来たからベラトリクスに背を向けて対応してるだけな気がする。


 となると、ホランダーはこの展開を予想していたことになる。万が一こういうことがあれば剣を手に取りベラトリクスを殺せ、と。


「邪魔するなあああああ!」


 1人の信徒が大声を張り上げて剣を振り回しながら突進してきた。俺は指輪から出した剣で信徒の剣を絡め取り、力の流れを支配する。ぐるりと円を描き、気付けば信徒は驚いた顔のまま地面へと転がっていた。


「やるようになったな、ウォルター」

「いつまでもヘルパーじゃないんだ、俺は」

「いつも助かってるよ! 行こう!」


 2回しか来たことはないが見覚えのある場所が増えてきた。もうすぐホランダーの部屋だ。そして此処に至って信徒の数が飽和してきた。もはや通れる隙間がない。これだけの人数の信徒をホランダーはどうやって自身の配下に置いたんだ?


「死ねぇ!」

「わぁぁぁ!!」


 形振り構わず、といった具合の信徒も増えてきた。というか、殆どが戦闘経験のない人間ばっかりだった。そういった人間を殺すのも忍びない。チトセさんやヴィンセントが追い払ってはいるが、流石に数が数だった。


「一気にぶち抜きます!」

「出来るの、ウォルター!?」

「出来ます!」


 虚空の指輪(アカシックリング)から『魔力上昇』の特性を重ね掛けた指輪を全部の指に嵌め、イヤーカフを装着する。魔法使いじゃない俺が全力の魔法を放つ為の特別に錬装した魔道具達だ。そして最後に取り出したのは絶華ノ剣プリマヴィスタだ。


 柄を握り締め、上昇した魔力を全部詰め込む。放つのは深緑属性木魔法最大の魔法。


「『生え裏返り続(ウッドスタック・)ける魔樹森林(フェスティバル)』!!!」


 シュルリと生えだした木はどんどんと数を増やし、捻じれながら信徒に向かって伸びていく。主流の木が信徒の間を抜け、其処から生えた木が信徒たちを絡め取り、どんどんと巻き込んでいく。


 俺の魔力を吸い上げながらどんどんと増えていく魔樹はついに建物の壁をぶち抜く。真横に突き抜けた魔樹は光を求めて上へ上へと伸びる。巻き込まれた信徒と共に伸びた魔樹は、外に出たのと同時に俺の魔力を吸い尽くし、漸く成長を止めた。


「う、おぇ……」

「大丈夫、ウォルター?」

「大丈夫です……気持ち悪いですけど……」


 すぐに魔力回復薬を取り出して立て続けに4本飲み干し、やっと少し眩暈が残る程度に落ち着いた。

 魔樹が暴れまくったお陰で建物の中はボロボロだ。壁も床もあったもんじゃない。


 だが道は拓けた。さぁ、急いでホランダーの部屋へと向かおう。

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