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第四十九話 ベラトリクスの目的

 宝箱の中を覗くベラトリクス。覗かれている俺達は戦々恐々だ。まず、逃げ場がない。それに蓋を閉められたら反撃は難しい。


 どう出るか待つべきか、此方から出向くか。


 そんな一瞬の思案の間にベラトリクスは瞬時に次の行動に移っていた。


「よっ、と」


 なんと箱の縁に足を掛けて飛び込んで来たのだ。


「ちょ、落ちたら本当に死ぬよ!」

「大丈夫だよ。待ってて~」


 焦るチトセさんだがベラトリクスは何処吹く風と言わんばかりに気にもせず、軽く魔力を流したかと思えば背中から大きな竜の翼を生やして滑空してきた。なるほど、竜になれるのだから飛ぶのも朝飯前という訳か……。


 着地の前にバサリと羽ばたき、勢いを殺してから花の都に足を付けたベラトリクスからは敵意は感じられなかった。自ら起こした風によって舞う花びらの中、興味深そうに周囲を見ているが観光案内をしてあげられる程、俺達に精神的余裕はなかった。


「どうして此処へ?」


 まずはそれだ。


「グレイから聞いたでしょ。チーちゃんは用心深いから、私から話をしなきゃなって」

「じゃああの冒険者を寄越したのはベラなの?」

「そうだよ~」


 彼奴等、そんなことは一言も言ってなかったな……まぁ、言えるはずもないか。性悪な耳目の多い町で余計なことは出来ないし、言えない。


「ふーん、なるほど……此処なら信徒達の目も届かないし声も聞こえないね」

「……信用していいのかな、ベラ」


 今、此処で殺されたら俺達を発見出来る人間は1人も居ない。竜教の最強戦力でもある”幻竜”ベラトリクスに俺達三人でも勝てるかどうかは怪しい。


「勿論だよ、チーちゃん」


 だがやはりベラトリクスからは戦意も殺気も感じなかった。


「私はその為に此処に来たんだから」


 ……いや、訂正しよう。此方へ振り返ったベラトリクスからは殺気も戦意も感じられた。だがそれは、俺達に向けられたものではなかった。


「……とりあえず、俺はもう一度影を設置してくる」

「あぁ、ごめんね。お願い」

「先に領主館に行っててくれ」


 ベラトリクスがこじ開けた扉を塞ぐ為、月影で階段を作ったヴィンセントが戻っていく。反対に俺達はベラトリクスから詳しく話を聞く為に領主館へと向かった。懐かしき巨大樹に貫かれた館は発見当時よりも綺麗に整備されてある。俺が住んでいたのだから、住み心地を良くするのは当然の課題だった。しっかり掃除もしたし、必要な設備も整えた。その辺の屋敷よりも充実してるんじゃないだろうか。


「へぇ~、良い場所だね!」

「ふふ、そうだろう。俺が整備したんだ」

「やるね~、ウォルター君」


 こうして褒められると良い気分だ。頑張って整備した甲斐があるってもんだ。


 と、喜びを噛み締めていたらチトセさんの肘が俺の脇腹を貫いた。


「んぐっ……」

「……」

「すみません……」


 目が語っていた。『馬鹿みたいに喜んでないで警戒しろ』と。


 気を取り直してベラトリクスを2階の大食堂へ案内した。話し合いをするなら此処が一番良いだろう。夕食もまだだったので、ついでに食事も出来るし歓待も出来る。最高のおもてなしだ。


 大食堂は横長の部屋で、その部屋と同じように長い木製のテーブルに幾つもの椅子が置かれている。このテーブルを作った木もプリマヴィスタで生み出した木なんだろうな。こんな大きな一枚板、見た事がない。


 見事な艶は天井からぶら下がる照明の魔道具の光を反射させる。其処へ幾つかの料理を虚空の指輪(アカシックリング)から取り出し、並べる。


「豪勢な料理じゃないけれど、いい時間だし食事でもしながら話そうと思うんだが」

「いいね、お腹空いてたんだ。ありがとう、ウォルター君」


 良かった。竜教ではもっと良いものを食べてるかもしれないと思っていたから不安だったが喜んでもらえたようだ。


 並べた料理から焼いた骨付き肉だけを選んで食べるベラトリクスを眺めながら食事をすること数分。ヴィンセントが大食堂へと入ってきた。


「すまない、待たせたか」

「いや、大丈夫だよ。食べながら話そう」


 頷いたヴィンセントが席に着き、漸く全員が揃ったところで骨を咬み砕いたベラトリクスが俺達を一人一人ジッと見た。


「竜教を潰したいと思ってるのは君達以外にも居る」


 腹は立ったが潰したいとまでは思ってない……。


「でも竜教を潰せるのは君達以外には居ないんだよね~。実力的に」

「潰す潰さないは置いといて、ベラ、なんで君は竜教を潰したいの? あの時、君はパーティーよりもそっちを選んだはずだよね」

「まぁね~。別にどっちが良いとか悪いとかではなかったよ。ただ、竜教に居た方が目的を果たせそうだったから、そっちを選んだだけ」

「目的?」


 新しい肉に手を伸ばすベラトリクス。だがその目は肉ではなく何処か遠い所を見ているようだった。


「母さんを助けたい」

「母さん? と竜教にどんな関係があるの?」

「私の母さんは竜なんだ」


 その衝撃の事実に全員の手が止まった。


「私は竜に育てられたんだ。だから竜魔法が使えるんだよ」

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