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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第四十八話 三人の冒険者

 散らばったハイサハギンの魂石を全て拾い集め終わった頃、ボス部屋の扉が開いた。出口側ではなく、入口側が。


「ッ!?」


 慌てて3人揃って武器を構える。扉を開いて入ってきたのは俺達と同じ、冒険者のパーティーだった。


 こうしてボスと戦うフロアで他の冒険者に出会ったことは、俺は一度もない。だがチトセさんとヴィンセントはヴィスタニアでの攻略の際、何度かこういう場面には遭遇していた。ラ・バーナ・エスタで聞かされていた。その時はボスを取り合う形で言い争ったり、時には共闘したりという場面もあったらしい。

 その多くはボス部屋に入る直前での出来事だった。何故ならボス部屋には1パーティーしか入れないからだ。一度入ると、入口側の扉は閉ざされる。外からは開けられないのだ。だが中からは開けられる。負けるかもしれない窮地に陥ったパーティーはそうやって逃げるのだが、その状態に至って無事に逃げられるかどうかは、怪しいものだ。


 そんな話を聞かされていたから、扉が開いた時点で警戒するのは当然だった。扉を開けたのは3人の冒険者だ。見たところずぶ濡れなので泳いできたのだろう。根性はあるが、タイミングは最悪だった。


「ちょっと待て、やり合うつもりはねぇ!」


 状況を見て理解したのか、先頭に居た男が両手を上げて降参の姿勢を取る。後ろの二人も、同じように両手を上げていた。


 なるほど、こういう展開もあるのかと構えていた剣を下ろそうとしたらチトセさんが手を出して俺の動きを制止させた。


「信用していいの?」

「あぁ、武器も外す。ちょっと話がしたい」


 それを聞いたチトセさんが腕を下ろした。すぐに信用するなってことか。経験の浅さが出たな……これは反省だ。


 3人の冒険者は名を名乗った。先頭に立って話していたスキンヘッドの男がグレイ。後ろに立っていた背の低い女がリエーラで、その隣に立っていた背が高くて細い男がラスラーというらしい。


「……すまないな、後をつけさせてもらった。だが危害を加えようって訳じゃないんだ。話を聞いてくれないか」

「詳しい内容は僕から」


 グレイと立ち位置を入れ替えたラスラーが一礼して俺達と視線を交わらせる。見た目通り、礼儀正しい人間のようだ。


 ラスラーは緊張しているのか、何度か深呼吸をしてから話し始めた。


「……僕達は、竜教を潰そうと動く冒険者です」

「なっ……!?」


 予想外の言葉に思わず驚いてしまって声が漏れ出る。竜教と深く結びついた町でこんなことを考える人間が居るとは想像もしていなかった。


「僕達の考えに賛同する冒険者は多いです。普段は何事もないように生活していますが」

「その代表者が君達ってこと?」

「いえ、違います」


 チトセさんの問いに首を横に振るラスラー。一度、グレイの方へ振り返る。それに対してグレイは頷く。代表者を明かす許可を得たということだろう。


 ラスラーは再び深呼吸を繰り返し、そして口を開いた。


「竜教を潰すことを決定し、代表者として僕達の先頭に立つ人物……それは」


 その人物は、やはり俺達が予想だにしない人物だった。


「竜教現教祖、ベラトリクス・ヨルムンガンドです」



  □   □   □   □



 宿に戻った俺は1人、木窓を閉じてベッドに沈み込む。監視されてはいるが宿としての仕事はちゃんとしてくれているらしく、ベッドはふかふかでとても心地良かった。


 グレイ達とは一旦別れた。その後も少し話は聞いたが、賛同するかどうかは保留。だが反対もしないし、どちらかといえば困惑が勝っているし、その理由に納得出来たら前向きに考えるとだけ伝えた。


 目を閉じ、ゆっくりと数を数える。1から順に数え、300まで数えた俺はベッドから下り、左右の壁を数度叩いた。


 それから数分後、静かに素早く、ヴィンセントが俺の部屋へ入ってきた。目配せで合図し、すぐに”月影”で扉を塞ぐように被せる。俺は虚空の指輪(アカシックリング)から宝箱であるアウターダンジョン『花の都 ラ・バーナ・エスタ』のを取り出し、蓋を開けた。


 傾いた太陽が影を伸ばすように、ヴィンセントの足元の白影が床を這い、開いた宝箱の中へと滑り込んでいく。箱の中の虚空空間でカクカクと下り曲がり、階段状になってラ・バーナ・エスタまで辿り着いたのを確認してヴィンセントに手を向けて影の操作を止めさせる。


 それと同時に扉が開く。入ってきたのはチトセさんだ。扉に被せた月影のセンサーで人を選んで入れるように扉を開いたのはヴィンセントだ。花の都捜索の時の経験を活かした彼にしか出来ない芸当だ。チトセさんはまっすぐに宝箱の中へ飛び込む。それに続いて俺が飛び込み、最後にヴィンセントが部屋の扉を塞いだまま宝箱へ飛び込んだ。


 月影で出来た階段を掛け下りる。緩やかなカーブを描く階段は相変わらず硬質で、そして懐かしかった。


「ふぅ……」


 階段を下り、ラ・バーナ・エスタへと降り立った俺達はやっと一心地ついたと言わんばかりに揃って息を吐いた。しかしそれも無理のない事だ。この町で監視のない場所というのは此処しかないから、漸く完全に安心できたのだ。


「あー……しかしとんでもないことになったね」

「竜教を潰す……ですか」

「正確には一度潰して、作り直す。だがな」


 そう。ベラトリクスは竜教を作り直したいらしいのだ。2代目教祖となったベラトリクスではあるが、竜教の実権を握っているのは元教祖の部下だった男らしい。


「なんて名前だったっけ」

「ホランダー・クルーツェです、チトセさん」

「あぁ、確かそんな名前だったね。ホランダー。」


 そのホランダーという男が竜教を動かしているらしい。表向きはベラトリクスを崇めているようだが、実際はそうではなく、この監視体制もホランダーの指示だそうだ。監視の目は俺達冒険者だけじゃなく、教祖であるベラトリクスにまである。ただ、俺達と違ってそれは護衛という名目らしい。


「宿でベラがキレてたのも頷けるね」

「教祖ならどうにかこうにか理由をつけて処分出来そうな気もするんだがな」

「それが出来ない理由があるのかもしれないね」


 単純な問題でもないのかもしれない。だが、俺は一度だけ単独でベラトリクスと会話をしている。あの路地裏のベンチでの事だ。ベラトリクスも何かしらの手段を使えば監視の目を掻い潜れるのだ。


 町の監視体制。ホランダーの実権体制。ベラトリクス主導のレジスタンス。


 うーん、まだまだ謎が多過ぎる。


「やっぱり一度、ベラと話してみない事には賛同も反対もできないね……」

「グレイに取り次いでもらうことはできないんですかね」

「それが出来たら一番良いんだけどねぇ」


 グレイ達と別れる時に、答えはともかく次のダンジョンの行先は伝えておいた。また其処のボス部屋で接触してくるはずだ。その時にベラトリクスとの対話が可能かどうか聞いてみるのもいいかもしれない。監視の目を掻い潜れるのだから、時間と場所さえ指定できれば会話は可能なはずだ。


 となれば、場所は此処が一番良いだろう。あまり見せたくはないが。


「じゃあとりあえず、話を聞いてから……かな?」

「そうですね。じゃあ一旦戻りますか」

「いや、待て。誰か来た」


 帰ろうとする俺達を止めるヴィンセント。月影で閉じた扉の向こうに誰か居るらしい。拙い、開かないようにはしているが、無理矢理突破されたら此処がバレてしまう。


「まぁ、俺の月影を突き破れるのはチトセくらいだ。暫くすれば立ち去るだろう……なにっ!?」

「どうした、ヴィンセント!」


 ヴィンセントが見せた事のない驚愕の表情で宝箱の出入口を睨んでいる。


「破られた。誰か来る!」

「何だって!?」


 ただ会話するだけだったから装備なんて何もない。アカシックリングから取り出せば戦えるが心許ないし……ど、どうすれば……。


「ヴィンセント、宝箱の蓋を閉じて階段を消して!」

「了解だ!」


 両腕を伸ばしたヴィンセントが影を操作して階段を変形させ、触手のように動かして蓋へと伸ばす。せめて蓋さえ閉じられれば……そう願っていたのだが、触手が蓋を閉じるよりも早く、人間の腕がそれを防いだ。


「……ッ」


 逃げ場がない。俺達にはもう、来訪者を見上げることしか出来なかった。


 一体、誰なんだ。ヴィンセントの月影を破る実力者なんて、戦って勝てるのか?


 その来訪者は宝箱の中を覗き込んだ。逆光で顔はよく見えない。


 だが、その声には聞き覚えがあった。


「わぁ、これ凄いね~。どういう仕組み?」


 突然の来訪者。それは今まさに対話を試みようとしていた人物、ベラトリクス・ヨルムンガンドだった。

いつもありがとうございます!

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