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第二十九話 お屋敷訪問

 ”月影”の床から生えた柵が一部解除され、其処から花の都まで続く階段が構築される。ゆるやかな曲線を描きつつ、程よい高さの段差の階段をゆっくりと下っていく。


「帰ってくる時もこれ上るのかと思うと今からうんざりするね……」

「入口がこっちまで来てくれたら楽なんですけどね」

「文句言うな。消すぞ」

「ごめんごめん」


 謝りつつも、少し嬉しい。ヴィンセントもこういう冗談が言えるようになるくらいには打ち解けてくれたのだと思うと、笑みが零れてしまうのも仕方ない。


 しかし何気なく見たヴィンセントは至極真面目な顔をしていた。此奴、マジで言ってんのか……?


「冗談だ」

「分かりづらいわ!」


 俺とヴィンセントのやり取りを見てニヤニヤ笑うチトセさんを一瞥し、純白の階段を下りていく。ゆるやかなカーブを描きながら続く階段は花の都の入口らしき通りの正面へと続いていた。


 階段から石畳へと降り立つ。見上げる程に大きな建物が両側に並び立つ通りはこの都の主軸となる通りのように見える。だが栄えていたのは大昔。今は人気もなく、あるのは草と花だけだった。


「花粉が毒だったりするのかな」

「これだけの花があればあの待機所辺りでも吸ってるんじゃないですかね。異常がないってことは大丈夫なんじゃないですか?」


 遅効性の毒だとしても俺が錬成した解毒用の魔道具があれば問題ないはずだ。


 建物は石造りのようで、がっしりとした造りのお陰で崩壊している建物はない。まぁ、此処は風もないし動物も居ないから風化も劣化もしないのかもしれない。分からないことは多いが、一旦危険はないと思っていいだろう。


 問題は此処にモンスターが居るかどうかだ。


「……モンスターって虚空空間で生きていられるの?」

「俺達は生きてますけど、そもそも此処に入れるかって話になってきますね」

「周囲には何も居ないようだな」


 宝箱の中にあるこの不思議なダンジョン。もしかしたらモンスターの類は存在しないのかもしれない。ならどうして此処にこんな都が存在しているのだろう。草花は何を栄養分に枯れずに咲いているのだろう。


 疑問は尽きない。だが気にはならない。何故なら俺は学者じゃないからだ。不思議なものに対して考えることはするが追究することはない。


 不思議は見て楽しむ。それが冒険者だ。多分だが。


 咲いている花を極力踏まないように大通りを進んだ先に見えてきたのは大きな建物だ。一見すると城のように見えるのは石造りだからだろうか。屋根から突き出た大きな木の所為かもしれない。だがそれ抜きに構造だけ見ると実はそんなことはなく、ただただ立派な建物というだけだ。貴族か何かの屋敷かもしれない。


「まぁ、あるとしたら彼処ですかね」


 2人共同じように考えていたようだ。


 屋敷の扉は他の建物と同じ木製ではあったが、やはり大きさは他に比べて大きかった。この都が本当に人が住んでた都かどうかは分からないが、階級制度があったのだと思えばこうして差を見せるのは道理か。


「花屋敷、って感じね」


 言い得て妙だなと思った。絡み合った草花が覆う花屋敷、か。


 両開きの立派な扉は伸びた蔦が絡み合って開くのは容易ではない。が、俺達にとっては障害にもならない。虚空の指輪(アカシックリング)から取り出した魔剣(仮)『エッジアッパー』を扉に沿って上から下へ振り下ろし、蔦を断ち切る。抵抗はなかったが金属音がしたから多分、施錠もされていたのだろう。俺の魔剣(仮)の前では無意味だ。


 パラパラと落ちていく蔦を足で避けて扉を開く。多少の引っ掛かりはあったが封印されていた扉は無事に開くことが出来た。


 屋内は外よりも綺麗だと思い込んでいたが、意外とそうでもなかった。外観は石造りだが、中はほぼ木造だ。そうした造りの古い建物だから、建物の隙間等から入り込んだ蔦や、入る前に見た屋根を突き破って成長していた巨木の根が這っていて歩き難かった。蔦や根が突き破った扉の破片も最早無く、思っていた以上に中は荒れ果てていた。ひょっとすると『花の都』になる以前から荒れていたのかもしれないな。


 いや、それともこの『花の都』という存在そのものが荒れ果てた場所として、ダンジョンとして生成された……? だが場所は宝箱の中。うーん……いやいや、考える必要はないとさっき自分で言っていただろう。ひょっとしたら学者の方が向いてるのかもしれないな?


「流石に広そうだし別れて探索してみる?」

「そうですね……3人で固まってたら日が暮れても終わらなさそうですし」

「此処に来るまでモンスターの気配は一切無かったとはいえ、油断は出来ない。何かあったらすぐにこのエントランスに集合しよう」

「了解」

「オッケー」


 チトセさんの提案で各々探索する場所へと別れることになった。俺は1階。ヴィンセントは2階。そしてチトセさんが3階だ。


「魔剣以外にも何かあったらとりあえず廊下に並べておこう。後で俺が虚空の指輪(アカシックリング)に収納します」


 これだけ広い屋敷ということで期待は大きい。諸々の取り決めを決めた俺達はそれぞれが探索する場所へと向かうことにした。



  □   □   □   □



「さて、と……まずは地形の把握か」


 入口から入ってから広がるエントランスの中心から伸びた階段は中ほどで少し奥行のある広めの踊り場に繋がっている。その両方に廊下が広がっていた。其処が2階だ。

 そして階段隣の部屋の位置に階段があった。それが3階に続く階段だ。こうして見ると特殊な間取に見える。


「螺旋階段でも用意すれば楽なのに」


 と思うが、こうして屋敷にお邪魔して正面に階段があると立派に見えるというのも理解出来る。2階建てであれば階段の隣の二部屋が無駄にならなかっただろうに。その階段を受ける為に踊り場の奥行が広かったのだろう。こればっかりは口で説明しても伝わりにくいな。それくらい見た事のない造りだった。


「まるでどうしても3階建てにしなきゃいけなかったような造りだな……3階に何かあるのかな」


 だとしたらチトセさんが当たり(・・・)ということになるか。ま、それはそれで良しということで俺は俺が出来る範囲で探索するとしよう。


 さて、正面から見た奇妙な造りにばかり気を取られていたが1階は1階で大変だ。左右に伸びた2階の廊下に連なるように等間隔で部屋が作られている。2階は扉の数を見るに、1階の部屋二つ分を一部屋として作っているようなので1階は部屋数が倍なのだ。思うに2階以上は位の高い人間の居住スペースなのだろう。


 部屋が広ければ家財道具は壁際に置いて中心スペースはある程度の広さを保つのが普通だ。しかし部屋が狭いと必要最低限の家財道具を置いても部屋を広く使うことは難しい。俺はこれから狭苦しい部屋を1つ1つ検分しなければならないのだ。


「はぁ……」


 そう思うと溜息も出る。しかも左右には一部、扉のない空間がある。廊下だ。この屋敷の左右には俺にとってはとても最悪なことに石造りの塔が建てられていた。いらんだろ、塔……。


「……文句ばっか垂れてても作業は進まんか。はぁ、やるかぁ」


 塔はもう、皆が探索終わってから全員で向かうことを心の中で勝手に決めた俺はまずは階段隣の部屋から調べていくことにした。

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