第二十八話 宝箱の中へ
2人も顔を突っ込んで中を確認し終わり、改めて対策会議を開くことになった。
「いやしかしこんな場所にあるとはね」
「これじゃあ誰にも見つけられませんよ」
「宝箱の中がこうなってるとは知らなかった」
「流石に全部が全部こうじゃないとは思うけどね」
あの中に花の都があることは確認出来た。誰にも邪魔されず、ゆっくりと探索することも可能だ。しかし様々な問題も同時に発生していた。
まず、入るのは可能だが出るのはどうするのか。覗いた感じだと入口は空中だ。俺達の手元に梯子なんて有能な道具はない。
「梯子くらいなら俺が作れる」
「はい解決」
「ヴィンセントがパーティーに入ってくれてあたしは凄く嬉しいよ」
次に、入ったところで人体に影響はないのか。
「虚空の指輪に入れた食べ物は問題なく温かい」
「時間が止まってるってこと?」
「それか、めちゃくちゃゆっくりなのかもしれません」
「食べられるのなら、毒とかはないんじゃないか?」
人体と食べ物は違う。こればっかりは入ってみないと分からない。
「頭が痛いとか、気持ち悪いとか感じたらすぐに脱出しましょう。暫くは入った直後に月影で床を作って其処で待機ということで」
「了解した」
「オッケー」
最後に、いつ攻め込むかだ。
「今すぐ行きたい気持ちはあるけど、こんなだだっ広い場所に開けっ放しの宝箱置いて行くのはちょっと……」
「これもアカシックリングに収納出来ないのか?」
「その手があったか」
宝箱に手をかざす。すると宝箱もちゃんと元・宝箱の中に入ってくれた。宝箱の中に宝箱を仕舞うという発想がなかったぜ。想像力はちゃんと働かせないとな。
一応これで全部の問題が解決したことになる。後は入ってみないと分からないことだけだ。
「じゃあ一旦此奴は持ち替えるとして、俺達もそろそろ帰りましょう。夜も遅いですし」
日は完全に暮れ、俺達が向かっていた方向からは大きな月が顔を覗かせていた。偽物だけど本物の月光が長い影を作っている。
俺達は一度自宅に戻る為、長い影が差す方へ揃って歩き始めた。
□ □ □ □
深夜遅くに帰宅した俺達は一先ずその日は寝た。特に苦労らしい苦労はしてなかったが、健康的な生活の為の早寝だ。
そして翌日。日も昇り切った雲も少ない良い天気の日に、俺達は揃いも揃ってチトセさんの家の地下、『武器庫』へとやってきていた。
「外は温かかったが、此処は寒いな」
「地下だからねー。でもお陰様で邪魔は入らないよ」
「ていうか、また増えましたね~。前よりあるんじゃないですか?」
俺が錬装で”赫炎”を定着させる為に消費した武器庫の武器も、またごちゃごちゃと増えて……というか溢れかえっていた。いくら趣味とはいえ、この量は流石に多過ぎだ。
「また暇な時に赫炎定着頼むよ」
「俺も練習になるのでお願いしたいくらいです。前よりは消費も少なく出来そうなので複数作りますか」
「お、いいねぇ」
「それよりもまずはプリマヴィスタの回収だろう?」
「そうだったそうだった。よし、宝箱を出すよ」
ヴィンセントに急かされ、俺は以前も錬装の際に利用した鉄テーブルの上に百花平原で回収した宝箱を取り出した。こうして見ると結構な大きさがある。人一人くらいなら、折り畳めば入ってしまいそうだ。
これからこの宝箱の中にある虚空空間に存在する百花平原のアウターダンジョン『花の都』へと侵入する。装備は万全だ。何日も捜索しても問題ないだけの準備もしてきた。
「さて、行きますか」
「宝箱の中なんて初めてだよ。緊張するなぁ」
「ウォルターの魔道具があれば何処でも戦える。任せてくれ」
士気は高い。俺も全力で戦い、サポートするとしよう。
まずはヴィンセントがテーブルの縁に足を掛け、跨ぐように宝箱へと入っていく。”月影”で梯子を作ってもらう為だ。俺は宝箱の中を覗き、準備が出来たことを確認してチトセさんへ向けて頷く。
次に入るのはチトセさんだ。ヴィンセントが出入口の構成をしてくれている間、いつ襲われてもいいように戦闘担当に入ってもらう。ヴィンセントが月影で構築した足場にチトセさんが降り立つのを見てから、俺も宝箱の縁に足を掛けた。
白い梯子をゆっくりと下りる。手触りは金属に近い。少し傾斜がついていて垂直よりも下りやすかった。
六角形に構築された足場は広い。ヴィンセントに聞いてみたところ、この月影の上で焚火をしても問題ないということだったので虚空の指輪から薪を取り出して焚火場を準備する。暫く過ごすには此処は少し寒かった。
「ふぅ……空気に毒はないみたいだね」
声に視線を向けてみると、床の縁で腰に手を当てたチトセさんが花の都を眺めながら深呼吸をしていた。柵も無い場所で何やってんだあの人は。
「危ないぞ」
「わっ!」
気を利かせたヴィンセントが月影を操作して床から柵を生やしてくれた。突然出てきた柵に驚くチトセさんではあるが、安全を確保出来たことで俺としては安心した。
「お前の方が危ないよ!」
「落ちたら何処まで落ちるか分からないぞ」
「……」
想像してしまったのか、チトセさんはぶるりと震えて柵から距離を置いていた。確かに何処まで落ちるか分かったもんじゃない。底があるかも分からない。永遠に落ちながら餓死……なんてこともあるだろうな。あぁ、恐ろしい。
とりあえず此処で少し過ごしてから探索に向かうつもりだ。焚火の周りに座った俺達は何をするでもなくボーっと火を眺めていた。
……暇だ。
「暇だな。もう行かないか?」
「飽きんの早いな。けど俺も暇だって思ってたところだよ。チトセさん、どうします?」
両膝を抱えて座っていたヴィンセントが月影で作った棒で焚火を突きながら不満を漏らす。対してチトセさんは仰向けに転がって虚空を眺めている。動く気は無さそうに見えるが……。
「そんな焦ったってしょうがなくない? 急いては事を仕損じるって誰かの名言もあるし」
「初耳だな。極東の偉人か?」
「そんなところ。ていうか良い機会だし話しとくか」
あぁ、異世界の話か。確かに今なら十分時間はあるし、良い時間の使い方だ。俺は一回聞いているが、再びチトセさんがヴィンセントに話すのを横で聞くとしよう。
話を聞き終えたヴィンセントは興味深そうに何度も頷いていた。
「なるほど……。俺は世間知らずな所があるから、聞く話は全部興味深い。だがチトセ、お前の話が今までで一番興味深い話だった。お前達と出会ってから常々、世界は広いと思っていたがこの世界の外にまで世界があるとは。ちょっと広すぎて頭が痛くなってくる」
「分かる。流石に規格外過ぎて意味分からんよな。や、チトセさんの話が理解出来ないって訳ではなくて、あまりにもこう……大きすぎるっていうか。なんだろうな、言葉にするのが非常に難しい」
俺が暮らしてきた村。人生を賭ける為にやってきたラビュリア。俺はそれくらいしか知らないけれど、それでもラビュリアの外には様々な世界があることは理解している。見た事はないが海という広大な塩水の湖もあると聞いたことがある。その向こうの国に行くのも生きるか死ぬかという話だ。
それだけ広大な世界が雑に考えて倍になったってことだろう? もう、意味が分からない。
「まぁ別にあたしも完全に理解してる訳じゃないしね」
「ダンジョンを攻略したら帰れるのか?」
「保障はないよ。けどやることもないし、とりあえずって感じかな」
チトセさんの口振りだと帰ることは殆ど諦めてるように聞こえる。俺は……彼女が無事に帰ってほしいと思っている。けれど、離れ離れになるのも嫌だと思ってる。かと言って俺が彼女について行くことも出来ない。
俺は此処で1番になりたいから。
「さて、話も済んだし検証ももう十分でしょ。そろそろ行こう」
「……ですね」
「大丈夫? ウォルター」
「問題ないです。行きましょう」
俺の心の内をチトセさんに話しても仕方ないことだ。正解もないし、解決もしない。
立ち上がった俺は花の都をジッと見る。まずは彼処を探索して、噂の魔剣プリマヴィスタを見つけることにしよう。
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