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第二十六話 魔剣の噂

 嵐のようにギルドを訪れ、嵐のようにギルドを去る。向かう先は新たなダンジョン『百花平原』。広大なフィールド全てが花畑という少し変わったダンジョンだ。入口は民家の2階の一室というこれまた風変りな出入口で、場所を知っていないと中々見つけることが出来ない場所だ。

 勿論、チトセさんは詳しいので一直線にその家に入り、ダンジョンの部屋まで進む。


「人は住んでないんですね」

「冒険者が出入りする場所に住むのは流石に豪胆が過ぎるよ」

「住めるなら俺は住みたい」

「嫌だろ、人が住んでる場所に入っていくの」

「お前が聞いたんだろう?」

「確かに……」


 いや、聞いたけどそれはそれだろう。別に人が住んでなくてがっかりした訳ではないし。ただ見たままの感想を呟いだだけである。


 無人の民家を横目に何の変哲もない扉を開く。するとその先は明るい屋外で、足元には花が咲き乱れていた。こういう扉の向こう系のダンジョンは毎回物凄い違和感に襲われて眩暈がする。こればっかりは中々慣れなかった。全く仕組みが分からない。


 扉を越え、ダンジョン内に侵入する。広大な空間ということは聞いていたが、やはり目を惹かれるのは一面の花畑だ。

 俺達が越えた2階の一室への扉は、今では小さな小屋の扉となっている。その扉を背に棒立ちで風景を眺める。

 心地良い風が花を揺らし、散った花弁が風に舞う姿は幻想的の一言に尽きる。舞う花びらは無窮の空へと吸い込まれるように消えていき、キラリと反射した何かが物凄い速度で此方へ突っ込んでくる。


「うわぁ! ペーグルだ!」


 慌ててチトセさんの肩を掴んで俺の後ろに退かせて虚空の指輪(アカシックリング)から取り出した盾(衝撃緩和重複・軽量化重複)をペーグルに向けて掲げる。


 しかしこれが良くなかった。焦って構えてしまった所為で、以前教わった『斜めに構える』ということを忘れてしまった。


 その結果は悲惨なものだった。


「うわぁ……」


 パァン!という破裂音と共に正面から受けたペーグルが盾に激突して飛び散った。『衝撃緩和』の特性を重ね掛けしておいたお陰で激突の衝撃は全くなかった。構えた盾が『軽量化』した大盾だったから散らかった血肉が掛かることはなかったのが不幸中の幸いだった。


 ただ、飛び散った血肉が降りかかった花々はとても可哀想だった。赤だかピンクだか、よく分からない様々な物が降りかかったドロドロの花は重さで頭を垂れたが罪悪感に拍車をかけた。


「大丈夫でしたか?」

「まぁ、ギリギリかな」

「問題ない」


 盾が大きかったお陰で2人に肉片は降りかからなかったようだ。


「さて……手荒い歓迎を受けたけど、探索を始めようか」

「探索って、チトセさん、このお花畑に探索するような場所あるんですか?」


 一面の花畑は見晴らしが良すぎるくらいに良い。平地である此処は遮る物がない。二足歩行をする亜人種のモンスターは勿論、普通に冒険者の姿も見える。草花の背もそれ程高い訳でもない。ただ、地面を這うタイプのモンスターや寝転んでいる人なんかは見つからないだろう。


「ウォルターはラビュリアに伝わる魔剣の噂って聞いたことある?」

「魔剣の噂?」


 ダンジョンから排出されることもあると言われる強力な特性を持つ概念武器……の話ではなさそうだ。


「此処、ラビュリアには6つの町がある。山岳のケインゴルスク。湖畔のグリアーナ。荒野のドレッドヴィル。森林のアラミゴステート。群塔のソルポリス。そして此処、草原のヴィスタニア。この各地にあるダンジョンの1つに強力な魔剣が存在するって噂だよ」

「聞いたことないですね。上位冒険者だけに伝わる話……だったら俺は耳にする機会がありませんし」

「まぁ、そういう情報統制はあるかもね。噂が噂を呼んでしまうこともあるし、噂が本当だったら自分の取り分が減るし。良くも悪くも欲深いからね、冒険者は」


 しかし町には複数のダンジョンが存在している。そのダンジョンにはアウターダンジョンもある場合もある。その全てのダンジョンの中の1つだけに1本の魔剣が存在していると……。計6本か? 残念ながら聞いたことがない。


「ひょっとして、この花畑に魔剣が?」

「っていう話だよ。嘘か本当かは分からないけどね」


 この綺麗な花畑に魔剣が眠っているかもしれないという噂の出所は1つの宝箱が見つかったのが最初だと言う。その宝箱には1枚の妙な紙が入っていたそうだ。


「紙には何も書いてなかったんだけど、鑑定したら名称がおかしくてね。その紙の名称はこうだった」


 『絶華ノ剣【プリマヴィスタ】は花の都に眠る』


「この絶華ノ剣プリマヴィスタというのが恐らく魔剣。そして花の都というのが恐らく此処だという話だよ」

「確かにラビュリアで花の都という名前から想像出来る場所は此処くらいなもんですけど……都っていうのも仰々しいような」

「その花の都というのがこの百花平原のアウターダンジョンとかなんじゃないか?」


 それまで無言で腕を組んで立っていたヴィンセントが俺の疑問に答えてくれた。なるほど、アウターダンジョンか。なら都という風変わりな様相をしていてもおかしくない。崖の下に教会があったり、時計塔の地下に町があるようなダンジョンなのだから。


「なるほどね。それでチトセさん、此処のアウターダンジョンはどんな場所なんですか?」

「それがね、この百花平原にアウターダンジョンは見つかってないんだよ」

「えっ?」


 それじゃあ花の都というのは見たままの様相ではなくて、ただの比喩表現ってことなのか? それならそれで探索はするが……探索するだけならそれ程難しいことでもない。プライドも何も投げ捨てて人海戦術で探せば魔剣もアウターダンジョンも見つかるだろうに。


「ただ、見つかっていないからと言って、存在していない訳でもない」

「探索が進んでないんですか?」

「そうでもない。総出で探索をしたけど見つかってないって話だよ」

「じゃあ一体どうしたら……」

「なるほど、それで俺の出番という訳だな?」


 組んでいた腕を解いたヴィンセントが一歩前に出る。広大な花畑を眺めて聞き心地の良いハスキーボイスで、何処か楽し気に言う。


「わざと俺が孤児院から帰ってきたタイミングで『ダンジョン攻略』だと言い、更に攻略という言葉をちらつかせて俺が絶対に帰らないように縛った。影を実体化させる俺の”月影”なら、草花で隠れた地面の感触も分かるから探索もしやすいと。ふん、チトセ。素直じゃないな。パーティーメンバーなのだから頼めば俺はいつでも手を貸すというのに。パーティーメンバーなのだから」

「うっさいわね、ぺらぺらと。断崖教会の頃のたどたどしさは本当に何処にいったのやら」


 流暢に話すヴィンセントに噛み付くチトセさんではあるが、その顔に嫌悪感はなく、ニヤリと口角を吊り上げていた。


「まぁ素直じゃなかったのはあたしの不徳の致すところね。今後は是正するよ。そういう訳だからヴィンセントは地面、及び地下を。あたしとウォルターは地表、及び空中を探索よ。今日でアウターダンジョン、もしくは魔剣を見つける! そうすればこの百花平原を初めて完璧に攻略した冒険者になれるのよ!」


 こうして突如始まった魔剣探索。俺達は見えざる物を探す為に目を凝らして陽光降り注ぐ花畑を散策するのだった。

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