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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
草原都市ヴィスタニア篇

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第二十三話 対峙

 いつの間にか眠っていたようで、肩を揺さ振られる小さな振動で目が覚めた。


 夢を見ていたような気がする。何の夢だったかは思い出せない。ただその夢の中で感じた違和感だけが、記憶の中に残っていた。


「起きた?」

「すみません、いつの間にか眠ってました」

「いいよ。すっきり出来た?」

「えぇ、お陰様で。それで……来ましたか?」


 チトセさんは噴水広場を顎で差した。ジッと目を凝らすとヴィンセントと数人の子供達が噴水広場で周囲を見回していた。彼処に来るまでにシャドウ達と遭遇もしなかっただろうし、目的のダンジョンボスも見当たらないから首を傾げているところだろう。


「来ましたね」

「うん。後少し待てば……」


 まだ行かない。今はまだ周囲を警戒している所だ。完全にダンジョンボスが居ないことを理解し、帰る素振りを見せた時に……


「! 踵を返した!」

「行くよ!」


 『身体力上昇』の指輪に魔力を込め、一気に駈け出す。屋根伝いに駆け抜け、最後の屋根端で大きくジャンプする。


 流石にヴィンセントも俺達に気付いたようで、その特徴的な純白の影から何かを生成しようとする。が、それよりも早く虚空の指輪(アカシックリング)から『ぴかぴか君』を取り出し、展開する。


 噴水広場を縁取るように広がった『ぴかぴか君』が一斉に発光する。


「きゃあ!」

「わぁっ、眩しい……!」


 暗い町を歩いていた子供達は目を覆う。申し訳ない気持ちもあるが、死なない為の措置なので多少は我慢してもらおう。


「……」


 ヴィンセントが掴もうとしていた何かは掻き消える。目論み通り、光が影を打ち消したのだ。角度の関係で多少の影は発生しているかもしれないが、それでも光源の数が影を薄くしていた。影という実体がなければ、ヴィンセントの《月影》を無効化出来るという作戦は見事に成功していた。


「ふぅ……久しぶりね、シュナイダー」

「これは……何の真似だ?」


 《月影》と呼ばれた『二色』。長い髪の半分が白く染まった男、ヴィンセント・シュナイダーは初めて無防備な状態でチトセさんの前に立った。チトセさんは《幻陽》を抜き、切っ先をヴィンセントへと向けた。


「シュナイダー。お前がラビュリアを全制覇することに異議はない。けれど、子供達は解放しろ」

「……? ダンジョンとは、パーティーでクリアするものだろう……俺1人では、全制覇は出来ない」

「はぁ? お前程の強さがあれば、出来るだろう! いいから血縛の魔道具を渡せ!」

「それは……出来ない。これがなければ、俺はパーティーを組めない」


 そんなことはないはずだ。パーティーを組むという行動自体に血縛の魔道具は必要ないはずだ。現に俺はそんな物を使わずともチトセさんとパーティーを組んでいる。


「しかし子供達を縛っているのはお前だろう!」

「何を言っているのか……わからない」

「はぁ……!?」


 どうにも話が噛み合わない。チトセさんも頭に血が上っているから会話が成り立っていない。


 見れば子供達も、2人の間に割り込もうとはしないが視線はヴィンセントに向かっていた。


 それも、心配するような眼差しで。


「お前と話しても埒が明かない……実力行使で奪わせてもらう!」

「ちょ、チトセさん!」

「止めるなウォルター!」


 流石に頭に血が上り過ぎだ。いつものチトセさんではない。だが俺の制止も空しく、チトセさんが駈け出す。《幻陽》に赫炎を灯さなかったのは最後の理性か。


 ヴィンセントは再び地面に向けて手を伸ばすが俺の『ぴかぴか君』の効果の所為で白い影は立ち昇ってこない。魔道具を展開した俺を一瞥するがすぐにチトセさんの対処に切り替えた。


「ハァッ!」

「……」


 振り下ろされた幻陽を紙一重で躱したヴィンセントがチトセさんの腕を掴んで力の流れのままに投げ飛ばした。空中へ投げ出されたチトセさんは、それでもヴィンセントから視線を外さない。


 視線を固定したまま体だけを器用に捻りながら難無く着地したチトセさんは、それと同時に再び駈け出す。その勢いのままに全力の突きを繰り出す。


「……無駄だ」


 だがその突きはまたしても躱される。しかもヴィンセントはただ躱すだけでなく、攻撃の威力を殺さぬままに威力の向きを変えていく。真正面に向かって放たれた突きだったが、チトセさんの手元に添えられたヴィンセントの力が地面へと向かう。


 幻陽の切っ先は石畳を傷付ける。散る火花の大きさが威力の強さを表していた。


「クソッ!」


 刀が折れることを嫌ったチトセさんは地面を強く踏み、1回2回と側転しながら地面から刃を離すし、地面を滑りながら勢いを殺す。


 二度の攻防。俺には見ることしか出来なかった。だがそれでも理解は出来た。ヴィンセントは《月影》を使わなくても十分過ぎる程に強かった。それも並みの強さではない。まるで武術の達人のような身のこなしだ。怒りからかいつもと違い、単調になってしまってはいるがあのチトセさんがまるで歯が立たない。


 しかし不思議だ。月影がなくても攻撃は可能なはずだ。殴る蹴るにスキルは必要ないはずだ。


 なのに何故、ヴィンセントは防御しかしない?


 それも、チトセさんが傷つかないように。


 その奇妙な事態に頭を使っていたその時、空気が爆ぜた。


「チトセさん!」

「もう、手加減はしない」


 見れば幻陽を《赫炎》が包んでいた。流石にやりすぎだ!


 ヴィンセントも先程のような防御の姿勢は取らない。なんと魔道具で封じられているはずなのに地面から白い柄が伸びてきた。だがその伸びた柄は先端からじわじわと赤く染まっていく。まるで血が滴っていくかのような……いや、実際にそれは血液だった。自ら手の平を裂いたヴィンセントの血が月影を膜のように覆っていたのだ。


 出来上がったのは赤い大鎌だ。あの時、俺の首を刎ねようとした鎌が赤い姿で蘇る。悍ましい姿だった。一瞬にしてあの時の恐怖がフッと湧いてくる。


 だが此処で怯む訳にはいかない。俺の考えが間違いじゃなかったら、この戦いには何の意味もないのだから。


 両者が地面を踏み込み、今にも駈け出そうとしたその間に『身体力上昇』の効果を最大限に利用して一気に駆け、割り込んだ。突然の乱入者に2人が振り下ろそうとした刃が、左右に伸ばした俺の手の平の前で止まる。


「チトセさん、ちょっと待ってください!」

「はぁ!? 何で!」

「この戦いは意味がない!」


 納得いかないという顔だ。刀を鞘に納めるつもりはないらしい。が、赫炎だけは納めてくれた。有難い。正直、熱気だけで俺の手の平はぐちゃぐちゃになりそうだった。


「ヴィンセントさん、あんたと話がしたい」


 キレ散らかすチトセさんから視線を移し、ヴィンセントに向き合う。こうして正面から向き合って、ハッとした。無敵の能力を持っている『二色』という認識が強過ぎて気付かなかったが、彼は傷だらけだった。それは先程の手の平だけの話ではない。古傷の上に出来た生傷。血が滲んだ包帯。ボロボロだ。


 それに対して子供達は無傷だった。多少の汚れはあっても、傷は1つも見当たらなかった。


「お前は……ウォルター・エンドエリクシルか」

「あぁ、覚えていてくれて嬉しいよ。それで、改めて聞きたい……パーティーを組むのに『血縛の魔道具』が必要というのは、どういう意味なんだ?」


 まずは其処からだ。


「パーティーを……組む為には、必要だろう?」

「いや、俺はチトセさんとパーティーを組んでいるが魔道具は使ってないよ」

「それは、お前が冒険者でギルドに出入り出来るからだ」

「……? あんたは冒険者じゃないのか?」

「俺は、冒険者じゃない」


 初耳だった。チトセさんの方を見るが、チトセさんも首を横に振っていた。どうやらチトセさんも知らなかったらしい。


 『二色』と認識されていたから冒険者だと思い込んでいた。思えば俺達はヴィンセントに対して思い込みばかりしている。そしてそれは恐らくヴィンセントもだ。


 子供達を無理矢理パーティーに組み込んで無茶なダンジョン攻略をしていると思っていた。けれど子供達は無傷だった。


 ヴィンセントはパーティーを組まないとダンジョン攻略が出来ないと思い込んでいた。しかも血縛の魔道具なんていう違法魔道具を使用して。


 子供達の方を振り返る。子供達はやはり、ヴィンセントを心配しているように見えた。これも俺達が無理矢理連れていると思い込んでいるだけなのかもしれない。


 そして俺は唐突に先程見た夢の内容を思い出した。あれは『断崖教会ハルベー・モーベラル』で初めてヴィンセントに会った時の光景だった。白い床に撒き散らされた凄惨な戦いの跡。床に転がり、疲れ果てた子供達。それを見るヴィンセント。


 あの時認識していなかったが、夢で再度見たお陰で認識出来た違和感の正体。それは転がる子供達が、やはり無傷だったということ。


「……」


 俺は展開していた『ぴかぴか君』を引き寄せ、虚空の指輪(アカシックリング)に仕舞った。


「ヴィンセントさん。やっぱり俺はあんたとちゃんと話がしたい」


いつもありがとうございます!

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よろしくお願いいたします₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾

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