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第十八話 久しぶりの外出

『第十六話 新たな二色』の内容を一話分飛ばして更新してしまいました。

内容を改め、『第十六話 概念武器』として更新しましたので、

そちらを読んでいただけると嬉しいです。

大変申し訳ございませんでした。

 ローブが乾いた後、何をするのかと言うと腹ごしらえだった。ローブを身に付け、フードを深く被った俺は久しく感じていなかった飢餓感に襲われた。そういえばちゃんと食べてなかったのを今更ながらに思い出した俺は現在、チトセさんと2人で町を歩いている。


「眩しい……」

「全然日の光を浴びてなかったからね。肌白いよ。白いというか、青白い」

「病的な白さってやつですかね」


 言ってる場合でもないが。身体が資本である冒険者稼業において虚弱さは致命的である。まずは食って力を身に付けねばならない。


 俺は真っ直に好きな食堂へと入ることにした。


「いらっしゃい! おや、チトセさんに……ウォルターかい?」

「どうも」


 此処は『緑竜の爪』という店で、チトセさんと出会う前から通っている馴染みの店だ。チトセさん出会った後とも何度か一緒に利用している。女将のホリーさんも気風の良い人で常連も多い。俺もこの町に来た当初からずっとお世話になってて、気に入っている。


 そんな女将さんは暫くぶりの俺をじろりと睨む。


「何だい、そのローブは。暑苦しいね!」

「すみません……」

「店の中なんだからフードくらい取りな!」

「あっ、ちょ!」


 女将さんはペッと勢いよくフードを捲り上げる。しまった、最初に食べるなら此処が良いと思って入ったけれどこの人はこういう性格だった……!


 あまりにも久しぶり過ぎたし空腹で頭も回っていなかった。俺はすっかりフードが外されてしまい、『二色』となった髪を晒してしまう。


「ウォルター……あ、あんた、それ……」

「あー……」


 ホリーさんは俺が無職業であることを知っている。職業がないからと腐る俺を何度も励ましてくれた人だ。そんな俺が『二色』になっているのだから驚くのも当たり前だった。


「実は職業に目覚めまして……」

「『二色』だったのかい……!?」

「あはは……そうなります」


 ふと気付けば店内の他のお客さんも食べる手を止めてビックリした顔で俺を見ていた。沢山の目に囲まれた俺は逃げ場を無くしたゴブリンのような気持ちになる。


 俺はどうしたらいいのかとチトセさんを見るが、チトセさんは肩を竦めて首を横に振った。こうなるかもしれないと思っていたな、さては。


 さてどうしたもんかと現実逃避しかけた瞬間、両腕をホリーさんに掴まれた。


「ウォルター、あんた!」

「は、はい!」

「凄いじゃないか!!」

「は、はい?」

「『二色』だよ、『二色』!! 今日はお祝いだ!!」


 急展開過ぎて頭が回らない。元から回っていなかったが、それでも余計に回らなくなっていた。


 ホリーさんは俺の腕を掴んだまま、店内の一番大きいテーブルに俺を引っ張っていった。そのまま無理矢理椅子に座らされる。気分は無実の罪で捕まった市民だ。ちゃっかりチトセさんも俺の隣に座っている。


 どうしたもんかと考えようとした俺の目の前にドン、と肉料理が置かれる。肉の焦げた香ばしい匂いとスパイスの香りが鼻腔から脳へと突き抜け、きゅぅと胃が鳴く。


「いやまだ注文してな」

「食べな!」

「ホリーさん……それは俺が注文したやつ……」

「黙ってな!」


 そろそろと手を挙げた気弱そうなお客さんがホリーさんの一喝でその手を引っ込めた。傍若無人である。


「や、あの人の注文した料理ですし……」

「彼奴にはまた作るから問題ないよ! 皆、今日はウォルターのお祝いだ! よって、今日の代金はタダだよ!!」


 その一言に店内は一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声に包まれた。それなら何でも許すという1人のお客さんの言葉と共に他の人間、全員の不平不満の一切がなくなった。店内は喜色満面、すっかりお祝いムードとなる。


 追加の料理、酒を慌ただしく運ぶ店員さん達がテーブルとテーブルの間を駆け回る。それを横目に見ながら俺は目の前の肉に手を付けた。勿論、この料理の本来の主人に会釈をしてから。


「うめぇー……」


 肉汁と肉を一緒に飲み込み、心の底から溢れ出た感想をしみじみと呟く。


「いやはや、とんでもないことになったね」

「こうなるって分かってたでしょ、チトセさん」

「十中八九、ってところかな」

「ほぼじゃないですか」


 肉を齧りながら半目でチトセさんを見やる。チトセさんは半身を此方に向け、背もたれに肘を掛けながらニヤリと笑う。


「そりゃあそんなフード被ってたら怪しまれるし」

「格好良いと思うんだけどな……」

「そういうのをあたしの居た国では『中二病』って言うんだよ」

「チュウニビョウ……?」

「分からなくていいよ。ほら、食べなさいよ。料理が冷めちゃう」


 言葉の意味が分からなくて首を傾げていたが、促されて意識を料理に向けることにした。



  □   □   □   □



 俺のお祝いということで店内は大いに盛り上がった。料理が進めば、酒も進む。となればお祝いは宴会となる。タダで飲み食いできるとあれば盛り上がるのは当然だ。


 当然、俺もチトセさんも盛り上がる。阿呆程食い、阿呆程飲んだ。かと言って俺たちは馬鹿ではない。同じ罠には嵌らないし、同じ轍は踏まない。何せ俺たちは冒険者。しかも二色(にしき)の冒険者だ。


「俺は最も強く立派な冒険者になってだなぁ! 皆に追いつくんだぁ!」


 椅子に足を掛け、ジョッキを掲げる阿呆が居た。しかもジョッキは空である。


「見ろぉ、お前らぁ! この髪をぉ! 約束された未来があるんだぞぉ!」


 叫びながらジョッキを振り回す。その阿呆の様子を見て周囲も同じ阿呆となり、馬鹿みたいに手を叩いて喜んでいた。


「よっ! 未来の錬装王!」

「錬装王だぁ!? いいねぇ、王様は立派だぞぉ!」


 出来る限り隠さないとね~なんて言っていたのはさて、何処の誰だったか。此処に居る阿呆は己の能力を自慢しまくっていた。もうどうしようもなかった。


 チトセさんはと言えば酔いが回ったのか、椅子からずり落ちる手前の絶妙なバランスを意地しながら寝る寸前の息遣いをしていた。それを見た阿呆は妙に冷静になり、俺という自我の末端を掴むのに成功した。


「悪い、皆。チトセさんが眠たそうにしてるから今日はそろそろお開きだ」

「お熱いねぇ!」


 囃し立て、ピュイピュイと指笛を吹く今だ阿呆真っただ中の連中にシッシと手を振り、チトセさんの肩を揺らす。


「チトセさん、帰りますよ」

「んー……」


 うん、ギリギリ起きてるようだ。俺はチトセさんを背負う前にホリーさんの元へ向かう。


「ホリーさん、今日はありがとう」

「気にしなさんな。あんたが立派になって私も鼻が高いよ」

「あはは……あぁ、えっと、だいぶ今更なんだけど……」

「一応、口外しないようには言っておくよ。とは言え、時間の問題だとは思うけれどねぇ」

「ありがとうございます。……っとと、やっぱフラフラする……いい加減帰ります。また来ますね」

「あいよ、気を付けて帰りな」


 ホリーさんに礼をしてから俺はチトセさんを立たせて背中に背負い、主催不在にも関わらず今もまだ賑やかな店を後にした。




 火照った体を撫でる夜風がとても心地良い。酒に一番効くのは涼しい風だ。それと背中でむにゃむにゃ言ってるチトセさん。さっきまでとても元気に酔い散らかしていたが、今はそれも落ち着いてちょうどいい酔いが体中を巡っている感じだ。足元は若干おぼつかないが、人を背負っている身なので転ぶわけにはいかない。とりあえず、我が家までお連れするとしよう。チトセさんの部屋も出来た事だし。


 月明かりに照らされた石畳は小さく細かく、黒い影を溝に落とす。その影を踏む、俺の影。自分の影に追い掛けられながら、追い越しながら、歩く。


 ふと顔を上げると視界の端に路地の入口がぽっかりと口を開けていた。建物の陰になって月明かりが差し込まない暗い路地。


 その路地の石畳を白い何かが這って行った。

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