僕たちは騎士である〜熊のポコの場合〜
この世で一番に目覚めるもの、それは我々ぬいぐるみと呼ばれる種族である。
目はらんらんと光り輝き、もふもふの手足は何よりも気高く美しく、我が主たるすみれちゃんを守るために、スクっと雄々しく立ち上がるのだ。
すみれちゃんはちょっぴり寂しがりやで、まだ一人で眠ることができない。
そんな彼女を守るために、僕らは毎日技を磨き、ありとあらゆる災厄をはね返す。
怖い夢? ────叩き潰す!
悪いおばけ? ────叩き潰す!
変態ストーカー? ────再起不能なまでに、完膚無きまでにすり潰す!
それが、我々ぬいぐるみの使命なのである。
ある晩、すみれちゃんはママの読み聞かせを聞きながら、いつものように眠りについた。ママがそうっと身体を起こし、すみれちゃんが目を覚まさないようにゆっくりと部屋をでていく。
パタリと扉を閉めた。そう、これが僕らの目覚めの合図である。
「────一番隊、起床!!」
そう叫ぶのは、すみれちゃんがお腹にいるときからの古株ぬいぐるみ、熊のポコ。彼の風貌は茶色い体に茶色い耳。手足は真ん丸でもふもふしていて、手の先っぽ半分と、鼻の周りが楕円形に白くなっている。すみれちゃんの執事であり、教育係でもあり、もちろん大のお気に入りである。
彼の自慢はクリスマスにテディベアショップで買ってもらった、赤いカーディガン。彼の特別の証であり、誇りでもある。得意技は吹き矢。この武器でありとあらゆる敵をやっつける。
「本日も母上様が無事、役目を果たされた! ただ今より、ぬいぐるみ隊の警護を開始する!」
「らじゃー」
「らじゃー」
次いで飛び起きたのは、オカピのぬいぐるみ。大きくなったらシマウマになりたいと思っている。その次に起きたのは、ハリネズミのぬいぐるみ。大人になったらヤマアラシになれると信じている。ちなみにポコの吹き矢の矢は、ハリネズミの背中から落ちたものである。
「本日は満月である! 知ってのことと思うが、空から浮かれウサギがわんさか降りてくる日だ。特にすみれちゃんのような可愛い子をさらいに来るので、皆、全力で撃退するように」
「イエス、ポコ!」
「イエス、ポコさん!」
オカピとハリネズミは小さな手で、キリッと敬礼した。
と、その時、ベランダに続く大きな窓から、コンコン、という軽いノック音が聞こえた。
────戦闘開始だ。