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出会いとかは(ry

「誰??!!!?!?!?!?」

「私が言いたいよ?!」


「ん…?その顔…」

お互いの驚愕も束の間。

彼女は訝しげな顔をしたと思うと、すぐに私の近くに寄りジロジロと顔を観察してくる。


「どこかで見たことある気がするわね…」

「…あ!」

その時、大人しくしていた小柄な女の子が声を上げる。


「あなた…十条一族の…?」

『十条一族』という単語にその場の皆が反応する。


「十条って…」「あの財閥の…?」「ウソ…!」

クラスの皆がザワザワし始める。

その視線は家の為に『仲良くしたい』と考える人、『一族に恨みがある人』とバラバラだ。

私はこの視線が好きではない。

取り入ろうとする人間も、悪意のある人間も。

私には不快でしかない。 


私が顔を顰めたのを見てか、顔をジロジロ見ていた彼女がニヤッとした表情で口を開く。

「へぇ…十条ってことは、一二三ひふみのジジイの娘ね」


その言葉に眉を顰める。

『十条 一二三』

私の尊敬する父であり、十条一族の次期当主と目されている自慢の父だ。

そんな父を呼び捨てにするどころか…。

「アナタ…父と知り合いなの?」

すぐにでも怒鳴りたい気持ちを抑え冷静に言葉を紡ぐ。


「知り合いも何も…会う度に怒鳴られてるわよ」

「ど、怒鳴る…?」

怒鳴るという言葉に一瞬固まる。

父は普段滅多に感情を表に出さない人だ。

冷静沈着に物事にあたり解決に導いていく…。

幼い頃はそんな父の姿に憧れたものだ。

今でも父のようになりたいと密かに思っている。

私が固まったのはそんな父が怒鳴っている姿を想像できなかったから。

もしかして彼女は私の事をおちょくっているのではないか?そう思えるほどだ。


「そんな嘘…」

彼女を問いただそうと思ったその時。


バン!と勢いと付けて扉が開く。

その音に驚いて振り向いた先にいたのは…。


「俐々愛くん!!!!!!!」


「げ」

苦虫を嚙み潰したような表情に変わる。


「毎度の如く学園長が来たよ」

「毎度毎度よく疲れないわねぇ」

「俐々愛ちゃんのせいだと思うよ…」

「しょうがない、戦車を持ってきましょう」

「誰に打つ予定なの?!」


怒りを隠せないといった状態で俐々愛へと近づいていく父。

「学校に戦車を持ってくるな!勝手にそんなことしていいと思っているのか!」

ブチぎれる。そりゃそうだ。


「今日は二人も転校生が来るというのに問題ごとばかり増やしおって…!」

「ふ…そこまで認められないというならいいでしょう。今ここで勝負と行こうじゃありませんか」


そう言い、キリっとした顔で父を睨みつける俐々愛と呼ばれた彼女。

「戦車でね」

「危ないよ?!」


「全く…!戦車は撤去するからな!」

それだけ言い残し、クラスから出ようとする父だったが…。


「…」

バッッチリと目が合う。


「れ、麗華。もう来ていたんだな」

「は、はいお父様」

「「…」」

き、気まずい。悪いことをしたわけじゃないけれど…なぜだか見てはいけない物を見てしまった気分だ。


その時、担任らしき女性がクラスに入ってくる。

「あれ?学園長?」

「ん…?ああ、古池くんか」

「どうかしました…って、またですか…」

「ああ、まただよ…」

また、ってことはいつもなのか…。


「まあいい…後はよろしく頼むよ。麗華、しっかりやりなさい」

「あ…、はいお父様」

それだけ言い残し、もはや諦め気味な顔で出ていく父。


「いい案だと思ったんだけどねぇ、ね?このみさん」

「流石にやりすぎだと思うよ…」

苦笑いで返事する彼女。


「というか、持ち込んだところで管理は誰がするの」

彼女はそっとこのみさんの方に手を置くと…。

「頼んだわ、このみ」

「私なの?!」



「ま、まあとりあえず皆さん席についてください!もうすぐHRが始まりますよ!」

担任の女性が声を張り上げる。確か、古池先生。だったわね。

時計をよくよく見てみれば始業まですぐだ。


「あ、十条さんはすぐ傍にある左側の…そう、そこの席を使って下さいね」

先生に言われ左側にある席に座る。何気なく右側を見ると…。

「チャオ♪」

そこには俐々愛と呼ばれた子が座ってこちらに手を振っている。

「…」

終わった…?


「無視されたわ…」

目に見えて落ち込む彼女。

「それはどう考えても俐々愛ちゃんが悪いよ…」


俐々愛さんの前に座っていたこのみさんが私に話しかけてくる。

「さっきはごめんね?俐々愛ちゃん昔っからずっとこんなで…。私の名前は入原このみ。あなたは…十条麗華さん、だよね?」

「ええ、私は十条麗華。よろしくね」

「うん!よろしくね!」


そう言って屈託のない笑顔を向けてくれるこのみさん。

眩しい…眩しいわ…!

自分がしたわけでもないのに謝ってくれるし、きっと彼女はいい子に違いないわ!


「このみが名乗ったなら私も名乗らないわけにはいかないわね…」

少し芝居がかったような話し方で話し始める彼女…。


「私は華蔵寺俐々愛、実は、さっきのは全てこのみの仕業なの」

「嘘つかないでくれる?!」

すかさずツッコミが入る。随分と仲がいいのね。


「って…華蔵院げぞういん?!」

華蔵院ってことは私と同じ三大財閥の…!

それなら、学園での暴挙も納得がいく。

「ええ、お察しの通り、私は華蔵院一族の1人よ。ちなみに最近叔父の犬が出産したわ」

どうでもいいわッ。


「華蔵院…俐々愛…」

名前は聞いたことがある。

企業の運営に精通し、この歳で社長として成功した天才…!

社交界に全く顔を出さず、経営に精を出していると聞いていたけど…。


「こんなところで会えるなんてね…」

「ところで麗華ちゃんはどうしてこの学園に?」


「あ、あぁ。家の事情でね。しばらく日本に滞在することになったの。父が経営してることもあってここに転校してきたのよ」

「日本に…ってことは、もしかして留学してたの?」

「ええ、アメリカにね。」

「アメリカ?!すごい!じゃあさ、英語も結構ペラペラなの?」

「まあ…そうね。日常生活に支障がない程度には。それに、商談でも使うしね」

商談という単語を聞いたこのみさんが目の色を変える。

「商談…?!やっぱり麗華さんも自分の企業を経営してたりするの?」

「いえ、私は叔父の経営する会社をたまに手伝わせてもらってる程度。個人的な目的があってね」

「目的…?もしかして、麗華ちゃんも早いうちから起業したいとか?」


「……」

少しだけ理由を話すのを躊躇う。別に隠してるわけではないけれど。

そんな私を見てこのみさんが私を気遣う。表情に出てしまっていただろうか。


「ご、ごめんね?話しづらいことなら全然…!」

「い、いや。違うの…。実はね」


「私、「遊蘭」のファンでね…」

遊蘭、という単語にこのみさんだけでなく、周りも反応する。


「遊蘭さん…ってことは、もしかして」

「まさかあなた…」

皆、私の言わんとしたことがわかったみたいだ。


「意識高い系か…?」

「どう考えても違うと思うよ…」

引いたような表情で見ないでほしいわね。

「勝手な想像で人を変態みたいに言わないでくれるかしら?」

「ま、まあまあ落ち着いて…。ほら俐々愛ちゃん、すぐふざける癖もダメだよ?」


―――遊蘭。

それは、8年前に現れた稀代の天才。

その特徴は何と言っても丁寧で美しい色と表現力。

誰が見てもわかる、圧倒的なまでの才能。

初めて世に出てきたのは10年前。

この絵を見つけたのは小さな女の子。

その子供が言うには、路地裏に落ちていたのだと。

偶然にも、その子供の親は画商で、即座にこの絵が異質だと見抜いたのだ。

その画商が業界に発表した絵は、瞬く間に世界へ広まっていった。

業界に関わる人間は、誰もがこの絵を描いた主を探したが、今に至っても見つかっていない。

手掛かりは絵の裏に書いてあった「遊蘭」という名前だけ。

遊蘭が描いた絵は、今までで6枚見つかっており、その希少性も相まってそれぞれが40億近い値が付く。

最近では、日本で一番有名な美術館に飾るためにとんでもない値段で貸し出しをお願いしてるとの話だ。



「まあ、わかってるとは思うけど、絵が好きなのよ」

やっぱり、と言わんばかりの顔のこのみさん。

唯一目を細めている俐々愛さんの様子が気になったけれど、そのまま話を続ける。


「まあ、色々あって…遊蘭の絵を集めたいと思っているの。ただ、皆も知ってる通りあの人の絵は一枚50憶を超えるものもあるでしょう?その資金を稼ぐためにも…ってこと」


「そうなんだ…。下世話な話で申し訳ないんだけど、麗華ちゃんの家なら頼んだら買ってもらえるんじゃ…」


「そう…ね」

子煩悩な我が家のことだ、頼んだらもちろん買ってくれるだろう。

だけど…。


「少し思い出があってね、できれば自分の力で買いたいの」

「凄いね…。そうだ!麗華ちゃん!折角同じクラスなんだし、呼び捨てでいいよ!」

「ありがとう…!よろしくね」


「それではHRを終了します。1限は…日本史ね。皆さんちゃんと準備をしておくように!」

いつの間にかHRが終了していたみたいだ。


「それにしても…もう一人の転校生結局来なかったね」

「そういえば…」

「今日はもう来ないかしら…」

明らかに気落ちした様子の彼女。


「その転校生って…」

彼に声をかけようとしたその時。

「ねえ」

華蔵院俐々愛から声がかかる。

「っ…。何かしら」

「教科書、持ってる?」

「そういえば…。貰ってないわ。学園で渡すって聞いたけど」

「やっぱり。さっきの様子だとそもそも渡すことも忘れてる可能性があるわね…」

忘れてる…?先生の事だろうか…。

考えていたら、ガラガラと音を立てて歳を取ったスーツ姿の男性が入ってくる。恐らく日本史の教師だろう。


「1限は見せてあげるわ、授業が終わったら取りに行きなさいな」

「ありがとう、華蔵院さん」

「俐々愛」

「え?」

「俐々愛でいいわ。みんなそう呼んでる」

こちらを見ずに答える俐々愛さん。

「ふふ…わかったわ。俐々愛。これからよろしくね」

「ええ」

短くそれだけ告げると黒板に目を向ける俐々愛。

教室に入ったときは不安だったが、意外と仲良くやれるかもしれない。

席を彼女の傍に移動させながら密かにそう思ったのだった。



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