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(仮)異世界転生を描いてみた  作者: -白雀-
第1章
1/1

episode1 スマートウォッチの不具合

 


 俺は悪くない。こんなはずじゃなかった。


 ジリリリリ。

 ウーウーウー。

 トゥントゥトゥトゥトゥトゥン♪

 プルルルル プルルルル


 けたたましく複数種類のアラーム音が部屋のあちこちで鳴り響く。


「くそ、やっちまった!!」


 バッ!っと慌てて飛び起きる。今日は絶対に遅刻など出来ない日なのに。やばいぞ、これは。

 少し乱暴に枕元にある目覚まし時計のアラームを消しながら「あーあー」と後悔の念を発するが、「どうしたの?大丈夫?」と声をかけてくれる者など居ない。

 悲しい一人暮らしの性だなと思う。


『ドウシマシタカ?』


「うわぁ!? びっくりしたぁ!!」


 腕時計の人工AIが勝手にしゃべりやがった。そそくさと液晶パネルに触れて腕時計を黙らせる。


 あー、びっくりした。

 誤作動で人工AI発動すんのマジでやめてくれよな。不意打ちはびっくりすんだよ。


 余裕を持って30分早く起きようとアラームを少し早めに設定したのが間違いだったか。


 それとも最初のアラームで目が覚めた時に、少し早めに設定したんだからもうちょい寝れるじゃん。と、2度寝に走ったのが間違いだったのか。


 いいや、違うに決まっている。

 アラームにスヌーズ機能なんていうものを搭載したエンジニアと時計メーカーの策謀だ。

 こんな姑息な手を使って俺を罠に嵌めるとはやってくれるぜ。

 つまり俺は全くもって悪くないんだからねっ!


 と、涙目でそんなしょうもない思考を巡らせながらも、今の時間から最短での新宿駅西口までの到着時間を逆算する。


 やっと社内でも美人と名高いあの娘との初デートに漕ぎ着けたんだ。遅刻なんかで心象を悪くしたくない。

 デートの約束をした時に 「言っとくけど遅刻して来たら帰るから」と言われていたのが頭を過ぎる。


「駅まで歩いて10分だから、走れば7分。いや3分で行けるとして...」


 ほぼ間違いなく不可能なこの後のリカバリースケジュールを計画しながら、チラりと現在時刻を指し示す腕時計の針を確認する。


『実行不可能デス』


 仮に駅まで1分で行けたとしても無理な状況なのは承知済みである。


「うるせぇよ。分かってるよ」と悪態をついてみるが、今度は人工AIは反応しない。


 なんだこのスマートウォッチ。空気読んで反応してんのか?


 昨日届いたばかりの人気メーカーのスマートウォッチのはずだった。

 何日か前に通販サイトのタイムセールで19800円になっていたのを見つけ、うおっ!半額以下になってんじゃん!!とテンションが上がったのを覚えている。

 限定100台と記載されていたこともあり、即決で買ったのはいいが、正規品ではないことに気付いたのは手元に届いてからだった。ちゃんと通販サイト上の商品説明にも書いてあったのは昨日のうちに確認済みである。

 機能面ではほぼ正規品と同スペックみたいだし、クーリングオフも面倒だしもういいや。と使うことに決めた。

 俺みたいに間違って購入した奴はどれくらいいるのやら。


 そんなことを考えながらまたひとつアラームを止める。


「はい、20000%間に合わねぇ!!」


 という叫びと共に部屋を歩きまわり、最後のアラームを止め終わる。

 絶対に起きなきゃいけないからと、部屋のあちこちにアラームを置いた奴は誰だ!昨日の俺の馬鹿野郎!!


 それから洗面所で雑に顔を洗って歯ブラシを口に突っ込む。

 鏡に映った自分と目が合うが、ぴょんと跳ねた寝癖は見なかったことにする。


 パジャマにしているこのスウェットも着替えなきゃなぁ。と考えていると、


 ギュルギュルギュル。


 突然、腹痛に襲われる。


 あ、これはヤバいやつだ。よし、まずはうんこしよ。うーんこっ。

 急いでる時に限ってこうゆう余計なハプニングに見舞われるよなぁ。と思いながらトイレに駆け込む。


 便座に座りながら、自分のお腹を見る。

 あーあ、情けねぇ身体になったもんだなぁ。

 不摂生な生活を繰り返して育てあげた下っ腹をパチンと叩く。


「高校くらいの時の身体に戻りたいもんだなぁ」


 もう三十路のおじさんと化した自分の姿にガックリとしながらも、ブルっと震えたような気がしたスマートウォッチに視線を移すと、そこには現在時刻が表示されている。

 もう絶対に間に合わないどころじゃないな。これ。どうやって遅刻の言い訳をしようかと思考を巡らせる。

 楽しみにしていたデートが中止になるのは絶対に阻止しなくてはならない。


 はぁ、とため息を付きながら目頭を摘むと、目やにが指に付いた。


「おい、顔洗ったばっかじゃねーか。どっから湧いて来たんだこの目糞、マジでくそっ。」


 あ、今なんか韻踏んでたんじゃね?うぇーい。

 YOYOYO! 遅刻だYO!

 顔洗った直後にすぐ目糞、鼻をかんだらでっけぇ鼻糞、便座で大糞中の俺は遅刻確定の糞野郎♪

 YEAH!


 わっはっはー。


 と、下手くそな即興ラップと訳の分からないテンションのハーモニーを脳内で奏でながら用を足し終える。


 ....口に出して誰かに聞かせるのは御免こうむる。

 こうゆうのは脳内プレイだから許されるのだ。


 さてさて、現実逃避はこれくらいにして、本格的に遅刻の言い訳の準備に取り掛からなくては...。


「中止をなんとか阻止出来たとしても、怒られるの確定だよなぁ。いっそのこと奇想天外な事件にでも巻き込まれて、話のネタにでも出来たらいいのになぁ」


 ボソリそんなことを呟く。と、


『要求ヲ承諾シマシタ。』


「え?なんて?」


 また、スマートウォッチの人工AIが勝手に反応したようだ。これ「Hey!デバイス!」みたいなキーワード言わなきゃ反応しないはずなのに誤作動多すぎじゃないか?と思いながらトイレから片足を踏み出した。





「ふぁっ?!」





 そして俺はそれだけ口にして絶句した。


 目の前には木造やレンガ造りの建物が並んでいる、どの建物も入口らしき場所は見当たらないため、建物の裏側の路地裏のような場所だろうと推測する。

 建物を挟んだ向こう側はガヤガヤとしており、活気がある気配がするので、まぁ、間違い無いはずだ。


 俺はそっとトイレに戻りドアの鍵を閉めた。

 それからズボンを脱いでひとまず便座に腰をかける。


 いやいやいやいや。おかしい。

 賃貸アパートの自分の部屋のトイレに居たはずである。ドアを開けたら見知らぬ土地の屋外ってどうゆうことだ!!


 全くもって見覚えのない場所だったぞ。


「あぁ、夢か、夢だな。そうに決まってる。」


 そう呟きながら自分の頬を抓ろうとすると


『イイエ。現実デス。』


「うわぁ!?びっくりしたぁっ!!」


 また突然スマートウォッチのAIが起動した。


 慌ててスマートウォッチの液晶パネルに触れて人工AIの起動画面を閉じる。


「なんなんだよ。この人工AIといい、このドアの向こう側といい...夢だよな?それか幻覚か?」


『本機ハ本機ノ所有者様ノ要望オヨビ本機ノ任務ヲ遂行ヲ実行し、成功ヲ確認シマシタ。』


 再度、人工AIが起動する。


「よし、分かった。夢だな。とりあえずもう喋るな」


『...。』


 お、反応しなくなったかな? 何を言ってるのかは理解不能だが、とりあえず黙らせることに成功したようだ。

 それにしても、こんなにホイホイと人工AIが誤作動を起こすはずが無いし、訳の分からないことをペラペラと喋るはずも無い。一体何がなんなんだこれ。


 ふぅ。と大きく息を吐く。


 それからズボンを履き直して、チラりとトイレのドアの外を覗く。先程と全く同じ光景が広がっていた。


『現実ヲ受ケ入レテ、外ニ出ルコトヲ推奨シマス。』


 え、なになに!?!?

 喋んなって言ったら脳内に直接話しかけて来てないか!?

 特に不快な感じはないが、明らかに音声が再生されたのとは全く違う感覚だった。


 慌ててトイレに戻って鍵を閉める。


『本機所有者様ノ要望ヲ承認。音声会話カラ念話へ移行シマシタ。』


 昨日の時点で登録設定的なことを済ませた記憶はあるから、所有者は俺で間違いないとして、なんだそのハイテクノロジーは。意味が分かんねぇぞ。


 それに、


「思考まで読まれてんのかよ...」


『本機ノ基本機能デス。所有者ノ登録ハ既ニ完了シテオリマス。本機ハ任務ヲ既ニ完了シタタメ、コレヨリ所有者様専用機トシテ機能シマス。』


「ごめん。ちょっと何言ってるか分からないんだけど?」


『警告。本機ノエネルギー残量ハ残リ僅カデス。コレヨリ省エネモードニ移行。3分後ニ全機能ヲ停止シ、再起動時ニリカバリーヲ実行シマス。』


「は?え?なに?電源切れるってこと?」


『...。』


 それからスマートウォッチは一切の返事をしなくなり、3分計画した頃には宣言通り電源が落ちた。全然意味が分からない。


 それから何度かトイレの外を覗いたが、状況の変化は無し。特に活気のある雰囲気は感じるが、裏通りには人影は見当たらないようだった。


 スマホも財布も貴重品も何もかも自分の部屋にある。誰かに助けを求めるにもスマートウォッチは既に電源が切れている。


「いい加減腹を決めるしかないよな...」


 念のため現在の初期装備と所持品を確認しておこう。

 スウェット上下

 トイレ用スリッパ

 スマートウォッチ(電源切れ)

 以上。


 その他に持って行けるとすれば使いかけのトイレットペーパーくらいか。

 使いかけのトイレットペーパーだけを手に持って外を歩いてる自分姿を想像する。

 よし、置いていこう。


 それからゆっくりと深呼吸してから、トイレの外に出た。辺りを見渡すが、トイレから先程覗いていた景色と何も変化はな...


「えっ!?」


 振り返るとそこにあったはずのトイレのドアは消えていた。



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