オタクとHENTAI
翌年、ニャーロッパ出版の5周年企画短編集は無事12ヶ月分出版された。
洒落にならん事はできん、という話もあったが、岡田の『やりたいようにやる』の一言でどこにも忖度しない、空気読まない短編集に仕上がった。
おふざけが過ぎるのでは、という内容も一部あったが、それなりに受け入れてもらえたほうだろう。
そして日本の「オタク」と「HENTAI」はさらに世界に浸透、海外での出版も決まった。
「オタク」と「HENTAI」の勝利の日も近いのかもしれない。
ニャーロッパ出版は10周年という偉業へとむけて今日も邁進し続けている。
10年目にはテーマを決めて短編を募集するのだと張り切って。
ちなみに創業以来、社員はまだ誰一人辞めていない。もちろん、結婚退職も妊娠・出産退職者もいない。悲しい事である。
「桂川先生、予約特典届きましたよ」
「本当か! 寄越せ、早く!」
桂川は喜色もあらわに手を伸ばして本を受け取った。
「おお、おお、おお! ぷるぷるむっちん先生にHぃーーん先生にきんかんの品種名を叫べ先生! やはりニャーロッパ出版は天才揃いだな! 俺の作品を選ばなかったのは節穴だがまあ認めてやろう。俺もまだ本気を出してはいないからな!」
桂川。
多くの人物から『先生』と尊敬され、熱狂的なファンを世界中に持つ彼の小説家のANNNYAROU……ではなく、ノクチュルヌでのペンネームは縄ぎっちり。
推しはいても推されはしない超絶底辺作家である。作品の評価ポイントは基本ゼロ。たまに応援と同情で作家仲間が2Pを投下してくれると泣いて喜ぶ。
底辺の理由?
クソほど面白くないから。
そして文章が壊滅的だから。
品のないエロが中心でしかもそこまでエロくもないから。
彼を贔屓に引き倒しまくった世界中の神々は、なぜか文才だけは与えなかったらしい。
それでも心の底から楽しめる辺り、好きも1つの才能と考えればそうでもないのかもしれないが。
彼の秘密の趣味が表に出ないよう、周囲はものすごく気を使っている。
例えば小説家のANNNYAROUにセキュリティ周り用にと投資をするとか。メディアに投資をするとか。
だがそんな苦労が報われているのかいないのか、ファンにはそんな一面もステキ、と受け入れられているのはありがたい事なのだろう。
もともと彼が華道を始めたのは家柄というより着物の年上美女に囲まれるのが好きだったからで、茶道も日舞も詩吟も同じ理由からだった。芸者さんは女神、芸妓と舞妓は美の極地、と言い切ったこともある。
パリウッドに行ったのは当時お気に入りの巨乳美人女優に会いたかったからだし、俳優になったのは彼女たちとのカラミに釣られて。
日本に戻ってきたのは夏と冬のイベントが忘れられなかったからで、日本画を始めたのは着物美女の春画を描きたかったから。お気に入りは縄で強調された胸だそうだ。
桂川、という雅号も旅行中、好みの博多美女と出会った駅名だとかなんとか。
彼のファンはそんなエロに特化した彼の人生を知っていて愛してくれている。なんというか心が広いというかバカばっかりというか。
やはりオタクやHENTAIが市民権を得て自由になる日が近いのかもしれない。
そんなおかしなNIPPONで、今日もニャーロッパ出版の会議室では事件が起きている。
頑張れニャーロッパ出版!
頑張れ小説家のANNNYAROU!
NIPPONの夜明けはすぐそこだ!
〜 了! 〜