恐るべし、ステータス金運全振り!
……さて。
なんだかんだで会議は踊り、なんだかんだで会議室で起きていた事件は解決した。
ようするに出版が決定し、諸々が決まったのである。あとは実行するだけ。
社員たちは、次の新しい仕事みつけなきゃなあ、と残念に思いながらそれぞれの仕事を始めた。
様子が変わってきたのは計画がHPで発表されてしばらくしてからだった。
『それでは桂川先生は読書もお好きなんですか?』
『ええ』
『では普段はどのようなものをお読みになっているんでしょう』
『なんでも読みますよ。でも最近は若い人の感性に触れたくて、若い作家さんやネットのアマチュアの作家さんたちの作品をよく読んでいますね』
『若い方やアマチュアの。それはまたなぜでしょう。何か理由がおありになるんですか?』
『やはり、この年になりますとものの見方や考え方が固まってきますから。新鮮な切り口や、今の社会に対する考え方など、さまざまなものを仕事や人生に取り込んで活かすようにしているんです』
『さすがです。ちなみに、最近お気に入りの作品とかはありますか? 僕もぜひ読んで今後に役立てたいと思います』
『そうですね。どれか1つ、というのはなかなかに難しいのですが……。ああ、そういえば、今度アマチュアの方の作品ばかりを集めた短編集がシリーズで出るんですよ』
『へえ、詳しく伺ってもいいですか?』
『ええ。ニャーロッパ出版という小さな出版社が、小説の投稿サイトから選んだ短編作品を集めて本にするらしいんですが、それがなんと来年1月から毎月出すらしいんです。ファンタジーや恋愛、童話、詩、といったテーマを決めて集めたものらしいんですが、それが今から楽しみで。もう全巻予約したんですよ』
『全巻、という事は12冊ですか!』
『ええ。若い才能や埋もれた才能をこうして世に出していこうとする、小さいながらに気合の入った良い出版社だと感じたので、応援したくて』
『なるほど。僕も応援してみたくなりました。早速予約しようと思います。ところで、桂川先生の今後のご予定なのですが……』
その番組の録画を高崎は、FAXの着信と電話が鳴り止まない事務所の一角で岡田の秘書に見せられていた。
「これが原因か……」
「はい。このあと、桂川のファンだというモデルや俳優、コメンテーターらがあちこちで予約したという話をし、さらにそのファンや一般層にまで予約が広がり……という状況のようです」
桂川は華道の家元の息子として生まれ、現在は日本画の大家として世界的に有名な人物である。若い頃は茶道や日舞、詩吟をたしなみ、その恵まれた美貌と体格でパリウッドで俳優として成功を収め、惜しまれながらも日本へ戻ってきた。
家元は継がなかったものの、そのマルチな才能を活かしてメディアにも引っ張りだこで、50歳を超えた今でも老若男女問わずモテモテなのである。
そしてそんな人物が、お昼のバラエティ系ニュース番組にゲストとして登場したさい、ニャーロッパ出版の5周年企画について語ってくれたというわけだ。
誰もが寝耳に水だった。
放送があったその日から、訳もわからず全員で対応に追われている。
「さすがは岡田。恐ろしい金運だな……」
腕を組んでつぶやいた高崎に、岡田の秘書は沈痛な面持ちでうなずいたのだった。