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企画会議?


「さて、こうして集まってもらったのは他でもない」


 机に両肘を置き、両手を顔の前で組み合わせた向こうから眼光鋭く会議室の全員を見渡したのは、ここニャーロッパ出版社長の岡田だ。


 ちなみにこのやけにキメ顔の岡田社長、彼女いない歴イコール年齢のデブの小男で、生まれてこの方1度もモテた事がない。


 そしてこのニャーロッパ出版も、来年でようやく5周年のいつ潰れてもおかしくない弱小出版である。


 その弱小のわりにはきれいなビルに入っている会社の社員達(まあこれも言っても10人しかいない)は、8月の夏休み直前に呼び出され、従業員全員がこの会議室に集まっていた。そしてその誰もが不機嫌を隠しきれていない。なにしろ夏休み前の会議である。





 ニャーロッパ出版は、金持ちの家に生まれて株と不動産で働かなくてもいい、悠々自適な生活を送る岡田が趣味で立ち上げた会社だ。気持ちはわかるが、クソ金持ち滅べ、とか言わないでやってほしい。金は使いよう、つまりはクソ金持ちも使いようなのだ。


 しかも繰り返すようだがこの男、彼女いない歴イコール年齢のデブの小男で、生まれてこの方1度も……すまん、書いててあんまりにも哀れで泣けてくるのでこのくらいで。けして作者が辛い過去を思い出して泣けてくるわけではないことだけは、どうかご承知おきいただきたい。



 さてこのニャーロッパ出版、従業員の半分は漫画家と兼任という意味不明な出版社である。


 岡田が学生時代所属していた漫研の部員やその友人から、有望な人間をスカウトしてきて書籍のイラストやコミカライズの作画担当を主な仕事として受け持ってもらっている。


 イラストもコミカライズの仕事もない時は、他の作家のアシスタントや編集・営業が仕事だ。


 そして残りの半分、事務員と編集者が普通の出版社の仕事をしている。


 ブラックかホワイトかと問われれば限りなくブラックであろうが、噂に聞く出版業務はどこもそんなもの、とみんな半分諦めてもいた。まあでも趣味と仕事が一緒なので、嬉々としてやっている部分は否めない。


 そんな彼らが集まって早々、会議室で言われた事は、


「まあ飲め」


 だった。



 会議室の机の上には高そうな酒から安売り店で大量に書い込んだであろうビールや酎ハイの缶、そしてお菓子や乾き物のツマミが並んでいる。


「今日は仕事をしない。自由にやってくれ」


 今日に限っては出社は15時からでいいと言っていたのはこのためか、と誰もが理解したが、あまり喜んではいない。

 酒が好きではない者もいれば、仕事が溜まっている者もいる。そして午後から出社するくらいなら寝ていたいというのが全員の本音だ。有り体に言えば迷惑な、と吐き捨てたいところだった。


 だがそれも出前が届くまでの事だった。


「ちわーーっす、門倉寿司でーす」


「ピザLサイズ3つですねーー」


 そして岡田の秘書が料亭の仕出しを運び込んだ時点で、爆上がりしまくっていた岡田の株はストップ高となる。


「しゃちょおーーーー!! あんた最高ですよ!」

「オレ、ずっとついて行くっすーー!」

「岡田くん、あんた絶対やる男だと思ってたよ!」


 酔っ払いの集団感激。


「おう! 今は自粛自粛でこんな時期だが、世間が落ち着いたらステーキでも鍋でもなんでも食わせてやるからな!」


「ひゅーーー!!」

「社長男前!!」

「オレドンペリ飲みたいっス!」

「あたしキャビア!」

「俺美人の女の子!」


「任せとけ! あと飯田、キャビアなら持ってきてるぞ。隣の部屋で料理人が用意してる」


「ひゅーー! 社長マジイケメン!」


 言いながら飯田は岡田のほうを見もせずに隣室へ突撃していった。


「今日は無礼講だ。いつも頑張ってもらってるからな。明日から夏休みだが、ゆっくり休んでまた頼む」


「「「 はい! 」」」






 会は和やかに進んで行った。最初のうちは。



「ちょっとあんた、なにさり気なく高い酒飲んでんのよ。遠慮しなさいよ。ていうか酒は好きじゃない、とか言ってなかった!?」

「酒は好きじゃない。でも飲まないとは一言も言ってない。それにこの酒は美味いから例外なんだよ。多分これ酒じゃないんじゃないかな」



「あ、ちょっと社長、それ、そこのお寿司ちょうだい」

「これか?」

「そそ、イクラのやつ」



「あーーー、クリスマスまでには彼氏欲しーーーい!」

「マキ先輩、去年もそんなこと言ってましたよね」

「もう諦めたほうがいいんじゃないんすか? 大体クリスマスとか薄い本のほうでそれどころじゃないっしょ」

「うっさい! あたしが結婚できないのは忙しすぎるからよ! おい岡田、おまえ責任持ってオトコ紹介しろよ!」

「いやあ、マキ先輩は美人過ぎてムリですよ。相手がいませんって」


 すでに岡田呼ばわりの社長は気にしたふうもなく、それどころか相手にする様子さえなく、視線も合わせずに適当に言ってのける。


「それはあ! 分かってんのよ! だからそこをなんとか、ね! お願いよう、岡田ちゃーーん」

「まーーた始まったよ、マキ先輩」

「オタクで腐女子とかキツいっしょ」

「あんたらマキ先輩のこと言えないからな、クソロリコンどもが」

「ああ!? ロリは神だからな!?」

「ふざけんな、ブーース!」

「キメえんだよ、ハゲ!」



「そろそろ収拾つかねえな」

「はじまってまだ1時間たってないよ? みんなアルコール回るの早すぎでしょ」

「これ外に出すとかムリだよね」

「出禁になるよね」

「次は社長の別荘でやるってさ」

「あの人もなあ、なんでこんな連中と付き合ってんだか」

「うわ、こいつ自分だけまともなフリしやがったよ」


 こんな中で平然と酒を飲んでいる人間である。そもそも、まともであればこんな会社についてきたりはしない。



 あちこちで抗争が勃発しながら、酒と料理が段々と減っていく中。


 頭にネクタイを巻いてワイシャツをはだけさせ、更にはたっぷりと脂の乗った腹にマジックで福笑いの顔を描かれた岡田が立ち上がった。









全5話。 今日中に完結します。

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