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アングレカム第2章【花火大会編】

作者: さか。

前作アングレカム第1章【夏の日常編】

の続きです


前作を読んでからの方が入り易いと思います



 花火大会前日の今宵。みうは1人浴衣を見つめて決意を固めていた。


 今まで幼馴染としてお互い接してきていたりゅうのすけに花火大会で告白をするために。


 1日目でも2日目でも良い。彼を見つけたら想いを告げる。そう心に決めていた。


 心の奥底で高鳴る鼓動を抑えながら、綺麗に整った美人な顔を自分で叩く。


 みう「……りゅう……今までずっと一緒に居て、知らない間に貴方を好きになっていました……」


 鏡を見つめてみうは続ける。


 みう「……小学生の頃からりゅうはあんまり変わってません。ずっとそのまま。でもちゃんと大人ってなっている。いや、元々大人だったのかもしれません。普段口悪くて、ワガママばっかり言う貴方ですが、そんな口の悪さの中にある優しさや、ワガママの中にある自由さに私は知らず識らずの内に惹かれていたのかも知れません……」


 深い深呼吸をして、数秒黙り込む。


 みう「ああ、ダメダメ。こんなんじゃ固い。それならひなちゃんみたいにフランクに告う方がいいかも……」


 頰を赤らめながら俯いて考え事を始める。


 みう(……まさかさくちゃんもりゅうの事が好きなんて……いや、りゅうの事が好きな女の子なんて今までも居たやん……今更やん……今までだってりゅうはどんな女の子にも見向きもしなかった……みうでさえ……)


 胸が苦しくなり、嗚咽を吐きながらみうは泣き出した。そう、今の今までずっと一緒に居たのに、りゅうはどんな女の子にも見向きをしなかった。付き合ってた女の子は何人か居たのは知ってる。だがどの女の子もりゅうが我慢出来ずに振っている。


 自分なら、と思う事は何度でもあった。しかし、今まで告う勇気が無かった。


 みう「さくちゃんに酷い事言っちゃったな……一方的な片想いで終わるかも……なんて……特大ブーメラン投げたかも知れないのに、何やってんだろ……ダメだな……この感情にはどうしても抗えない……」


 コップに入れてあった麦茶を飲みながら、夜空を見上げる。明日と明後日にはあの空に花火という炎の絵が打ち上がる。


 円の形をした炎の絵を観ながらならちゃんと告えるのかな。なんてそう考えながらみうはまた麦茶を飲んだ。


 みう「はぁ、やっぱ好きだな。邪魔なようで邪魔じゃないこの感情はやっぱり捨てきれないよ。ごめん、さくちゃん。ひどい事言って。今度会ったら謝ろう。ごめんりゅう。こんな私が貴方の事を好きになってしまって。」


 みうの頰には少し流れの緩やかな川が流れる。

 それは煌びやかで、美しい夜空の月の元光る宝石のような眩しさがあった。


 恋をした乙女はまた一つと美しくなった。



 _____________________



 花火大会を迎えた今日の日の朝。ひなはそう言えばあまり手を付けていなかった夏休みの課題に手を伸ばしていた。


 ひな「いやぁ、盲点やがな。そういや最近遊んでばっかで夏休みの課題とかすっかり頭ん中から抜けてたわ。んー!誰か一緒にやってくれる人居らんかな。とりあえずまきちゃんとまや姉さんに連絡入れてみるか。」


 そうして、ひなはまきとまやに連絡を入れ、一緒に宿題をしようと呼び掛けた。なんとも偶然ながら2人ともひな同様あまり手を付けていなかった様子。


 ひなに言われて思い出し、即座にひなの家にて課題を持ち寄りある程度終わらせる事となった。


 そうして正午を過ぎた頃……。


 ひな「まきちゃん〜!まや姉さん〜!来てくれてありがとう〜!ひな1人やと出来る気せえへんからめちゃくちゃ嬉しい!」


 まき「当たり前やひなちゃん。困った時はお互い様やで。明日と明後日をより楽しむ為にもがんばろ!」


 まや「まあ、私もそんなにやってへんかったから丁度良かっただけやねんけどな。」


 ひな「まあまあ、課題がゴッソリ残ってる夏休みなんか小学生までやからな。高校生のゴッソリ残ってる課題程怖いもんはないからな。一緒にがんばろ」


 まき「いや、ほんまに。成績にも響くし、夏休み終わった途端にテストあるしな。」


 まや「夏休み終わる前にも3人で集まって、勉強会でもしようや」


 まき「ありあり!」


 ひな「とりあえず、2人ともひなの部屋行っといて〜。ちょっとお茶の用意だけして来るから。」


 まき「えぇ、ひなちゃん!うちも手伝うよ!」


 まや「なら、私がこのお菓子を持って行っておこう。」


 ひな「いやいや、2人ともお客様やで!?ひなのおもてなし素直に受け止めて〜!」


 そんなこんなで3人でお茶と茶菓子を用意し、ひなの部屋へと入った。


 部屋に入り、勉強を始める前にまきが落ち着いて勉強を出来るようにとリラックス効果のある音楽を流す。


 ひなもまやもその曲を気に入り、その曲を流しながらの即興勉強会は始まったのである。


 昼過ぎから夕方になるまで3人はたまにトイレに行くくらいで一言も喋る事も無く、ある程度の課題を終わらせて行った。


 ひな「ふー、一旦休憩!」


 まや「いやぁ、2時間くらいぶっ通しで集中してやったのにまだ結構残ってるもんやな。」


 まき「高校生の課題、恐るべし」


 ひな「まぁ、まだ夏休みも結構残ってるし、コツコツやったら終わるとは思うんやけどな。」


 まき「こりゃ、定期的に集まって夏休みの課題一緒にした方が良いのでは。」


 まや「いいね。1人より集中しやすい上に、まきちゃんのその音楽があればかなり効率的に課題終わりそう。」


 ひな「せやなあ。明日明後日と花火大会って言う楽しみがあるけど、その楽しみを楽しんでるままやとあかんしな。」


 まき「そうそう。我々学生は学業をしっかりしないと。」


 まや「やなー。テストも悪い成績残したら親に怒られるやろし。」


 ひな「ひなもスマホ没収とかなったら死ぬ。」


 まき「うちはしばらく家でずっと勉強させられそう。」


 3人「……はぁ〜〜〜……」


 3人は同時に出した深い溜息に、3人同時のシンクロにツボって笑いながらまた課題をやり始めた。


 ……早く終わらせないと夏休みも終わってしまうため……



 _____________________



 昼過ぎに起きたりゅうのすけは寝ぼけた顔をしながらスマホを見た。LINEで不在着信があり、その不在着信の相手に電話を掛けた。


 りゅうのすけ「……んん……あぁ……ゔんっ……あ、もしもし……どうしたのかずきくん……」


 かずき『もしもし。りゅう、お前今起きたろ』


 りゅう「うん、おはよ。かずきくんのラブコールで起きた。」


 かずき『はいはい。お前今日たいちくんと映画行くって言ってたの忘れてるだろ』


 りゅうのすけ「あれ、それって今日だっけ……あれ今日って何日……」


 かずき『8月13日だよ。』


 りゅうのすけ「あ、やべ。昨日夜中までゲームしてて寝るの遅かったんだ。マジごめん。今すぐ行くわ。」


 かずき『おう、気をつけてな。』


 電話を切り、りゅうのすけは急いで洗面所に行き、顔を洗い、髪の毛をセットする。


 即座に歯磨きを終わらせ、服を着替えてりゅうのすけは財布やモバイルバッテリーなどをリュックに詰め込み、ポケットにスマホを入れて急いで靴を履いて扉を開け、鍵を閉めた。


 めちゃくちゃに全力で、イオンモールへと向かって突っ走る。

 早く行かないと。遅刻とかの前に寝坊してしまったことが何よりも申し訳ない。


 普段は絶対に見せない全力を誰に見せる訳でもなく出してりゅうのすけは走った。


 若干坂道になっている道も全力で駆け登る。あの曲がり角を曲がれば後はイオンモールまでの道はまっすぐに続く一本道になっている。


 そうして息が切れる程に疲れ、汗を大量に流しながらりゅうのすけはイオンモールへ辿り着いた。


 りゅうのすけ「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁ!ゼェゼェ……ハーァッ!!」


 ゆっくりとイオンモールの中へと入り、入口付近にあるエスカレーター近くにある自動販売機にてポカリを購入して、そのまま自動販売機の目の前にあったベンチ型ソファに鎮座し、体力の回復を図る。


 カバンの中からタオルを出して、大量に流れる汗を拭いとり、ポカリを飲む。


 りゅうのすけ「ングッングッ!ングッングッ!プハァーッ!はぁはぁ……」


 そうして10分後汗も体力的にも、落ち着いた頃にかずきとたいちの待つ映画館へと歩く。


 5分もした頃に辿り着き、りゅうのすけはかずきとたいちに全力で平謝りをして、かずきにまだ映画の時間に少し余裕がある事を告げられ少し安堵する。


 りゅうのすけ「よかったぁ。俺のせいで映画の時間ズレて迷惑かけるとこだったよ。」


 たいち「結構時間の余裕がある時に電話かけたからな。流石かずき」


 かずき「まぁ、一本逃すくらいなんの問題もないっちゃないんだけどな。出来れば事前に決めてた時間に見たいだろ?」


 りゅうのすけ「さっすがかずきくん!惚れ直しそう!」


 かずき「はいはい。とりあえずさっき言った通りまだ少し時間あるし、飲み物とか買っとくか。」


 たいち「おっけい!劇場の飲み物を買うか、スーパーで買うかどっちにする?」


 かずき「俺お茶が良いからスーパーかな。」


 りゅうのすけ「俺もMonster飲みたいからスーパーで。」


 そうして3人はイオンモールのスーパー、マックスバリュまで向かい、各々の買い物を済ませて行く。


 たいち「劇場のポップコーン買うよりスーパーで買った方が良くない?」


 りゅうのすけ「安いけど、袋がガサガサ音立てて周りに迷惑だよ」


 たいち「そりゃそうか」


 各々の買い物は終え、映画館へと戻り時間を確認してそろそろという事で劇場へと足を運んだ。


 約2時間の放映を終了し、かずきとたいちとりゅうのすけは面白かったなどと感想を言い合いながら劇場から出て来た。


 りゅうのすけ「ラストが結構好きだわ」


 たいち「俺は途中であった出来事も結構好きやで」


 かずき「最初から最後まで楽しめたわ」


 劇場すぐ近くにあるゴミ捨て場にゴミを捨てて3人はそのまま時間が余ったのでゲームセンターへと向かう。


 ゲームセンターに行くと、りゅうのすけは颯爽とガンダムのゲームをしに急ぎ足で向かったので、仕方なくかずきとたいちはエアホッケーで遊ぶ事に。


 2回戦して、1回戦目にたいちが勝ち、2回戦目でかずきが勝ったので、決着を付ける事に。


 たいち「めちゃくちゃええ勝負やん!これ勝った方になんかジュース奢るとかしようや」


 かずき「いいよ!よし、何飲もうかな」


 たいち「うざ!もう勝つ気でおるやん!」


 そうして、お互いにジュースを賭け、2人で100円ずつをゲーム機へ投入してゲームを開始する。


 カーン!カーン!と聞こえの良い打撃音を30秒ほど鳴らし続けながら、かずきが1ポイントを先取して行く。


 そのすぐにたいちが1ポイントを返して取る。またかずきが1ポイント。そしてたいちが1ポイント……。


 気がつくと10-10の対決になり、ゲームは終了している。しかしまだエアホッケーのゲーム台の上にはホッケーが残されている。


 そしてそれを持っているのは……かずきだ。


 かずき「これ決めた方が勝ちって事で!」


 たいち「よっしゃ、来い!」


 かずき「ジュース、貰ったぁ!!」


 卓球で言うところのスマッシュの如く打ち出されたホッケーは物凄いスピードでカクカクと壁に当たりながらも、たいちのゴール目掛けて突き進んで行く。


 然し乍らもゲームは終了していて、ゲーム機本体から本来出ているであろう、エアホッケーのスピードを増す効果をもたらす風は吹いていない。そのため徐々に徐々にとスピードは殺されていく。


 たいちは見事にキャッチして、そのまま手で地面を擦るように、手裏剣を投げるかのようにそれをかずきのゴール目掛けて打つ。


 しかしそれをかずきもキャッチ。すぐさま打ち返したため、最後は呆気なくたいちのゴールへと入ってしまう。


 たいち「うおぉおっ!!くそぉ!俺の負けや!」


 かずき「よっしゃぁ!!」


 そしてそのままお互いに良い勝負であった事を称え合いながら近くにあった自動販売機にて、かずきは勝利のジュースをたいちに買ってもらった。


 その後ガンダムのゲームを終えたりゅうのすけと合流し、3人はマリオカートで3人対戦し、またまた良い勝負を展開させながら、最後にたいちが勝ち、3人で談笑しながら各々ジュースを飲んだ。


 かずき「たいちくんの最後のこうらが飛んで来なければ……」


 たいち「ふっふーん!やっぱマリカの赤こうらは最強よな!」


 りゅうのすけ「お陰様で最終的に最下位で終わらずに済みました」


 しばらくゲームセンターで遊んだ後、そろそろいい時間だったのでそろそろ帰ろうかと言う事で3人で帰宅路につく事に。


 かずき「そういや、明日明後日と花火大会だな。」


 たいち「そうやなー。俺クラスの子らといく予定やけど、人多そうやからバラバラになりそう」


 かずき「二日間もやる上に、他県からも人来てるらしいからな。はぐれたら一巻の終わりだな。」


 りゅうのすけ「あ、明日からか。花火大会。」


 たいち「りゅうお前また忘れてたんか。大丈夫か?記憶障害になって来てるんやないか」


 りゅうのすけ「いや、なんか花火大会がある事とかは覚えてるんやけど、いつだったかは覚えてないんよな。もっと近くになってから教えて欲しい。」


 かずき「1ヶ月近く前から言ってたしな。」


 りゅうのすけ「そうそう。せめて1週間前に……あ、俺昨日か一昨日くらいにさくちゃんと会ってその時に花火大会の話してたわ。」


 たいち「ほら〜。てか単にゲームしてて忘れてただけじゃね。お前そんなに興味無いやろ、花火大会。」


 りゅうのすけ「うん。たこ焼きと前にひろあきが言ってたひろあきデザインの花火を打ち上げるって話は覚えてるんだけどな。いつやるとかは覚えてなかった。」


 かずき「さくちゃんと、もうすぐだねとか話さんかったん?」


 りゅうのすけ「ううん、話してない。俺が初めて花火大会に行くって話したくらい。」


 たいち「逆に行った事ないのもすごいと思うけどな……」


 花火大会前日の今日。りゅうのすけはやっと明日と明後日に花火大会が開催される事を知った。



 _____________________



 花火大会初日の今日、まだ午前中だと言うのに人混みは凄みを増すばかり。


 2日目と比べるとまだまだ少ない方ではあるが、それでも数百人は来ている模様。


 そのほとんどは小・中学生がほとんどではあるが。大人達も花火を打ち上げる際の入念のチェックや会議をひたすらと繰り返している。


 子供達はそんな事を知る由も無く屋台でオモチャを手に入れ、それを使い戦争ゴッコをする小学生や、祭を口実に集まって駄弁ったりしている中学生で溢れかえる。


 何校の小学校、中学校の生徒達が集まっているのかは検討がつかないが、中には校区外で本来は子供だけで来てはならない小学生達や、いくつかの電車を乗り継いで遊びに来ている中学生なんて者達が溢れかえっている。


 そこに徐々に老夫婦や、熟年夫婦も加えられ、午前中だけでもかなりの人数の人々が祭に集って行く。


 そうして時間が過ぎると共にじわじわと増える人々だけでも祭は賑やかさを増して行っている。


 夕刻17時を迎えた頃、河川敷近くにある公園にて、さくら達は集合していた。


 さくら「まきちゃん可愛過ぎませんか」


 まき「特大ブーメランかよ」


 ゆうか「みんな可愛いわぁ」


 ひな「浴衣で集まんのも新鮮やな」


 まや「普段着ないから余計にね」


 はるか「ほんと、目の保養」


 みう「さっちゃんの浴衣綺麗やなぁ」


 さつき「そうやろ〜!お母さんのお古やねん!」


 なお「この水色に黄色い花が良い感じにマッチしてるのが良きね。」


 さつき「なおちゃんの黒に紫の花ってのも大人っぽくて好き!」


 なお「ふふふ……よっしゃ!」


 あきせ「男子勢の浴衣はシンプルなデザインやけど、みんな落ち着いてて良いな」


 たいち「女子の浴衣とは違った良さがあるよな」


 くうどう「いやぁ、俺、浴衣似合い過ぎん?」



 たいち「いやほんまに。お前おちゃらけキャラのクセして顔整ってるし、スタイル良いしでなんなん」


 くうどう「いや、ネタで言ったからマジで言われると照れるわ。なはは。」


 あきせ「わろた。」


 たいち「せいじもくうどうと同じ感じのスタイルしてるからマジかっこいいわ」


 せいじ「ほんま?照れるわ。なはは。」


 あきせ「くうどうの真似せんでよろしい。」


 かずき「りゅう、なんか考え事か?」


 りゅう「かずきくんとのデートの構想」


 かずき「真面目に聞いた俺がバカやったわ」


 りゅう「照れるなよ〜〜!んふふ!」


 ひろあき「りゅうくんは相変わらずやな。」


 りゅう「んあ?なんだこら?怒るよ?怒って良いの?ムフゥ!」


 ひろあき「なんやその腑抜けた笑顔は。」


 るい「せいやくんは完全どっかのチンピラやな」


 せいや「チンピラちゃうわい!普通の人ですぅ〜〜」


 まき「うち、せいやくんの事ずっとヤンキーかチンピラやと思ってた」


 せいや「うるさいぞ大阪のおばちゃん」


 まき「キラーイ!」


 せいや「はーい。キラーイ!」


 まき「キラーイ!」


 さくら「ゆうかちゃんの髪飾り綺麗だね」


 ゆうか「そー?ありがとう!」


 さつき「ほんま、オシャレ」


 ゆうか「ちょー、そんな見んといて〜〜!恥ずかしいやん〜!」


 まや「さくちゃんの赤に桜の浴衣も可愛いなぁ。顔も可愛いから余計に」


 さくら「そんな事ないよ!可愛くもないし!さくらブスだもん!」


 はるか「いやいや、さくちゃんでブスやったらうちどうなんの!?」


 さくら「高身長美人」


 はるか「ナイナイ」


 さくら「あるある」


 ひな「まぁ、さとみが?1番美しいんやけどな?」


 まき「ウッ!眩しい!」


 ゆうか「直視出来ない……」


 あきせ「それiPhoneのライトや」


 かずき「よーし、そろそろ、2人組み決めるか。男女で分けるんだっけ?」


 ゆうか「あ、かずき。その前にみんなで写真撮ろうよ」


 かずき「あぁ、そうだな。ごめんごめん。」


 まき「どう並ぶ?」


 さつき「男女に分かれても良いし、それか男女に分かれてから、上は男子、下は女子って感じで分かれる?そこに階段あるし。」


 あきせ「あー、つまり男子が上の段に並んで女子が下の段に並ぶって事?んでお互い前後ろにペアがおる感じで。」


 さつき「そうそう!」


 かずき「そうしよか?」


 ゆうか「その方が後で見た時、この時誰とペアだったとか色々思い出せて良いかも。」


 かくして彼らはLINEのグループに機能されているあみだくじ機能を使い、適当なペアを作る事となった。


 夏休み前まではもっと少ない人数で集まる予定だったが、飲み会の時や他のメンバーが違うメンバーと遊んだ時に誘ったりやらで結局飲み会に集ったメンバー全員が集まった。


 元々集まるメンツだと男女比が同じにならない、という理由もあったりしたが。


 そうして出来たペアで雰囲気だけカップルのように楽しもうという事でこの案は立証された。


 1分後、あみだくじ機能にて出来たカップルは、こちら。


 さくら、せいじペア。


 なお、かずきペア。


 まき、あきせペア。


 ひな、せいやペア。


 みう、りゅうのすけペア。


 まや、ひろあきペア。


 はるか、たいちペア。


 さつき、るいペア。


 ゆうか、くうどうペア。


 以上のペアに分かれ、本日の花火大会の出店を回る事となった。勿論花火が打ち上がる20時から21時の間は、事前に指定した場所に集合する事となっていた。


 そこは、事前にかずきが知っていた花火がよく見え、周りに人が少ない穴場らしい。


 しかし集合自体は自由となっている。


 もしも2人で見たいとなった場合は2人で見る事の自由を与えたのだ。


 その集合の自由を知っていたみうはりゅうのすけとペアになれた時点で心の中でホッとしつつ、小さくガッツポーズを決めていた。


 公園にある公民館の前にある階段で先程さつきが言った通りに並び、まきが持って来た自撮り棒で集合写真を撮り、各ペアは解散し、それぞれ自由に屋台を回りに向かった。


 そうして彼らの花火大会は、ひと夏の波乱が起きそうな予感を残しながらも、始まりを告げたのだった。



 _____________________



 河川敷の下にある川の近くにて立ち並ぶ屋台を見ながらかずきとなおは歩いていた。


 かずき「んー!っと。とりあえずなんか食うか?」


 なお「うん、そうだね。なお、イカ焼き食べたい。」


 かずき「いいね、イカ焼き。お、丁度近くにあるやん。行こっか。」


 なお「イェーイ!」


 かずき「おっちゃん!イカ焼き2本!」


 なお「私は小さいので良いよ。」


 かずき「俺はその中くらいのサイズので。」


 おっちゃん「あいよ!ありがとね〜!若いカップルかい?花火大会楽しんでな!」


 かずき「ははは、ありがとうございます」


 なお「ウヘヘ、いただきます。んー、祭に来たって感じするぅ」


 かずき「祭によくあるしな。たこ焼きとか、わたあめとかも祭に来た感じするわ。」


 なお「分かる分かる。」


 そのまま2人はイカ焼きの屋台を後にして、スーパーボールすくいを楽しみ、適当なアニメキャラの仮面を手に入れてそれをつけながらまた適当な屋台を回った。


 タコ焼きを買いに行き、なおが少食なため、半分ずつを2人で分け、かずきが熱がりながら頬張る姿を見てなおが笑い掛ける。


 なおも食べようとしたらやはり熱く、かずきもそれを見て笑い、なおの肩を軽く叩く。


 なお「ふぉっふぉっ!」


 かずき「ほらなぁ?熱いやろ?はは!」


 タコ焼きを食べ終え、金魚すくいを堪能しに向かい、2人とも全然捕れないまま終わる。


 2人共全然下手くそじゃねえかと笑い合いながら立ち上がって、次へ行こうとした。


 その時なおが足を引っ掛け、バランスを崩し、全面へ倒れこもうとしてしまう。

 かずきは即座になおを抱え込むように彼女を支える。


 かずき「うぉっ……と。大丈夫?」


 なお「お……うん……大丈夫。ありがとう。」


 高鳴る胸を抑えながら、なおはかずきから離され、体制を整える。


 なお(お、お、うぉおぉっ!!ヤベェってやめろって!こういうハプニングはラブコメだけで良いんだって!!)


 ドキドキと鳴る胸を抑えながら静かに深呼吸をした。さも、転けそうになった事への驚愕で深呼吸をするかのように誤魔化しながら。


 かずき「大丈夫か?びっくりしたよな。そりゃあ、いきなり転けそうになったら誰だって驚くよ」


 なお「う、うん」


 かずき「食って動いてばっかで喉乾いてきたな。なおちゃんも飲み物買いに行く?」


 なお「……うん、そうするよ」


 なお(やめろ……そんな優しい顔して微笑むな……これじゃあまるで……まるで……私がラブコメのヒロインみたいじゃないか……ダメだ……もう嫌なんだ……うぅ……クッソ……この感情ほんと毎度嫌になるよ……)


 2人は歩いて少し離れたところにあった自動販売機へと歩いた。


 2人ともお茶を購入し、河川敷の階段へと座り、休憩を図った。


 なおは今も止まらない胸の鼓動を隠しながら、まともに見れないかずきの顔を横目に静かにお茶を口に含んだ。


 かずき「スーパーボールは上手く3個くらい取れたのに、金魚は全然ダメだったなぁ」


 なお「ほんどだよ。1.2匹は釣れると思ったんだけどな。」


 かずき「なんか違いがあるんかな?」


 なお「さ、さぁ……」


 少し薄暗くなってきた空を見ながらなおはそう答え、まだ少しだけこの時間が続いてくれないかと思ってしまった。


 自分の中でこの感情に名前をつける事なんて出来やしないけど、ただ無性に楽しく、嬉しい時間には違いは無かった。


 この人と居ると落ち着く。楽しい。そう思うと同時に自分の感情に嘘をつき、なおは心を落ち着かせる。


 花火が打ち上がるまで後1時間くらい。


 なおは残り少ないこの時間を苦しくなる胸と共に楽しんだ。


 この時間が終わるとこの人もう二度と会えなくなるかも知れない。

 そんな事も無いはずなのにそう考えてしまい、なおは怖くなってしまう。


 またこの人と一緒の時間を過ごしたいな。


 なおは残りの時間の間ずっとそう考えていた。


 なお「あ、あの……っ!」


 なおはそう言い背中を向けて前を歩くかずきへ声を届けた。


 _____________________



 まきとあきせは公園から出て2人組みになってそのまま祭へと向かう最中にまきが「お腹が減った」と言うので何かしら食べ物の売っている屋台を探す。


 あきせ「まきちゃんはなんか食べたいものある?」


 まき「はしまき食べたい!」


 あきせ「いいねえ。ここら辺にあるかな……っと」


 河川敷の上から適当に辺りを見渡し、はしまきの屋台を探す。しかし見当たらない。


 とりあえず2人は下に降りてはしまきの屋台を探しながら、見つけた唐揚げやタコ焼きを適当に購入し、それを食べながら歩く。


 まき「唐揚げのソースがなかなかに美味い。」


 あきせ「まきちゃん、チリソースやっけ?俺のレモンソースも定番って感じやけど美味いで」


 まき「一個ちょーだい!」


 まきはそう言いながら、自分の唐揚げカップの中の唐揚げを刺す役割をしていた串を抜き、それであきせの唐揚げを勝手に一つ貰い、平らげる。


 幸せそうにたべるその様を見たらあきせは勝手に盗られたという事実がどうでも良くなり、呆気にとられたまま、また一つ自分の唐揚げを一つ食べる。


 まきがあきせの方にカップを向け、「うちのも一つ食べて良いよ」と差し出してきたのであきせは1番上にあった唐揚げを自分の串を刺してすくい取る様にチリソースの唐揚げを貰う。


 それを一口で食べて唐揚げの衣と鶏肉とチリソースの相性にビックリして手を抑えながら「うまっ!」と目を見開き、軽く叫ぶように言う。


 まきはニヤニヤしながら「そうやろ?そうやろ?」と自分のチリソースを選んだセンスにドヤ顔をする。


 あきせは「うん美味い!」と言い、モグモグと唐揚げを食べる。


 すぐに食べ終えた唐揚げの次に2人はタコ焼きを食べながらなかなか見つからないはしまきの屋台を再び探す。


 探している最中に、ゴミ箱を見つけ、2人はタコ焼きを食べ終え、持っていた唐揚げのカップとタコ焼きのパックを捨てた。


 まき「まぁ、こんだけ屋台あればどっかにあるでしょ。」


 あきせ「せやな。色々屋台を楽しみつつ探そうや」


 まき「うん!そうしようそうしよう!」


 2人はそのまま歩きながら、見つけた屋台でやりたいものは徹底としてやって行った。


 射的をして、あきせがぬいぐるみを落とし、それをまきに与える。


 まき「ぬいぐるみ可愛い」


 くじ引きをしてまきの引き当てた剣のオモチャで2人は笑い合う。


 まき「やっぱりSwitch当たらんなぁ」


 あきせ「まあな。こう言うのは簡単には当たらんって」


 そう言ってあきせが引き当て、2人は目を丸くしてクジを何度も見返した。


 あきせ「え?え?嘘やろ!?」


 まき「えぇ!?すごぉ!!」


 Switchを受け取り、感極まりながらその話題をしながらまた歩き出す。


 途中自動販売機で飲み物を買い、2人はそれを飲みながらまたはしまきの屋台を探す。


 まき「はしまき見つからんなあ」


 あきせ「もっと奥の方なんかな?」


 Switchの事よりもはしまき。今日はなんとしてでもはしまきを食べる。


 まきはそう心に決めている。


 Switchを当てたという衝撃で少し忘れかけていたがまきの心は揺るがなかった。


 はしまきの屋台はどこだ。その一心だけだ。


 そうしてようやく見つけたはしまきの屋台は、公園からの入り口よりかなり離れた場所に位置していた。


 そりゃあすぐには見つからんわな。そう2人で言いながらはしまきを購入して、2人仲良くはしまきを食べた。



 _____________________



 公園で集合写真を撮り終え、さくらとせいじは2人組みになり屋台へと向かう。


 もう夕方だからなのか。物凄い人混みで溢れかえっている。まだ初日だって言うのに。


 明日の本番になるとまた凄い人混みになりそうだなぁと思いながらさくらとせいじは河川敷を歩く。


 さくら「凄い人たちだなぁ」


 せいじ「これみんな、はぐれずに花火の時に合流出来るかな?」


 さくら「なんとかなると思うよ。予め指定した場所があるし。はぐれて時間までに合流出来なかったらそこで落ち合えばいいんじゃないかな。」


 せいじ「あー、なるほどね!」


 2人はそう話しながら河川敷の階段を下る。


 河川敷の下で広がる屋台の1つ、わたあめを購入してそれを美味しそうに食べるさくらは、久し振りの祭を楽しんでいた。


 その近くでせいじはフランクフルトを購入してそれをムシャムシャと食べている。


 さくら「人も多いせいか暑いね」


 せいじ「ほんまになぁー。でもそれがまた良い」


 さくら「そうだね。この暑さが無いと花火大会じゃないし」


 せいじ「暑い中でやるからこそ味が出るんよ」


 さくら「そんで、こんな雰囲気の中で食べる屋台の食べ物はどれも美味しい」


 せいじ「いや、ほんまそれ」


 適当な会話を楽しみつつ、2人はまた違う屋台へと足を運ぶ。

 まだ少し明るいが、周りの屋台には人がわんさかと賑わって、それぞれの花火大会を楽しんでいる。


 2人で色々と屋台を見ながら、人混みを抜けるようにして次々と屋台を見て、たまに購入したり、しなかったりと歩いて行く。


 さくらはわたあめを食べながら次は何を食べようかと考える。しかしわたあめを食べ切らないと。


 少し食べるのが遅いさくらはいつもより急いだ。わたあめを食べる事だけに集中して、わたあめだけを見つめて食べて行く。


 そうしているとせいじがヨーヨーすくいへと向かって行った。


 さくらはわたあめを食べる事に夢中だったため、それに気付かなかった。

 ふと顔をあげるとせいじがいない。人混みに紛れたせいもあり、せいじを探せなくなったさくらは困惑しながらもせいじに電話をかけようとする。


 しかし出ない。せいじはスマホを持っていたカバンの中に入れたままだった為気付かなかったのだ。


 どうしよう。どうしよう。そう1人で慌てふためく中、2人の男性に声を掛けられた。


 男1「おー、姉ちゃん1人?良かったら俺らと回らない?」


 男2「なんか奢るよ」


 さくら「え、本当ですか?どうしようかなぁ」


 男2「いいじゃんいいじゃん。ほら、1人でいてもつまんないでしょ?」


 男1「そうそう。俺らと花火大会楽しも!」


 さくら(……せいじくんどこに行ったか分かんないし……見つかるまでの間この人達と居ようかな……)


 さくら「それじゃあ……」


 ?「待て」


 さくらの背後から聞き慣れた声がした。振り向くとそこに居たのは……。



 _____________________



 まやとひろあきは屋台をある程度楽しんで、近くの河川敷の階段で休憩がてら話をしていた。


 ひろあき「あぁー。りゅうくんと回ると思ってたのにまさか女子と回る事になるとはなぁ」


 まや「なに?嫌だった?」


 ひろあき「ううん、そう言うわけじゃないよ。新鮮で面白い。今まで女子と話した事はあっても、2人きりで過ごすなんて事はなかったからね。付き合ってるわけじゃないけど、色々と緊張したよ。でも相手がまやちゃんで良かったよ。安心して楽しめた。」


 まや「それは良かったです。」


 ひろあき「はぁー。後はみうちゃんとりゅうくん2人がどうなるかが気掛かりだなぁ」


 まや「そうだね。みうちゃんはりゅうくんの事めちゃくちゃ好きって感じだけど、りゅうくんがみうちゃんの事どう思ってんのかって感じだし」


 ひろあき「2人とはこれまでずっと幼馴染として過ごしてきたけど、りゅうくんがみうちゃんの事をどう思ってるとかは考えた事無かったなぁ。」


 まや「まぁ、そうよね。逆にあっきーはみうちゃんの事好きじゃないの?」


 ひろあき「ん?全然……ってそんな言い方したら悪く聞こえるな。俺にとったら2人は兄弟みたいなもんでさ。ずっと一緒に過ごしてる家族みたいで。幼稚園の頃からずっと一緒だから余計にかな。だから、俺はそういう風に考えた事も思った事も無いんだ」


 まや「そっかぁ。確かにね、3人1組みたいな感じだもんね。私は高校で君らと知り合ったから昔の事は知らないけど、でも見てて分かる。ずっと仲良く過ごして来た兄弟みたいな感じってのは。」


 ひろあき「出来ればこれからも3人で仲良く過ごして行けたらいいんだけどな。結果がどうなったとしても。」


 まや「りゅうくんは出来そうな感じがするけど、みうちゃんがどうかなぁって感じ。第三者からの視点だとね。2人の考えてる事や思ってる事を100%理解出来てる訳ないから詳しい事は分からないし、本当にこれから先どうなるかは分からないけど、見てる感じだとそんな感じ。」


 ひろあき「それは言えてるよ。でも多分だけど、俺がみうちゃんの想いを知ってからりゅうくんを見てきた限りだと、りゅうくんはみうちゃんに対して興味が無いと思う。」


 まや「そだね。みうちゃんが追ってて、りゅうくんが追われてる感じだね。」


 ひろあき「なんか、別の何かに興味がありそうなんだよ」


 まや「別の何か?ゲームとかじゃないの?」


 ひろあき「いや、ゲームはいつも通り興味津々で色んなゲーム買ってやったり、いろんなソシャゲしたりってしてはいるけど、その興味とはまた別な感じがして。」


 まや「……つまりりゅうくんには他に好きな人がいるかもしれないって事?」


 ひろあき「結論を言えばそうなる。」


 まや「……誰だろ。気になるなぁ!」


 ひろあき「俺も流石に分からなかった。でもそれをみうちゃんに伝えて、諦めさせるよりも、みうちゃんに挑戦をして、挫折する事で成長する事も大事なんじゃないかと思って。あの子はりゅうくんにこだわり過ぎている。そして、りゅうくんに執着し過ぎている。」


 まや「あっきーってすっとぼけた顔してる割に、妙に鋭かったり、たまに厳しい事言うよね。」


 ひろあき「そうかな。俺なりにみうちゃんを想っての事なんだけどな。」


 まや「うん、分かってるよ。あっきーなりの優しさって事は。いいと思うよ。教える事よりも、自分で知って学ぶ事の方が大切だと私も思うし。」


 ひろあき「うん、ありがとう。」


 まや「ところであっきーとなおちゃんデザインの花火って今日打ち上がるの?」


 ひろあき「ん?いや、明日だよ。今日はあくまでも余興みたいな感じで打ち上げる花火ばかりらしい。派手な花火とかは全部明日の本番に打ち上げるんだって」


 まや「へぇー、そう言えばそんな感じに打ち上げてたな。明日も来るかぁ」


 ひろあき「みんなで見れたらいいな。」


 まや「そうだねぇ。あ、どんなデザインにしたの?」


 ひろあき「それは明日のお楽しみだよ。」



 花火大会1日目の花火が打ち上がるまで後少し。まだまだ明日があるのに、もう終わりそうな感じがして少し物悲しい時間をひろあきとまやは過ごしながら花火を見る場所へと足を運んだ。



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 片手にたこ焼き、片手にかき氷を持ちながらたいちは川の近くで座っていた。

 その横に居たはるかは、はしまきを食べながらかき氷が落ちそうなたいちを見てにこやかな表情を浮かべている。


 たいち「おわっと、ふぅ、あぶな!落ちよったわ。」


 はるか「ふふ。」


 たいち「はるかもどっちか食うか?たこ焼きかかき氷。どっちも半分か少し食べてええよ」


 はるか「うーん、ならかき氷少し貰うね」


 たいち「おう、食べ食べ。メロン味やけど平気?」


 はるか「うん、メロン味好きだよ」


 たいち「なら良かった」


 一口パクリと食べて、また一口。頭がキーンとくる感じで、夏をより感じる。


 たこ焼きを食べるたいちを横目に見ながらはるかはふと思った事を口にする。


 はるか「たいちくんって、良い人だよね」


 たいち「ん?もぐもぐ、んぐっ。なんや急に。」


 はるか「私って、背高いじゃん。しかも女子にしてはってレベルじゃないやん?」


 たいち「173やっけ?確かに普通の男くらいあるよな」


 はるか「そそ。だから、いつも横歩くん嫌がられんねん。でもたいちくんは嫌がらずにずっと楽しそうにしてくれたやん?」


 たいち「んー、別に背とか関係なくない?それ言ったら俺だって167〜168くらいって男にしては小さいし。」


 はるか「それなのに普通に横歩いて、楽しそうにしてくれたでしょ?」


 たいち「別に時々集まって仲良くしてるメンツの1人やし、嫌がる理由無いやろ」


 はるか「なら、私があのメンツに居なかったら、横に歩くの嫌だった?」


 たいち「んー、はるかは背が高い事よりも、話したら楽しかったり、俺がさっきだって射的とかスーパーボールすくいとかでふざけてても一緒になって笑ってくれたやろ?俺はそういうとこがええと思うからなぁ。このメンツはあくまでも、はるかと仲良くなれたキッカケに過ぎんから、ここで知り合えてなかったら、横に歩くの嫌とかの前に、そもそも話した事すら無かったかもやん?」


 はるか「…………」


 たいち「俺は何にしてもこの高校に入って、みんなと知り合えて、その中ではるかと仲良くなれた事は凄く嬉しいと思ってる。そのおかげで今もこうやって楽しくやれてる訳やし」


 はるか「私と話してても楽しくないって……」


 たいち「なんで?」


 はるか「……私人見知りでそんな話すタイプちゃうし……」


 たいち「でも俺は楽しいと思ってるよ。ほら、他のみんなだってはるかと一緒に居て楽しいから、話してて楽しいから一緒に居るわけやん?」


 はるか「気を遣われてるだけやないかな……」


 たいち「そんなん無いって。みんな仲良しやん。俺が見る限りでは、お互いに気を遣ったりしてるやつも、誰かに気を遣ったりしてるやつも居らんよ。でないと、この前の飲み会も今回のイベントも集まろうなんかならんし、そもそもそこにはるかも呼ばれてるって事はそういう事やろ!」


 はるか「……うん。ありがとう。少し気が楽になった。やっぱたいちくんは良い人だよ。」


 たいち「そんな事はないよ。俺だって、そういう風に不安になる事あったけど、でもみんなと会いたくなるし、みんなと遊びたくなる。はるかもそうやろ?」


 はるか「うん。まきちゃんもゆうかちゃんも、みうちゃんもさくちゃんもその他のみんな大好き。」


 たいち「俺も他のみんなも同じ気持ちやって。でないと関係1年以上も続かへんって!って、早よかき氷食わんとやばいな。」


 ガツガツと一気にかき氷を口の中に入れ、頭がキーンとなりながら、嗚咽を漏らす。


 それを見てはるかは、笑いながらやっぱりこの人は良い人だ。とそう思いながらまた声を掛けた。


 はるか「……なぁ、たいちくん……」


 たいち「んー!んー!……ん?なに?」


 はるか「……一緒に花火見よ……」


 少し薄暗くなり、辺りはもう少しで夜になりそうな雰囲気をしていて、なんとなく見辛かったが、はるかの顔は赤く火照りながらも笑顔を浮かべていた。


 たいち「うん、いいよ!」


 たいちは快くそう答え、残りのかき氷を食べた。


 その後たこ焼きを食べながら2人でどこで花火を見るかを話しながら、道を歩いた。



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 河川敷を下に降り、りゅうのすけはすぐさまたこ焼きの屋台を探した。


 それを見つめながら微笑ましくりゅうのすけを見るみうは心の中で、色々と考えている様子。


 みう(……りゅう、相変わらずだな。私が今日告白するとかって考えてないんだろうな。)


 りゅうのすけ「おっちゃん!たこ焼き1つ!」


 おっちゃん「おうよ!にいちゃん男前だねぇ!1つオマケしといてやるよ!」


 りゅうのすけ「さっすが!!」


 みう(……りゅうってほんとたこ焼き食べに来たんだな。たこ焼きに対する熱が凄い。)


 りゅうのすけ「ふうふう!うま!うま!ふうふう!」


 りゅうのすけはそのまま歩きながら2件目のたこ焼きの屋台を見つけた。


 りゅうのすけ「お兄さん!たこ焼き1つ!」


 お兄さん「あいよ!」


 みう(たこ焼きのハシゴ!?)


 りゅうのすけ「はふはふ!うまぁ!」


 りゅうのすけはそのまま3件目、4件目と屋台を見つけ次第たこ焼きを購入し続け、結局10件くらいのたこ焼きの屋台をハシゴしていた。


 流石に苦笑し、(どんだけたこ焼き好きなんだよ)と心の中でツッコむみうがいた事をりゅうのすけは知らなかった。そもそもみうの存在を忘れていた。


 11件目になる頃には、りゅうのすけは完全にたこ焼きの事しか考えていない様子だった。いいや、5件目から。いやこれはハナからたこ焼きしか頭に無かったのだろう。


 みうは、みうでなんとかりゅうのすけについて行き、自分も1パックだけたこ焼きを購入して、それを黙々と食べる。


 外はカリッと焼き上げられ、中身はトロリとしていて非常に美味しいたこ焼きだった。


 今日、それか明日にはりゅうのすけに想いを告げなければ。そう考えながら、りゅうのすけの後ろを歩く。


 凄い人混みだが、背の高いりゅうのすけを見失う事は無かった。ずっと目を離さなかったから。ずっとタイミングを伺っていたから。


 そもそも自分はいつからりゅうのすけの事を想っていたのだろうか。そう考えながらトボトボと歩く。


 みう(中学生……?いや、小学生……ではないか。なら幼稚園……ううん、分かんないや……気がついたら目の前にりゅうが居て、気がついたらずっとりゅうの事を見てて、ずっと考えるようになってたし……いつからとかもう分かんないや……)


 もう少し時間が経った頃には、空には円型に広がる火の花が打ち上がる。


 みう(一時的に非日常的になるこの空の下だと、いつもより自分を出せるのかな。いつもより、勇気を出せるのかな。)


 最後のたこ焼きを食べ、ゆっくり噛みながらりゅうのすけの方を見る。


 りゅうのすけは、何かを見つけて人混みを避けながら歩いている。なんだ?と思いながらみうもついて行く。


 りゅうのすけ「待て。」


 そこに居たのは、男2人に絡まれるさくらだった。

 振り向くさくらを横切りりゅうのすけは、男達の顔を見ながら、さくらの肩に腕を回した。


 りゅうのすけ「おいおい、さくら。こんなとこに居たのか。」


 さくら「りゅ、りゅうくん?」


 りゅうのすけ「あ、どうも。彼女が世話になったようで。ありがとうございます。」


 男1「あぁ?なんやお前。急に出て来やがって!」


 男2「この姉ちゃんは俺らとこれから花火大会を楽しむんや。彼氏かなんか知らんけど、帰った帰った。」


 りゅうのすけ「……いやいや。そうは行きませんよ。俺らさっきまではぐれちゃってたんですけど、デート中だったんで……」


 男1「次は俺らとデートするんやとよ」


 男2「ほらほら、お前もしつこいぞ。しつこい男は嫌われるぞ〜〜?」


 りゅうのすけ「んー、もういいや。さくら、行くぞ。」


 さくら「えっ、えっ。」


 男1「あ、おいこら!勝手に行こうとするなや!」


 男2「おい、兄ちゃん。この子はもう俺らとデートするって……」


 りゅうのすけ「あ?しつこいのはどっちや。俺の女に手を出そうとしてたのをこっちは見過ごしてやろうって言ってるんや。サッサと消えろや。それか警察呼ぶか?」


 男1「あぁ?警察?呼べるもんなら呼んでみろや。ほら早よ呼べや!!」


 りゅうのすけ「うるさいな。威勢だけは良いクズが。」


 男2「なんやとコラ!なめとるんか!喧嘩売ってるんなら買ったるぞゴラァ!!」


 りゅうのすけ「いい歳して喧嘩とかダッサ。お前ら中学生か?」


 男1「ナメんなやクソガキコラァッ!!」


 男1はそう言いりゅうのすけの胸ぐらを掴み、叫ぶようにそう言う。さくらは恐怖で怯えている。


 りゅうのすけ「大人がガキ殴ったらどうなるのか知ってんのかぁ?しかも見ろよ。周りにこんだけ人居るんだぞ?やりたきゃやれや。ただし証人はこれだけいる。お前らに逃げ場ねぇぞ?いいのか?」


 そう言いりゅうのすけはまた続ける。


 りゅうのすけ「周りの皆さーん、良ければスマホカメラで動画撮って貰いますか?決定的な証拠として、警察に提出したいので。」


 りゅうのすけのその言葉に周りにいた何人かの人々は一斉にスマートフォンを取り出して、動画を撮り始めた。


 その様子を見て、男1はりゅうのすけの胸ぐらを離し、後退る。


 自分の立場の悪さを理解したのか、舌打ちだけして、2人の男はその場を去って行った。周りの人々からの拍手喝采を浴びながらりゅうのすけ、「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と一礼。


 近くに居た子連れの奥さんに「大丈夫?」と声を掛けられ、にこやかな笑顔で「全然大丈夫です」と答える。


 そのままさくらの肩を持ち、屋台の隅っこにある河川敷の階段の真ん中辺りでさくらを座らせ、りゅうのすけ自身もその隣に座る。


 りゅうのすけ「お前、アイツらについて行こうとしたろ」


 さくら「……うん。」


 りゅうのすけ「なんでついて行こうとしたのか知らんけど、今後こういう事は二度とするな。あんなヤツらに付いて行ってみろ?さくちゃんがしたくもない事させられるかも知れんぞ。」


 さくら「……ごめんなさい……」


 りゅうのすけ「謝んなくていいよ。俺の方こそ勝手に呼び捨てにしたり、彼女にしたりごめんな。友達として助けるより都合良いと思ったんだよ。」


 さくら「ううん、それ全然!ありがとうね、りゅうくん。」


 りゅうのすけ「おう。もう二度とすんなよ。俺がちょっとおちょくっただけであの反応だからな?怖かったろ?」


 さくら「うん……怖かった……」


 りゅうのすけ「相手がどんな人だろうと、知らないヤツには付いて行こうとするなよ。小学校で習ったろ。よし、このたこ焼き食って落ち着け。」


 さくら「なんでたこ焼き?」


 りゅうのすけ「さっき11件くらいハシゴしてきてん」


 さくら「本当にたこ焼き食べに来たの!?」


 りゅうのすけ「当たり前だろぉ?」


 2人がそう話していると、少し離れたところでせいじが2人を見つけて近付いて来ながら声を掛けてくる。


 せいじ「あれ、さくちゃんここおったん?りゅうくんと一緒やったんか。ごめんな、金魚すくいとヨーヨーすくいに夢中になってもてた。」


 さくら「ううん!全然大丈夫だよ!」


 りゅうのすけ「あれ、てかみぃちゃんどこ?」


 そう言えばと思い出して、りゅうのすけは辺りを見渡すとせいじより離れた場所にみうは居た。


 りゅうのすけ「おう、そこに居たのか」


 みう「うん」


 時刻はもう既に19時半を回っている。辺りはもうほとんど暗くなって来ている。

 屋台の路地裏という位置もありなんとなく笑っている事は分かるが、胸を苦しませながら必死になって出している笑顔だという事は誰も分からなかった。


 心で泣きながら、必死に作り笑顔で耐えている。


 みう(…………あぁ…………あぁああ…………あああぁあぁ……)


 りゅうのすけ「そろそろみんなで花火見るとこ行く?」


 せいじ「そうやね。もう良い時間やし。ゆっくり歩いて行ったら丁度いい時間に着きそう。」


 さくら「まって、今たこ焼き食べ終えたからこれ捨てて来る。」


 りゅうのすけ「歩きながらでいいよ。どっかゴミ箱あるやろ。」


 さくら「そっか。わかった。」


 そうして、りゅうのすけ、せいじ、さくら、みうの4人はみんなで花火を見る予定地へと歩いて向かった。


 道中、締め付けられる胸と声を抑えながらみうは泣いた。



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 河川敷から見えるにとんでもない数の屋台があるように思える。


 そんな光景を見て、凄いと思いながらるいは苦笑する。


 さつきは、ワクワクしながら河川敷の階段へと向かう。


 るいはさつきの前を歩きながら、さつきと「とりあえず何食べたい?」なんて話をしながら歩く。


 さつき「いちご飴食べたい!」


 そう言いながら駆け足で階段を降るさつきは、慣れない下駄にバランスを崩し、転けそうになってしまう。幸運にも目の前にいたるいがそれにいち早く気付きさつきを抱き抱えるようにキャッチ。


 急な出来事過ぎたので、るいは上手く綺麗にキャッチする事は不可能であった。両脚でさつきの体重を支えながら、「うぉおぉ!?」と変な声を上げる。


 さつきはゆっくりとバランスを整え、階段の上で立つ。るいに陳謝しながら顔を赤らめる。


 さつき「ご、ごめんね!ほんとごめん!大丈夫!?」


 さつきは頰を赤らめながら、顔を横に向けて、まともにるいの方を見ずにそう訊く。


 るい「う、うん。大丈夫。」


 るいも視線を逸らしてさつきの顔を見ずにそう返す。


 そのまま少し気まずい空気の中、階段から降りていちご飴の屋台へ向かう。


 るい(手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。手に胸当たった。)


 さつき(あー、いきなりやらかした!!るい君怒ってないかな……)


 さつきはすぐ様屋台を見つけ、いちご飴を購入して、それをひと舐め。


 さつき「あれ、るい君はいらんの?」


 るい「え、あ、あぁ。うん。大丈夫。」


 さつき(るい君やっぱ怒ってんのかな……。)


 るい(手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。手におっぱい当たった。)


 さつき「るい君お腹減ってへん?」


 るい「んー、うん。あんまり。」


 さつき「そっか。なんか食べたいものあったら言ってよ?屋台探すし。」


 るい「うん。ありがと。」


 いちご飴を食べ終えたさつきは次にたこ焼きを購入。


 さつき「るい君も食べる?」


 るい「え?」


 るい(おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい)


 さつき「……?どうしたん?」


 るい「えっ!?あぁ、食べる食べる。ボクも買ってくるよ。」


 さつき「いや、私の食べていいよ。ほら、アーンして」


 るい「えっ」


 るい(おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい)


 さつき「はい、アーン。」


 るい「あ、あーん……んぐっ。って熱っ!はふはふっ、ふー!」


 さつき「ははは!!るい君おもしろ!!」


 るい「ふぁふぁ……はふはふ……もぐもぐ……ゴクンッ……ふぅ。」


 るい(落ち着け……落ち着け……落ち着け……)


 さつき「あ、はふはふ。ほんま熱いなこれ!ちょー、飲み物買いに行こ!」


 るい「うん。あ、あそこに自販機あるよ」


 さつき「あ、ほんまや」


 自動販売機で、お茶を購入し、それを飲み、口の中を冷やす。

 るいは頭の中も冷やす。


 さつき「いやぁ、これ熱かったなぁ!でも美味しい」


 るい「うん。確かに。もう一つ食べていい?」


 さつき「うん、いいよ。」


 るい「今度は自分で食べるから、貸して。」


 さつき「ふふ、私もアーンってすんの恥ずかしかったから、良かった」


 照れ臭そうにそう言いながらさつきはるいにたこ焼きの入っている容器を手渡す。


 それを受け取り、静かにお茶を飲みながら食べる。やっぱり美味しかった。


 るい(……フゥ〜……心頭滅却すれば火もまた涼し……)


 さつき「さっきはほんとごめんね。いきなりやらかしてもて。」


 るい「いや、全然。気にしてないし!」


 さつき「良かったぁ!」


 さつきの笑顔を見て、るいは頭の中を空っぽにしようと心の中で誓った。



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 りんご飴を舐めながら、ゆうかはくうどうが唐揚げを食べたいと言ったのでそのまま唐揚げの屋台へと向かう。

 唐揚げを買い、その一つをくうどうが食べていると、泣いている子供がいた。


 くうどう「おうおう、どうした?」


 子供「ぐすん……ママ……どこ?」


 くうどう「迷子か。おうおう。とりあえず君……女の子か。名前なんて言うんや?」


 子供「ぐすんぐすん……かんな……」


 くうどう「おうおう、かんな、な。オーケーかんな!俺と一緒にお母さんを探しに行こう!」


 ゆうか「くうどうー?どうしたん?」


 くうどう「イエス隊長。迷子の女の子、かんなちゃんを確保しましたマイマム」


 ゆうか「おお、迷子か。大丈夫?お母さんの名前とかわかる?」


 かんな「……ううん、わかんない……」


 ゆうか「とりあえずかんなちゃんやっけ、自分で何歳か言える?」


 かんな「……4ちゃい……」


 ゆうか「……か……可愛い……」


 くうどう「ほれほれ、とりあえず肩車したるさかい、乗りーや。んでかんなちゃんのお母さん探してみようや」


 ゆうか「うん、そやね。かんなちゃん、お母さんの顔は分かるよね?今から一緒に探すから、見つけたら教えてね」


 かんな「うん」


 くうどうはかんなを肩車し、ゆうかと3人でかんなの母親を探す為に祭の屋台を彼方此方と駆け回った。


 人混みが多い中、背の高いくうどうの肩に乗りながらかんなは幼いながらに母親への会いたさから母親を必死に自分なりに探す。


 かんな「……ママ……ママ……」


しかしながら、なかなかに見当たらない。一体何処にいるのだろうか。ここら辺ではないのか?


 そう考え、くうどうとゆうかは少し移動する。移動しながら、迷子センターも探す。


 しかし、この祭、広過ぎるのと、人混みの所為もあり、一体どこに迷子センターがあるのかどうかが分からない。


 それらしきテントさえ見つける事が出来たら良いのだが。


 くうどう「ほれ〜〜ママどこや〜〜?」


 かんな「きゃっきゃっ」


 くうどうがふざけながら、かんなの母親の捜索をしているので、かんなは少しずつ泣かなくなり、笑うようになっていた。


 しばらく歩いていると、迷子センターらしきテントを見つけてそこに近付くと確かに迷子センターだったようで、くうどうとゆうかは、かんなを迷子センターへと預ける為にその場所へと近付いた。


 くうどう「すみません。この子迷子みたいで」


 係員「あ、わざわざありがとうございます!」


 そのまま係員の人に渡して、くうどうとゆうかは祭へ戻ろうとしたが、かんながくうどうの脚から離れずにいる。

 困った様子でゆうかの顔を見るくうどうは、仕方がないと一言呟き、かんなの横に居てやる事に。


 くうどう「すみません、やっぱり親御さんが見つかるまでの間、この子の側にいます。」


 係員「……その方がよろしいかもですね……」


 ゆうか「ちょーっとお腹減ったし、くうどう君うちなんか適当にそこら辺の屋台で食べ物とか買って来るわ。」


 くうどう「おう、頼むわ。金は後で払ったら良いか?」


 ゆうか「うん、それでいいよ……よしよし、かんなちゃん、お姉ちゃんちょっと買い物行ってくるな?くうどうお兄ちゃんと良い子にして待っとけれる?」


 かんな「……ヤダ……おねーちゃんもどっか行っちゃうんでしょ……」


 かんなの悲しみを帯びた表情を見て、ゆうかはハッとしてフゥとため息を吐く。


 ゆうか(……そっか……この子はうちらがお母さんみたいに居らんくなるんが嫌なんか……こんな歳やもんな……やっぱり寂しいよな……)


 くうどう「よし、かんなちゃん。なら俺とゆうかお姉ちゃんとで買い物行くか?」


 かんな「うん!行く」


 くうどう「……って言う事らしいんで、もしここにかんなちゃんの親御さんが来たらそう説明してもらえますか。そんな長くはならないようにすぐ戻ってくるつもりですけど。」


 係員「うん、その方が良さそうだね。任せて。とりあえず放送だけ流したいから、その間だけ待ってて。」


 ゆうか「分かりました。」


 少しして流された放送を聞きながら、くうどうとゆうかは顔を合わせて頷いて、かんなの手を引いて近くの屋台へと買い物へ出かけた。


 後ろ姿はまるで親子そのものであった。


 適当にたこ焼きや唐揚げなどの食べ物やかんなのジュースなどを買い、それを持って迷子センターへと戻る。


 本当にすぐに戻って来たので、まだかんなの親御さんらしき人物は来ていない様子。


 ゆうか「……こら、みんなと花火見る時間に間に合わんかもやな」


 くうどう「その時はこの子と一緒に花火を見よう」


 ゆうか「うん、せやな。後でうちから連絡しとくわ。」


 くうどう「おう、頼む。」


 1日目の余興の花火が打ち上がり、1時間程した頃、くうどうとゆうかはまだ迷子センターに居た。かんなもまだそこに居た。


 くうどうとゆうかの浴衣の袖を掴みながら、どこか悲しそうな表情を浮かべながら、齢4歳の女の子は泣きそうになりながらも、ずっと耐えていた。


 くうどうが頭を撫で、ゆうかが背中を撫で、かんなはジンワリと涙を流しながら、夜空に光り広がる一輪の花を見ながら泣いた。


 かんな「……あぁああぁあああ……ぐす……ズズゥー…ッ……あぁぁあああ…………ママァアア…………」


 この日かんなの母親が迎えに来る事は無かった。



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 もう少しで花火の時間。あらゆる屋台を堪能した後、ひなとせいやは、少し早めだが、集合場所へと向かおうかと話をしていた。


 そんな時、せいやが誰かと肩をぶつけてしまい、せいやは即座に反応して謝罪をする。


 せいや「おぉっと!すみません!大丈夫でっか〜?」


 相手はイカツイ顔をした30代半ばくらいのおっさんだった。

 そのおっさんは見るからにイライラしている様子に伺える。


 せいや自身はめんどくさい事に巻き込まれたくない為に穏やかに事を進めようとしている。その為にも即座に謝罪したのだ。


 これだけ人混みにまみれながら歩いていたら人にぶつかるのも仕方がない事。


 謝罪をして、せいやはひなと共にそのまま集合場所へと向かおうとおっさんに背を向ける。


 おっさんは舌打ちをしながらせいやの肩を掴み、疑問符を浮かべながら自分の方へ振り向くせいやに向かい顔面めがけてパンチを放つ。


 せいや「うがっ!?」


 突然な事、突然な痛みで頭が混乱しつつもせいやは顔を抑えながらおっさんの方へ姿勢を向ける。


 せいや「……な、なんやおっさん!さっき謝ったやろうが!!」


 おっさん「うっせーんだよクソガキが。大人ナメてんのか?」


 目の下辺りを殴られたのだろう。そこら辺りに痛みが走る。痛みと共にイライラも募り、せいやは歯軋りをしながらおっさんを睨む。しかしここだと周りに人が多過ぎる。


 おっさんがせいやを殴った瞬間に、辺りの人々は、ビックリしながらその場で円の形を取り繕うように避け始める。


 おっさんはそのまま、せいやの胸ぐらを掴み、叫んだ。


 おっさん「テメェゴラァ!!ガキのくせして調子に乗ってんじゃねえぞ!!」


 せいや「……はぁ!?なんの事や!!」


 せいやはそのままおっさの顔面目掛け、自分の頭をぶつける。せいやの胸ぐらを離し、クラっとしたその隙をついて、膝蹴りをくらわす。


 せいや「ハァハァ!!」


 おっさん「ガッ、ガハッ!クソ!!」


 おっさんの突き出した腕をそのまま避け、せいやは鳩尾目掛けて全力で殴る。


 おっさん「ングッ!!」


 せいや「……ハァハァ……俺はあくまでも正当防衛やからな。これ以上はやるつもりは無い。やるならトコトン殺ったるけどなぁっ!!」


 息を切らしながら、流れる汗を拭いながらおっさんを睨み付けた。


 おっさんは身体をプルプルと震わせながらせいやの顔を見る。

 せいやのその顔には、いつもの優しい笑顔は無かった。まるで今にも暴れそうな猛獣のような顔つきだ。


 ひな「せいやくん、今警察呼んだから、ひならはそろそろ行こ。」


 せいや「……おう。すまんな。」


 ひな「いや、ええよ。ひなも最初はビックリしたけどさ。ひなや周りの人らに被害行かんように闘ってたせいやくんカッコ良かったで!」


 せいや「……ふん、まあな。」


 ひな「まぁ、こんだけ人の集まるところやとあんな変な人もおるもんやて。」


 おっさん「……変?変な人やと……!?誰に向かって言ってるんや!!」


 ひな「誰って……この状況やとおっさん、アンタしか居らんやろ……ここの人はこのお祭を……花火大会を楽しみにしてて、みんなそれぞれ楽しんでるんや。それが分からんのか?そんな中でこんなアホな事しくさって。」


 おっさん「グヌヌッ!!女のくせに生意気言いやがって!!」


 ひな「女とか男とか関係あらへんわ!!この場で平和に楽しまれんやつは誰であろうとご退場を願い申し上げるわ!!」


 おっさん「このクソアマがぁー!!」


 おっさんがひなに向かって行こうとする際、瞬時にせいやはおっさんの首を掴み、睨みつけながらボソボソと話し始めた。


 せいや「……女に手ぇ出すとか、救いようのないおっさんやのぉ……あぁ?これ以上やるんなら、トコトン殺るっつったよなぁ〜?ほら、もう少しで警察さん来てくれるからのぉ。のんびりそこのたこ焼きでも買って待っとけや。」


 おっさん「グヌヌッッ……!!チクショウ!チクショウ!チクショウチクショウ!!チクショウ!!」


 せいや「祭で喧嘩とか、いつの時代やねん。もう時代は大きく変わってるんや。おっさんは黙って留置所でも行っとけ」


 ひな「周りの皆さんすみません……ご迷惑をお掛けしました」


 男性1「いやいや、男の子の方も大丈夫かい?殴られたところ、痛むやろ?」


 せいや「いや、まぁ……でもこれくらい大丈夫っすよ!」


 女性1「そんな事言わんと!ほら、そこのかき氷屋さんの氷少し分けてもろたから!これをこのナイロン袋に入れて……タオルで巻いて……ほらこれで冷やしとき!」


 せいや「あ、すんません!わざわざありがとうございます!」


 男性2「警察が来るまで俺らがこの人捕まえとくから、君らはどこかに行こうとしてたんだろ?ほら、早く行った行った!」


 女性2「なあに、警察にはウチらの方から説明やらしとくから安心しな!」


 ひな「あ、ありがとうございます!」


 せいや「何から何まで……すんません!」


 男性3「いやいや、ただ見てるだけだった俺らの罪滅ぼしだと思ってよ。」


 ひな「ほな、お言葉に甘えて……せいやくん早よ行かな遅刻かもやで!」


 せいや「それはかずきに怒られる!」


 痛む箇所を貰った氷で冷やしながら、せいやとひなは集合場所へと向かう。

 そろそろ花火が打ち上がり、夜空に異世界が広がろうとしている。


 それを楽しみに、集合場所への道路を走った。



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 なお「あ、あの……っ!」


 自分の中の勇気を精一杯振り絞って出した声がそれだった。


 背中を向け、前を歩くかずきがこちらを振り向く様が、まるで時がゆっくりと過ぎるように感じられ、なおは、視線を泳がしたまま心の中で更なる勇気を振り絞る為にたった数秒、自分の中で葛藤を繰り広げる。


 なお(……はぁー、はぁー、何やってんだ!私!クソ、後戻り出来ねえじゃねえか!……黄昏よりも暗き存在もの、血の流れよりも赤き存在もの時間ときの流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん、我らが前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを……“ドラグ・スレイブ”ゥーー!!)


 かずき「……?どした?」


 なお「……2人で……2人で……花火見たいです……」


 かずき「ん、そっか。ちょっと歩き疲れた?」


 なお「あ、え?いや、えっと〜……うん、はい。疲れました……」


 なお(なんだこいつ天然か?もしくは鈍感か?あぁ!?……いや、いい。これでいいんだ……私のこの感情はこれで……お終いにしよう……)


 そんな事を考えながらも、本当に終わりにして良いのかなんて考えも頭の中に過ぎる。


 終わりにしたい気持ちと終わりにしたくない気持ち。ふたつの矛盾した気持ちが入り混じる中、なおはかずきの背後を歩く。


 なお(……はぁ、私はどうしたいんだ……自分でも分からないのに……終わりって……何を終わりにしたいんだよ……ったく……。)


 少し歩いた先にあったベンチにかずきが座り、なおはその横に静かに座り込む。


 かずき「ここも、結構花火が綺麗に見えるとこなんだよ。まぁ、集合場所程じゃあないけどな。」


 なお「……ごめんなさい……私のせいで……」


 かずき「ん?いやいや、なおちゃんは何も悪くないよ。そんなに落ち込まないで。疲れたんなら仕方ないよ。ここで一緒に見よう。」


 なお「……あの……ほんとは私……」


 そう言いかけた時、なおは言葉に詰まり冷や汗をかく。このまま本当は別に疲れてなんかないと言い、みんなの所に行くのか、それともこの気持ちに終止符を打つのか……。


 その声は祭に集う人々の声でかき消されたのか、それともなおの声が小さかったのか、かずきには聞こえていなかったようで、かずきはそのまま夜空を見上げている。


 なお「…………ッッ」


 なお(……このまま……想いを告げるのか……それとも……告げないまま、この時を過ごすのか……)


 膝の上で拳を握り、目線を膝から目の前に上げようとする。しかし、顔が重たく感じ、上手く上がらない。


 なお(……ダメだよ……上がらない……)


 拳と肩をプルプルと震わせながら、なおは俯く。怖い。今のこの心地良い関係と、楽しい時間が崩れ去るのが怖い。


 自分の気持ちや感情に答えや名前はもう既に付いている。だが、それをこの場で吐いてしまって、それを吐いた事でこの関係と時間が、さらなる飛躍を遂げるのか、もしくは崩れ去るのか。二つに一つのこの答えをなおは出せずにいた。


 このまま、何も言わずに2人でジッと夜空に浮かぶ火の花を見上げる方が良いのではないか。それとも一言を吐き出して、この人との関係においての飛躍を希望するのか。


 何度考えても同じ事がグルグルと頭の中で回転するかのようで気持ちが、悪かった。


 かずき「お、打ち上がった」


 かずきのその一言で軽くなった頭をスッと上げ、夜空を見る。するとそこには美しくも儚い、円の形を模す火の花が燃えている。


 その花は何の音も無く一瞬の間消え、次の一瞬で広範囲で広がりを見せ、暗く落ち込むなおの表情を輝かせ、光る宝石へと進化させた。


 あぁ、なんて綺麗なんだ。


 1年に夏の季節にだけ咲く夜空の異様な花を見て、なおは言葉を発した。


 なお「……好きです……」


 かずき「……へ?」


 なお「あなたの事が好きなんです」


 かずき「……」


 突然の事で、なんの事かすぐに理解出来なかったが、一瞬で理解して顔を赤面させて、なおの顔を見れずに空を見上げた。


 なお「……ごめんなさい。やっぱり困るよね。」


 かずき「……いや、困るって言うか……なんて言うんかな……いや、困ってないよ。んー、いや、ごめん。ちょっとすぐに答え出せないや……ちょっと待っててくれる?」


 なお「……わかった。待ってるね。」


 花火に照らされたなおの顔はいつも以上に満面の笑みを浮かべていた。



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 かずきが指定していた場所は、実は花火大会の数日前に全員で一度立ち寄って場所の確認を行っていたので、そこへ集う者達は迷わずにその場所へと集って行っている。


 時刻は20時少し前。まきとあきせ、それにさくらとせいじ、みうとりゅうのすけ、まやとひろあき、さつきとるい、ひなとせいや達がゾロゾロと集っている。


 まき「あれ、かずきくんとなおちゃんは?」


 ひな「ほんまや、まだ来てない。でもそろそろ花火始まるで。」


 さつき「たいちくんとはるかちゃんも来てないよ」


 まや「ゆうかちゃんらは、迷子保護して、その子が離れたがらんから、一緒に居てあげたいって言ってたな。」


 さくら「ゆうかちゃん、くうどうくんいい子かよ」


 ひな「なんかそれくうどうくんが言ったらしいよ。」


 さつき「そうなん?りゅうくんとは違った意味でクセ強いキャラしてるから意外。」


 まき「あの人ら2人とも似てるとこあるよな。でもどっちも根は凄くいい子。だからみんなあの2人好きなんやろな」


 さくら「そだね。わたしもみんなにいい子って思われてんのかな?」


 まき「いい子じゃないわけないやん?」


 ひな「てか、いい人ばっかの集まりやからみんな心地ええんやで!」


 まや「お姉さんもいい子ばっかで毎日癒されてます……」


 さつき「とりあえず、かずきくんなおちゃん、たいちくんはるかちゃん辺りはカップル(仮)からカップル(正式)になるんかな?」


 まき「それはどうかなぁ?」


 さくら「どんなになろうと、またみんなでこうやって花火見に来たいね。」


 ひな「そうやなぁ。」


 たこ焼きを食べながら、花火が打ち上がるのを待つりゅうのすけは、背後にいるみうの存在に気付かず幸せそうにたこ焼きを食べる。


 りゅうのすけ「……モグモグモグ……」


 みう(……りゅう……今のりゅうに対して……この想いを告げる勇気が……私には……どうしても………………無い…………)


 ひろあき「りゅうくん、たこ焼きいつまで食べてんの?」


 りゅうのすけ「お、ひろあき。ほれこれお前の分。」


 ひろあき「あ、ありがとう!いただきます。」


 せいや「今年も俺の恋の花火はうち上がらんかったか……」


 せいじ「来年には打ち上がるかもよ?」


 みう(……私の恋も打ち上げに失敗に終わりそうだな……)


 せいや「今年中に打ち上げたいもんや」


 せいじ「せいやなら大丈夫やろ」


 りゅうのすけ「せいやくん、怖いけど優しいから大丈夫だよ」


 せいや「怖いは余計や」


 あきせ「絡んでみたら面白い優しいやつやからな」


 せいや「せやろ?てか、絡んでみたらってそれ見た目怖いって事かいな!」


 るい「……まぁ、見た目ヤンキーやし……」


 せいや「るいコラ!誰がヤンキーや!」


 るい「他にもチンピラとホストってあるけど、どれが良い?」


 せいや「どうもインキャ代表です。」


 あきせ「よう言うわ!」


 そんな風に適当に駄弁っていた時、空がパッと光り、辺り一面を明るく照らした。


 ひろあき「お、打ち上がった!綺麗やなぁ!」


 まき「ほんまに!」


 十数分花火を見て、花火を見ながら彼らはまた話を再開し始めた。


 まき「カップル生まれるかね?」


 さつき「どうかな?」


 まや「ワクワクもドキドキもするなぁ。」


 あきせ「まぁ、告白して上手くいく可能性もあれば、失敗する可能性もあるからな。でも2人で見たいって誘いにどちらかが乗ったって事やろ?」


 ひろあき「失敗する可能性とかは極めて低いんやない?」


 さくら「うん!私もそう思う!」


 まき「やとええなあ」


 ひな「たぁ〜〜まぁ〜〜やぁ〜〜!!」


 まき「お、ひなちゃん!うちも負けへんで!たぁ〜〜まぁ〜〜やぁ〜〜!!」


 せいじ「なんの勝負なんこれ」


 せいや「花火テンションやろ」


 さつき「ははは!!」


 るい「りゅうくんはいつまでたこ焼き食ってんの?」


 りゅうのすけ「あ、るい君も食べる?あーん」


 るい「いや、ええてええて!んぐっ、モグモグ。うま」


 りゅうのすけ「うへへ!うまいやろ」


 あきせ「相変わらずマイペースやな」


 花火を見ながら、みんなを見て、さくらは心の中で(みんな楽しそう。また明日も楽しくなるかな。)と思いながらまた一つ打ち上がる巨大な花火に声を大にして興奮気味に釘付けになる。


 また明日も楽しく過ごせますように。


 ここにいるみんな、ここにいないみんな。それぞれは花火を見ながらその想いを同じにして、まだまだ打ち上がる花火を見ていた。



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 花火を見終わり、くうどうとゆうかはかんなの手を繋いで、共に夜道を歩いている。


 時々ある街灯に照らされた薄暗いこの世の中をただ1人の光であるかんなと共に2人は帰宅路を辿る。


 くうどうはいつまでも迎えに来ないかんなの母親に痺れを切らし、かんなを連れ帰り、保護する事を決めた。


 係員のおっちゃんにはワケを話して、もし何かあれば自分も電話番号に連絡してほしいと、電話番号の書いた紙を手渡し、そのままかんなの手を繋いでゆうかと共に帰った。


 係員のおっちゃんに、「勝手に連れ帰って、誘拐犯になるかも知れんよ」と言われ、ケラケラと笑いながら「俺が誘拐犯になってでもかんなの笑顔は俺が守ってやるよ」と真っ直ぐな瞳をしながらおっちゃんに向けてそう言った。


 くうどう「俺、この短時間でかんなの笑顔が好きになっちまってよ。こいつの顔に、悲しい顔をさせたくないんだよ。それで俺が犯罪者になろうとも、かんなが悲しい顔するくらいなら、別に構わん。人は笑ってねえとダメだろ?」


 おっちゃん「……そうか。しかし君の想いは分かるが……そんな勝手が許されるとは……」


 くうどう「ここに自分のガキ置いて迎えに来ない母親も自分の勝手で生きてんだぜ。俺らがどんな勝手しても文句言える立場にねぇと思うぜ。」


 どこか物悲しい顔をしたくうどうはかんなの元へ歩き「かんな、家来るか?」と和かに聞く。


 かんな「……うん、くーどーの家行く。」


 くうどう「おっけー!ついてこい!」


 そのままかんなを連れ帰る事を強行して決めて、流れに任せて家へと連れ帰ってきた。

 ゆうかはくうどうの家の隣に住んでいるため、くうどうの母親とも親交が昔からあり、仲が良かった。くうどう1人だと不安だったのもあってゆうかも家へとついて行く事に。


 くうどうの家へと帰り着き、玄関からリビングに行き、リビングにいた母親に開口一番、言葉をぶつける。


 くうどう「母ちゃん、この子の世話見る事になった。」


 くうどう母「は!?て、ゆうかちゃん?あらぁ、お久しぶり〜綺麗になったわねぇ〜……ってちゃうちゃう!誰!?どこの子!?」


 状況が上手く飲み込めずに混乱しながら、かんなの顔を見る。


 かんなの顔を見て、くうどうの母はなんとなく状況を理解し、深呼吸しながらくうどうを見る。


 くうどう母「……世話見る事なったって、あんた何勝手に決めてんの?」


 くうどう「すまん。この子のかんなって言うんだ。」


 くうどう母「子供の名前聞いてんじゃ無いのよ。人1人を育てる事がどう言う事か分かってんの?って話をしようとしてんのよ。」


 くうどう「…………俺には分からない、分からないけど、俺はこの子の世話見るって事を決めたんだ。」


 くうどう母「いっときの感情に流されて物事決めてんじゃないよ。警察とか子供を保護してくれる施設とか色々ある世の中だよ。何もあんたがわざわざ世話しなくたって良いでしょ。」


 くうどう「……すまん、ゆうかちゃん。かんなを連れて隣の部屋に行っててくんねえかな?」


 ゆうか「…………わかった」


 ゆうかがかんなを連れて、部屋を出て、くうどうはすぐさまに土下座をした。


 くうどう「頼む!!ほっとけねえんだ!!確かに母ちゃんの言う通りいっときの感情に流されてるだけなのかも知れねえ……でもな……あの子、見つけた時は泣きそうな顔しててさ……母親と会えない絶望感で精神が崩壊しそうな……そんな顔をしてたんだよ……そんで、祭を一緒に楽しんで、仲良くなって……」


 くうどう母「……あんたの気持ちが分からんとは言わないよ。でもね、人を1人育てる事がどういう事なのか、どれだけ大変なのかが分からないあんたに、私は無責任な事言ってんじゃないって話をしてるの。」


 くうどう「…………俺が育てるよ…………あいつの母親がいつか迎えに来るまで…………」


 くうどう母「……ペット飼うワケじゃ無いんだよ。犬や猫を飼い引き取るってワケじゃないんだよ。あの子は1人の人間だ。タダの生命じゃないんだよ。アンタだって、バカだけど……アホじゃないからこれくらい分かるだろう?」


 くうどう「…………もう……もう……もうな?かんなに悲しい顔して欲しくねえんだ…………俺は周りの人間全員に笑ってて欲しいんや……だからいつもふざけにふざけ通してる…………だから……だからな……かんなにも笑って欲しいんや…………」


 珍しく涙を流しながらそう言うくうどうを見て、くうどう母は溜息を一つ吐き、くうどうの肩を叩いた。


 くうどう母「……ったく。負けたよ……。」


 そうして、くうどうはかんなの母親が見つかるまでの間、かんなを引き取り、保護する事となった。


 ゆうかの母親も隣の家から、くうどうの家へと来て、ゆうかを迎えに来たついでにわけを聞いて、頷いて一言「ウチらも出来る限り協力するわ。」と言い、かんなの頭を撫でて「かんなちゃん、よろしくね」と優しく微笑む。


 かんな「よ、よろしくね……!」


 ゆうか母&くうどう母(はぁん!可愛い!!)


 今夜はゆうかはくうどうの家に泊まり、くうどうと間にかんなを挟み、3人で川の字になって寝た。



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 アスファルトの上に陽炎がゆらめいている中、二日目の花火大会の昼を迎えた。


 さくらは、弟のりくと一緒にお昼ご飯を食べながらアンパンマンを鑑賞している。


 さくらの作ったナポリタンを美味しそうに食べながら、りくは楽しそうにアンパンマンを見ている。その内に、りくは食べる事を忘れ、アンパンマンに夢中になってしまう。


 さくら「ほら、りく。スパゲティ食べて。」


 りく「アンパンマン!」


 さくら「アンパンマンも大事だけど、ほらアーン。」


 りく「あーん。もぐもぐ。アンパーンチ!」


 そう言いながら食べていた物を少し口から零す。さくらは「もう!ほら、ちゃんと食べて!でないとアンパンマン消しちゃうよ!」と言いながらりくにまたナポリタンを食べさせる。


 そう言うと素直に聞いたのか、りくはアンパンマンを静かに観ながら再度ナポリタンを食べ始める。


 黙々と食べながら、さくらと一緒に観るアンパンマンが好きなりくは興奮し切ってしまっていたようだ。


 静かにしながらナポリタンを食べ終え、食器を置いたままにして、りくはテレビの前に行きアンパンマンに没頭する。


 さくら「そんな近くで観ると目、悪くするよ」


 りく「アンパンマン!そこだー!」


 さくら「……聞いてない……」


 アンパンマンを観終え、さくらは食器を片しに台所へと向かう。

 食器を洗いながら、「そう言えば今日の花火はひろあきくんとなおちゃんのデザインした花火が打ち上がるんだっけ」と思い出す。


 今日もみんな行くのかな。


 そう考えながら洗い終えた食器を拭いて行く。


 食器を片し終え、リビングに行くとアンパンマンのぬいぐるみを持って遊ぶりくを見る。


 微笑みながらさくらはりくに「ね、今日イオンでアンパンマンショーあるんだけど、りくも行く?」と問う。


 りく「え!行く!行く!」


 目を輝かせながらそう言うりくの頭を撫でながらさくらは「よし、じゃあ行こっか」と言い、母の部屋へと向かう。


 さくら「ママ、ちょっとりくとイオンのアンパンマンショー行ってくるね。」


 さくら母「わかった。気をつけて行ってきなよ。」


 さくら「うん。分かってる!」


 さくら母「そう言えば今日、花火大会行くの?」


 さくら「うん、行くよ。」


 さくら母「りょーかい。ママとパパもりくを連れて行くからそれまでには帰って来てね」


 さくら「はーい」


 そのまま自部屋へと行き、さくらは私服に着替え、りくを連れてイオンモールへと向かった。


 イオンモールに着く頃には13時30分になっていた。アンパンマンショーの時間は15時から。


 それまでの間、時間があったので適当にフードコートへと暇つぶしに向かう。


 するとそこに見覚えのある人が居た。少しずつ近付いて、誰かを確認すると、くうどうだった。

 くうどうの横には見覚えの無い女の子がいる。


 さくら「くうどうくん、こんなとこでなにやってるの?」


 くうどう「おう、さくちゃん。こんにちは、ほらかんな、挨拶。」


 かんな「こんにちは!」


 さくら「こ、こんにちは……可愛い……」


 りく「こんにちは!」


 くうどう「おう、りく。今日も元気やな」


 りくの頭を撫でながら、ニコニコと笑うくうどうを見て、ボォーっとしていたさくらはそのままかんなの顔を見て、くうどうにかんなの存在を問う。


 さくら「……ところでこの子はどうしたの?」


 くうどう「あ、いやぁ、実は……さ。」


 頭を抱えながら説明をするくうどうの話を一つ一つ丁寧に聞き取り、さくらは美味しそうにアイスを食べるかんなを見て、「そっか」と一言だけ呟く。


 くうどう「そういやさくちゃんは、これからなんか予定あんのか?」


 さくら「うん、りくと一緒にアンパンマンショーを…… 」


 かんな「アンパンマン!?え、観たい!かんなも観る!くーどー!観に行こ!!」


 くうどう「お、おう。良いけどよ。さくちゃん、それって有料のやつ?」


 さくら「ちがうちがう。無料だよ。イオンの夏休みイベントのやつ。」


 くうどう「あぁ、あれな。よし、行くか。かんな。」


 かんな「やった!!」


 そのあと、さくらとりくは、アイスを購入する。くうどうとかんなもアイスを購入し、4人はアイスを食べながらアンパンマンショーへと足を運んで行った。


 1時間半程した後アンパンマンショーを観終わり、りくとかんなの拙いアンパンマントークを聞きながらさくらとくうどうはこの後の2日目の花火大会の為、一旦帰宅路へと着く。


 りくとかんなの「花火を一緒に観に行こう」という約束を果たす為、さくらとくうどうは急遽一緒に花火大会を観に行く事となった。



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 花火大会2日目の昼だというのに、会場である神社や河川敷辺りの人々は昨日の夜と比べれば人数は少ないものの、かなりの人々で賑わっている。


 今日の夜に遂に自分のデザインした花火が打ち上げられる、と胸を躍らせながらひろあきは、自宅から歩いてりゅうのすけの家へと向かっていた。


 自宅からりゅうのすけの家はとても近いため、そんなに掛かる距離というわけでも無いので、なんとなしに向かう。


 インターホンを押し、いつも通りにりゅうのすけを呼び出し、りゅうのすけに家へ上がれと言われて「おじゃまします」と一言零し、そのままりゅうのすけの部屋へと上がって行く。


 りゅうのすけの部屋に置いてあるソファに腰掛け、クーラーの風に癒される。

 しばらくするとりゅうのすけの母がお茶を用意してくれたので、お礼を言いながらお茶を頂く。


 りゅうのすけはひろあきを部屋に上げ、先にトイレを済ましに行っていたので、母親の後、少し経った後に部屋に戻る。


 りゅうのすけはそのまま、テーブルの上に置いてあった自分のスマホを手に取り、荒野行動を開いて、話をしながらひろあきとゲームを始める。


 りゅうのすけ「さぁ……ってと。ひろあきおめえ、今日こそ10キルしろよ」


 ひろあき「えぇ……出来るかな」


 りゅうのすけ「出来るかどうかじゃねえよ。やるんだよ。」


 ひろあき「頑張るわ。」


 りゅうのすけ「ところで、今日だっけか」


 ひろあき「ん?花火?」


 りゅうのすけ「そうそう。」


 ひろあき「そうだよ」


 りゅうのすけ「それまでに15キルしろよ」


 ひろあき「俺最近の最高6キルなんやけど」


 りゅうのすけ「気合いだ気合い。出来るって思ったら出来るからやれ」


 ひろあき「んへぇ〜」


 そのまま1時間、ぶっ通しで荒野行動をして、途中休憩という事でひろあきはテーブルの上に置いてあるお茶を一口。


 ひろあき「ぷはぁ。冷た美味い」


 りゅうのすけ「少し手が疲れたな」


 ひろあき「……連続だからなぁ……」


 お互いに笑い合って話しているとインターホンが。


 りゅうのすけの母が出て、しばらくするとそのインターホンを押した主はりゅうのすけの部屋へと上がってきた。


 ドアが開く音と共に頭をドアの方へと向けて呆気の顔を取られ、すぐさまに「なんだよ。何しに来た。」とドアを開いた先にいた、みうに問いをぶつけた。


 みう「来ちゃった」


 りゅうのすけ「来ちゃった、じゃねーよ。語尾に星つけてんじゃねーぞ。」


 ひろあき「やあ、みうちゃん。いらっしゃい。」


 りゅうのすけ「それは俺のセリフだろこのヤロー」


 みう「……また男2人でゲーム?」


 りゅうのすけ「悪りぃかよ」


 みう「悪いなんて事は無いけど……もっとする事ないの?」


 りゅうのすけ「ねぇーよ。」


 ひろあき「まあまあ。あ、みうちゃんもやる?荒野行動。3人でやったら楽しくなるよ」


 みう「うん、やる。」


 りゅうのすけ「……ったく。」


 まるで昔に戻ったかのように、3人は顔を合わせて楽しそうにゲームを始めた。ただゲームをしているだけだというのに、こんなにも楽しいなんて。そう思いながらも誰もそれを口に出さないままゲームを続ける。


 ああ、なんとも心地良い時間だ。


 3人は黙って、ゲームをしながら、その思いを3人でシンクロさせる。


 ゲームをしながら過ぎ去る時は本当に一瞬だった。気が付いたらひろあきも15キルなんてあっという間に突破していて、テーブルの上に置かれたお茶も、もう既に無くなっていた。


 まだまだ時間が許す限り、3人はゲームを続けた。もうすぐで打ち上がるひろあきの花火を3人で観に行こう、と話をしながら。



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 スマホをタプタプ触りながら、ソファに座るなおは、横に置いてあったクッションに手を伸ばし、自分の前に持って来る。


 クッションに顎を乗せて昨日の出来事を振り返ってショートする頭を抱えながら、目の前に何も無いのに、何かを睨みつけるような目をしながら、どうしようどうしようと、ジタバタする。


 なお(何が好きなんです、だ!コラ!私、何やってんだよ〜……完全にその場の雰囲気とかに持ってかれち待ってんじゃん……答えを待ってくれってさー、完全にどう振ろうか迷ってるやつやん……!!あぁ、とりあえず傷つかないように心構えだけしとかないと……)


 スマホから、ピコンと通知音が鳴り、恐る恐るスマホを覗く。


 かずきからのLINEだった。


 かずき『今日花火大会行くよね?』


 なお(もぁー!!行くに決まってんだろ!!自作のデザイン花火が打ち上がんだぜ!?アンタと会う予定が無くても行くよ!!)


 かずき『その時、少し2人になれないかな。』


 なお(はい、キター。振られるフラグキター。はいはい、分かりましたよ。所詮私は幸せにはならんのですよ。分かってましたよ)


 かずき『LINEで答えを出すのもなって思って、直接想いを話したいと思って……』


 なお「……!?」


 なおは、静かにLINEを打ちながら、キーボードをタプタプと触りながら、「はい、分かりました」と送り、またソファの上でドタバタはしゃぎ始める。


 なお(こ、この感じは……え!?この感じは?期待しても……いいんですか……ね?)


 顔を赤くしながら、さらに強くクッションを抱き締める。


 はぁ、と溜息を吐きながら真っ黒な画面のスマホを見つめる。


 なお(…………こんなの……私じゃなくても期待しちゃうよ…………)


 たった15分。その15分が45分くらいに感じられたそんな時間。


 片手で持っていたスマホがピコンと通知音を鳴らす。かずきからの返事が来たのかと思い、LINEを開くと、ひろあきからだった。


 ひろあき『今日の花火、楽しみだね』


 なお「てめえかよ!!やかましいわ!!…………いや、うん。楽しみだね…………。」


 冷蔵庫からお茶を持って来て、それをコップに注ぐ。コップに一杯注ぎ終えると共にLINEの通知音がスマホから鳴り響く。


 恐る恐る内容を確認すると、そこには『なら、今日、昨日皆で集合した公園から少し離れたとこにある喫茶店の近くで集まろう』と、かずきからの返信が。


 なお(…………ッッ!!)


 なおは、ソファの上でクッションを抱き締めながら悶え苦しんだ。


 後数時間、生きていられるだろうか。


 そんな事を考えながら、ぐるぐる回る思考回路をなんとかしようと、一先ず何かしらの動画を観ようとYouTubeを開いた。


 なお(……期待していない自分と、してる自分が居て……矛盾してんのにな……どっちも居るんだよ……でも結局どうしたらいいのか、自分の中でも分かんないだよな……でも、どっちかって言うと……悪い方向にばかり物事を考えてしまう…………うぅ……傷付くのが怖いよ…………)


 観ることに集中出来ない、いや、観ていないのかも知れないYouTubeの動画に顔を向けながらなおは静かに泣いた……。



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 ひなは、ボォーっとしながら暇潰しにテレビを観ていた。


 昼間に起きたのは良いが、花火大会に行くのは大体夕方頃なので、それまでをどう過ごすかを考える。


 あぁ、暇だ。そして、誰と花火大会に行こう。この2つを主に考えながら頬杖をついてテレビを見つめる。


 ひな「とりあえず……昨日集合場所に来なかった人らは誘えんよな。」


 そう言いながら、LINEの友達欄をスライドし、まきのページを開いて通話を掛ける。


 ひな「……あ、もしもーし、まきちゃーん?」


 まき『もしもしひなちゃんどうしたん?』


 ひな「いや、今日さ〜、一緒に行く人おらんくてさ。」


 まき『うちもやねん〜』


 ひな「一緒やん!うちらで行っちゃう?」


 まき『ありやな〜。』


 ひな「後、ゆうかちゃんとかまやちゃんとか誘ってさぁ〜行こうよ〜」


 まき『ゆうかちゃんとまやちゃんとか、安定過ぎて……』


 ひな「人数的にも丁度ええやろ?」


 まき『4人やしなー。ええ感じ』


 ひな「ほな、ひな、まやちゃんに聞いてくるから、まきちゃんはゆうかちゃんに聞いて来てくれる?」


 まき『オッケー。また後でLINEする!』


 ひな「りょーかい!ほな、また後で〜」


 まき『また後で〜』


 まきとの通話を切り、即座にまやへLINE通話を掛ける。数秒後、まやが電話に出たので、すぐに用件を話す。


 ひな「まやちゃんやっほー!今日花火大会行く人決まってたりするー?」


 まや『やっほー!いや、決まってないよー』


 ひな「なら、ひなとまきちゃん、ゆうかちゃんとで行こーってなってるんやけど、まやちゃんも行かへん〜?」


 まや『いいよ!行こ行こ〜!』


 ひな「流石まや姉さん!話が早い。ほな、また後で集合場所とか連絡するねー!」


 まや「ほいほい!了解でーす!」


 まやとの通話を切り、LINEを確認する。


 まきからはまだLINEは来ていなかった。


 スクッと立ち上がって、冷凍庫のアイスを取りに向かう。


 ひな「お、ガリガリ君の梨味あるやん!ママナイス〜〜」


 ガリガリ君梨味を食べながらリビングへと戻る。すると丁度まきからLINEが来ていて、ゆうかも来れる、という返事が来ていた。


 ひな「よっしゃ。これで独り花火大会は免れた……!」


 ガリガリ君をかじり、頭にキーンときて、手で頭を抑えながら、ひなはガリガリ君を食べ続けた。


 楽しみが出来た2日目の今日も、ひなは花火大会を楽しみにしつつ、ガリガリ君の最後の一口を食べた。



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 冷蔵庫の中にあったヨーグルトを1つ手に取り、冷蔵庫の戸を閉める。


 リビングのテーブルの前に座り、体操座りの形に座り、足を交差させる。


 モジモジさせながら、はるかはヨーグルトを一口パクリと食べた。


 甘酸っぱさが、今の自分の表してるようでなんだか心が疼く。


 たいちと花火を見ている最中に自分がたいちにぶつけた言葉を思い出し、膝に顔を埋めながらジタバタとする。


 その言葉は、「好き」というシンプルな言葉だった。


 その言葉に対してたいちは、少し間を空け、花火を少し見て、はるかを真っ直ぐ見た後、照れ臭くそうに、「よろしく」と答えてくれた。


 その事実がまるで夢のように思え、はるか自身まだ受け入れ難い現実となっていた。


 はるか「……昨日の事だよね……私、夢なんて見てないよね……?昨日のあの時点から、たいちくんと…………あぁうぅ…………」


 一口食べた後、テーブルに置かれたままになっているヨーグルトは、はるかの心情を物語っているようだ。


 今まで自分はこの世に生きるちっぽけな存在の1つでしかなかったのに、昨日のその出来事、自分の行動により、まるで世界が、自分の存在事態が変わってしまったように思える


 あぁ。なんて幸せなんだろう。

 そんな事が頭から離れない。夢のような現実。そんなものを手に入れると人間はこうも変わり、こうも簡単に幸せになってしまうものなのかと。


 シンプルなようで複雑な想いを乗せたその「好き」という言葉の重さ。はるかの言葉をたいちにぶつけた勇気。それを受け入れてくれたたいちの優しさ。

 その全てのおかげで手に入れる事が出来たこの幸せな気持ちと、なんとなくふわふわとした気持ち。

 そして、心のどこかで夢だと思う気持ち。様々な気持ちが心の中でグルグルと駆け回りながら、はるかはまた一口ヨーグルトを食べる。


 ヨーグルトの味はやっぱり甘酸っぱかった。


 まるで自分のようで。


 まるで今の心を表しているようで。


 はるかは、静かに「美味しい」と呟いた。


 ヨーグルトを食べ終え、ゴミ箱に捨てた後、スマホを観るとたいちからLINEが来ている。


 あぁ、やっぱり現実なんだな。と嬉しそうに微笑むはるかは、静かにLINEを開く。


 たいち『今日花火大会行く前に、遊ばない?暇過ぎるって言うのと会いたくなった』


 体操座りさせ、交差させた足を戻し、バタバタとさせながら、「会いたくなったなんて……ズルい……」と呟きながら返事を返す。


 はるか「いいよ。私も丁度暇だったし、会いたかった」


 たいち『同じ事考えるてるなんて、俺ら案外相性良いのかもね』


 はるか「そうかも」


 たいち『なんてね。とりあえずはるかは、どこか行きたいとことかあったりする?』


 はるか「うーん。行きたいとこか〜。花火大会も行くからね。カラオケとか映画観るくらいが丁度良さそう。」


 たいち『プラス急遽やしな。映画行くとなるとなんか観たい映画とかある?』


 はるか「うーん、トイストーリーとか?」


 たいち『あ、俺も観たいと思っててん!』


 はるか「なら、そうしよ!」


 昼ご飯もついでに食べに行く事になり、今から40分後くらいの時間にイオンに集合する事が決まった。


 はるかは、胸をドキドキさせながらスマホで顔を覆い隠して、静かに「好き」と囁いた。



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 朝の9時過ぎに目が覚め、夕方まで時間がある中暇だなぁと思いながらたいちは、リビングのテーブルに頬杖をつきながらワイドショーを流し観る。


 ポケ〜ッとした顔で寝惚けながらも昨日あった出来事をふと思い出す。


 花火を見ている最中はるかに告白をされた。


 何故自分なんかに。という考えと、嬉しいという気持ち、そして自分もはるかの事が前々から気になっていたという事実から付き合う事になったのだが、たいちの中でも今起こっている事が本当に現実なのかどうかが怪しくなっていた。


 あれ、本当は夢を見ていたんじゃ……。


 公園でみんなで集まった時から、夢だったのでは……。なんて考えながら、そんなわけないか、と自分で自分に対して鼻で笑う。、


 はるかに、急遽だが、花火大会までの間遊ばないか?と誘おうかと思い浮かんだ。


 だが、どうやって?


 なんて言えば良いのだろうか。


 普段女の子と遊ぶ事はある事はある。だが、友達の集いや、誘われて行く事が多い。


 自分から誘う事もしばしばある。


 だが、好きな女の子を遊びに誘うのになんて言えば良いのか、なんという理由で誘えば良いのかが分からず、悩みどころであった。


 たいち「暇やし遊ばん?……うーん、いや連れやないんやぞ……扱いとか、言葉とか考えたりしな、嫌われてまうやろ……」


 腕を組んでなんと送れば良いのかを真剣に考える。


 たいち「シンプルに思ってる事を隠すのは失礼かも知れん。いや、でも暇やからってそのまま送るんはな……。言った後にワンクッション挟むか。うーん……会いたくなったとか?実際会いたいし、こう言うと、暇って言葉が、会いたくなったって言う言葉の照れ隠しに見えるし、ええ感じやろ。」


 数秒沈黙し、本当はすぐにでも会いたくて仕方がないから、その時間がもどかしく、暇に感じてしまっているという事に気付く。


 赤面させ、目を軽く泳がせてワイドショーへと顔を向けて、さらに数秒沈黙。


 いざLINEを送ろうとして、文章を打ち終えると、その文章を送ろうとする勇気がたいちには無かった。


 送信ボタンのミリ単位くらいの近さで親指をプルプルと震えさせながら、「んーっ!!」と悶える。


 これ、本当に送って良いのか。


 今更になってそう考え、親指が後ほんの数ミリというくらいの近さで止まる。


 付き合っているからと言い、急遽こんな事を送って、嫌われはしないだろうか。

 頭を抱えながら生きて、「あぁーっ!」と声を出して深呼吸。


 頭をブンブンと横に振り、自分の中の迷いを振り払う。


 たいち「今日花火大会行く前に、遊ばない?暇過ぎるって言うのと会いたくなった」


 そう送り、しばし返事を待つ。


 たった数分程だろうに、何度も何度もチラチラとスマホを見てしまう。早く来ないかと返信を急かしてしまう。本人に直接言うわけでもないが。


 ピコンとなったスマホを手に取り、はるかからの返信を読む。


 はるか『いいよ。私も丁度暇だったし、会いたかった』


 はるかからも「会いたかった」という単語を貰い、「つーか俺ら昨日会ったばっかじゃん。合わせてくれたんかな?冗談交じりに送っとくか。」とLINEを返信。


 たいち「同じ事考えるてるなんて、俺ら案外相性良いのかもね」


 はるか『そうかも』


 ノリに合わせてくれてるもんだと思い、やっぱこの子はいい子だと思いながらたいちは返信を続ける。


 たいち「なんてね。とりあえずはるかは、どこか行きたいとことかあったりする?」


 はるか『うーん。行きたいとこか〜。花火大会も行くからね。カラオケとか映画観るくらいが丁度良さそう。』


 たいち「プラス急遽やしな。映画行くとなるとなんか観たい映画とかある?」


 はるか『うーん、トイストーリーとか?』


 たいち「あ、俺も観たいと思っててん!」


 はるか『なら、そうしよ!』


 そうして、ついでにお昼ご飯も食べようという事で適当な集合時間を決めて、たいちは準備を始めた。


 スクッと立ち上がり、身体を伸ばして、はぁ、と息を吐いて一言。


 たいち「クァ〜ッ。アッツ。」


 たいちは頭をかきながら、洗面所へと向かった。



 _____________________



 今日は誰と花火大会に行こうかな、なんて考えながらさつきは、100%りんごジュースを啜る。


 机の上に置いてあるやりかけの課題を横目に見て、現実に引き戻されたくないのでソッとカバンの中へ直した。


 またるいと行っても良いとは思うのだが、周りの皆がどうするのかどうかが気掛かりである。


 1日目にカップル風に男女2人組みを作り、各々で適当な屋台を回り、前もって決めていた集合場所へ集い、皆で花火を見る事にしていたが、もしそのカップル間にて何かしらがあればそこの判断で来るか来ないかを決める、という事になっていた。


 そして、昨日の晩、何組かが集合場所に来なかった。1組は違うが、他の組はもしかしたら、もしかすると、本当にカップルになっているのかも知れない。


 このタイミングで、さつきがるいと2日目の花火大会に行くと、周りからそう捉えられるかも知れない。


 そういう事で行くわけではないので、さつきとしては、そう誤解を招く事になると、るいも困るだろうという事で、誘い辛さがあった。


 さつき「るいくんと一緒に屋台回んの楽しかったけどな〜〜」


 でも、変に誤解されるとなぁ、と腕を組みながら考え、それなら後何人か誘ってみるか、という考えに至る。


 とりあえず、まきに声を掛けてみると既にひな達と行く事が決まっていたようなので、断念。


 ここに参加しないか?と声を掛けられたが、無闇に人数が増えるのも花火大会上面倒な事に繋がる。


 はるかにLINEをしてみると、彼氏と行く事になった、と返信が。


 さつき「は!?へ??彼氏!?ダレ!!」


 もしかして……と聞こうとするが、内緒、という一言だけ。


 気になって仕方がないさつきはジタバタと悶えるが、深くは聞けない為、止むを得ず断念。


 さつき「えー!いつの間に!?てか誰なのほんと!昨日のはるかちゃんのペアってたいちくんだったよね?もしかして……?」


 ほーうと言いながらニヤニヤと笑い、さつきはもう一度りんごジュースを啜る。


 仮に付き合っているとしたら、他にもカップルが誕生しているのかも知れない。


 話を聞くのが楽しみなのも半分、自分だけ置いていかれそうな寂しい感じもある。


 だからと言って、さつき自身焦る必要が無いのだが。それは本人も分かっている様子。


 無理に好きでもない相手と付き合ったところで何の意味も無い。


 本当に好きになった相手と結ばれ、付き合う事に意味があるのだろう。


 さつきはそう考えているため、今まで無闇矢鱈と彼氏を作ろうとはしなかった。


 多分他の皆もそうなのだろう。


 この集まりが好きだから。みんな集まって遊んだり、ご飯食べに行ったり、喋ったりするその空間が心地いいから、今まで関係は続いたのだろう。


 しかし男女の仲というのもある。そして彼らはまだ若い。


 共に惹かれ合い、想いの蕾が咲いたのなら、花を咲かせたくなるのかも知れない。


 その花も、見事に開花するのか、はたまたすぐに枯れるのかは、人それぞれなのだが。


 見事に開花するか、枯れるかは分からないので臆病になり、一歩を踏み出せない者もいる。


 だが、その一歩も花火という立役者が出来たことによって、踏み出せた者もいる。


 さつきはそんな事を知らないまま、一頻りに話題になる残りの花火大会をどう過ごすかを考えた。


 しばらく考えていると、ドタバタと騒がしく階段を降りてくる母親から驚きの第一声が。


 さつき母「さ、さつき!!お爺ちゃんが……!!」


 さつき「……え?」



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 盛大なる騒がしさを奏でる花火大会2日目。


 昨日の夜に芽吹いたばかりの花は今宵もまた美しく輝きを放ち、自らの周りをオーラで覆い尽くしているせいか、周りが見えず、自分達しか見えないような、自分達の空間に居るような、そんな中ではるかとたいちは手を繋ぎながら、周りが演出する雰囲気と共に屋台を回りながらその時を、その一瞬をただただ、楽しみに楽しんだ。


 ずっと笑顔の絶えない2人は、花火大会前にしたデートの疲れを知らないのかと思わせる程にはしゃいでいる。


 デートを終わらせた際、はるかは、一旦家に帰り、昨日とはまた違う浴衣を着てきている。


 たいちは、その美しさに見惚れてしまい、しばらくの間ボォーッとしていたのだが、時間の経った今となっても慣れない様子。


 はるかが手を差し伸べ、「繋ご」と言い、たいちと手を繋いで、次の屋台へと足を急がせる。


 手を繋ぎながら目の前で走るはるかに手を引っ張られる形を取られながらも、たいちは笑いながら彼女について行く。


 たいち「ちょっ!待てって!」


 はるか「はは!ごめんごめん」


 たいち「ぶはは!やばいってほんま」


 はるか「ちょっと喉乾いたね」


 たいち「せやな。なんか飲もっか」


 そう言い2人は近くの自動販売機へ。たいちのお目当ての飲み物は売り切れていたので、適当な代わりの飲み物を購入。


 はるかもオレンジジュースを買い、それを一口飲んで、次はどこへ行こうかと考える。


 たいちも歩きながらゴクゴクと代わりに買ったサイダーを飲みながら、もうそろそろで花火の時間かな?とスマホの時間を確認する。


 後30分程した頃に花火の時間を迎えるようなので、はるかにそれを伝え、その時間を逆算しながら再度屋台を回る。


 道中でたこ焼きやら唐揚げやらを買い、はしまきの屋台を見つけ、たいちが久しぶりに食べたいという事で購入。


 はしまきだけ歩きながら食べ、はるかにも一口あげて、射的の屋台を見つけて射的をしようと残りのはしまきを食べ終え、屋台のおっちゃんにお金を払って、たいちは、はるかに何が欲しいのか聞く。


 たいち「ほれ、なにがいい?」


 はるか「えー、取れるの?」


 たいち「取る!」


 はるか「よっしゃ。んーと、じゃあ……あのクマのヌイグルミ!」


 たいち「オッケー!任せろ!」


 おっちゃんから貰った5発分の1発分の弾を銃に詰めて、射的の銃を構え、クマのヌイグルミ目掛け、数秒間を空けて、一発を放つ。


 しかし、ハズれる。


 再度構えて、放つ。クマのお腹部分に当たり、少しズレる。


 周りからオォーッという声が上がり、たいち自身の集中力が増す。


 更にもう1発分の弾を、銃に詰める。


 たいち「フゥー……結構ムズイな。」


 はるか「頑張って!」


 集中力を高めて、その1発にかける。


 10秒程、息を吸って、ヌイグルミにじっくりと見つめる。


 静かに銃の引き金を引き、周りの時が止まったような気がしながら、弾はヌイグルミ目掛けて突撃して行く。


 ヌイグルミの頭部分に当たり、見事にヌイグルミは落ち、手に入れる事に成功。


 周りからの盛大な拍手を送られながら、おっちゃんからヌイグルミを渡され、たいちはそのまま、はるかに手渡される。


 はるか「凄い!ほんと凄いと思う!ありがとう!一生大事にする!」


 たいち「はぁ!取れてよかったぁ!」


 2人はそのまま、手を繋いで、花火が打ち上がる時間がそろそろだろうという事で、場所を移動した。


 見事に咲いた二輪の花は、更なる美しさを奏で、夜の空に打ち上がる火の花で輝きを重ねられながら、その下で更なる愛を育んだ。



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 昨日とはまた違う綺麗な浴衣の袖を通し、下駄を履いて、なおは胸の鼓動を抑えながら玄関から立ち上がる。


 少し深呼吸をしながら、そのまま天井を見上げて、無心になりながらドアを開いた。


 ここからでも祭の騒がしさを感じられ、折角無心にした心が再度、鼓動を早くさせる。


 ここから少し歩いた先に待っている試練のようなものにドキドキしながら、少しずつ足を動かす。


 ……やっぱり行くのやめようかな……


 なんて考えながらもなおは、待ってくれているかずきの事を考えると、行く事をやめる、という選択肢は元々無い、と自分に言い聞かせて、少し歩くスピードを上げる。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ。


 傷つきたくない。


 幸せになりたい。


 どうにか、この花の蕾を咲かせてください。


 なおは、そのまま俯きながらかずきの元へと歩いて行った。


 集合場所に早く着きそうになる程になおの胸の鼓動は速さを増す。


 顔が赤く、熱く火照っている事が自分でも分かる。


 もう帰りたいなんて気持ちもあった。


 でも帰りたくない。


 集合場所である喫茶店まで後少し。後少しでたどり着く。歩くのを止めようか。いや、ここで止めたら、もうかずきと会えないかも知れない。


 なお(……そんなの1番ヤだよ……)


 喫茶店に着いて、恐る恐るドアを開けて、中へ入ると、まだかずきは来ていない。


 内心ホッとしながら、なおは、適当な席に着き、そのまま店員に渡された水を一口飲んで、深い溜息を吐く。


 しばらくして、突然「やあ、ちょっと遅れた?」という声が聞こえて、驚きながら、なおは顔を上げて声の主の顔を見る。


 なお「……遅れてないよ……かずきさんも疲れたでしょ。とりあえずなんか適当に飲んで休憩したら、お祭り行こ。」


 かずき「俺は疲れてないよ。なおちゃんこそ見た感じ、しんどそうだけど。大丈夫?しんどいなら、行くのやめる?」


 なお(は?行くのやめる訳ねえだろ!しんどいのなんておめえが目の前に居るからそういう風になってるだけで実際別にしんどくはないわ!!)


 なお「……ううん。大丈夫。」


 かずき「そ?ならいいんだけど。とりあえず何飲もっか。」


 メニューを開いて、メニュー欄を見る。かずきは、コーヒーを、なおはホットミルクティーを注文し、届くまでの間しばらく沈黙が続いた。


 コーヒーとミルクティーが届き、それぞれはミルクや砂糖を入れ、軽く混ぜて一口を飲む。


 かずき「なおちゃん、ホットって熱くないの?」


 なお「いや、なおね、身体の熱が少ないから、その調節のために飲んでるだけ。平気だよ。」


 かずき「ふーん。」


 またしばらく沈黙が続く。


 なお(なんだろう。なんなのだろう。この時間は。誰かこの時間に名前を付けてくれやしないか?)


 かちゃかちゃと、スプーンで混ぜる金属音だけが聞こえ、なんとなく気まずいような空気感が伝わってくる。


 すると、かずきがコーヒーを3口目、飲んだ後に口を開いた。


 かずき「……昨日、さ。」


 なお「……え、う、うん。」


 かずき「なおちゃんに、告白されて正直びっくりしたんだよね」


 なお「……うん……」


 かずき「一晩だけ考えて、答えを出そうとしたんだけどさ、さっきまでもずっと考えてたんだよね」


 なお「そっか」


 かずき「うん、やっぱり俺なおちゃんの事好きみたい」


 なお「……そっか。そうだよ……え?は?へ?」


 かずき「この前熱中症でなおちゃんが倒れてさ、俺が介抱した時から、ずっと何かと心配とかでずっと君の事考えてて。」


 なお「…………」


 かずき「昨日もさ、一緒のペアになれて、近くで見てられるっていう安心感と、一緒に居られるっていう幸福感と、共に過ごす楽しい時間があって。俺も知らない間に君の事好きになってたみたい」


 なお「……うぅ……あぁあぁ……うっ……」


 かずき「こんな俺でよければの話だけれど、付き合ってくれませんか?」


 なお「……うぅ……うっうっ……はい……よろしく……お願いします…………」


 涙の止まらないなおに、かずきはハンカチを手渡し、頭を撫で、笑いかけた。


 しばらくして落ち着きを取り戻したなおは、改めてかずきに「こんな私でよければよろしくお願いします」と頭を下げ、ミルクティーを飲み干した。


 微笑ましく笑っている喫茶店のマスターは、静かにコップを拭いてその光景を和やかな目で見つめていた。


 コーヒーを飲み干したかずきは、立ち上がって、会計を済まし、なおと共に喫茶店を出て、2人は手を繋いで花火大会へと歩幅を合わせて、足を運ばせた。


 かずき「今日なおちゃんのデザインした花火見れるんでしょ?」


 なお「そだよ。」


 かずき「どんなデザインにしたの?」


 なお「それは後のお楽しみでしょうよ」


 かずき「はは、そっか。とりあえずそれまでの間、屋台でも見て回ろっか。」


 なお「なおね、型抜きしたい」


 かずき「いいよ。一緒に行こうか。」


 今日という日が、一生続けば良いのに。


 この一瞬が、一生続けば良いのに。


 この人の側に、一生居れたら良いのに。


 この手がこのまま離れずにいたらいいのに。


 夏の空はまだ少し明るい。その下で咲いた花は物凄く明るさを増していた。


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  後ろに両親を引き連れ、弟のりくの手を差し引いて、歩くさくらは、横にいるくうどうとかんなに「どこから回る?」と問いかける。


 くうどうの手を繋いで、ニコニコと笑うかんなは、さくらに「かんな、りんご飴欲しい」と言う。


 その一言で、最初の目的地はりんご飴の屋台へと決まり、一向はそこへと向かう。


 途中見かけた綿あめの屋台で、りくが綿あめを1つ購入する。


 りく「かんな、食べる?」


 かんな「うん!ぱくっ、んま!」


 気が付いたら、りくはさくらの手を離れ、かんなはくうどうの手を離れ、りくとかんなはお互いに手を繋いで歩いていた。


 その光景を見て、ほのぼのとするさくらとくうどうを見て、さくらの母がクスクスと笑いながら2人に言う。


 さくら母「まるで、夫婦ね!」


 さくら「?」


 くうどう「いやぁ、あの2人確かに、年齢不相応な感じの雰囲気出してますよね」


 さくら「あ、確かに!」


 さくら母「……え、いや、ちゃうちゃう」


 りんご飴の屋台へたどり着き、さくらは、りんご飴を購入して、りんご飴をかんなに手渡す。


 かんな「おねーちゃん、ありがとお!」


 ぺろぺろと舐めながら、ニコニコと笑うその様は、本当に無邪気で素直な子供そのものだった。


 本当は母親が迎えに来てくれない事の哀しさを背負っているはずなのに。


 子供ながらに、大人にそれを感じさせないようにしているのか。


 そんなかんなの大人な姿を見て、さくらは少し空しくなってしまった。


 無言でかんなの頭を撫でる。疑問符を浮かべるかんなは、撫でてもらった事の嬉しさから笑みをこぼす。


 その後、スーパーボールすくいを見つけ、くうどうが、りくとかんなにそれぞれ欲しいお面を聞いて、それを貰うために懸命にスーパーボールをすくって行く様を見て、かんなとりくは盛り上がっていた。


 お互いに欲しかったお面は、アンパンマンだったが、取れたのは1つだけだった。


 くうどう「ごめんなぁ。仕方ねえ、もっかいするかな。」


 りく「いや、いいよ。くーどーにいちゃん。ほら、かんな、これ。」


 そう言いながら、りくは、アンパンマンのお面をかんなの顔に付けてあげた。


 かんな「りくくん、いいの?」


 りく「うん、前にパパに取ってもらったのあるし!今度それでアンパンマンごっこしよ!」


 かんな「うん!ありがとお!」


 さくら「ふふ、やるじゃん、りく!」


 りく「へへ!ねえちゃんが、いつもおれにしてくれてた事マネしただけだよ!」


 さくらは、りくの頭を撫でて、「たこ焼き食べる?」と聞き、りくが「食べる!」と言ったので2人一緒に、近くにあった、たこ焼きの屋台へと見つける。


 両親とくうどうは、神社内にあったベンチにて待っている、という事で、さくらは「わかった」とだけ言い、りくの手を引いて、たこ焼きの屋台へと向かう。


 たこ焼きを購入して、「さて、戻ろうか」と、母達の待つ場所へと向かおうとしたその時、さくらの目には見覚えのある人物が映った。


 気がついたらその人の事だけを見ていて、目で追っていた。


 何故だか、頭の中がその事だけでいっぱいになり、目の前がその人だけになり、辺り一帯が何も見えないような、その人以外何も無くなった空間のように思えてしまう。


 ボォーッとする姉を見かけねてりくは、さくらの袖を引っ張りながら声を掛ける。


 りく「……ねえちゃん……?」



 _____________________



 ゲームを終え、りゅうのすけ、ひろあき、みうの3人はそろそろ花火大会に行こう、という事で、身支度をして、花火大会へと向かっていた。


 歩いて20分程した距離に、花火大会の屋台が出並ぶ河川敷へと辿り着く。


 みう(……なんだかんだで、りゅうと観に来れてよかったな……どこかでタイミング見つけて告わないとな……)


 りゅうのすけ「おい、ひろあき。昨日より屋台の数が増えてるぞ」


 ひろあき「そりゃあ、本番だし、1番人が集まる日だからね。昨日より屋台が増えて当然だよ」


 りゅうのすけ「そういや昨日は余興なんやっけ」


 ひろあき「そんな感じ。ほとんど本番と変わる事なんてないと思うけどな。でも、昨日より大迫力の花火が楽しめる事は確かやで」


 りゅうのすけ「へぇー。まぁ、なんでもいいからとりあえずたこ焼き食いに行くぞ」


 みう「ふふっ」


 ひろあき「みうちゃんもたこ焼き食べる?」


 みう(……りゅうったら、こんな時までたこ焼きって……いや、こんな時なんて思ってんのみうだけか……)


 みう「うん、食べる!」


 りゅうのすけ「おーし!おっちゃん!たこ焼き3つ!」


 おっちゃん「あいよ!900円ね!」


 りゅうのすけは、お金とたこ焼き3つを交換し、受け取り、みうとひろあきに1つずつ渡す。


 たこ焼きを1つ食べて、すぐさま熱さに悶えるりゅうのすけは「うめえ!!」と言いながら口の中をハフハフとさせながらたこ焼きを食べる。


 ひろあき「昨日食べたのと一緒でしょうよ……」


 みう「あ、唐揚げもある。今日お昼食べてないから、お腹減ったんよね。」


 ひろあき「いいね、唐揚げ。りゅうくんも食べる?」


 りゅうのすけ「ん?おう」


 たこ焼きの屋台から少し離れた場所に位置する唐揚げの屋台を見つけ、そのままの足で向かって行く。


 するとその2つ隣の屋台にはしまきの屋台を見つけ、りゅうのすけは「俺、はしまきも食いてえから、ちょいひろあき俺の分も唐揚げ買っといて」と言いはしまきの屋台へと1人で行ってしまった。


 ひろあき「あ、オッケー」


 唐揚げを3つ購入して、りゅうのすけの方を見ると、りゅうのすけはまだ並んでいる。はしまきの屋台は結構な行列が出来ていて、りゅうのすけはしばらく戻ってこないと伺える。


 すぐ近くで待っていようという事で、屋台から少し離れた場所へとみうとひろあきは移動する。


 みう「……ほんとあの人、マイペースやね。」


 ひろあき「まあね。でも昔からそういうとこは変わってないから、安心するけどね。」


 みう「それは確かに」


 ひろあき「……昨日は見てる限りだと、告えなかったんよね?」


 みう「……分かった?」


 ひろあき「まぁ、さくちゃんとせいじくんと一緒に来てたから、なんとなく。それに暗い中で悲しそうな顔してたし。」


 みう「なんで分かったの」


 ひろあき「なんでって、多少は分かるよ。暗闇って言っても、1分くらい目瞑ると慣れるし。それに俺結構あそこにいた時間長かったし、ある程度は見えるよ。でも、決定的だったのは、花火が打ち上がったその時かな。」


 みう「………………バレないようにしてたのにな………………」


 ひろあき「後で、せいじくんとりゅうくんに合流した時何があったのかは聞いたよ。りゅうくんは、相変わらず自慢するってより、グチグチ言ってたけど。」


 みう「うん。あの人、ああいう事平気でするから。さくちゃんに対してカッコつける、ってよりも、説教垂れる事が第1だったみたいやし。」


 ひろあき「だろうね。俺も小学校の頃、イジメられてて、助けられて、めちゃくちゃ怒られたから、なんとなく想像つく。」


 みう「……ホント変わってない……」


 ひろあき「りゅうくんはいつ迄もりゅうくんやからね。」


 みう「でも……でも……」


 ひろあき「うん。」


 みう「あんなとこ、すぐ目の前で見ちゃうと…………告えないよ…………」


 ひろあき「……かもな。じゃあ、どうする?告わないで終わる?」


 みう「…………どうせ告ったって…………意味無いよ…………」


 ひろあき「そんなのは告わないと分からないよ。結果は俺にだって分からないけど、でも、告わないで後悔するより、告ってスッキリしてほしいな。君の中のモヤモヤとかずっと残ったっきりになっちゃうよ」


 みう「…………分かってる…………分かってるけど…………怖いの…………りゅうとのこれまでの関係が崩れるのが…………もし今日告って明日から気まずくなったらどうしようとか…………今日みたいにもう3人で遊べなくなるとか…………」


 ひろあき「それは大丈夫だよ。」


 みう「……なんで大丈夫って言えるの?」


 ひろあき「りゅうくんだから。りゅうのすけという人間は、相手の気持ちを蔑ろにもしないし、真面目に受け止める人間やで。俺は今の今まで見てきたから良く知ってる。りゅうくんも3人で遊ぶの好きだから、関係が劣悪になるような結果にはならないんじゃないかな?」


 みう「……うん。ダメだね。みう、自分の事ばかり考えてて、りゅうのことなんも考えてなかった。そうやね。りゅうはそういう人やった。ただ怯えて動けないのはみうやって言うのに。ただただ、逃げ出したいだけの口実を作りたいだけやって言うのに。」


 ひろあき「ううん、誰だってそうなるよ。みうちゃんだけじゃない。誰だって怖いよ。俺は好きな人とかいないけど、でも出来たらみうちゃんみたいに怖くなるんだろうなぁ。その時はみうちゃんが背中押してくれる?」


 みう「うん!任せて!」


 ひろあき「さて、しばらくしたら俺トイレ行くフリでもするわ。」


 みう「……え?なんで?」


 ひろあき「この前言ったやん!俺がそういう場を設けるって!俺がトイレ行ってる隙に、告白しておいで。大丈夫。この祭りのトイレは毎年大行列出来て、なかなか戻って来れんから、時間はかかる。そこら辺は安心して」


 みう「……ひろあき……あんたなんでそんな良い人やのに、彼女出来へんの?」


 ひろあき「やかましいわ!」


 それから、少し経った頃にようやく戻ってきたりゅうのすけを加えて、水風船すくいや、射的を堪能して、適当なタイミングを見計らって、ひろあきは「トイレへ行ってくるから近くのベンチで待っといて」と言って小走りでトイレへと向かって行った。


 ひろあき「……うぅ、フリのつもりが、マジでしたくなってきた……」


 小走りで向かう最中、見覚えのある女の子を横切った。


 ひろあき(あれ、さくちゃん、今日は家族で来てたんや。)


 ひろあきはそのまま急いですぐ近くのトイレへと駆けて行った。



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 見覚えのある人物、りゅうのすけを見つけ、目で追って行って、気が付いたら彼らの座るベンチの裏のすぐ近くに来てしまっていた。


 さくら(あれ、さくら何してんだろ)


 しどろもどろとしていたら、2人の会話は始まっていて、無意識のうちにその会話に耳を傾けていた。


 りゅうのすけ「たこ焼き美味え」


 みう「……りゅうはトイレ行かなくても平気?」


 りゅうのすけ「ん?うん。まあな。後で行きたくなるかもだけど。」


 みう「今行かなくてもいいの?」


 りゅうのすけ「あぁ。お前1人に出来んだろ。」


 みう「え。」


 りゅうのすけ「モグッ。ングング。お前近くに居ねえと、なんかあるかもって不安なんだよ。モグモグ。唐揚げ美味え」


 みう(……なんで……そんな事、言ってくれるの……?)


 りゅうのすけ「それに、変なやつらに絡まれてもめんどくせえだろ。お前も。」


 みう「……うん、そうやね………………………ね、ねぇ!りゅう?」


 りゅうのすけ「ん?なんだよ。」


 みう「……りゅうってさ、今好きな人とか居ないの?」


 りゅうのすけ「好きな人?んだよ急に。」


 みう「ううん、なんとなく。」


 心拍数が高速で上がってるような気がする。


 今上手く話せてるかな。


 りゅうのすけの顔を見れずに、地面ばかり見つめるみうは、少し冷や汗をかいている。


 今までの人生で1番緊張してるかも。


 少し息が詰まりそうだけど、でも、頑張らないと。


 りゅうのすけ「……そういうみぃちゃんは、好きな人とか居んの?」


 みう「……え……」


 みう(え、聞いてくるの?)


 ここで、なんて言えば良いのか。


 なんて答えるのが正解なのか。


 また聞き返した方が良いのか。


 それともこれをチャンスに告えば良いのか。


 さくら(え、え、え、これってまさかの告白現場?)


 ベンチの裏のすぐ近くでりくと一緒に隠れながら2人の会話にそのまま続けて聞き耳を立てる。


 りくは空気を読んで、さくらと一緒にその現場を見て、なんとなくドキドキしている。


 りゅうのすけ「居ねーの?んまあ、居そうにねえもんな。」


 みう「い、い、い、居るよ!うん、居る。」


 りゅうのすけ「へぇー、意外やな。」


 みう「そ、そっかなぁ?」


 りゅうのすけ「でも、みぃちゃんならすぐ付き合えんだろ。頑張れよ。」


 みう「…………」


 みう(告え!告え!告え!告え!私が好きなのは!みうが好きなのは!りゅうだって!口開いて!告え!)


 すると、りゅうのすけのスマホからLINEの通知音が。その音と共に、みうの中の何かが切れたような気がした。


 りゅうのすけ「ひろあき、まだ戻ってこれねえってさ」


 みう「好き。」


 りゅうのすけ「は?」


 みう「りゅうが好き。」


 りゅうのすけ「……はぁ?」


 みう「驚いてくれるんだね。」


 りゅうのすけ「……いや、は?何言ってんのお前。」


 みう「だから、好きだって言ってるの。あなたの事が好きなんです。」


 りゅうのすけ「バカかお前。」


 みう「バカじゃないよ。」


 りゅうのすけ「…………ごめん」


 みう「ううん。分かってた。」


 りゅうのすけ「いや、違う。」


 みう「へ?」


 りゅうのすけ「突然の事過ぎて、ちょけてんのかと思って、ツッコミのつもりで言ってた。やったら、様子から伺うに違う事が察せたから。」


 みう「こんな事ふざけていう人居る?」


 りゅうのすけ「花火大会テンションで言うやつおるやろ。」


 みう「ふふ、確かに。ねぇ、りゅう。」


 りゅうのすけ「ん?」


 みう「みうと付き合ってくれない?」


 りゅうのすけ「………………………………うん。いいよ。」


 みう「ふふふ、嬉しい。今の今までで、人生の中で1番幸せ。」


 りゅうのすけ「お前ほんとバカだな。」


 みう「なんで?」


 りゅうのすけ「なんでも。」


 みうの恋花火は見事に打ち上げられ、笑顔という花を咲かす。


 その裏で見ていたさくらは、「やった!みうちゃんの恋、成就した!」と手を叩いて喜んでいた。


 でも、しばらくすると涙が溢れてきて。


 体の震えが止まらなかった。


 りく「……ねーちゃんどうしたの?」


 さくら「……りく……りくぅ……分かんない……分かんないよぉお……」


 りくを抱き締めて、さくらは一頻りに泣いた。声を殺して泣いた。


 自分で自分がわからない中、泣いた。



 _____________________



 夏の青い木陰の近くで女子数人は、浴衣を着て談笑しながら、火の花を見るために、異空間へと続くその道を歩いて行く。


 明日になればその道はもう閉ざされてしまう。楽しい時間はもう終わってしまうのだ。


 ひな「さあ〜〜……ってと……行くで、まきちゃん、ゆうかちゃん、まやちゃん」


 まき「う、うん」


 ゆうか「ん?うん」


 まや「どこに行くつもりや」


 ひな「勿論……さとみの花火大会ツアー、やで。」


 何かしらの適当な特別感を付け加えたかった。今の時間をより更に楽しくしたかったのだ。


 みんなも笑っていたのでひな自身もより楽しい気持ちになる。


 今日も楽しく終わりそう。今年の花火大会はみんなと来れて本当に良かったなぁ。


 各々はそう思考をシンクロさせて道々を歩いて行く。


 昨日の話、この前の話、最近あった話、昨日の集合場所に来なかった者達はあれからどうなったのかの話、昨日の夜、迷子を保護した話など……様々な話題が飛び交う中、彼女らは花火大会の会場である神社へと辿り着いた。


 昨日も物凄い人集りでの花火大会だったのに、今日は比較にならない程凄い数の人が集まり、今日の花火を待ち惚けている。


 ただ空に花火が打ち上がる、というそれだけなのに、これだけの人々が集まる、という現状にただただ開いた口が塞がらないひな達一行は、互いに笑い合いながら近くにあった焼きトウモロコシを購入しに屋台へと向かう。


 焼きトウモロコシを購入したひなとまきは、それをどっちが早く食べられるのか、という勝負を始める。


 本当に女の子なのかと、ダチョウ俱楽部の弟子か何かじゃないかと疑うレベルのスピードでトウモロコシを食すひなとまきを見て、ゆうかは「やばーい」と言いながらそれを見て笑う。


 まやも腹を抱えながら笑い、勝負の結果ひなが勝ったので、ノリでひなの片手を持ち上げ、「winnerひな!」と、レスリーを気取る。


 また更に笑い合い、花火大会までの時間を皆で楽しみ合う。


 ……話はカップルの話に戻り……


 まき「かずきくんとなおちゃんは、どうなったんかな」


 ひな「なおちゃん、ひ弱やからなぁ。」


 まや「途中で疲れて、かずきくんが付き添った的な?」


 ゆうか「んあぁ〜〜あり得そう。」


 ひな「たっちんとはるかちゃんは付き合ってそうじゃない?」


 まき「あそこは怪しい」


 ゆうか「どうなんかなぁ」


 まや「でも、お似合いと言えばお似合いな感じするけどね」


 ひな「たっちん、優しいやつやからなぁー。はるかちゃんも大人しいけど、そういうとこに惹かれた的な?」


 ゆうか「それ、どっちから告白したんやろな」


 まき「たいちくんからとか?」


 まや「たいちくんが、はるかの事好きなん意外やったけどなぁ〜」


 ひな「意外で言えばどっちも意外やって。そんな匂い全くさせてへんし、どっちも。」


 まき「知らん間にって感じやな」


 ひな「まぁ、他にカップル出来てようがひなは応援するだけやからええんやけどさ。とりあえずひなにも彼氏くれへん?」


 まや「それ言ったらうちにも欲しいわ〜」


 まき「うわうわ。美人2人が何言ってるんや。」


 ゆうか「ほんまやでな」


 まや「いや、思い切りブーメラン刺さってるからな」


 まき「怖いわー。美人の言う褒め言葉は信じられんからなぁ」


 まや「よー言うわ」


 ひな「まぁ、確かにさとみは美人やけども。あれかな、美人過ぎて近寄り難い的な。」


 ゆうか「それはあるかも知らへん。」


 ある程度話し終えた時、ひなはたこせんが食べたいと言い、近くを散策。


 すると、少し離れた場所にあった、たこせんの屋台を見つける。


 河川敷の近くの屋台へと向かい、たこせんを買いに向かう。各々はたこせんを購入して、それ食べながら、また適当な話を続ける。


 ひな「明日からまた課題やらなあかんなー。」


 まき「ほんまやなぁ」


 ゆうか「うちもまだ半分くらいしか終わってないと思う」


 まや「ゆうかちゃんも私らと一緒に勉強会する?定期的に集まって、課題したり、テスト勉強しよってなってるねんけど」


 ゆうか「それええなぁ!またする時連絡して!」


 まや「オーケー!」


 まき「ゆうかちゃんが勉強会参加とか、めちゃくちゃ勉強捗るやん」


 ひな「賑やかになりそうやな。みんなで楽しく勉強しようや」


 ゆうか「うんうん。夏休み明けのテストもあるしなー」


 まや「あぁ〜。この楽しい時間とも、もう少しでおさらばなんか……」


 ひな「今この時を楽しもうや」


 まき「そやね。ほら、はしまきも食べよ。」


 まだまだ花火が打ち上がるまで時間がある。彼女らはそれまでの時間を精一杯に楽しく過ごした。



 _____________________



 弟のりくから、離れて、涙で濡れる顔を拭いながら、さくらは深呼吸をする。


 何故自分がここまでも、涙を流し、苦しい気持ちになるのか。それが分からなかった。


 姉のそんな様子を見るのが初めてで、どうしたら良いのか分からずに困惑するりくは、一先ずさくらの頭を撫でた。


 まだまだ溢れる涙の中、ぐちゃぐちゃな思考の中、弟にこんな惨めな姿を見せ続けてはいけない、と咄嗟に思い、さくらは「ごめんね、ごめんね、りく」と言いながら「フーーー、フーーー」と深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 りく「姉ちゃん、どっか痛いの?大丈夫?」


 さくら「……ううん、どこも痛くない……」


 痛くないはずなのに、途轍もなく痛い。


 何故なんだろう。その答えは全く持って分からずにいた。


 なんでなんだろう。


 胸にズキンと何かが貫いたかの様な痛みが走っている。


 揺らめきながら、立ち上がり、涙を拭いて、少し落ち着いたので、りくの手を繋いで母親達の待つ場所へと戻る。


 適当に行列が出来ていた、という言い訳で戻り、母親達も納得してくれたので、その場でりくと一緒に、少し冷えたたこ焼きを食した。


 さくら「ちょっと冷えてるね。ごめんね。りく」


 りく「ううん、俺これくらいのが食べやすくて好きだよ」


 さくら「ありがとう、りく。」


 りくの優しさに少し心が救われた気がした。


 少しボォーッとした顔をしながら、辺り一面が見えない程に何も考えられなくなる中、さくらはりくに、袖を引っ張られてなんとか意識を取り戻す。


 両親や、くうどう、かんな、りくらと共に、道を歩きながら、何故泣いたのか、の答えを模索する。


 だけど、どうしても分からない。


 みうとりゅうのすけが付き合った、という事については物凄く嬉しいはずなのに、何故なんだろう。


 この胸の痛みは。


 この胸の苦しみは。


 この胸の辛さは。


 今日ゆっくり寝て、明日になればこの痛みは無くなるのかな。


 多分そうだろう、と考えてりくとかんなの背中を見て微笑む。


 くうどう「さくちゃん、なんかあったか?」


 さくら「ん?ううん、なんでもないよ」


 そう笑顔で言うさくらに、作り笑顔としか見えないその表情に心配になりながらもくうどうは、「そっか、なんかあったら言えよ」とだけ言い、りくとかんなの元へと向かう。


 少し俯きながら、はぁと溜息をついて、花火が打ち上がる時間を迎える。


 空を見上げると、無口な空が声をあげる様に火の花を広げる。


 数々の種類の花火が打ち上がる花火を見ながら、まるで、気持ちを打ち明けて、付き合う事になったりゅうのすけとみうを思い浮かべる。


 またズキンと胸が痛くなる。


 さくら(あぁ、痛い。心が痛い。なんでなの。なんでもないはずなのに。なんで痛いの)


 大きな花を描いた様な花火を見て、その美しさに見惚れながら、さくらはまた静かに泪を流し、持っていたペットボトルのキャップを外して、お茶を一口飲んだ。


 お茶の苦さが、自分の気持ちを表しているかの様に思えて、お茶を飲むのをやめた。


 ふいに母に頭を撫でられながら、さくらは体操座りをし、顔を埋め、声をあげる空の下、声を殺して、泣いた。



 _____________________



 型抜きをして、射的をして、ヨーヨーすくいをして、一緒にたこ焼きを食べて。


 幸せな時間を過ごしながら、御満悦ななおは、かずきの横顔を見て、一瞬で目を逸らした。


 なお(オォオオォ……顔直視出来ねえ……)


 見事に綺麗な横顔に見惚れていたいのに、直視出来ない。見ている、という事がバレてしまうと、気持ち悪いと思われてしまうかも知れない。


 そもそも羞恥が勝って、彼の顔を見る事が出来ない。


 直視が出来ないから、チラチラと辺りの風景と一緒にかずきの横顔を目に焼き付ける。


 繋いでる手を見て、ふふっと笑う。


 なお(あぁ。こんな幸せ、感じたのいつぶりだろうな……)


 かずき「ん?どうしたの?」


 なお「な、なんでもない!」


 かずき「そ?焼きそば食おうかなって思ってんだけど、なおちゃんも食う?」


 なお「…………食べさせてくれるなら食う…………」


 かずき「うん、いいよ」


 カァーッと一気に赤くなる表情に自分でも気付く。火照る頬を外せない左手で抑えようと思っていたら、無理だったので、右手だけで抑える。


 なお(オォーッ!!なお!大・胆!!)


 明日には死んでしまいそうだな。そう思いながら、焼きそばを購入し、少し離れたところでかずきに、焼きそばを食べさせてもらう。


 かずき「ほれ、あーん」


 なお「あ、あーん。」


 かずき「ちゃんとこっち見ないと、危ないよ」


 なお「え、でも……」


 かずき「でもじゃないよ。火傷するかもやし、溢れちゃうかもやろ?」


 なお「……うん……」


 焼きそばに目線を合わせると、それと同時に彼の優しそうな瞳が視線に入る。


 一口焼きそばを食べて、モグモグと噛んでいる中で「美味しい」と呟く。


 かずき「ほんと?……モグモグ。あ、ほんまや、美味い」


 屋台で食べる焼きそばなんて、どこも大した変化のない普通の焼きそばだ。


 特別に美味しい焼きそばなんて無いはず。


 野菜と、肉と、そばが入っていて、ソースがかかっていて、鰹節がふりかかっていて、青のりがふりかかっていて、紅生姜が添えられている、というシンプルな焼きそば。


 そんなシンプルな焼きそばでも、好きな人に食べさせてもらう、一緒に食べるという秘密の魔法によって、普段の美味しさによりを掛けているのかも知れない。


 そんな事を考えながら、なおは貴方と付き合えて、貴方と花火大会に来れて本当に良かったと心の中で呟く。


 焼きそばを食べながら、無邪気な笑顔を浮かべる彼の顔を見ながら。


 優しく微笑むなおを見て、自然と笑顔の溢れるかずきは「もう一口いるか?」となおに聞いた。


 なおは、微笑みながら「うん」と言い、かずきにもう一口食べさせてもらった。


 そろそろ花火の時間だな、とかずきは言い花火が良く見えそうな場所にへと移動する。


 少し歩いた先にて、手を繋いで向かい、花火が打ち上がる様を2人で鑑賞。


 かずき「おぉ、昨日とはまた違って凄えなぁ」


 なお「ほんと、綺麗」


 そろそろなおのデザインした花火が打ち上がる。


 かずき「そろそろかな?」


 なお「うん、多分」


 すると、暗闇の夜空に、真っ赤に燃えるバラが大きく一つ描かれた。


 それが消えると共に無数の小さな紅蓮のバラが爆発する様に描かれる。


 なお「……すごい……」


 かずき「綺麗な赤いバラやな。なんで赤いバラ?」


 なお「……特に無いよ」


 かずき「いやいや、なんかあるやろ?」


 なお「……いや、ないですから」


 かずき「仕方ねえから、赤いバラの意味でもググってみる」


 なお「え!?やめてやめて!!」


 かずき「ほら、なんか意味があるんだろ?教えろよ」


 なお「……うぅ……」


 花火で光るかずきの横顔を見ながら呟く様に言葉を放つ。


 なお「……貴方を愛している……だよ」


 かずき「へぇ……へ?」


 なお「…………ッッ」


 かずき「花火の音で良く聞こえなかった」


 なお「……嘘つけよ……」


 かずき「ハハッ」


 なおのデザインした花火は直ぐに打ち上げ終わり、次の花火へと移る。


 かずきはなおの肩を掴んで、優しい表情で顔を近づける。


 かずき「俺も貴女を愛しています」


 そう言いながら、無数に放たれた火の花の下、なおの唇に、自分の唇を重ねる。


 そのまま、なおから力強く抱き締められ、クスリと笑いながらかずきも抱き締め返す。


 なお「んーーーーっっ!!!」


 かずき「これから先もこうやって仲良くやってこうね。まだ付き合って1日目だけど、来年の花火もこうやって見に来よう。約束だよ。」


 なお「……うん……うん……うん……」


 貴方と観れたこの花火を私は忘れる事は無いだろう。もし、別れる事があったとしても。


 なおはそう思いながら、かずきの肩に頭を置きながら、残りの花火を観た。


 パラパラと鳴る音と、パッと光る火の花を観ながら、なおとかずきは幸せを想った。



 _____________________



 無口な空が声を張り上げて鳴り響く中、その光の下にはるかとたいちはお互いに手を繋ぎながら、花火という作品の数々を見ながら感動をする。


 どうやってこうやって作り、どうやってこうやって表現しているのか。それも気になる中、好きな人と一緒に観れたこの花火をお互いに胸の内の想い出としてしまう。


 この時が永遠に続くような気がして、この幸せが永遠に続けば良いと思えて、何か面白味のある話をしていたわけでもないのに、一緒に居れる、一緒に花火を観れる、一緒にこの時を過ごした事の意味の深さを感じている。


 何か特別な会話も交わしていないが、ベンチに座りながら、はるかは自然とたいちの肩に顔をもたれかけて、それに気付いた、たいちも、少し緊張しながら、平気なフリをして花火を観る。


 この前までだと、得られなかったこの時間。


 この前までだと、知る由もなかったこの時間。


 この前までだと、お互いにこんな関係になるとも思わなかった。


 昨日よりも派手めな花火を観ながら、お互いに無言の中、顔を見つめ合う。


 少し目を逸らすはるか。


 真剣な表情で見つめるたいち。


 お互いに我慢しきれずに笑い合い、フゥーっと軽い深呼吸をした後、たいちは、はるかの顔を優しく撫で、頰辺りに手を添えながら、接吻を交わす。


 気恥ずかしい時間も少し経ったが、お互いにもっと好きになれた気がした。


 また、たいちの肩にもたれ掛かる、はるかの頭に、たいちは頭を置いて、花火を観続けた。


 はるか「このままずっと花火打ち上がんないかな」


 たいち「本当にな」


 はるか「うん。寂しくなっちゃう」


 たいち「そうやな」


 はるか「次いつ会える?」


 たいち「来週くらい?」


 はるか「わかった。会える日まで楽しみに過ごしとく。」


 たいち「うん。また連絡するよ」


 はるか「待ってるね。」


 たいち「うん、わかった」


 しばらくの間また花火を見て過ごす。繋がれた手は離れる事は無く、無言の中幸せそうな表情を浮かべる2人。


 また来年もこの幸せが訪れる事を願いながら、2人は指を交差させて手を繋ぎ直した。


 この僅かな幸せを取り残さないように、空の叫びを聴きながら、描かれた花火を観て、なんて事の無い日常の中、心の中で、これからを誓う。


 もう2度とこの空を2人で観れない、なんてネガティブな思考はしなかった。


 むしろ、また一緒に観れる、という、観たいという考えの方が勝った。


 明日になればいつもの日常が舞い戻る。この非日常的な花火大会を終えて、得られた事の大きさを無意識に感じながらも、明日から戻る日常でも、また会おうと2人誓い合い、残りの花火を2人で見届けた。


 寂しそうな表情をする、はるかの顔を見て、自分も物悲しくなるたいちは、その表情を隠して、ポン、とはるかの頭を撫でた。


 たいち「まだ付き合ったばっかやし、お互い少しの間でも会えへんのは寂しいけど、大丈夫。会えへん間でも俺ははるかを想うし、更に会いたくなって、また好きになってるかも知れへん」


 はるか「ほんまかな。浮気とかしたらあかんよ?」


 たいち「そもそも浮気をするっていう思考が無かったわ」


 はるか「ふふ。私もせえへんから安心して。」


 たいち「されたら泣くで」


 はるか「私の方こそ」


 たいち「とりあえず、はるか、家まで送るわ。」


 はるか「1人でも帰れるよ?」


 たいち「少しでも一緒に居たいから、送る。嫌って言われても送る」


 はるか「ふふふ。なにそれ。嫌って言うわけないやん。そんな風に言われたら言えへんし」


 たいち「ははは。まあ、夜道に女の子1人ってのも危ないしな。よし、帰ろか」


 はるか「うん。」


 鳴き止んだ無口な空の下、2人の男女は、互いに笑い合いながら、帰宅路を歩き、次会う時に何をしようかなんて話をしながら、暗い夜道を歩いた。



 _____________________



 花火が打ち上がるその瞬間を、彼らは様々な場所にて、各々その様を見届けていた。


 メンツにより、場所は異なりながら、見ている空は同じ。


 明日を迎える為に真っ暗になったその空に鳴り響く火の花の音を観聴きする為に、彼らは空の下に集う。


 少し離れてようが、遠くに居ようが、見る空は同じ。


 見る景色は同じ。


 世界が闇に覆われたような気分で、空を見上げる。


 その瞬間に、数秒の間をおいて、花火は打ち上がる。


 パーンと気持ちのいい音を立てて、打ち上がる火の花はとても美しく、可憐で、儚げであった。


 一瞬にして燃え上がり、一瞬にして消え失せる。


 その様を見て、彼らは何を想うのだろうか。


 1年のうちにたった一度のこのイベントに集う人々は、その空を見て、何を想うのだろうか。


 今年も夏が始まり、そして終わる。


 長いようで短く、短いようで長い。そんな休みも、このイベントが終わると、すぐさまに終わりが訪れる気がする。


 楽しみで仕方のない花火大会も、終われば虚しい気持ちがやって来る。


 そうして、また来年も観に来ようと思えるのかも知れない。


 友達と。


 恋人と。


 家族と。


 その時々により、見える景色は変わって来るかも知れない。


 明日はどんな空が待っているのだろう。


 元気な顔を見せてくれるのかな。


 悲しい顔をするのかな。


 困った顔をするのかな。


 どんな顔でも、空は空。そんな空は1年に一度、声を上げて、鳴き叫ぶ。


 どんな言葉を、想いを秘めて泣き叫ぶのかは不透明だが、人々はそれを観て、勇気を貰ったり、元気を貰ったりする。


 今日も空は騒がしい。


 空に抵抗するかの様に下界の人々も騒がしい。


 りゅうのすけ「ひろあき、お前の花火まだかよ」


 ひろあき「多分そろそろだと思う」


 みう「おぉー!すごい綺麗!」


 空に描かれた向日葵の花は、見事なまでに美しさを奏でている。


 向日葵の花言葉は、憧れ。ひろあきは1つの憧れがあった。それはりゅうのすけの存在だ。


 りゅうのすけが居るから自分が居る。口が悪くも、優しい、カッコいいりゅうのすけにいつもひろあきは憧れていた。


 りゅうのすけ「おぉ、凄えな」


 ひろあき「想像以上やったわ。」


 そんな秘めたる想いは、気恥ずかしくて言えやしない。気持ちが悪くて言えやしない。


 ただ、この2人とまた一緒にこの夜空を見上げる事が出来ただけでも、ひろあきは幸せで、この2人が付き合う事になった事がとても嬉しい出来事だった。


 このまま、2人仲良く過ごして行ってくれたらなぁ、とそう思いながら、ひろあきは花火と一緒に2人の姿を見ていた。


 少し離れた場所でも、花火の話で持ちきりで、綺麗だなんだのと大盛り上がりである。


 まや「花火……綺麗……」


 ひな「……まや、お前の方が……綺麗やで……?」


 まや「そんな事ないわよ」


 ひな「俺にとっての、花火は……お前だけや……」


 まき「きゃー!」


 ゆうか「ひなちゃん、イケメン」


 ひな「なーんつってな。ひなもいつかこんな事イケメンに言われたいわ」


 まや「ほんまやなぁ……。でもみんなとこうして観れた花火もうちは好きやで」


 ひな「そんなん、当たり前やん。ひなも好きに決まってる」


 まき「今度、全員集めて観に来てみる?」


 ゆうか「来年はそうしてみる?」


 ひな「来年まで、続いてるとええなぁ。この関係が。」


 まき「大丈夫やろ。最強メンバーの集まりやで。簡単に壊れへんて。」


 まや「そやね。またみんなで来よう。」


 しんみりとした空気の中、空を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえて来る。


 声の主はあきせだった。


 あきせ「おー、やっぱりまきちゃん達やったか。」


 まき「男達だけで寂しく花火大会終える前に美人達を見つけれてよかったな」


 せいや「は?美人?誰が?」


 まき「せいやくんキラーイ!」


 せいや「はーい、キラーイ!」


 ゆうか「るいくんも来てたんやな」


 るい「ヤクザの誘いは断れんでしょ」


 ゆうか「ヤクザはわろた」


 せいや「おいおい!るーい!誰がヤクザや!コラ!」


 るい「名指しで言ってないのに反応する辺り、自覚してる?」


 せいや「お前なぁ……」


 ひな「まあ、ヤクザは言い過ぎやって。な、ヤンキー」


 せいや「ヤンキーもちゃいますて!」


 周りの皆「ハハハハハ!!」


 盛大な笑いを花火に負けない程の大声で響かせて、今宵の思い出が新たに作られた。


 世界にひとつだけの思い出を。


 そんな中、また離れた場所にて、静かに花火を見る人物もいる。


 さくらだ。


 さくらは、何故自分が泣いているのか分からないでいる。


 この花火の中、自分の気持ちの名前をずっと探していた。


 この感情はどこから沸いてきて、どうやって消え去るものなのか。


 この気持ちは一体なんなのか。


 そんな事ばかり頭の中でグルグルと交差する様に回っており、花火に集中なんて出来やしなかった。


 ……自分はもしかして……


 そう考えようとした矢先、花火大会のメイン、花火は打ち上げ終わり、空はパッと暗くなった。


 周りに居た人々は、騒めきながら、帰宅路を辿る。


 泪を拭いて、前を向いて、見えた先には、母と父が居て、りくと、くうどうと、かんなが居て。


 「ごめんね」とだけ呟いて、みんなから、「いいよ、大丈夫?」と聞かれながら、「大丈夫だよ」とさくらは必死に作った笑顔で答える。


 少しは落ち着いた気がする。そんな中、さくらは、母とりくの手を繋いで、夜道を歩き、いつも帰っている家へと帰った。


 くうどうと、かんなは、急遽泊まる事となり、くうどうが、さくらの母に「急にすんません」と頭を下げ、そう言うと、さくらの母は、笑顔で、「かんなちゃんもその方が嬉しいでしょ?もし、これから先かんなちゃんの事で困った事があったら、ウチに来なさい。力になるから」と答え、くうどうは、泣きながらお礼を言いながら、さくらの家へと、足を前への動かした。


 大好きな人と一緒に花火を見た者。


 親しい友人と一緒に花火を見た者。


 愛する家族と一緒に花火を見た者。


 様々なシチュエーションで見た花火は、見る者全ての景色を変え、見た者全てに刺激を与える。


 今年の花火大会はもう終わり。


 でもまだ夏は終わらない。


 まだまだ、今年は終わらない。



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