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失恋から始まる恋もある  作者: 倉永さな
1/1

《序章》「失恋」

「小説家になろう」内のガイドラインが変更になったため、作品を削除しました。


感想を残すために一話のみ残しています。


移転先は

http://kuranaga.web.fc2.com/

となります。


お手数をおかけしますが、続きは上記ホームページでご覧下さいませ。

 久しぶりのデートに心躍らせて待ち合わせ場所に立っているのは小林奈津美こばやし なつみ。セミロングの黒髪を整えながら奈津美は彼を待っていた。

 待ち合わせ時間が過ぎても現れない。しかし、それもいつものことなので今日はどこに行こうか、とぼんやり考えながら人の往来を眺めていた。

 待ち合わせ時間が五分過ぎた頃、ようやく山本貴史やまもと たかしが現れた。しかし、貴史は遅れたことへの謝罪の言葉ではなく、開口一番、別の言葉を言い放った。

「俺たち、別れよう」

 突然のことに、奈津美は言葉を失う。なにを言われたのかすぐには理解できなかった。

「奈津美、俺たちは今日でおしまいだ。俺は美歌みかと結婚する」

「美……歌?」

 奈津美はゆっくりと思いだしていた。

 美歌……榎木えのき美歌は同期入社の同僚で、一番最初に仲良くなった人だ。細くてすらりと高い身長、長くて美しい黒髪。同性でもうらやましい見た目で性格もやさしくて男女ともに人気のある美歌。

『新しい彼氏、できたんだ!』

 二年近く付き合っていた彼氏と別れて落ち込んでいた美歌に、彼氏ができた時にはふたりで大喜びしたっけ。「新しい恋に乾杯!」って祝って……。

『奈津美~! 彼氏にね、昨日、プロポーズされちゃった!』

今日の朝、美歌は幸せそうに私にわざわざ報告しに来てくれた。聞いているこっちまで幸せになるほどのオーラを振りまいていたのに……。

 美歌、私が貴史と付き合っているの、知っていたのに……。

 どういうこと、なの?

 親友の手酷い裏切りと、目の前に立っている結婚を意識していた男の仕打ちに……奈津美は目の前が真っ暗になった。


   *   *


「小林先輩!」

 奈津美は自分が呼ばれていることにしばらく気がつかなかった。

「どうしたんですか、こんなところに座って」

 目を上げると、どこかで見たことのある顔が目の前にあった。男にしては可愛らしい顔をしていて、どこかで見た顔なのに、思い出せない。

 ……だれだっけ?

「……なんでもない」

 奈津美は自分がどうしてここにいるのか思い出せず、家に帰ろうと立ち上がろうとした。

「なんでもないこと、ないです! だって先輩、泣いてますよ?」

「え……?」

 黒髪のかわいい顔をした男に指摘されて初めて、泣いていることに気がついた。

 そして、ゆっくりとなんで泣いているのか思い出し、涙が止まらなくなった。

「どうして……」

 涙を拭っても溢れてくる。奈津美の側に立っている見覚えのある黒髪の男は、無言ではんかちを差し出した。奈津美は受け取り、涙を拭いた。それでも涙はあとからあとからわき出てくる。

 男は奈津美の横に座った。奈津美は構わず泣いた。男は無言で奈津美の横にただ、座っているだけだった。涙は……止まらない。

 この涙と一緒に……身体も溶けてしまえばどんなに楽なんだろう、と奈津美はぼんやりと考えていた。

 なにが悲しいのか。

 悔しかったのか。

 裏切られた、と思ったのか。

 奈津美は、わからなくなっていた。

 それでもこの涙は止まらず。

 刻一刻と迫りくる夕闇の中、いつまでもいつまでも……子どものように泣いていた。


   *   *


 すっかり日が暮れて、それでも涙が止まらなかった。

 ふわり、となにかかけられた。

「寒いだろ」

 ぼそっと男は呟いた。

 ふわっとかおる、香水と男の匂い。少し涙が引いた。

「……ありがとう」

 ずいぶんとひどい鼻声だった。ぐすん、と奈津美は鼻をすすった。男は無言でティッシュを差し出してくれた。奈津美は素直に受け取り、涙を拭いた。渡されたはんかちは、涙ですっかり濡れてしまっていた。

「家まで送るから」

 男はそう言ってくれたが、奈津美は首を振った。奈津美は無言で立ち上がり、駅に向かって歩き始めた。男は少し後ろをゆっくりと歩いてくる。背中を守ってくれているようで……少し安心した。


   *   *


 奈津美はどうにか家にたどり着き、家族に顔を合わせたくなくて、そのまま自室へ戻った。部屋に戻り、電気をつけずにベッドに身体を投げ出した。

 暗闇の中、貴史からもらったクリスタルのリングホルダーが目に入り、ようやく止まった涙をまた誘った。誕生日プレゼントに大好きなバラを彫刻してもらった、リングホルダー。部屋には貴史からの贈り物がたくさんあって、あとからあとから涙がこぼれた。涙に溺れて、涙に溶けて、この悲しい気持ちがどこかに流れていってくれたらいいのに。奈津美は切にそう願った。



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