神様はとっても負けず嫌い
ここは都心から遠く離れたところにある神社。
もう何百年もの間、神職もおらず廃れに廃れきっています。
腐った床の所々には無数の穴。
おや、あそこで器用に穴を飛び越えていく幼い女の子が。
そこのお嬢ちゃん、こんな所にいたら危ないよ。
「失礼ね! わたしはお嬢ちゃんじゃありませんー。ここの神様ですぅー。少なくともあなたの1000倍はお姉さんなんですぅー」
そう、ここにはとっても負けず嫌いでしぶとい神様がいるのです。
神様には近頃悩みがあります。
ブオォォーン! ブォンブォンブォン!
「ヒャッハー!」
ブォンブォンブォンブォンブォンブォン!!
夜な夜な神社の庭に現れる暴走族。どうやら良さげな感じの廃れ具合が彼らの心をくすぐってしまったようなのです。
「あぁぁあ゛あ゛ー!! もう゛、うるさーい!!」
無理もありません。もう何日も安眠から遠ざかっているのですから。
「もう、我慢できない。こうなったらあのクズどもを絶対に追い出してやる! 神を怒らせたことを後悔させてやるんだから! ふはははは――」
神様とは思えない発言です。
次の日。
ブオォォーン! ブォンブォンブォン!!
「ヒャッハー!」
今夜も族がやってきました。
「来たわね。まずは定番のポルターガイストで脅かしてやるわ」
神様は落ちていた小石(×3個)を拾うとお手玉を始めます。
当然普通の人間には神様の姿は見えない訳で、族からは小石(×3個)が宙に浮いているように見えるのです。
「さあ、驚きなさい! 小石(×3個)が宙に浮いているのよ!」
ブオォォーン! ブォンブォンブォン!!
「ヒャッハー!」
「もう、何で見ないのよー! こっちを見なさいよー!」
夜通し続けましたが結局見向きもされませんでした。無念。
さらに次の日。
「ふう、これでよし」
神社の庭がテッカテカのヌメヌメになっています。
神様は庭に大量のローションをぶちまけたようです。
「これでもうローリング走行なんてさせないわ。バイクもヌメヌメ地獄の餌食よ。おーっほほほほ!!」
……。
「さあ、来るなら来なさい。ヌメヌメ祭りの始まりよ。おーっほほほほほ!!」
…………。
「どうしたの、もういつもの時間はとうに過ぎてるわ。早くおいでなさい。おーっほほほほほ!!」
……………………。
「ちょっとー! どうして今日は来ないのよー!! よー、よー、ょー(エコー)」
今夜の神社は心地よい静寂に包まれていました。
ある日の早朝。
何やら騒がしいので神様は眠い目をこすりながら表に出てみると、なんと族達が庭を掃除していました。
「おら、もっときびきび動け」
「「「へーい」」」
どうやら彼らはまだ高校生だったらしく、教師の熱血指導を受けたようです。
その一環として奉仕活動にきたといったところでしょう。
お陰で庭のヌメヌメも全撤去され、境内全体もピカピカになりました。
教師の男は神棚に向かって言います。
「こいつらが迷惑をかけてすみません。俺がしっかり指導しますので、どうかこいつらのこと見守ってやってください」
そう言ってますがどうします?
「まあ、わたしとしては夜な夜なヒャッハーしないんだったら別に構わないんだけどね」
神様は今回のことは水に流すそうです。
そして教師の男は最後に言います。
「そういえば俺も昔はやんちゃしてたんですよ。だからあいつらの事、なんか放っておけなくて……。では失礼します」
教師の男は神棚に背を向けると、颯爽と歩き始めました。
そのうしろ姿を見る神様。
「うーん、あの男どっかで……。あ! こいつ昔ここでローリング走行してた暴走族の総長だ! あの時だってわたしは不眠症に悩まされて――。なんか思い出したら無性に腹が立ってきたわ」
神様は男の後頭部に向かって小石を投げます。
「痛っ!!」
男は思わず振り返りますが、誰の姿も見えません。そして首をかしげながら帰っていきます。
「ふふ、これでチャラにしてあげる」
神様は悪戯っぽく笑うのでした。