第2話 副主将と朝練に来た8人との出会い
翌朝、大音量の目覚まし時計で、俺は目を覚ました。布団から飛び起きて、洗面所でチャチャっと寝ぐせを直した。歯みがきをしつつ、トースターにパンを入れてスイッチを押す。パンを焼いている間に着替えるなどして身支度を済ませる。そして、焼き上がったパンを食べてから急いで家を出る。
電車通学のため、駅まで走って、電車に飛び乗る。飛び込み乗車はいけません。
学校の最寄り駅に着くと、早足で学校に歩く。
学校に着いたのは昨日河田主将が来た時刻の30分ほど前。昨日も行ったので、バスケ部専用体育館へは迷わずたどり着いた。
バスケ部専用体育館の扉に手をかけ、開けようとしたが、
「あれ、開かない……。あ、そうだ、昨日は誰か不用心な人が(注:うっかりしていた河田主将)鍵を閉め忘れていたから開いただけか」
「誰かが来るまで待つか……」
俺はまだ正式には仮入部期間ではないので、本来ならここにいていいはずもなく、職員室に鍵を取りに行くこともできない。
仕方なく、体育館の扉の前に座り込んだ。
「困ったな……。つか寒っ」
いくら4月とはいえ、朝方は寒い。
このまま30分待つのか……と考えながら座っていると、
「お前誰だ?」
急に誰かに声をかけられた。俺は下を向いて考え事をしていたので、近づいてくる人影を視認できていなかった。それゆえ、大きく肩を振るわせ、そしてサッと顔を上げた。目に飛び込んできたのはバスケ部の上着をきた男。
第一印象 イケメンさん
そんな感想が頭に浮かんだ。
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川島高校#05 植原勇也 副主将 高校三年
178cm 63kg ポジション スモールフォワード
植原は真面目な男だ。朝練には誰よりも早く来る。誰よりも遅く放課後も残る。
それが彼を副主将にした所以だった。河田が過去に植原よりも早く学校に着こうとしたことがある。早く家を出たはずだったが、植原はすでにシューティングを始めていた。中学生時代の逸話だが。
そんな植原は、高校に行っても変わらず早く学校に登校してシューティングをしている。
そんな彼だが、今日ばかりは違った。
今日は植原は少し遅めだが、それでも周りの人より早く登校していた。
いつものように早足で体育館に向かっていたが、
(!?……誰かいる……。河田か?河田にしては身長が低いか?)
さらに近づいていくと、見知った顔ではないことに気づいた。
(本当に誰だ……?)
とりあえず声をかける。
「お前誰だ?」
座り込んでいた人はかなり驚いたようで、肩を振るわせていた。
(悪いことしたかな……?)
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「お前誰だ?」
俺は答える。
「あ、え、えーっと、伊織英太郎です。一年で、バスケ部入部希望です。よろしくお願いします」
「俺は植原勇也。副主将やってる。三年だ。よろしくな」
このイケメンさんは植原先輩って言うのか……。いい人オーラ半端ない。覚えやすい。
「伊織はなんでここにいるんだ?一年だろう?仮入部もまだだし、始業なんて1時間くらい先だろ?」
聞かれるべきことを聞かれた。まあ、そうなるよな……。
「えーっと……、まず、昨日俺は––––」
自分がここにいる経緯を話していく。
なんか緊張する。
「––––と言うわけです。」
「なるほどな、お前やるなあ」
「え?何がですか?」
「そりゃあお前、普通のやつが入学式も始まっていないのにうちの体育館使ってバスケして、しまいにゃ河田と一緒にバスケするしよ」
「……」
「まあ、いいや。鍵取ってくる」
「ありがとうございます」
「いいってことよ。ちょっと待ってろい」
数分後、鍵を持って戻ってきた植原先輩と俺は体育館へ入った。
今日もバスケ部専用体育館は手入れされていて綺麗である。
昨日は制服(上セーターとポロシャツ 下冬向きズボン)でバスケをしたが、動きにくかったのと、何より汗で重くなるので、今日はバスパン(バスケ用のズボン)とトレーニングシャツにウィンドブレーカーを着てきた。(中学校の時のものを使うのは嫌なので、全て私物。)
早速ウィンドブレーカーを脱ぎ、バッシュを履く。
昨日は自分のボールを使ったが、今日はクラブのボールを使わせてもらえるらしいので、ありがたく使わせてもらう。と言うことで、ボールケースのある部室に入る。昨日は開かずの間だったので、気になっていたが、清潔感のある綺麗な部屋だった。いくつものロッカーがあり、部屋の奥にはトレーニング器具やシャワールームまである。感心しながら見ていると、植原先輩がバッグを持って部室に入ってきた。自弁のロッカーに荷物を入れにきたようだ。
「基本ここにはバッシュとか部活用の着替えとかしか入れないけどな。」
そう言いながら、バッグからバッシュケースと着替えの入ったナップザックを取り出し、ロッカーの中のフックにかけ、残りの荷物を下にあるスペース部分に入れた。そして、バッシュケースからバッシュを取り出し、履き始めた。こうやってロッカーを使うんだと思いながらボールを持って部室から出ていく。
それから軽くアップをこなし、シューティングを始める。今日もシュートがよく入る。隣でストレッチをしていた植原先輩にも「おおっ」と言われた。
しばらくすると河田主将がやってきた。
「おはよう」
「おっす」
「おはようございます」
河田主将が挨拶したので、植原先輩と俺もそれぞれ挨拶を返す。
一緒にいる俺と植原先輩を見て、頭の上に疑問符を浮かべる。
「ん!?お前ら仲良いのか?面識あったのか?なんだ?もしや従兄弟!?」
どんどん疑問符を増やしていく。
「いやいや、違う違う。実はな、俺がここにきた時には伊織がここにいてだな––––」
植原先輩が事情を説明してくれている。
「––––ってわけだ。OK?」
「OK、理解した」
よかった、誤解が解けた。
「いやー、しかし伊織は真面目だな」
「植原、それはお前が言えたことじゃない」
「えー、なんでさ」
主将と副主将が何故か言い合いになってきたので、シューティングに戻ることにした。全国優勝を目指しているチームなのに、2人の雰囲気は緩い。これが練習になるとどうなるのか全く想像できない。きっと凄いんだろうな……と思いながらシューティングを続けていると、体育館の扉が開き、人が入ってきた。8人いる。
全員がバスケ部のウィンドブレーカーを着ているので、確実に部員だ。
「おはよー」「おはよう」「おいーっす」「おっはー」「おはようございます」「おはようございます」「おはようございます」「おはようございます」
8人分の朝の挨拶がきっちり聞こえた後、
「誰?」「なんか見慣れないやつがいるぞ。」「あいつ誰だ?」「誰ですか?」「河田先輩、誰ですかその人」「誰だ?」「……ん?」「あれれ?」
8人分の疑問形の声が聞こえる。そりゃそうだ。
「あー、お前ら説明すっから荷物置いて準備できたら集合して」
「はいはーい」「了解」「わかったー」「OK」「わかりました」「わかりました」「わかりました」「わかりました」「わかりました」
8人分のYES系の答えが返ってくる。
……ってかさっきから4人だけ敬語の人いるね。二年の人かな?などと考えながら数分間待っていた。
数分後、1人、また1人と部室から出てきて、8人全員が来た。
「んじゃ、早速説明したいんだが……今日はやけに少ないな」
「今日は昨日の疲れが残ってる人が多いんで」
「ほんと、勧誘大変」
「おう、わかったわかった。じゃあ、説明するぞ。……と、その前に自己紹介だけしてくれるか?」
急に河田主将に自己紹介を要求される。まあ、ある程度予想できたけど……。
「は、はい。えー、伊織英太郎です。一年です。バスケ部入部希望です。えーっと、僕がなぜここに居」
「そっからは俺が説明してやるからいいぞ。下がっとけ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、いいか?まず俺と伊織があったところから説明する。まず、––––」
河田主将優しすぎるだろ。わざわざ説明を1から丁寧にしてくれた。
俺についての説明が終わる頃には疑問の視線は消えていた。
「––––。これで大体分かったな?それじゃあ、お前らもこれからのチームメイトに挨拶しておけよ」
「んじゃ、俺から行こうかな?俺は……」
そうして8人の自己紹介大会がスタートした。
まとめるとこんな感じ。
1.川島高校#00 筒井亮斗 高校三年
169cm 57kg ポジション ポイントガード
2.川島高校#01 江川広 高校三年
170cm 57kg ポジション シューティングガード
3.川島高校#07 上島航平 高校三年
177cm 62kg ポジション スモールフォワード
4.川島高校#14 夏川慎太郎 高校三年
183cm 69kg ポジション センター
5.川島高校#20 木下康生 高校二年
168cm 55kg ポジション ポイントガード
6.川島高校#23 相川傑 高校二年
180cm 68kg ポジション パワーフォワード
7.川島高校#33 谷口陽介 高校二年
170cm 65kg ポジション シューティングガード
8.川島高校#35 平塚吉晴 高校二年
185cm 69kg ポジション センター
気さくな人ばかりで、しんどくてもお互いを励まし合って頑張れそうだなと感じた。何人かシューティングガードの人もいるので、絶対に勝ってやると決意した。
「そうだ!5対5するか!!」
河田主将が提案した。
「やろうぜ!!」「やろうやろう!!」
すぐ全員やる気になった。
(やった……!間近で日本トップレベルの高校男子バスケが見られる……!!)
その時、河田主将が近づいてきた。
「審判やってくれるか?」
「もちろん!!やらせていただきます!!」
審判ならさらに近くで見られる!!
次の瞬間、河田主将がこそっと俺に耳打ちした。
「お前も途中出場な」
…………ハイ?