08-010-01-01 俺君剣聖二才、続・弟子君いいトコ見せたい!
人ごみに紛れながら、俺君はアリムルゥネに肩車をしてもらいつつ、祭の広場に出ていた。
沢山の出店が出ていたが、その中にも俺君の気を引くものがあった。
それがこの──点数の書いた的。粗末な木の弓矢──射的である。
「おや、やっていくかい? お姉さんがた。それともそのちっちゃい坊やが挑戦するかい?」
髭の店主が見せ前で足を止めていた俺君達に、威勢のいい声を掛ける。
「俺君達全員で勝負だコノヤロウ!」俺君は二人の弟子を見る。
エルフの弓に比べれば、おもちゃも等しい弓を軽く引くアリムルゥネ。曲がる範囲が毎回違う。
一方のルシアは、弓に張られた弦を何度か弾いていた。毎回違った音が鳴る。ルシアは薄く笑って肩を下げる。
「ライエン様もするか?」
「やるー!」
俺君、目を輝かせる。
弓を手に取った。うおおお、これが戦うための武器……(違います)。
俺君、一番小さな弓を貸してもらって弦をびろーんと広げてみる。
手を離した。ブルン! 弦は恐ろしい勢いで戻ってくる。俺君、ちょっぴり驚く。
「お、坊ちゃんもするんだね?」と、店主。
「俺君もやる、やるんだい!」
「あはは、お師様。そう興奮なされなくても」
「えへへ。的は逃げやしないぜ、ライエン様」
的は中央が百点、外側に行くにしたがって点数は八十点、六十点、と点数は下がる。
「まずはわたしが試します」
大柄な弓を手に取るアリムルゥネ。矢は節くれだって曲がっている。
「お、難しいいの選んだね?」と、店主はニヤニヤ。
アリムルゥネが銀貨を一枚、指で弾いて店主に渡す。
「ありがとよ、美人さん」
弦を引く。
「歪みが酷い、しかも風で的が揺れている。……でもこのわたし、アリムルゥネはお師様の剣。今は弓矢となりてお師様の願望を叶えます!」
──シュ……! アリムルゥネが射る。
トン! と、軽い音がして的に突き刺さる矢。矢は見事中央に命中する。
「じょ、冗談だろ!?」と店主が真顔で驚いている。
「やった、やりましたお師様! わたし百点です!」アリムルゥネは飛び上がって喜ぶ。
「やったなアリムルゥネ」ルシアが微笑む。
「次はあなたね」
とルシアを指名するアリムルゥネ。
「いや、私はライエン様の後に」
「そう? お師様、出番です。二番手よろしいですか?」
俺君は節くれだったお肉プニプニの体に弓矢を装備する。
「まかせろ! 俺君剣聖!」
ドヤー、としてみたものの。
「坊ちゃん本当に大丈夫かい?」
「当然だ!」と店主の声へ自信満々に返す。
「さぁ、ライエン様の出番だぜ?」
「おう!」
俺は弓矢を引き絞る。上下左右と揺れて、中々的の定まらない弓。
「ぐぬぬ……」ヒュンッ! ……ポト。
俺君は「あ」と声を吐く。
弟子たちも「あららお師様」「ライエン様よう……」
と、あからさまにガックリ。
いやいや。それはおかしい。俺君は最強なんだから、例え弓がイマイチな品でも、矢は的の中心に当たってこそ当然だ。なのに!」
俺君悔しい。
──「ま、ライエン様の敵は私がとってやる! 見てな」
ルシアが選んでいた最も最良の弓矢を取る。そして、「ナムハチマンダイボサツ!」
──ヒュン! トッ! 矢は九十点に突き刺さる。ちょっとだけ風が強かった。
「見てたかライエン様。これが私の弓矢の腕だ。悔しかったら早く大きくなって弓矢の腕を上げないといけないな! あはは!」
──うぐぐ、うぐぐぐぐ! ルシアめ!
「次だ次! もう一回!」俺君は叫んだ。
「お師様もう一回ですか?」とアリムルゥネ。銀貨を店主に三枚渡している。
「何回やっても今すぐには無理なんじゃないか?」ルシアが温かい目で俺君を見下ろしながら呟く。店主が俺に弓矢を渡してくる。
「俺様もう一度挑戦! 何度でも再チャレンジできる社会を!」と、俺君は店主から小さめの──先程よりは作りがマシでしっかりとした──を貰う。
的は風に揺れている。
俺君は弓を引き絞る。俺君は腹で息をする、赤き魔力の流れが腹に満つ。俺は魔力を矢に流し、矢が赤く染まったのを見て発射した。
──ヒュン、(グイ!?) ヒュー、(クィ!?) 矢の軌跡が大きく曲がった。
「え!? お師様!?」またも矢がありえない軌跡を示す。
「あはは! ライエン様考えたな、魔術かよ!」ルシアが笑う。
矢が風で曲がる的に向けてありえない方向に何度も曲がる。そもそも的に届かない矢が地面すれすれから的の中心の高さまで直角に上がる!
──そして! ……トン。
矢は、的の中央部に刺さった。百点である。
「おおお、おおおおお! さすが俺君、俺君最高! 俺君大正解!!」
「お師様、そっか、魔法の力か……そうなんだ」と、興味津々のアリムルゥネ。
「あはは! ライエン様最高だぜ! しっかし、よくもあんなに矢の進路変更を成功させたな。『魔力制御』ずいぶん地に足がついてきた」
「やったー!」俺君右手を天に突き上げる。
「う、嘘だろ坊ちゃん! まさかその年で魔法使いかよ!」店主が俺君の妙技に驚いている。
──そう。
今日は祭の日。俺君のささやかな勝利で祭りの賑わいに色を染めたのだッ!
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ここで一句。
飛ばせよう 古き道具も 魔法の矢 (ライエン)




