08-006-05 俺君剣聖一歳九ヶ月、弟子と共に肺を躍らせる。瓶詰めの怪
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鑑定:『賢さ』と『精神力』のポーション。(使用済み)
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「おおお、俺は強くなったのか?」
──『賢さ』と『精神力』、しっかり頂きました!
「ライエン様さすがだぜ。自分だけの力で、まさしく命が失われる瀬戸際まで追い詰められて、魔力の生成、任意の位置への集中、開放威力の制御……うんうん! なんとこれら複数の事を一度にやったんだよライエン様は! さすがだぜ! やっぱりライエン様だ!」
「ぐおお、ルシア。俺は凄いか?」
「凄いに決まっているじゃないですか!」
──くぅっつ! 俺君凄い! 俺君はやっぱり剣聖、凄いのだ! 最強の二文字は俺のためにあり!
剣の技だけでなく他の力、俺の行使できる力に魔法が連なるのも遠い日では無いのかも!
俺のワクワクは止まらない。修行により身に付けつつある新たな力。それが自分のものとなる。これが嬉しくないわけが無い。
俺は──。
「ぐわぶっ! お師様お師様助けてください~!? げぼっ!」
──あ。アリムルゥネのこと忘れてた。
アリムルゥネもどのようにして瓶を捉まえたのか知らないが、瓶の中身の黄色いポーションを呑んでいた。
彼女の顔がどんどん白く、そしてどんどん青くなる。
「アリムルゥネ!」
彼女の中で、魔力が生成されている様子は全く無い。魔力の流れた証拠の魔脈が全く見受けられないからだ。
「ルシア!」
「わかってる! ライエン様も手伝って! 私がアリムルゥネの腹の空気を膨らます。ライエン様は遅れて肺の空気を膨らませてくれ!」
アリムルゥネは草原の上でもがいている。
ルシアの魔力がアリムルゥネの腹部へ赤い筋、魔力を伝えた。アリムルゥネは「ゴボリ」と息を吹き返し、俺は彼女の肺へと魔力を流す。空気が膨らみ、詰まりの薄い場所からボコボコと穴が開いては広がり出す。
──「空気よ膨らめ! 頼む耐えろ、アリムルゥネ!!」
俺君の腕から赤い魔力が迸る。しかし、俺の焦りが放出魔力量の制御ミスを生んだ。
──あ、気道の膨らみが早すぎる!
弟子が激しく咳き込む。咳き込んだと言う事は、喉のつかえが取れたということ!
「げほ、ゲーホゲホゲホ!」アリムルゥネが豪快に咳き込む。そしてその口元には黄色いスライムの破片が幾つか張り付いていたのである。彼女が右腕で口元を拭く。乱暴に水筒の栓を抜き、水をごぼごぼと飲み干していた。
──弟子、半泣きである。
「アリムルゥネ!」
俺君は両手を広げて弟子にタタタタとダッシュする。
「お師様……」
俺君の姿をアリムルゥネが捉える。
「無事だったか、アリムルゥネ」
俺くんはアリムルゥネの胸に飛び込んだ。
「はい!」
と弟子も両手を俺の背中に回して力を入れる。
──グキ!? おぅぷ! グキグキグキグキョ!? ぬおば!?
……抱きしめられて、俺様の背骨が次々と鳴る。痛いけど気持ち良い。
「お師様! お師様!!」
「良かった、無事で良かったアリムルゥネ」
俺は弟子の両手をそっとのけると、静かになった弟子のおでこを何度もナデナデする。アリムルゥネの顔が綻んだ。
──アリムルゥネが泣いている。
俺君とアリムルゥネのやり取りを傍で見ていたルシアは、
「まあ、この修行自体は失敗だけどな。──次は失敗しないって!」
「──うん、ありがと」
と、ありがたい言葉を掛け、アリムルゥネの返事を聞いてうなづいたのだった。
「ライエン様、アリムルゥネ。今夜の特訓は古来から何人ものバラモンの命を奪ってきた至高の修行法だ。『魔術 初級編』に今夜の訓練と似たような事例がかいてあるはずだから読んでおいてくれよな!」
カラカラとルシアが笑う。
満天の星々と、欠けた月が俺君達三人を瞬いてはいつまでも眺めているのだった。
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ここで一句
薬瓶 良薬を得て 口苦し (ライエン)




