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06-009-01 俺君剣聖、俺君一才六ヶ月、また会おうサバンナ


 俺君、魔の存在を不本意ながら撃破して、アリムルゥネにおんぶされ干し肉となった蝙蝠肉をしゃぶる。でも噛み切れない。アリムルゥネの背におんぶされ、首をカックンカックンさせながら、まどろみに沈みゆく意識を何とか繋ぎとめる。蝙蝠の肉はココナッツミルクとあうらしいとルシアが言っていた。そしてその味は牛肉に似ているとも。俺君は牛もココナッツミルクも、どんな味だったのか忘れてたがな! うん、俺君ウツラウツラ。瞼が重い──重い──っ!?


『大天位、爆炎の剣聖ライエンよ。お前に世界を左右するであろうミッションを与えよ──何やつ!?──ぶちッ』


「──んがっ!? 俺様剣聖!」何か、とんでもない妄言……いや、神の啓示だとちょっとおつむのかわいそうな人は一瞬でコロリと言ってしまいそうなほどに、鮮明な耳鳴りが聞こえていた。うん、あ、あれ? どんな内容だったかな。う? あー。だめだ、俺君忘れた。


「ライエン様!」

「お師様!」


 ──なんだどうした二人とも! ああ、二人にそんな言葉は聞こえて無い。ああ、先ほどのラップ音は錯覚なわけですね、わかります。そこ前考えがいくと、俺は口寂しいことに思い当たる。そう。干し肉スティックを落としてしまったのだ。


「お師様、お締めですか?」アリムルゥネが聞いてくる。

「あー、ちがう、おやつ」

「ああ、おやつ……お肉を落とされたんですね?」

「下、下、地面」


 地面には黒い土。

 肉の小片とてつもなく小さい。でもアリムルゥネが小片を見落とさず拾ってくれた。


「ね、ルシア。これ、、地面に落ちたって」

「あー、まあ任せな」


 ルシアの体に魔力の筋が走る。そして干し肉を包み込み──一瞬光った。それはどこからか、もしかすると天上からサラサラと、光が零れる。


「出来たぜ。ライエン様に渡せば良いんだな?」

「うん」

「にくー! 俺君のタンパク源! ありあとー、るしあ」

「全くライエン様は単純だぜ」


 ──ルシア、お前に言われたくないわ!


「おうおう、ありがとなライエン様」

「良かったですね、お師様」

「うん……あり、ありむ。あり、るし!(拾ってくれたアリムルゥネ偉い、肉を綺麗にしてくれたルシア偉い!)」


 二人には言葉が通じた。俺はちょっと話すのが遅れているのかもしれない。

 ダメで元々、もっと流暢に言葉が話せるよう心がけよう。いつも弟子の気づきに頼らず、すんなりと俺君からのアクションで二人と話したいものだ。しかし、あの狼王『白牙王(はくがおう)』には通じていたな。あれは一種の魔法? それとも第六感? テレパシーと言うものだろうか。


 ──うーむ


「お師様、お師様?」


 肉の味が美味い。覗き込むアリムルゥネに、俺君は言葉を返してみる。


「あー、アリム?」

「おお、名前半分ですが呼べるようになりましたね。わたしは『群狼の』アリムルゥネです」

「おー、アリム」

「そして、お師様は『爆炎の剣聖』ライエン様です」

「にくー」

「はいはい。次のお肉でしょう。細く裂きましたから美味しく、かつ柔らかく食べることができるはず! ……ぜひお試しを」


 と、俺の口に新たな蝙蝠の燻製肉。牛肉に似ているそうだが……俺は牛肉の味を覚えてないんだよ! 老化した蜜壺で味が良くわからなくなっていて、しかも老年には消化不良となるかもしれない巨大なタンパク質、何か生き物の肉のソテー、例えば牛肉のステーキなどを遠慮していたからな! 狩って余った肉は売却対象だったんだ。


 ──と、いう事で。


「はむっ!」


 俺は裂き肉を咥えた。一瞬でわかる、ルシアが加えておいたと思われるスパイス。途端に湧き出る涎。俺君の口一杯に広がる旨み。前歯で軽く噛むと、ジューシーな肉の甘みとコクが浮かび上がる。


 ──俺君感動! こんな素晴らしい食べ物がこの世にあるとは! 旅はするものである。

 その面白さはなにを言っても温泉。そして現地のご馳走。そして、予定の無いぶらり旅。

 年々老いる俺の近辺に、最後まで残った二人の弟子。ああ、実にありがたい。


 ──そうとも! 俺は恵まれているのだ!


 俺はその考えに至り、自然と涙した。両目から止め処なく涙が流れる。

 ああ、ありがとう。アリムルゥネにルシア。

 俺君はいつだって、お前達二人に感謝しているぞ!


「あー、ライエン様なんだって?」

「ルシアありあとう」

「あ? ライエン様なんだって?」

「ありがとう」

「おいおいライエン様、照れるから止めてくれよ」


 ルシアが笑う。俺も釣られてクスリト笑う。


「──ミルクだろ」と言うルシアに肉を取り上げられた。


 ──あー「肉!」


 ルシアは俺の抗議も無視し、俺の肉を食べてしまった。そして。


「うぐぉば!」


 叫んでいた俺は、その口の中に哺乳瓶のミルクを押し込まれた。


「にゃ・に・を・しゅ・る! このバカ弟子がー!」俺の魂の言葉。ルシアの顔に花が咲いた。

「あはは! お師様はそろそろミルク卒業かもな! 粥にスープ、煮込んだ野菜、そぼろ肉に煮た白身魚、これらを多くするっと。……それでも旅の間はミルクの御世話だな。そう、哺乳瓶なし……めんどくさいけど器とスプーンを使って自分で食べてもらおう。ああ、果物はジュースにしてやるか。めんどくさいけど!」


「ふふ、ジュース……」ルシアの口の端が少しつり上がる。俺の背筋を冷たい汗がタラリと流れる。


「ぐぐぐぐ。──しょうか、俺もみにゅく卒業か。しかしルシア……(そうか、ミルク卒業か。ちょっとルシアの笑みが気になるんだが。でも、今考えても仕方が無い。ルシアは一つ言えば七つ答えの返ってくる弟子だ。アリムルゥネのように、ことごとく一本槍、もしくはあさっての方向を向いた計画を実行する弟子とは違う)」


 ──そうさ。考えすぎだ、考え過ぎ。

 俺は空を見た。透き通った青。西に薄い雲が浮いている。

 西の先。はるか先に蒼い山脈と手前の黒が見えてきた。


 ──次なる大地。

 そう思うと、俺君はなんだか気分がよくなってきた。

 うん。悪くない。ミルク卒業……スラぶーには悪いけど、御世話になりました。

 気のせいか、ルシアが手綱を引くスポットスライムがプルンと震える。多少大きく飛び上がる。


 ──スラぶーなりの、挨拶だと思いたい。


 ◇


---


 ここで一句


 蝉時雨卒業のはずだがミルク (ライエン)


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