06-008-01 俺君剣聖、俺君一才五ヶ月、サバンナの悪魔 その一
はるか先に蒼い山々のようなものが見えてきた。それらはみんな、白い帽子をかぶっている。
そして西の地平線には、低い潅木の黒が、空と地平線の間に挟まっていた。
「山だー!」
「そうですお師様。はるか草原を、そしてサバンナの道なき道を西に歩き通した結果です。流石ですね、お師様。十七ヶ月でこんな大冒険を繰り広げる人間なんて早々いませんよ?」
──そうとも! 俺君偉い、超偉い! 俺君の弟子らの支えがあったとはいえ、猛獣に食われたり化け物に追われたり、何より変な病気にならなくて済んだ! うぉお、そう考えると俺達三人と二匹のその一党、メチャクチャ冒険野郎なんじゃね!?
太陽は西に傾き始めている。そしてそんな時、大きく伸びる狼の遠吠えが聞こえるのであった。
──白牙狼だ。俺君は直感する。
俺君にはあの大狼の守りがまだあるらしい。ありがたいことである。
──と、白牙狼の警告の意味が現れた。
ガサガサッと、道無き道の脇の茂みから大きな塊が動いたのだ。その存在、ライオン……鬣。いや、違う。
──追い風であった。
影がこちら目掛けて飛ぶ。
「アリム!」俺はいち早く陰の正体に気づき警告した。
「ふぇ?」 とボケつつも、ライトソードの刀身にビームを入れる。眩い刀身を焼き、オゾンが燃える。空気が腐る。
──ヴォン! アリムルゥネは刃を一払い。刃が鳴った。
敵、円形にご本の山羊の脚を持つ生き物。
、紫色の毛皮、屈強な体、しなる巨大な太腿の筋肉、五本の脚を車輪のように並べて。円状にゆっくりと回る。
回転する胴体と顔は捩れるはずなのに、獅子のような顔は微動だにせず、まるで胴と首が切り離された別々の命であるかのように首から上の頭は存在していた。
そして、白牙狼のものに負けるとも劣らない、圧力を感じる咆哮。
「Grooooooooo!」
──俺君、突然現れた存在に戦慄する。この世のものではない──そう感じ取ったからだ。
明らかに、違う物質界の存在である。少なくともこんな、ぴぽーぱぽーの『さばんなちほー』に出てきて良い生物ではない。
「御師様!」俺を背負ってアリムルゥネ。
「(宝石をちらつかせて、美味く食べられる野草の事を聞いてみろ。くれぐれも、男の俺が食う、と言い張るんだぞ?)」
「ルシア、どうする? それとお師様メチャクチャ騒いでいるけどお締めかな?」
「ライエン様の件は後回しにして、あの生き物のことだろ? あれだけでかい的があるんだ。私の氷の槍で一撃かな」
──うおお、そうじゃない! 俺君の意見があっさりと却下された! しかもルシアが強行策!
「剣の出番はあるかな?」とアリムルゥネは刀を求めてロシナンの背を探る。
「……たぶん無い」ルシアはずばっと言い切った。
そのルシアの絶対の自信に、奇怪な生き物は獅子の瞳が僅かに震え、ルシアに視線を移す。
『ま、待て……!』予想外の反応に、明らかに狼狽してその生き物。
ルシアが右手に眼帯を手にし、銀色の瞳を露にする。獅子の顔が引きつった。
「うう、うずくぜ私の邪気眼が! 邪悪な妖物を倒せと泣いている。──なるほど、ずいぶんな魔力だが、私の敵では無いということか。あはは!」
『それは邪眼! ま、待て黒いの! 白いの、薬草の知識など必要としないか? いるだろう、たった三人での旅路だぞ?』
「薬草?」
『そうだ、例えば朝顔。下剤や利尿に乾燥させた種の皮を剥いた物、そして紅花を乾燥させた花は打撲傷や腫瘍に効く。それから……」
「ききゅな! (聞くな! 闇のものの囁きだ! 代価を取られるぞ!)」
「もう、お師様、落ち着いて。じっといらっしてください」
「ぎゃー! (もういい、この生物との交渉はお前たちバカ弟子のせいで終わりかもしれない! ぎゃー!(バカな、悪魔の囁きだぞそれは! 手加減せずにさっさとライトソードを振るえ!)」
「え? なんですかお師様。わたしこれでも忙しいんですけど!」
「ぎゃーーーー!(コラー)」
俺がアリムルゥネと怒鳴りあいをしていると、ルシアの堪忍袋の緒が切れたようである。
ルシアが大声で魔力を解放する。
「輝け邪気眼、光と共に風よ来い! ウィンドカッター!」
ルシアが銀色の瞳を細めて左手を払い、真空刃を生み出すや、辺りに赤き血が舞った。そして五本の内一本の脚を切り跳ばす。
『ぬお、こちらが下手に出ておれば……』
──え? いつお前が下手に出た。俺は不思議な物を見る。
ルシアが切り飛ばした脚が、生き物の切り口に再度付着し、みるみる傷が癒えていったのである。
──ほら見ろ、俺君凄い! やっぱりコイツ、とんでもない化け物じゃないか!
逃げるが勝ち! 俺君はそう思うのだ!
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ここで一句。
星月夜地上に降りた眷属か (ライエン)




