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06-004-01 俺君剣聖、俺君一才五ヶ月、弟子の愛を知る

 草原の焚き火……もう見飽きたが、俺様一歳五ヶ月、二人の弟子への反論は無意味である。俺達は崩れかけた草原(マジカ)の道を東から西へ向かっている。北は遠くに蒼い山々が見え、その麓は緑濃い。それ以外は時おり潅木(かんぼく)のまばらにある見渡すばかりの大草原だ。


「お腹すいた」

「アリムルゥネ?」

「今日はちょっと早いけどここで野営にしない?」


 太陽は西に傾いている。

 ルシアの体に赤い線が一瞬流れる。魔力の風だ。


 見れば、その足元に火がおこっていた。


 遠くで狼の遠吠えが聞こえる。この前であった狼、白牙王の雄叫びだろうか。

 炎から少し離れて、マントを敷く。


 そして、ルシアがソラマメを煮始める。ルシアの魔力が鍋の中に納まってゆく。

 一度沸騰させたら弱火である。豆の皮が柔らかくなったら、お湯と豆をとりわけ、ルシアはちまちまとソラマメの皮をむくのだった。 二個三個と皮を向いていたが、直ぐにその面倒さに飽きたのか、またもルシアの体の魔力が動き出す。


「来な、風よ」


 皮をつけたままのソラマメが宙に浮いたかと思うと、緑の風にソラマメは包まれて、三つ四つと勢い良くソラマメから皮が向かれてゆく。一粒一粒から湯気が立つ。少し草の香りがする、()でソラマメの出来上がりだった。


 ルシアがマントの上にゴロンしていた俺君を座らせ、そら豆一粒をスプーンで口に運ぶ。


「そらよ、ライエン様」


 俺君は舌でチロチロ舐めて警戒する。味は薄味でオーケー。変な味付けはされて無い。

 俺様はスプーンに噛み付いた。


「ライエン様?」

「パクッ」


 ルシアがスプーンをねじ込むのと俺君がスプーンに噛み付くのは一緒だった。


「ぐぼぁ──ぎ、ぎゃーーーーーーーー!(痛ぇよ、このバカ弟子がーーーー!」

「あ、すまないライエン様」


 思い切り木のスプーンを噛んだ。スプーンが取り除かれるとそら豆が残り、俺はそれを飴玉のように舌で転がす。

 俺は口の中にスプーンがない事を舌で確認すると、煮ソラマメを歯と舌で潰す。


 ──悪くない……これが、ソラマメを口にした俺君の感想である。

 しかし、上顎痛い!

 俺君はソラマメを何とかゴクンすると、ルシアが二粒目をスプーンに載せて待っていた。


「あーん」


 俺様、ちょっと工夫して鋭角にスプーンを含む。そしてソラマメを吸う! よし、スプーンが俺様に激突しない!

 俺はソラマメを奪うと、素早くスプーンを吐き出し、モグモグと豆を食う。


「おお、できるじゃん」

「んぐんぐ」


 ──やったーーーーー! 俺、ほとんど一人で食べれるもん! ソラマメの風味が口中を芳醇に保つ。緑の香り、大自然の香りだ!

 素材そのままの味と言って良い。実に美味い! そして何よりもスプーンの恐怖を克服しつつある俺君偉い! とっても偉い! まるでヘヴンだぜ!

 

 ──そう、俺様ヘヴン……。と、ウトウト。


「おネムにはまだ早いぜライエン様、アリムルゥネ! ライエン様のミルク!」

「はい。ゼリー入り」とは白エルフ。

「スペシャルカルシウム粉末は?」と闇エルフ。


 アリムルゥネはニタリと笑って「入れたよ?」と、あっさりと断言。まるで、それがいつものことと言わんばかりに。


「さすが、アリムルゥネ」と、ルシア。

「だってお師様に必要な栄養分がたっぷりはいっているんだもの。食べてもらうのが一番なんだから」

「そうだな」


 と、アリムルゥネの手からルシアの手に哺乳瓶が渡される。


「ほら、ライエン様」


 哺乳瓶の口が俺君にそっと含まされる。


「うんうんぐ」


 俺君は飲んだ。でも、俺は知っている。このミルクはスライムのスラぶーと、エルブンロイヤルゼリー。極めつけは粉々にしたイナゴだと。


 焚き火の赤に照らされて、栄養満点のミルクを飲む。飲む。息をしないと味などわからぬ! その境地に届け俺君!

 

「ごくごくごきゅ」


 がまんだ、口で息をしろ、ミルクを零すな。零すとまた正体不明の物を食べさせられるかもしれない。その恐怖は俺にミルクのはや飲みを促した。


 ──と。

 あと少し、あと少し、あと少しでミルクが無くなる。良くやった! 今回も頑張った! うん、これでこそ俺君剣聖! いついつの世も、最強でなくてはならんのだッ! 無論、それがミルク早呑み無酸素吸引だとしても!

 

 偉いぞえらい! ほうら、その証拠に後一口──! 「ゲホ。うえっぷ」……?


「うぼぁっ!」


 俺君は後一歩でミルク全呑みに失敗した。残念。


 うう、うう、ううう。 でろんと情けなく舌が出る。


「ライエン様、後ちょっとだったな? くぅう、今のライエン様なら全部いけると思ったのに!」


 ──悔しきあと一歩で!

 

「お師様の負けー! ルシア、銀貨一枚は私のモノね」


 へ? 銀貨?


 俺君、聞き逃さない。「銀貨?」


「あー、これで私は三連続で負けだぜ」

「ふふん! 何だかんだ言ってもお師様のことはわたしが何でもわかっているんだから! ……ふっふっふ」


 ──俺君、賭けの対象にされる。

 ああ、無私の愛とは幻か!? いや違うよなアリムルゥネ。違うよね、ルシア!


 ──俺はその番さめざめと泣きながら、弟子二人に挟まれて川の字になって寝た。

 弟子よ。心身ともに健やかに育ってくれ……頼むよ、うん。


 ──ああ、気持ちよい風が、狼の遠吠えを乗せてやって来た。


 俺君トロ目、おやすみなさい。


---


 ここで一句。


  夏の夕響く大声草原に (ライエン)

 

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