05-002-01 俺君剣聖、俺君一才二ヶ月、草原にて。遊牧民に出会う。
街道を西へ歩むこと数週間。俺君一才と二ヶ月が立とうとしていた。
西方。遠くに白い峰の頂が連なる美しい山脈の頭が見えた。万年雪だろうか。もう直ぐ春。まだ、山脈越えは自殺行為だろう。とはいえ、麓まであとドンだけ遠いんだよ、という事もあるけれど。
そして、街道の先にぽつぽつと白い点が見えてきた。それと無秩序な土埃。
だんだん近づく。
ああ、もうはっきり見える。棒を持ち、馬に乗った遊牧民の姿が見える。
この先は彼ら遊牧民の居留地なのだろう。
俺はルシアを見る。ちょうどイヤリングをするところだった。ルシアの肌が白く染まってゆく。
俺君たちがどうしたものかとロバのロシナンの歩みを止めさせ、作戦会議に入った。
「西ジューンセドの遊牧民よ。あの黒い旗。あれはゼゼの一族だ」ルシアの赤い唇が開く。
「どうなの? わたしたちを受け入れてくれそう?」
「たぶん大丈夫。ゼゼの一族は暗黒神を信仰しているけど、同じ宗派を信仰していないからって、いきなり襲い掛かってくることは無いと思う」
「アリムルゥネ、交易品はなにが残ってる?」
「宝石と絨毯と象牙、後は塩と、今回のキャラバンで虎の子となる砂糖」
「充分だな、じゃあ、気合を入れな。交易と言う戦いが待ってるぜ」
牧童が俺たちに気づいた。牧童は警戒の角笛を鳴らす。
遠くの山脈にも聞こえるかと思わせるほど、見事な吼え音であった。
しかし俺にはそんなことより火急の用事がある!
例え今の角笛を合図にゼゼの遊牧民がこの場に集まりつうあるとしても──!
──「ぎゃー。しー」
アリムルゥネの目から涙が。
「お師様、ああ、お締めなのですね。こんなときでも常に平常心。素晴らしいお方です」
「あ? しっこ? そのままで良いだろ、私の魔法に任せろ」
と、ルシアが俺君に近づき、さっと右手を払う。
「クリーニング。ついでにふっかふか、おまけでサラサラお肌」
「Oh……ありあと、るー」
凄いぜルシアの魔法。しかもルシアのやつ、この魔法を使うたびに洗練されていっているような。さすが俺君の弟子! よくやった、頑張ってるなルシアよ。
──とか何とか。
俺達が道の真ん中で俺のお締めについてあれやこれやと騒いでいると、遠巻きに馬上の男たちが数名近づいてくるのが見えた。
◇
男達は七名である。
こちらは人数外の俺君を除けば二人と二匹……この二匹もロバとスライム。完全に人数外である。
「はい! ゼゼの民!」
ルシアがアゾットを隠し、警戒する遊牧民に対し手を振った。
相手の反応は無い。
「こんにちは、羊追う人たち」アリムルゥネが続き、剣をロバのロシナンに背負わせる。
そして。
「私たちは行商人よ。東の毛織絨毯や塩、象牙、宝石の装身具、そして砂糖を売ることができる」
男達は互いの顔を見合わせる。
ルシアは囲んでいる一人一人の顔、日に焼けて筋のくっきり刻まれた男達の顔を左目の赤い瞳で優しく見つめて続けた。
「あと売れるのは、剣と魔法の腕ね。何か困っている荒事は無い?」
遠くに羊と山羊の鳴き声が聞こえる。
太陽は傾きすっかり西だ。
「とりあえず、銀貨三枚で宿を……いえ、食料を頂きたいのだけれど」
男達は再び顔を見合わせる。
だか、今度の男達の顔は若干綻んでいた。
女二人。旅商人。脅威は無い。
「だー!(早くしろ弟子ども、ミルクだお粥だ俺の飯!)」
そこで初めて男たちの好機の視線が俺君に集まる。刀や弓に手を掛けていた者も、俺の存在──アリムルゥネに背負われた──に気づき、武器から手を離して態度を一変させる。
「どんな商品なんだ? 見せてくれ」「どこにも無い商品ばかりだぜ。なぜなら、私が付与魔術師だからだ。どんな品も、物の数分で魔法の品に早代わりだぜ」「亀の甲羅の加工はできるか?」「花、花は無いか! 東から来たなら分かるだろう、晶中花だ!」「写真は出せるか? 記憶を探って俺の心の中を写して欲しい。死んだ息子の顔をもう一度見たいんだ。ああ、声だけは今でも思い出すことができるのに!」などと、できることから出来ないものまで、争うような質問攻めになったのである。
──でもデモでも! 俺だけは知っている。ルシアなら全ての要望に応えられると!(確信!)
だけどアリムルゥネにルシア。この二人は俺には過ぎた弟子だと思う。例え逆モヒカンの刑に処されてもな!
ヒャッハー! この世は地獄だぜ!!
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ここで一句。
来る浮世 渡るも阻む 冬の風 (ライエン)




