05-001-03 俺君剣聖、俺君一才、謎肉を試す!
草原を行く。
もう道なき道だ。かすかな獣道と、薄いわだちの跡がある。
少しでも道から外れると、そこは緑成す草原。南も北も、はるか先に青の深い山脈が見える。
そして見える、地平線。
「アリムルゥネは知ってるか?」
「ん? なにを?」
「七色の大蛇の伝説」
「こんな所に?」
「こんな場所だからよ」
「はるかな昔、邪悪な魔導師の実験台にされた大蛇」
「その蛇がどうしたの? 美味しいの?」
「どうなんだろうな、濃目のタレをつけて何度か焼くと美味しそうな気がする」
「ミュータントを食うのかよ。頭に蛇ではなくて獅子やワシ、ワニの首がついていたりと正真正銘の化け物だぞ?」
「だから! わたし時々日記に料理のレシピを書いてみたりしているの」
「へえ? それでその集めたレシピの中に、食えるメニューはどれほどあるんだ?」
「全部食べられらるってば!」
「あはは! 冗談冗談。ドラゴンステーキは美味かったの覚えてるよ」
「ああ、あれ。王女様が竜の守る牢に閉じ込められていたときだよね? あ、それとも竜騎士の牧場を襲ったとき?」
「さあ? ちょっと忘れたけど、骨を焼いて髄を出し、血と合わせて香辛料か? ドラゴンステーキ」
「ダイコンにレモン汁の方がさっぱりして良いかもね」
それからルシアとアリムルゥネの声は聞こえない。
ルシアのロバを牽く音だけが草原に吸い込まれていった。
──と。
「ぎゃー!」
俺様起きた! 良い匂いがする! 近頃の俺君は結構大きめの塊でも舌と歯を使って、それなりに柔らかいものならすりつぶせる様になっている。
「あ、ライエン様。肉の焼ける香りに釣られたか?」
「え?」
焚き火を見れば、なんだか腸詰めのようなものが火に炙られている。
「ライエン様食うかな?」
「未だだと思うけど。あまりにも肉肉しているし」
「ぎゃ、ぎゃ、きゅいたひぃ」
「あー。やっぱりライエン様食べたいか……」
ルシアか焚き火と俺から目を逸らし、街道沿いの一点、土が僅かに盛り上がっている箇所を見る。
そして、視線の先を俺に返す。
「どうしても食いたいか? ライエン様」
「あにゃりまえにゃ、にゅしあ!」
俺の答えにルシアが視線を地面へ落す。
で。
「アリムルゥネ! 一口食べさせてみようか。もちろんミンチにして」
「お師様、仕方ないですね。で、はい!」
とアリムルゥネの手から渡されるスプーン。
ルシアは……精神統一していた。
そして右目の眼帯をずらして、やおら叫ぶ。
「いざ、眠りのときは終わった! 我が邪気眼よ、目の前のニエ(肉)をすり潰せ! アブソリュート・ゼロ!」
腸詰めが弾ける。そしてペースト状になったかと思えば、数多の小さな団子になった。
「ライエン様、肉団子をすくって食いな」
「にゃったー! いにゃにゃきます!」
俺君は宙に浮いたままの肉団子の一つをスプーンに載せて、アリムルゥネの優しさあふれる観音様の視線、そしてルシアの生暖かいものでも見守る菩薩眼に挟まれて、大一口目を口に入れた。
入れて俺は涙を流す。程よい香ばしさと甘さ、ジューシーながらも控えめの脂。
俺は感動した。バクバク食った。
その間、弟子二人の俺へと注ぐ視線は代わらなかった。
「りゅまいのだー(美味いのだ!)」
俺は弟子達を賞賛し、こんな絶品を食わせてくれた二人に感謝する。
「で、にゃんのにゅく?」
ルシアは首を左右に振る。その時、彼女は瞼を湿らせていた。ああ、俺君がルシアの分も食べちゃったからかな?
一方、アリムルゥネは滂沱と滝のように涙を流していた。そして。ある一点を指差す。
アリムルゥネの視線の先。
なんと、蛇……いや、もっと単純な生き物……。
俺は背中に冷たい汗が流れるのを実感する。
ああ……ワーム……。
武芸に疎い方なら至難、武芸を足しなう方でも強敵、俺たちのような剣聖クラスなら反撃一振り。
そう。地面を渡る音に感ずいて、化け物が踊り出、哀れあっさりと返り討ち。
──そんなこんなで草原の巨大ミミズ、ランドワームは俺達が香辛料をぶっ掛けて美味しくいただきましたとさ!
ちっきしょう! 弟子ども笑うの忘れて涙流して泣いてるぜ!
ううう、きっとそれは凄い戦いだったのだろうな、アリムルゥネ。そして凄い料理だった。ルシアありがとう。
俺は。
──俺は……吐き出さないように耐えながら、吐き気を抑え、理性が勝つようにあてがわれた薬草茶をスラぶーミルクの替わりに飲む。
──ビバ俺様! どんな謎肉も残さず食べる俺君偉い! 俺君万歳! ……ミミズ……どうしてだよぅ!?
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ここで一句。
美味きもの 旬逃がせど また今度 (ライエン)




