05-001-02 俺君剣聖、俺君一才、黒い街道
そして行く暫く。
街道を覆っていた石材は既に無い。道は自然と剥き出し黒い土に変わり、草原に消えた。所々草の無い箇所があり、これらを繋げてやっと、街道の面影が見えてくる。
ここは街道黒い街道と呼ばれ掘ると土が黒いのだ。火山土かもしれない。また、黒いマギカをその土壌に蓄えているのだとも。絹の道、黄金の道、クリスタルの道とも。
これらの交易品にちなみ、そう呼ばれることもあるようだ。
俺達三人は、二匹の 家畜、ロバのロシナン、スポットスライム一匹を連れている。
ロシナンは草を食み、スラぶーのモカに食べるものが無いので草や鉱石をたべていた。
見回す限りの大草原。
「ふわわ。 ──ん……」と、俺がふにゃっと起きると、凄い光景が目の中に飛び込んでくる。
若緑。
ああ、一面の大草原。
野営の準備がされていた。俺君の弟子、頑張る。
「ほーにゅにょににゃにもにゃいなー うみゃやびゃにゃぎゃちょーったひじゅめとわぢゃぢじかみぇーなに(本当に何も無いな。馬や馬車が通った蹄やわだちのあとだけが残ってる)」
「お師様、血迷われましたか?」
「大丈夫だろ。背中で何か囁いている子泣き爺でもないだろうから」
「え! またお師様おじいちゃんになっちゃうんですか!?」
「そんな馬鹿な事があるわけ無いだろ? 私の鑑定を疑うのかよ」
「それもそうね。今のお師様はプニプニですものねー。きゃーかわゆい。ほっぺたプニプニー!」
──そうだな、悲しい事に。今の俺はこの二人にとって全くの御荷物だ。
だが、魔力の練り具合を見る限り、その制御法こそ重要なときと見える。
練気は中々難しい。赤子の本能が一瞬で睡魔とやる気を交換させてしまうのだ。
でも、新しい旅路を弟子二人が用意してくれた。
二人に感謝せねば。ああ、ルシアとアリムルゥネ。なんと神々しいのだろう。観音様が尊い。
「にゃんにょんにゃま、にゃんにょんさま……ァ!」俺の必死の祈りが二人に届きますよう……!
──ッ! アリムルゥネの気配が急反転!
──なっ! あ痛ぁ!
どう捻ったのか、俺は脳天にアリムルゥネの拳の直撃を受ける。
「ぎゃーーーーーーーーー! にゃにしゅるんだアリム(なにをするんだアリムルゥネ!)」
「鉄拳制裁です! お師様、あの澄んだ心はどこにお隠しになられたのです? お心が邪なものに変わりましたね?」
「ぎゃー(そんなバカな)!」
「背中でおとなしくなるよう、もっと縛り付けましょうか? わたしの背中は硬いですからね、鉄板でしたっけ。暫くは筋肉ガッチガチにななりますよ?」
「ぎゃー!」
──いやいや、やめてお願い。
「まあまあアリムルゥネ。直ぐに拳骨と言うのも芸が無いぜ」
「ルシアならどうしたの?」
ルシアは道端の草の穂を引っこ抜く。
「こいつでな?」と、猫じゃらし。
──こちょこちょ、こちょこちょ……。
「わっは、ひゃはは、ひゃははひ、ひゃは、うひゃ……(な、何しやがるんだルシア!)」
「お師様ずっと笑ってるわね。涙まで流して」
「まあまあ、痛みに耐える訓練と思えば。脳天は危ないし」
「なるほどルシア」
「あっは、ひはは、きゅばば、ひゃはひゃへ(くすぐったい、止めて止めてルシア!」
「でもルシア、お師様子を真っ赤にされて、辛そうだよ」
「そうね、このくらいで勘弁してあげますか」
「ぎゃー!(なんて事してくれるんだこのバカ弟子が!)」
ルシアは猫じゃらしを引っ込めた。
──今日のことは心のノートに書いておくからな、良いな、アリムルゥネとルシア!
野営の炎がパチパチと燃える。お芋の甘い匂いが芳しい。
燃料は枯れ草のロバの糞である。
とても足りないので、火の精霊や光の精霊をルシアが召喚した。
俺君は──念じろ──「ふぃのちぇいりぇいよ……(念じろ! 通じろ! 出て来いカモン! 火の精霊よ!)」
弟子二人の目が丸く、そして白目になる。
そしてそうなること一分。
──なにも起こらない。
そしてさらに待つこと一分。二人の弟子が興味心身に三分。
いつまで待っても効果なし。
「お師様、お時間はいくらでもありますからね」アリムルゥネに慰められた。
「えっぐ、ぐえっ……」
「まあ、繰り返しだな。もっと自然を感じるんだ、ライエン様」
──あ。今、初めてルシアが師匠らしい事をいったような気がする。
「ありぃぎゃほう、みんな」
アリムルゥネとルシアが微笑む。
いつも以上に感じる優しさ。焚き火に照らされた俺の顔は、弟子達にどう移っていたのだろうか。
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ここで一句。
焚き火芋 甘くてとろける その味が (ライエン)




