01-001-04 俺君剣聖、温泉の贈り物
──スッポーン!
「はあ、はあ、はあ」
俺の口から入れ歯が飛んだ。飛んだ入れ歯をルシアがキャッチ! 見事である。思わず強さと名誉の証、天位を授けたくなるほどに。俺は息も絶え絶え、ちょこっとだけルシアを睨む。だけど俺、弟子に感謝。もう口の中が痛くない。睨むのではなく、感謝の気持ちをルシアに示そう。
「ぶば、ぶば(でもさっきのルシア、容赦なかったな。ああ、こんな痛い目に遭うくらいなら、入れ歯にも大きさ自在の魔法を掛けてもらっておけば良かった。逆に硬度を上げる魔法が掛かっていたからな……ん? 待てよ? ダメで元々といきなり引っ張る前に、魔法をかけて取り外す前に小型化してもらえばよかったじゃねーか! ルシアの意地悪)」
アリムルゥネもルシアも俺を見て好き勝手言っている。あ、二人と俺、目線が絡みあう。
「お師様……」
「ライエン様……」
二人がそれぞれを見る。そして、うなづく。息もピッタリだ。
二人の声がハモる。
「「可愛い!」」
二人の目を見る。瞳の中のハートの中に、今度はキラキラと星が瞬いている! 満面の笑みだ! 俺の頬が引きつる。
「ほぎゃぁ! ほぎゃあ! (言葉が(略」
ルシアが俺を抱きしめる。
抵抗? そんな筋力ありません……むしろ抱かれて気持ち良し……ではなくて、それより俺はお前たちのおもちゃじゃない! 溺れるってば!
「ちょっとお師様ってば、コレ来た! キタキタ! お師様歯が無いですよ? あ、それは以前からか。えーと、でも冗談抜きで可愛いんですけど!」
アリムルゥネがルシアから俺を奪い取る。もちろん、俺の意思は無視だ。
アリムルゥネは思いっきり板のような胸に俺を抱く。そして高い高いをして見せた。
俺の首がポロッと折れる。
──待て待て、俺の首が! さては首が座って無いだろ!? 先ほどからコテ、コテ、と首が胴に繋がったまま変な動きを強制されてるし! そうなんだろ!? それとも俺君の場合は伝説に言う年老いたヒドラのように、首が生え変わるのか!? 首が抜けてろくろ首、ひいては耳で飛んで飛頭蛮! イヤイヤ俺君、ヒューマンのままで結構です!
「きゃー、きゃわゆい!」
「クリクリのプニプニ~!」
──だが、首は体に繋がったままだった。はあ、良かった。抜けたらどうしようかと思ったよ。
で、思考のベールが掛かって、考えが巧く纏まらない中考えた。
──俺君、幼児化説。しかし、信じたくない俺もいる。ええい、真実は一つ! 決まっているんだ。だからだれでも良い、本当の事を教えてくれ! 「ぎゃー!(俺は赤子か!?)」
そう。もう間違いない。俺は赤子。認めたね。
二人の弟子に俺は体中をまさぐられる。俺は二人のおもちゃだ。特にプニプニの手足や明らかなホッペは大人気。うーむ、どうもこうもイマイチ状況が不明だが、コイツらの好きにはさせない! と、思った瞬間もありました。
「ぎゃー、ぎゃー! (降ろせバカ者!?)」
眼前にルシアの丘の間の谷間が迫る。物凄い締め付けだ。抵抗は無用とばかり。ルシアよ。その細い体のどこに、こんな筋力があるんだよ! こいつ、本当にダークエルフか!?
俺がジタバタ暴れるたびに、気のせいか、なんだか服が脱げてゆく。
鎧だけが、俺をこれでもかと締め付ける。
と、言う事は……俺がとある地下迷宮で発見した虎の子鎧、赤い魔導甲冑の自動サイズ変更効果だ! きっとそうに違いない。
──サイズ変更効果発動中と言う事は……それはつまり……いや、まて……先ほどの首が据わっていなかった事も考慮して……おぎゃぁ、って……なに? 何もなに。認めたくないが、真実は一つだった。幼児どころか、、、乳児。そ。……乳児。
「お師様、可愛すぎです!」
「ぎゃー! あぎゃー!!(俺、赤ちゃんになっちまったぜ、畜生!)」
火がついた様に泣く俺? なんじゃそりゃ。でも俺は本当に小さくなっていた。いや、若返って! 息を呑み、脂汗。
俺は、覚悟する。
──あらら、これはどうしたということでしょう。
女神もかくやと思しき、白と黒の一人ずつ、二人のエルフ娘に左右から引っ張られる俺(おそらく、三ヶ月くらい)。
俺様びっくりのビフォー&アフター!
もう信じられない! 信じられないといえば、二人の弟子である。
こいつらだけ百歳若返っても外見に何の変化もねぇ! 差別だ卑怯だ自分達だけ大きなままとは汚ないんだよ、この畜生め! これじゃ、俺だけがピンチじゃないか!
「ぎゃーぎゃー!(八十八の爺様から、零才の赤子になっちまった)!」
俺は、ルシアとアリムルゥネの二人を交互に見る。二人とも、これ以上ないほど笑ってくれている。
笑いを抑えたか、ルシアが少し真剣な眼差しになった。
「鑑定」ルシアの呟き。呪文である。即、鑑定の結果が出た。
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若返りの泉(天然炭酸水) 地形 EX++
効能 浸かった生き物は知能や記憶を保ったまま、瞬時に約百歳ほど若返る(永続)。記憶や身体能力は若返った体に引き継がれる。
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「ぎゃー! (それを先に教えろ! ルシア、どれほどの数の魔法を使えようと、肝心なときに使わないなど許せるかッ!)」
アリムルゥネが金髪を濡らしたまま、雫を垂らしつつ俺を笑顔で迎える。
「きっと神々がお師様にもっと生きてください、とお考えになった証ですよ」
「ばぶ、ばぶ(なんだよその運命は)」
──俺も八十八、かっこよい死に様などを考えるようになっていたのに! まさかの若返りとは!
「お締めやおくるみが要りますね。ルシア、どうしよう」
「そうだな、私の里ではシダの若葉にくるんでいたんだ。防虫もかねて」
「わたしの里では葦の穂でした。どちらも手に入りませんね」
──二人は視線を絡ませて、次の瞬間天井を向き、そしてルシアが両手を叩いた。彼女の上にはピコ―ンと光る豆球が。
「布ならあるじゃない、アリムルゥネ」
「え?」
──ルシアの指差したもの。それは一枚のマント。
剣聖の証ともいえる、白地に赤の印章も艶やかなマントである。
──そいつは俺の大事なマント! 剣聖のステイタス!! ルシア、なにをする!? アリムルゥネ、何とか言えよぅ!
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ここで一句。
俺の証 生まれ変わって お締めなる (ライエン)