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04-003-01 俺君剣聖、十一ヶ月秋、ついに一人立つ!

「だー! だだだぎゃーーーの!(俺君歩けない。たったは良いが、歩けない! ヘルプ、ヘルプカモーン!)」


 俺は椅子に縋りつき、思い切り足の筋力と腕の筋力を使い、重い頭をクリクリさせながら立っていた。

 見飽きた宿の部屋だ。昼間はアリムルゥネかルシアが当番のように俺君の傍にいるのだが、今日ばかりは違った。


 ──今日の目的は一人立ちをすることだ。

 俺君、ドアの前に行く事をまず第一のポイントとした。第二にドア開け、第三に部屋の向こうにあるであろう階段を見ることだ。

 階段の先は危険だろう。グルグル転んでスットントン、グルグル転んでプゲラw と、なりかねない。今日立ち上がり、歩く事ができれば万々歳だろう。


 んー。どうしようか。

 俺は椅子の足に縋り、両腕両足の筋肉を使いながら、ゼイゼイ言いつつ俺は机に掴まり膝を伸ばした。下手するとカクカク揺れ始める頭を俺は何とか──うおお。うぉおおおおおおおおお! 気・合・い・だ!! 頑張れ俺君!


「だーーーーーーーぁ!(よし、首が……) ──ガツン!」


 ──前に倒れる。


「ぎゃーーーー!(痛え!)」


 俺は机に頬が張り付いて涎をでろんと出したのである。


 ──だが。俺はまだ目的の一つも果たしていない!

 俺はもっと自由になるんだ! 俺君頑張れ! 掴まり歩け! 右足を右! 左足も右! 1・2・3・4!


 ──おお? うまくいくか?


 右足を左! 左足も左! 1・2・3・4!


 ──おおっと! 四歩!? いや、上半身のバランスを崩して、一歩、二歩。──ずるッ

 足が滑った! 


 俺の足がもつれて転ぶ。ドアにぶつかり凄まじい勢いでズレ落ちる。


 ──俺君剣聖、木製のドアに敗れる。……じゃねぇよ!

 うおおお、俺、めげるな挫けるな自由の扉は目の前だ! 頑張れ、頑張れよ俺!


 俺は床に這いつくばって扉にすがる。


「ぐーーーートーッ!(俺君ぐわんばれ! GOGO!!)」


 俺はドアのノブに手を掛けて、足を踏ん張る。そして胸をドアにくっつけて、渾身の力でドアノブを回した。

 やった! 新世界の扉が開く!!


 ──うおお! やっと拝めるぜ外の世界! やっとあの二人の庇護の元から独り立ちする第一歩になる!

 ああ楽しみだ、世界の温泉と言う温泉が俺を待っている! 至高の温泉を求める旅だ!


「ぎゃーーー!(ああ、やったぜ!)」


 俺が勝どきを上げたその瞬間、扉が外側にガバッと開いた。


 ──バタン! 


 そしてドアの向こうに勢い良く倒れこむ俺。ズボッと埋まる俺の頭。

 この香り……アリムルゥネか?


 ドスッ!? ──ぶつかった? と思うと、俺は平たく硬い何かに弾き返される。


「ぎゃーーーーーーーーー!」 


 ──俺は部屋に押し返された。「ギャッ!?(痛ぇよ!)」


「お師様?」


 俺に見えて聞こえるのは、確かにアリムルゥネ。


「おーよしよしお師様。いった何がありました?」


 俺が頭を障害物に向ける。──予想通り、アリムルゥネだった。


「ぎゃー! あーりみゅ! (お前が急に扉を開けるから! コラ! 鉄板にダイブしたじゃないか!)」

「なんだか勝手にドアが開いたと思ったら、お師様が私の元に転がり込んできました! お師様はおでこがゴッツンコです」


 アリムルゥネが腰を低く落す。

 視線が俺君の高さになる。


「でもお師様、話し言葉がどんどんお上手になられてきましたね。私やルシアもお師様の成長が観れて嬉しいです。私たちは毎日嬉しさと微笑みに包まれています。わたしたち二人はお師様の弟子。何でも御申し出下さい……って、お師様は文字も言葉もまだまだですけどね!」


「ありゅ……」

「どうされました?」


 俺はアリムルゥネの肩に手を伸ばし、がっしりと捉まえる。そして足を踏ん張って、弟子の肩に掴まり立つ!


「お師様?」


 おれはアリムルゥネの言葉に答える代わりに、立ったまま弟子の肩においておいた手を離した。


「え? ……お師様? 今、立って……」


 ──俺君頑張れ! 結果はあとからついてくる。

 首が揺れる、腕も揺れる。だけど俺様、腿膝を上げてそろり、そろり、そろそろそろ……ゴテッ!


「うばぁああああああ! (頭打って痛えよ、支えて欲しかった、アリムルゥネ!) ぎゃーーーーーー! (ああ痛い!)」

「お師様!」


 アリムルゥネが俺を起こしておでこを見た。ちょっと腫れているようだ。


 ──よしよし。

 アリムルゥネがおでこに手を当て擦ってくれる。その気持ち良いこと、痛みなど直ぐに異次元の彼方へ飛んで、俺はヘヴンな波に包まれる。


「──それにしてもお師様、やりましたね! ルシアへも教えてあげなきゃ! ──お師様が立った!  お師様が歩いた! お師様が片言でも話せた! やった、やりました!! これで弟子のわたし達も報われます! ──ありがとうございます。お師様! この調子で世界最強の剣聖(せいぶつ)を目指しましょうねッ!」


 ──うおお、アリムルゥネが俺を褒めてくれている。その目、瞳の中にハートマークが見えなくも無い。

 だが、弟子よ、後半のお前の言葉、なんだっけ。ええと、どうも俺の一生に係わる単語が二三含まれていたような気がするんだけど……。


 ──ま、良いか。俺が立ちながらうろつき回るのももう直ぐだ! 無理せず、怪我しないように頑張っていくぜ! 待ってろよ、弟子ども!


---


 ここで一句。


 急ぐ秋 扉を挟み おでこ打つ (ライエン)

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