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04-001-03 俺君剣聖、九ヶ月秋。肉。

「ライエン様、今夜は豚肉のソボロだぜ。もっとも肉はゴリゴリひきまくって粉ほどの欠片も見えないけどな! ほら、この僅かな油が見えるか? そうそう、器と汁の間の色違いだ。それが牡丹(いのしし)の油。こっちの茶色い点が肉の粒」


 ──うん。

 俺君剣聖、ルシアの説明するところが全く持ってわからない。


 ──ドヤ! ……じゃなくって。

 目の前にある、芳醇な香りを放つ粥を早く食べたい。

 涎でろんでろんモノのご馳走を前にして、三大欲求のうち、食欲の制御が限界なのだ!


「ぎゃー! (解れルシア! 早く食わせろ!)」


 ルシアが俺に食わせる前、一通り俺君に今晩のお粥の説明をしてくれる。その笑みは彼女の背後から照らされる窓から取り入れた光を背後に、まるで後光さす観音様のようだった。

 しし肉の粥。アリムルゥネが森近くで狩ったらしい。そのためテンション高くも「私偉い!」と自慢しているのであろう。元気な弟子である。


「それじゃ、食えよ。あーん」

「ふぎゃ?」


 俺君今、額を流れる一筋の汗を自覚す。

 ルシアのスプーン攻撃に悩まされる事数ヶ月、行商人から秘蔵の星々の腕輪を譲ってもらってからと言うもの、俺様の素早さは倍増しているが、今だルシアが先制を取る。俺も毎日修練(毎日の夕飯の事だッ!)を欠かしていないが、ルシアはそれ以上の経験を得ているのだろう。結果、ほとんどの場合が俺様泣きを見ことに。


 本当に、トホホである。

 そして、銀髪の悪魔が俺に迫る。


「あーん」

「あ」スプーンが突っ込む、俺君今までに無い大口を開ける!


 そう、初めからこの動きを見せたならば良かったのだ!

 スプーンは舌の奥へ……? え? 喉奥!? ぐ!?

 俺様吐き気が急に込み上げ、……! なんじゃぁぁぁこりゃあああああ!」


「──うんばぁああああああああ、げろげろげーーーーーーーー!」


 俺君は喉奥にスプーンを運ばれスプーンで舌を抑えられ、俺はたちまち咽て、ゲロゲロ吐いた。


「ぎゃーーーーーーーー、ぎゃーーーーーーーーー、あ、ぎゃーーーーーーーーー!(二度あることは三度ある! 七転び八起き! 災い転じて福となす、人生万事塞翁が馬! おのれ臥薪嘗胆! うわーん、いじめっ子! ルシアのバカァ!)」


 と、俺が言葉も通じぬままにルシアを一通り文句を言うと。


「しまったぜ……おいライエン様、大丈夫か?」と、ルシアがスプーンを放り出して俺膝の上に抱きかかえ、トントントンと優しく俺の背中を叩いてくれる。


「よしよし、よしよし、ライエン様、痛かったな? ごめんな?」


 と、黒い弟子のいつもと違う気遣いに、俺は弟子の成長を見て涙する。


「う、ううう、うわーん! (ルシアがおかしくなった……違う、真人間に近づいてる。師範生活六十と四年、師範をしていてころほど弟子の成長が嬉しかった事が他にあろうか! いや、無い。凄いぞ俺! 俺はルシアを改心させた! ううう、よくやった俺!)」

「ライエン様。悪ぃ、ごめんな?」


 と、再び謝罪の言葉を優しく並べ述べたルシアは俺のおでこやこめかみに流れる汗を手ぬぐいで拭いてくれた。ハンカチからは果実の香り……アリムルゥネとはこれまた違う、柑橘系の芳しい香りがであった。


 ──はー。はー、ぐぽ。うー、死ぬかと思っぞ、ルシア。


 だが後のフォローで気づきを見せたルシア偉い! さすが俺君の弟子! 戦災孤児のお前を拾って幾十年、今日こそお前を弟子にして良かったと俺は感動で一杯だ!

 

 ──窓から西日が差し込む。

 ルシアが粥からミルクに変えてくれる。

 ミルクにはエルブンロイヤルゼリーが混ぜてあるそうだ。


 その暖かく柔らかな赤い陽光が、ルシアと俺を黄色く照らす。俺はルシアに抱かれ、スラぶーのミルクを飲んでいた。陽光はいつまでも、優しき師弟を暖かく包み込んでいたのである。


---


 ここで一句。


 いまここに どんな悪でも 救われる 美しきもの 見つけた今 (ライエン)

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