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04-001-01 俺君剣聖、九ヶ月秋。俺君宿場街に逗留する

 ──よく晴れた青空だ。森から吹く風が優しく気持ちいい。


 そんな今日。

 俺君は弟子のアリムルゥネの背でウツラウツラと舟を漕ぎ(ああネムネム)。もう一人の弟子ルシアは、ロバのロシナンの紐を引いている。

 ここは宿場町と森との間にある草原である。この前、俺達は不本意にも牧場のおじさんが手塩にかけて育てていたスポットスライムを全滅させてしまった。


「ぎゃー!(不可抗力だ、正当防衛だ!)」


 と、俺が泣いても、充分に過剰防衛だし、その中の一匹(例え間違いなくそいつが俺達が飼っていたスラぶーだとしても!)。牧場の小父さんにとってはスライム泥棒である事に違いは無い。

 そこで、弟子二人は話し合って、野生のスポットスライムを捉まえる事にしたのである。


「ねえルシア、こんな網で本当に捕まえられるの?」

「ん? アリムルゥネ、お前が投げたら風の精霊がふわりと近くのスライムを捕まえに行くように魔法をかけている。問題ないはずだ」

「なにその不思議魔法」

「追尾魔法? ホーミングネット? まあ、好きに呼べよ」

「ぎゃー!(そんな便利魔法があるなら俺様を揺りかごごと飛行状態で連れて来い!)」


 俺は弟子の背中で暴れる。


「お師様、お締めですか?」

「またこの前のように捉まえようとするとミルク、のパターンじゃないのか? ──!」


 グー……きゅるる


「ああ、ルシアってば正解。」

「ああ、お前も気づいたのかアリムルゥネ。スライムの気配がする。ライエン様はこの場に寝ていてもらって、キャンプを張ってミルクでも飲んでいてもらおう」


 ルシアはスラぶーのミルクを絞り、哺乳瓶に入れた。そしてアリムルゥネが俺様を降ろすと、俺はお座りさせられる。


「ルシア」

「ああ、出来たぜライエン様」


 と、ルシアが人肌ほどの温度の哺乳瓶を俺君に渡す。おれはそれを「うばば」などと世迷いごとを口にしつつ、手に取った。


 ──おお、これこれ。うんぐ、うんぐっ。俺は飲む。

 そして俺は見た。ルシアの体を巡る赤き魔力の流れ。それはアゾット剣からルシアの外部に放出され、俺君を包む。


 ──そう。

 ルシアが俺を中心に結界を張ったのである。

 くぅう! スラぶーの甘いミルクは何度飲んでも飽きないぜ!

 と、どこかの酒好きの人のような感想を漏らす。


 二人が網を持って駆けていった。

 ルシアの付加魔術のおかげで凄まじい速度で野原の一点を目指している。


 集合地点の手前、アリムルゥネが網の一端を地面に埋め込む。

 そしてスポットスライムの群れの背後から、土の壁が長さ約二百メルテ、幅約一メルテ、高さ約十メルテにわたり競り上がり、折れ曲がりながらスライムの背を追う。

 突然の事におののいたのか、スライムたちはいきなり壁が生じ、自分たちのほうへ近づいてくる土の壁に驚いた。

 ルシアは何事かまた呪文を唱える。すると壁から無数の手が生えた。手は幾つもの土団子をスライムに投げ、網の待つ方向へと追い立てる。

 アリムルゥネは壁と挟み撃ちにしようと弧を描いて網を手に走る。

 スライムの目の前に網が広がる、そして次々と網に突っ込むスライムたち。

 アリムルゥネが次の一歩を踏み出すたびに、スライムの重しで網がどんどん重くなる。


「お前ら、まとめて麻痺しろスタンクラウド!」


 ルシアの大声が俺にも聞こえた。

 スライムがどんどん麻痺していく。


 俺は勝利を二人と味わおうと、ずりばいで結界を破る。俺君はズリズリ、ズリズリと二人の向かい這い進む。

 アリムルゥネ、ルシア、良くやった!


 うん、あと一息なんだ。二人の場所まで。網に絡めとられた大量のスポットスライムが見える。

 捕まったスライムの群れを珍しそうに見つめる俺。


 ──うばぁ!?

 

 ルシアとアリムルゥネの完璧な連携に目を奪われていた俺の前に、黒と白のまだらスライム──ルシアが言っていたグレートだ。野生の群れを守る用心棒グレート──が俺の前に現れた。


 俺様の上に輝いていたお日様が翳る。

 いや、デブのスライムがその重みに任せて俺の上にのし上がり、ひき潰そうとしているのか!?


「ぎゃーーーーーーーーー!(しまった俺、助けろ弟子どもーーーー!」


「え? お師様? なぜ!?」

「な、ライエン様! どうしてここに!!」


 俺は全力で後退中。両手はもちろん足の膝をドシドシつかい、膝で地面を踏みしめる。


 おお、俺様レベルアーーーーーーーーーップ! これは「ハイハイ!」だッ!!

 俺様どさくさに紛れてハイハイを覚えたぜ!

 っと言うよりも今の俺様生命のピンチ!? 俺君爆炎の剣聖、最期はスライムを前に散る、などという最期が許せるかッ!

 スライムと言えば最弱の代名詞! 本当は違うのだけれど、世界の人の認識はそうだ!

 うおお、俺剣聖、本当にスライムに殺される!? 


 ──嫌だ嫌だ俺は死にたくない! ええい! そんな邪念は捨てろ! 俺様剣聖ここにあり! グレート何するものぞ!

 

 俺は急ぎお座りをした。それはグレートに呑まれる覚悟を決めたわけではない。

 俺は両手を空に向けて上げる。俺など無力な存在と見たか、スライムが俺を踏み潰そうと一際高くジャンプする。


 ──チャンス! 間に合え俺の魔力撃! 急げ俺、これが最後のチャンスだぞ!


 ほら、俺へと掛かるスライムの影が薄まる、どんどん濃くなる広くなる!

 俺は右と左の掌に魔力を流す。掌がかすかに光り始める。

 俺君は目玉のときのように魔力を充填。充填率五十パーセント……急げ! ……いや、無理か。出力が足りないけれど仕方ない。そんな時にオーバーブースト!

 見る見る迫るグレートの影。


 ──んにょ。「あ」


 力みすぎて俺様実が出た! どどどどうしよう、じゃ無くて目の前の怪物を倒すのが先だ!

 

 魔力充填率七十五パーセント! いっけえ! 俺様の目に、グレートの腹が大写しになる。

 

 みょみょ。あ、俺君本格的に漏れ……だぁ、理性よ本能にうち勝て! 

 俺様剣聖! かっこ良さがハイ消えた! だが俺はグレートを吹き飛ばそうと光り輝く両手を上げる。


「ぎゃー!(七割の魔力でも仕方なし! ちょっと弱いけど、食らえ俺君渾身の魔力撃!!)」


 ──世界は一面の白に包まれた。

 俺は弟子達の俺を呼ぶ声を聞きながら魔力を叩き込んだのだ。


 ──ドゴゥ!

 

「お師様ー!!」

「ライエン様」


 俺の両手がグレートの腹深くに埋まった。


 ──しかし。


 お、おおおグレート健在! そんなバカな。

 グレートの足裏? いや、グレートの腹が大きく凹み、プルルンと俺の放った膨大な魔力を分散させている!?


 ──どうしてだよぅ! なぜ一撃で無いんだ!


 うおお、今のままで魔力撃をもう一度だ! 耐えろ俺様、不完全とはいえ足りていてくれ魔力量!


 ──俺君魔力集中──。

 グレートの腹に埋ままの俺の両手が光って唸る。俺君一挙に爆発させろ!

 うおおお、くたばれデカ物! そして爆発、俺の魔力で粉微塵になれ!


「ぎゃあーーーーーーー!(どやーーーーーーーー!)」


 俺君は冷や汗もので二度目の渾身の魔力撃を放った。

 するとグレートの腹がもう一度ぶるんと震えたその瞬間、用心棒グレートが身震いし内部から七色の光を放出しながら──黒と白のまだら模様、白い部分から美しい光が漏れて──ああグレートが爆散する。黙してただ輝き散るはグレートの矜持(きょうじ)。ああ、お前は立派なグレートだぜ。よく戦った。スライム族の誇りだ。


 ──俺は散りゆく用心棒グレートを美しいと思った。


 どかーーーーーーーーん! と用心棒グレートは破裂し四散した。

 

 キラキラと輝きながら舞い落ちてくるグレートの残滓。

 光を受けて虹が見える。

 美しい。これを見る事が出来るのは、勝者だけに許された特権。

 ここ暫くは体感していない感覚だった。


「お師様がやった!」

「凄いぜライエン様!」


 弟子二人の賛辞が重なる。俺は至福の喜びに包まれる。

 ありがとう、アリムルゥネにルシア。



 ──俺君剣聖九ヶ月。




 俺はスライムとはいえ、その上位種(グレート)を倒す。


 ──俺様頑張った。


  ──俺様偉い。


   ──お締めでも俺様カッコイイ!


 ああ、俺様……凄く眠い。



---


ここで一句


 今涙 信じる仲間 思う秋 (ライエン)


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