03-004-02 俺君剣聖、七ヶ月、弟子に童話を読んでもらう
『昔々あるところに、子供の出来ない夫婦がおりました。親父さんも女将さんも、いずれもとても信心深く、良い行いをする人でしたが、ついに子宝には恵まれない毎日を送っていたのです。
そんな冬の日。今日は偉い聖人様の聖誕祭。親父さんは寂しさを少しでも紛らわせようと、太い枝を何本か森から取ってきては、ノミを使ってそれら木を人型に彫って行きます。
灰色の皮が剥かれ、茶色い肌が見えました。親父さんは尚もノミを振るいます。頭ができます。長い耳と長い鼻が浮かび上がりました。そして上品な小さな口、次に可愛らしい両目が刻まれてゆきます。そして流れるような髪の毛。人形の頭と顔はどんどん彫られていきました。次に手足を他の枝を使って作ります。手や足の先の指もしっかり彫りこまれました。そして裸の胴体に繋いだこれまた裸の手足には、女将さんが小さな布でこしらえた服を着せ、少し寂しい頭には、真っ赤な帽子を被せたのです。
そして親父さんと女将さんは出来上がった人形を見て、諸手を挙げて喜びます。
「やった、出来た。私たちの子だよ。……こんばんは。私がお父さんだよ?」
「ああ、なんと可愛らしい子。この子が私たちの息子ですね? ああ、私がお母さんだよ?」
夫婦はとても喜びました。でも、なんだか未だ少し寂しいです。
そこで二人は、同時に気がつきます。
「そうだ、名前をつけてあげよう」
「ええ、ええ。あなた、そうしましょう」
と、つけた名前はハナタカ。赤帽子のハナタカです。
「ハナタカ。よろしくな」「ハナタカ。よろしくね」
と、何度も話しかけますが、もちろん返事はありません。
返事があれば、なんと素晴らしい事でしょう。
ともあれ、二人の家族が三人になりました。今夜は聖誕祭。街中上げての御祭りなのです。もちろん、親父さんと女将さんも、腕をふるって特別なご飯を作ります。
二人、いや三人で今夜はおご馳走にしようと、とりあえずハナタカを工場の椅子の上に座らせ、二人は工場を立ち去りました。
そして、夜。夕飯のご馳走の席にハナタカを呼ぼうと、親父さんがやってきたときのことです。
!!
何かが違いました。そうです。椅子に確かに座らせておいていたはずのハナタカがいないのです。親父さんは叫びます。
「お前、ハナタカがいない!」
女将さんが跳んできました。
「あれ! まあ! ああ、私たちの息子、ハナタカがいない!」
親父さんと女将さんは、どちらからともなく、涙したのでした。
冷めたおご馳走を親父さんと女将さんが摘みます。
とてもとても美味しい晩御飯でしたが、親父さんと女将さんにとっては、砂を食べているのと一緒でした。
夫婦がまた、どちらからとも泣く涙していると、大きな「ガサリ!」と言う音を聞きます。
「今の音はなんだ?」親父さんが問います。
「……なんでしょう、あなた」
「玄関の方からだな。雪でも屋根から落ちたか?」
そう入ったものの、親父さんは念のために手斧を持って、玄関扉に近づきました。そして、深呼吸を一度すると、玄関扉の覗き窓を開け、鋭い視線でギョロリと見ます。
──親父さんの斧を持つ右手は震えていました。
「なんだ?」
親父さんはゆっくりと玄関を開け──おお、と体が固まりました。外は一面の雪です。
親父さんの頬に雪が何度もぶつかり融けゆきました。
そして、足元の異変に気づきます。
「……なんと!」
そうです。親父さんと女将さんがいくら望んでも、いくら手に入れようと頑張っても、決して手に入らなかったモノ。
──おお、神様! 親父さんは優しい目でそれを見ました。
親父さんの目の前には光るものがあるのです。それは、金髪は親父さん似、瞳が蒼い眼と女将さん似。
光るもの。それは金糸銀糸で刺繍された絹のお包みに包まれた可愛らしい赤子。の入った大きな篭が玄関先に置いてあったのです。
親父さんが赤子の上に降る雪を手で払いのけようとしたとき、その赤子が微笑みます。
その笑顔は、親父さんの心を一瞬で捉えました。
「……あなた?」
親父さんを気遣った女将さんが玄関に出てきます。
「ま! 赤ん坊! こんなに寒いのに今までずっと外に!に!? 誰の子でしょう!」
女将さんは雪の積もった街路を見ますが、足跡の一つもありません。まるで、忽然とこの篭が親父さんたちの家の前にあったがように。
「子供だ。ウェーブの掛かったこの髪は俺似だ。よく笑う表情と蒼い瞳はお前似だ!」
「まあ……」
「ともかく、この雪の中じゃ……この子が危ない」
「そうね、そうしましょう。いえ、そうですよお父さん。この子こそ子供の無い私たちに神様が授けてくれた子供! 聖誕祭に授かった子供ですよ。この子こそが神様の贈り物。そう、──聖夜の奇跡なの!」
「そうだな、この子こそ、私たち夫婦の子供だ。うん、お前、そうしよう!」
暖炉に親父さんは追加で薪をくべます。
女将さんは山羊の乳をかまどで温めます。
「名はジブリール。ジブリール・ハナタカとしよう!」
「おぎゃぁ、おぎゃぁ」
女将さんが慌てます。そしてミルクを入れた木の椀から一匙、ジブリールにゆっくりと与えたのでした。
(おしまい)』
「むー。わたしが知っているハナタカの話とかなり違う。編者のアレンジ? よくわかんない。ま、いいか。お師様も、もう寝るでしょ」
アリムルゥネはハズレ。俺君寝付いていない。
アリムルゥネがずれ落ちそうになっている俺君を背負いなおす。俺? 俺はぼーっとアリムルゥネの話を聞き流しながら、菩薩眼でルシアの調理を見てたとさ。
---
ここで一句。
雪を読む 晴れた夏空 白の歌 (ライエン)




