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03-004-01 俺君剣聖、七ヶ月、精霊について考える

「むー? (う?)」


 ──俺君おきた。景色は変わらず北に森、南は荒地の丘が続く。

 俺君は今、二人の弟子とロバのロシナン、そして白黒まだら、スポットスライムのスラぶーの二匹を連れて、東西に走る石畳の街道の上にいる。

 進行方向は、俺も良く知らない西だ。聞き及んだ内容から、西は大草原を遊牧民が暮らしていると言う。

 スポットスライムの三倍ほどの体躯を見せる単色のスライムを自在に駆る牧場の牧童が、多数のスポットスライムの群れに一人就いては追い回し、スライムに草原の草や荒地の鉱物を食べさせるらしい。

 スライムは食べ物の違いで色々な変化をその身にもたらすと言われる。亜種が多いのもそのためだ。強靭な防御力であったり、針のようなイガイガの一撃であったり、火炎のブレスであったり、全ての金属を溶かす力であったり。まあ、いろいろだ。そんな様々なスライムの中でも個人的には迷宮の最奥で出会ったフラックスと呼ばれる強靭なスライムとは二度と戦いたくない。最終的に勝利を収めるのは俺だろうが、スラックスの一撃は渾身の一撃。つまり、一撃が重いのである。


 ──俺君、頭がまだボーっとする。

 眠気だろうか。まどろむ。「にぱぁ(おんぶおんぶ)」

 と、生きる喜びを全身で現してみせる。もっとも、俺は背伸びをしただけであったが。

 

 夕日が赤い。沈むまで、あとわずか。

 パチパチと足元でだの枯れ枝の燃える焚き火の音がする。

 パチン。火の粉が跳ねた。


 ──アリムルゥネが俺君を連れて焚き火から少し離れる。


 火といえば、火の精霊、風の精霊、土の精霊、植物の精霊、光の精霊……etc.

 沢山の精霊力が働いているのだろうが、俺君には何も見えない。ルシアがいるときは見えるのに。とても残念である。

 ルシアがいると、精霊が見え易いと言う事は、ルシアが精霊の何たるかを身を持って教えてくれているのかもしれない。……もっともルシアのことだ。全ては『盗め』という事なのだろう。

 まだまだ修行が足りないようだ。俺君剣聖、生後七ヶ月。今夜はエルブンロイヤルゼリーが食べたいな……などと思っていると、瞼が再び下りてきた。

 まどろむ俺。リズミカルに動く足場。ああ、そうとも。今だ俺はアリムルゥネの背の上か。


 ──ありがとうアリムルゥネ。


 どうやら俺はおんぶされて寝入っていたらしい。


「ああ、お師様──お目覚めでしたか」

「むー……」


 アリムルゥネが気づく。

 だが俺君は半眼、菩薩眼。


「まだまだお師様はおねむのようですね。ルシアがいまご飯を用意していますから、もうちょっとの我慢です。……ああ、そうだ! この前旅商人から宝石と交換した絵本を読んで差し上げましょう。──あの本、何が書いてあるんでしょうね。童話とありますけど、革張りに金銀であしらったまるで王侯貴族御用達、といった明らかな値打ち本ですよ? お師様、楽しみですね!」


 ──どれ。


 と、アリムルゥネはロバのロシナンの背を捜す。


「あったあったありました!」


 そして弟子アリムルゥネが持ってくる大型本。俺は本に輝きを見た。本に掛かっている魔力だ。もちろん保存と軽量化の魔法がルシアの手により掛かっている。蔵書に自信があるどこぞの王立図書館でもこれほど豪華な本はありえまい。間違いなく、掘り出し物と見えた。


「どれ。読んで差し上げますね」


 ──アリムルゥネはそう言うも、俺は文字が読めるのだが……だが待ってほしい。どんな文字でも読めるが、手や腕の関節がクリクリである。ぐるんぐるんとあらぬ方向に曲がるのだ! もっとも成長して剣が振れるようになったとき、関節を柔らかくしておく必要がある。その辺りを俺君は気にかけて、毎日柔軟体操をしているのだ! でも、やりすぎるとルシアやアリムルゥネに変な顔をされ、心配されるので程々にしている。


 ──そういった理由で、俺の所々の関節はまだしっかり出来上がっていないのである。


 ──そうとも! 俺は本を持てないのである! 自慢(じまーん)! 凄いぞ俺! 本は持てなくても誰かが話している内容、つまり童謡の内容でも『意味のある言葉が耳に入れば』理解できるのだ! 俺君偉い! えっへん!

 と、俺が些細な優越心に浸っていると、続くアリムルゥネの声が聞こえてきたのだった。


---


ここで一句。


 物語 語り手おらねば 星の屑 (ライエン)

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