02-006-03 俺君剣聖、六ヶ月。俺の弟子たち奮闘す
見える見える。俺にも見える。
目玉に刺さったアゾット剣に再びルシアの魔力が流れ出すのが!
ルシアの顔に鋭い眼差しが戻り、手に汗握ったアゾットの柄が渇く。何処からかのエネルギー供給がルシアに絶対の安心感を与えたようだ。ルシアの身に覚えのある魔力。その魔力源こそ俺君である。
ルシアが大きく深呼吸、感じていた冷や汗は知らずと乾きゆく。
「──ぎゃー!(俺が魔力供給してるんだよ! ありがたく思え、弟子ども!)」
俺君魔力の制御に成功した、ただその一転だけで有頂天! たららんたっらっらー!
──俺君、奇跡的に土壇場での魔力の制御に成功! 俺は二柱の観音様の間に滅びるべき敵を見た。
「ぎゃーーぎゃあーー!(怯む怠けるなバカ弟子がぁーーーーーーーーー! 負けてどうする、俺は剣聖ライエン、齢八十八にて今だ剣術の粋を極めようと生けんとする者! ルシア、俺の魔道の師よ。見てろよ、これが弟子たる俺が今渡せる魔力の限界だ!!)」
そして俺様が燦然と輝き出す。そして放射される俺の純なる魔力がルシアと彼女が持つアゾット剣を包んだ。
瞬間、アリムルゥネとルシアのちょうど鼻先で、白光がより大きな光として炸裂する。
化け物の魔力と俺とルシアを合わせた魔力がぶつかり合う。俺の魔力が二人を守り、俺の体をアリムルゥネが守る。
恐るべき速さで消費される俺の魔力。ええい、自己流のため、魔力放出の効率が悪いのか!
だが、俺は一人じゃない! 二人の弟子が、俺のそばにはいるんだ!
それ、俺の力で光線を凌いだアリムルゥネが今度こそ必殺の舞で飛ぶ! その背中でまたもやカクンカクンと揺れる俺君の首! ライトソードが必殺の輝きを放つ!
──うおお、弟子よアリムルゥネよ、今俺君はお前の闘志を受けてカクカクするぜ! 目玉の怪物なんてとっとと倒れて俺の弟子どもの養分となりやがれ!
って、ケホンケホン! ケホ……ぐおば!? 俺君耐えろ!!
アリムルゥネが叫ぶ!
「取ったッ! えい! 貴様も群狼の糧となれ! ……成敗!」
アリムルゥネがエネルギーの刃で目玉を二つに割った。丸い敵の四方八方から色とりどりの光が漏れ出す。
そして。目玉の最期の足掻き! 瞬間、輝き!
七色の光が皆の目を焼こうとす! そして大爆発が生じ、爆音が轟いた。
「ぎゃ!(伏せろ!)」
「伏せて目を閉じて! アリムルゥネ!」
ズササササー! と、アリムルゥネは頭から軟着陸。下手に胸の抵抗がない分、綺麗なフォームで滑る滑る。
アリムルゥネは二度目のヘッドスライディングであった。
──俺は恐怖した。
俺は今度こそ彼女に背負われたまま、自分の首の骨が折れたと思ったね。
バカ弟子は剣を振り下ろしたときに勢い余って、乾いた砂を踏み、足が滑ったようだった。そして勢いを殺さずジャンプ。そこから頭で地面に突っ込むなどもはや曲芸である。
アリムルゥネ、今回は結果的に敵を倒したとはいえ、ミスを連発したので百点満点中の五十点。微妙に赤点回避。まあ許す。とはいえ、股裂き痛いよね。日頃からの修練が大切。柔軟体操が大切とみた。もちろん、アリムルゥネはそんな修練を何度も行っているだろうけど。
◇
目玉の怪物の大爆発で、里に被害が少し出た。
根こそぎ吹き飛ばされた木々がある。
地面から生えているクリスタルが掘り起こされている跡がある。
エルフの木の上の家にも、僅かながら被害が出た。だが、人的被害は無いようだ。
登場初期に俺と弟子たちが敵の気を引いて、集中攻撃して倒すことができたから──と思いたい。
「やったねルシア」
「はあ、はあ、違う、今の力はライエン様の力あってこそ」
「お師様の?」
「ぎゃー!(俺様頑張った! めちゃくちゃ頑張った! 俺君偉い! 俺をもっと褒めろ褒めろ。あの程度の相手に右往左往していた弟子どもよ!」
「……お締めかな?」と、アリムルゥネ。
「そうかもな」と、少々不満げにルシア。
「ぎ、ぎゃー!(んな訳があるかァ!)」
……俺はもっと不満だ弟子どもよ、俺の言葉を聞け!!
──はい、一番の理解者たる弟子達二人にも通じませんね。
言葉も文字も、自己表現できない俺君剣聖六ヶ月。
──ああ、涙。
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ここで一首。
気をつけよう エルフの杜の 昔語り 伝説生きる 土下座衛門 (ライエン)




